告白の返事
「御大地くん……いや御大地! さっきのはなんだったんだ、さっきのはぁ!?」
制服に着替えを終え、お客さんも出払いクラスメイト数名だけになった教室へ戻ってくると、学級委員長は御大地くんに問い詰めていました。
わたしは何事かと思いながら、恐る恐る二人の元へ近づきます。
御大地くんは軽く首を傾げてみせると、学級委員長はすかさず、「惚けるんじゃない! 演劇の最後! 北千種さんとのアレよ!」と詰め寄りました。
「ああ……アレですか」
「そう! 何アレ!? 確かにわたし台本には書いたけどさぁ、本当にしろとは……!」
「すみません、口が滑りました……?」
「そんな疑問形で言われても! ……ああ、まあいいわ」
学級委員長はわたしが来たことに気づいたようで、こちらに視線を向けます。
「北千種さんはその……大丈夫、だった?」
学級委員長なりに、あのアクシデントを気にかけてくれているのでしょう。ぎこちないながらも、心配をかけてくれているようでした。
わたしはあのときのことを思い出すたびに恥ずかしさが込み上げますが、必死に羞恥心を抑えつつ笑顔を浮かべ、「ええ……問題ありませんよ」と答えました。
学級委員長は「そう、ならいいけど……」と呟きつつ、じっとわたしと御大地くんを交互に見ているかと思えば、途端にニヤリと笑いました。
「ん? ……あ〜、そっかなるほど〜。なぁんだ、そういうことか〜」
学級委員長は自分の中で何か得心いったようで、わたしたちの肩に手をかけました。
「よし! このあとの片づけとかは気にしなくていいわ! 君たちは二人、最後まで学祭を楽しんできなさい!」
「え!? なんでですか、急に!」
わたしは言うと、学級委員長は「いいの、いいの〜」と、わたしの御大地くんの背中を押して、教室の外へ追いやりました。
「それじゃあ楽しめよ、少年少女!」
学級委員長は最後にそう言い残し、ピシャリと扉を閉めました。
あまりの唐突な対応に戸惑い、わたしたちは顔を見合せました。
「あの学級委員長、いらぬ世話をかけてくれたみたいだな」
「え、ええ……」
――どうしましょう。この状況で二人きりは、かなり気まずいです。
「……あ、わたしは……図書室にでもいようと思います」
いたたまれなくてこの場を立ち去ろうとしたわたしですが、御大地くんに手を掴まれてしまい、それは叶いませんでした。
振り向くわたし。御大地くんは真剣な表情でこう言います。
「僕も行く」
「……」
「……まだ北千種さんに返事、してないから」
そこまで言われては断れません。わたしは頷き、御大地くんと図書室へ向かいました。
◇
学祭ということもあり、図書室には誰もいませんでした。
ここは静かで、学祭の喧騒も届きません。
窓辺に近づき、わたしは外を見下ろします。ちょうど校庭が見え、そこでは閉会式の準備を進めている生徒たちがいました。
「もう少しで、学祭も終わりだな」
御大地くんはわたしの隣に来て、いっしょに窓の外を見ながらそう話しました。
「ええ。……御大地くんは、楽しかったですか?」
「ああ、それなりに」
「……そうですか」
生まれる沈黙。
この静かな時がわたしの中の緊張を強めていき、心臓の音がやけに目立つような気がしてなりません。
わたしはこの時間をなんとかしたくって、無理矢理話題をぶつけます。
「あの、今日はお疲れ様でした。王子様の演技、よかったですよ」
「ありがとう。北千種さんもお疲れ様、シンデレラ、すごくきれいだった」
「……あ、ありがとう、ございます。……み、御大地くんもかっこよかったですよ、王子様姿……ほら、特に最後とか……あ! いえ、最後っていうのは、その、ガラス靴を履くところで……!」
わたしは慌てて弁明しますが、御大地くんは特にその点は気にしていないようで、こう話を返してきました。
「ごめん。最後、勝手にあんなことして」
「いや別にいい……ってわけじゃないんですけど」と、わたしが言葉を濁らせていると、御大地くんは窓辺に寄りかけていた背を正し、改めてわたしと向かい合いました。わたしもそれを受けて、自然と背を伸ばしていました。
「北千種さん。さっきの告白の返事、今改めて、ちゃんとさせてほしい」
ついに来てしまった。
「……はい」と、わたしはぎゅっと手に力を入れました。
もう返事はわかっています、あとは、聞き入れる覚悟を持つだけ。
「北千種さん」
泣かないように、わたしは喉を引き締めて、彼の言葉を待ちます。
「――こちらこそ、よろしくお願いします」
しかし、返ってきた予想外の反応に、わたしの全身の力は一気に抜けました。
――今、『よろしくお願いします』って言いました?
え、だってそれって、つまり……。
「いい彼氏になれるかわからないけれど、こちらこそ、僕と付き合ってください」
――これって夢? 本当に現実?
(だってあなたは、だって、だって……!)
気づけば、わたしは御大地くんの腕の中にいました。
ずっとほしかった初めての温もりに、わたしはいよいよ耐えられなくて。
「……っ」
――わたしは、結局少しだけ泣いてしまった。




