今わたしはシンデレラ
「あ、来たね、二人とも! 最後に軽くリハして、本番いくよ!」
わたしと御大地くんは教室へ戻るなり、先に待機していた学級委員長にそう声を掛けられました。
わたしたちはそれぞれ自分たちの準備に取りかかり、学級委員長の指示の元リハーサルを始めます。
――結局のところ、告白したあと、特に返事をいただけませんでした。
御大地くんは目を丸くして、何かを言いかけていたけど、「もう時間だからクラスへ戻ろうか」とだけしか言ってくれませんでした。
(そりゃあそうですよね。御大地くんが好きな人は円樹先輩で、わたしじゃないんだから)
御大地くんは優しいから、きっとどう断るかを今必死に考えていると思います。
演劇前にこんなとこ言われて、御大地くん、気まずくなっているだろうな。
わたしももう、御大地くんの目、見れませんし……。
「じゃ、演者は衣装に着替えちゃって! 男子はここで、女子は隣の教室空けてもらったからそこ使ってね!」
「じゃ、北千種さん、行こっか」と、クラスメイトの女子に声を掛けられ、わたしは我に返り「はい」と言いながら、その場を離れました。
隣の教室に着くなり、わたしは眼鏡を外し、衣装に着替えました。髪の毛もひとつにまとめて、金色の髪のウイッグをつけて、クラスメイトにメイクまでしてもらいました。
なんかわたし、舞台女優になった気分です。
「できた! 瑠璃ちゃん、マジきれいだよ〜! ほんとにシンデレラみたい!」
メイクをしてくれたクラスメイトの女子はそう話しかけてくれたので、わたしはゆっくりと目を開けると――鏡には、普段と違ったわたしの姿が映っていました。
「……素敵。こんなにしてくれて、ありがとうございます」
「ううん! みんな期待してっからさ、がんばってね!」
「はい、がんばります」
準備を済ませ再び自分のクラスに戻ると、扉を開けた先には、王子様の姿がありました。
普段の目にかかるくらいの前髪を上にあげいて、御大地くんの顔ははっきりと見えるようになっていました。その上、いつもの制服姿ではない王子様の格好は新鮮で、わたしの心は勝手にときめいてしまいます――わたしの『恋』はもう終わっているのに、性懲りもなく。
「……北千種さん」
そんなことを考えていると、御大地くんから声を掛けられ、わたしは顔を上げました。
御大地くんはこちらに近づき、わたしにしか聞こえない声で言います。
「今は演劇、成功できるように集中しよう」
御大地くんはわたしたちの間に流れる空気を感じてか、あえてそう励ましてくれました。
「お互い、頑張ろうな」
微笑む御大地くん。その優しくて、包み込んでくれるような笑みは、本物の王子様みたいでした。
「……はい」
わたしもなるべく笑みを作り返しました。
御大地くんの言うとおり、今は演劇に集中しよう。
わたしはこれから、ただの大人しい地味な女の子じゃなく、誰もが目を引く美しいお姫様にならなくちゃ。
「それにしても、北千種さん眼鏡取ったんだ」
御大地くんは珍しいものでも見るかのようにそう聞いてきたので、「ええ。シンデレラの役柄らに合わせようかと思いまして、今日はコンタクトです。さっき掛けてた眼鏡、実は伊達なんですよ」なんて、いつもの調子を心掛けながら返しました。
御大地くんは「そっか」と呟き、目を細めました。
「その姿も似合ってる」
「……っ!」
――そんなこと、言わないでくださいよ……まったく。
こんなんじゃ緊張して、本番上手くいかなくなっちゃうじゃないですか。
……落ち着けわたし、こういうときは平常心、平常心……!
「……御大地くんも、いつもと雰囲気が変わって……か、かっこいいですね」
……少し言葉が詰まりましたが、どうかこれは見逃してください。
そこへ、学級委員長がわたしたちの間に入ってきました。
「おやおや、メイン二人もバッチリなようで……って御大地くん、アンタめっちゃ雰囲気変わってんね。ヤバ……え? 意外とかっこいいわね……!」
続けて学級委員長はふざけ気味に、「御大地くん〜、彼女いなけりゃわたしと付き合ってみる?」なんて軽く言ってみせますが、御大地くんは小さく笑ってこう返します。
「残念ながら、僕にはもう好きな人がいるので」
それを聞いた瞬間、学級委員長は「え!? 嘘! 誰!?」なんて興味津々な様子でしたが、ほかのクラスメイトから「委員長〜! 今からリハするんでしょ〜!」と止められ、学級委員長は渋々この問答を取り下げてくれました。
(まあ、わたしは好きな人、わかりきってるんですけどね……)
嘆息を洩らすわたし。
ダメだ、気分を変えなくちゃ。わたしは今は失恋したただの少女じゃなく、シンデレラなんだから。
「よーし、みんな準備はオッケーね! 本番も絶対成功させるわよ!」
学級委員長の号令がかかり、クラスの空気は引き締まります。
そんな中、わたしと御大地くんは、一瞬互いに目を合わせてから、学級委員長へ視線を戻しました。
「それじゃあみんなで!」と、学級委員長の合図の元、みんなで声を合わせました。
「えい、えい、おー!!!」
活気に満ち溢れたクラスの雰囲気は、わたしの沈んだ気持ちを隠してくれて、ようやく前を向くことができました。




