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それでも君に認めさせたい  作者: みおゆ
二章四節:それでも慕う『北千種瑠璃』
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意図の見えないカーテンコール

 ――本番五分前。


 机やカーテンを使用し、簡易的に作った舞台袖の隙間から、わたしはお客さんたちを覗きました。


 最後列の隅の席には、兄さんが座っていました。舞台袖から顔を出して、手を振ってみるわたし。すると兄さんはすぐに気づいて、わたしに手を振り返してくれました。


(兄さんったら、別に無理して来なくてもいいって言ったのに)


 そう思っていると、今度は執事の格好から学校の制服姿に戻っている円樹(つぶらき)先輩と葛城(かつらぎ)先輩がやって来ました。


 二人は仲良く話しながら、最前列の席に座ります。


 わたしは二人が来たことを伝えようと、御大地(みおおじ)くんを見ますが、御大地くんは観客席を見ることなく、ただ台本に視線を落としていました。


(円樹先輩が来ているのに……気にしたりしないんでしょうか……?)


 それとも、緊張してしまうから見ないようにしているとか、ですかね?


 役に集中しているようですし、ここは声を掛けるのはやめておきましょう。


(……にしても、かっこいいなぁ……)


 わたし、上手く集中できるでしょうか。緊張しすぎて、セリフも飛ばないようにしないと。

 それと何より、舞踏会でもちゃんと踊れるように……です。


 残り三分。わたしは少しでもと台本を広げ、イメージトレーニングをして過ごしました。



 ――そして、いよいよ演劇は始まりを迎えました。


 クラスの演劇ということもあり、要所のシーンだけを演じていきます。


 シンデレラ役であるわたしは、はじまりのシーンではみすぼらしい衣装に身を包み、継母(ままはは)たちにいじめられる日々を演じます。


 そんな中お城から舞踏会の招待状が。わたしはきれいなドレスを持っていないため悲しみに暮れますが、魔法使いが現れて、わたしにカボチャの馬車と素敵なドレスをくれたのです。


 急いで舞台袖に引っ込み、ドレスに着替え、舞台に出るわたし。


 ちらりと円樹先輩たちのほうを見れば、円樹先輩は目を輝かせて小さく拍手をしてくれていました。


 次に舞踏会のシーン。ここでついに王子様――御大地くんとの共演です。


 王子様はシンデレラを見るなりこちらへ近づいて、優しく手を取りました。


「僕と踊ってくれませんか」


 シンデレラはにこやかに笑い、お誘いを承諾します。


(大丈夫。御大地くんと練習したから)


 心の中でそう言い聞かせて、音楽に合わせて踊ります。


 これはシンデレラとしてか、わたしとしてか――正直わからなくなってしまうくらい、幸せな時間が流れていましたが、やがてそれは突然に終わりを告げます。


 夢の終わりを告げる午前0時のチャイム。


 急いでこの場を去らないと。このままでは魔法が解けて、みすぼらしい少女の姿に戻ってしまいます。


 王子様の制止を振り切って、逃げるシンデレラ。


 舞台袖に隠れたわたしは、舞台に残したガラスの靴 (といいましても、そんなふうに見せかけた上履きですが)を見て、ひと安心します。


 心配だった舞踏会のシーンも上手く乗り越えられました。


(あとは特に心配するところもありませんし……。よかった、演劇は無事ミスなく終われそうです)


 ひと足早く、ホッと胸を撫で下ろすわたし。


 ガラスの靴の持ち主を巡って、継母たちのひと悶着を経てから、ようやくシンデレラが登場し、ピタリと靴を履いてみせます。


 それを見た王子様は、シンデレラを見て息を飲みました。


「……王子様」


 シンデレラと王子様は、互いにゆっくりと距離を詰めていきます。


「僕の姫、ここにいたんだね」


 王子様は堪らずこちらへ駆けて、シンデレラの両手を取り、見つめ合います。


「もう一度君に会えてよかった」

「はい、わたしもです」


 王子様は膝まづいて、「君に会ったら、これを伝えようとずっと思っていたんだ」と、こう続けます。


「――僕と結婚してください」

「……はい」


 舞台の風景はお城へと変わり、二人の祝福の花束に囲まれていきます。


 難なく演劇を終えられたことに安堵しつつ、わたしは御大地くんに微笑みかけました。


「こうして二人は結ばれ、末永く暮らしました。めでたしめでたし」


 最後の締めのナレーションとともに、近づくわたしたちの顔。だけどあくまでこれは()()。完全にする前に、小道具係がカーテンを締めて物語の幕を閉じる――そういう段取りを組んでいます。


 やり切った気持ちで、わたしはゆっくり目を閉じました。


「……っ」


 ――刹那、唇が重なる感触。


 わたしは、これで何事もなくすべてが終わったと安心しきっていました。

 しかし、最後の最後で、まさかの事態は起きるもので。


 観客席も、舞台袖からも小さな歓声が湧き上がりました。


 だって、わたしは今、絶対に……!


 薄目を開けると、睫毛が触れそうな至近距離に、御大地くんの顔。

 塞がれているのは明らかに――。


 カーテンが締め切られる直前、わたしは視線だけ動かし円樹先輩を見ると、円樹先輩は呆然と目を見開いていました。


 一度カーテンが閉じられると、御大地くんは顔を離してくれました。


「……み、御大地く――」

「最後、まだ挨拶」


 そう言われ、慌てて前を向くわたし。


 クラスメイト全員で前に出て並び、学級委員長が代表で、「い、一年A組、『シンデレラ』でした! 本日はご観覧いただきありがとうございましたー!」と挨拶をし、次いでクラスメイト全員で改めて「ありがとうございました!」と頭を下げ、舞台は幕を閉じました。


 頭を下げている間、状況を飲み込むのに必死でした。


(どう振り返ったって……わたし、御大地くんにキス、されましたよね……)


 再び顔を上げ、御大地くんを見るわたし。

 御大地くんは無表情で、何を考えているかまったくわかりません。


 でも、これだけはハッキリしています。


 御大地くんは――やっぱり最後は、円樹先輩を見つめていました。

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