『恋』の気持ちに単純なわたし(2)
「あら? 君たち、どうやらお決まりみたいね?」
頭に赤いリボンをつけた、ショートボブのかわいらしい方でした。執事の格好をしていますが、この方はかっこいいというよりも、かわいさが全面に出ているように感じます。
「……葛城先輩もホール係なんですね」
「何よ、わたしがホールでなんか悪いってんの?」
――どうやら、この方は葛城先輩という方らしいです。この感じだと、御大地くんはお知り合いなんですかね。
(……自分のクラスにいるときは、全然周りの人に興味なさげなのに……御大地くんったら、上級生……しかもこんなかわいらしい女子たちと仲がいいんですか……)
思わず、また黒いモヤモヤした感情が湧き上がってしまうわたし。
わたしはすぐにそれを振り払います。
ふと気づけば、葛城先輩はわたしの顔を見て、にこやかに微笑みを向けてくれていました。
「初めまして。わたしは葛城優子、円の幼なじみってとこかしら。アンタ貴志のとこの妹の瑠璃だったわよね? よろしくね」
あら、わたしのことはどうやらご存知のようです――と思っていると、不意に葛城先輩はわたしの顔に近づいて、こう耳打ちしてきます。
「……で、転校生とはどこまでいったのよ?」
「……えっ!?」
思ってもみなかった質問に、わたしは戸惑います。
『転校生』――っていうのは、御大地くんのことだと思いますが……。
(……ど、どこまでって、わたしはまだ何も……。というか、これってわたしが御大地くんのこと好きってバレてます!? どうして!?)
わたしの焦りが顔に出てしまっていたのでしょう、葛城先輩はニヤリと口角を上げ、こう言います。
「ふっ、その反応……やはり転校生のことが好きか」
――なるほど、カマをかけたということですね……。
なんでわざわざそんなこと……と思いましたが、葛城先輩は円樹先輩の幼なじみだと言っていましたし、円樹先輩の『恋』事情を知っていての質問、なのでしょうか。
「……で、どこまでいったのよ?」
再度質問され、わたしは「……特に、何も」と答え、小さく首を横に振りました。葛城先輩は「そう、転校生らしいといえばらしいわね」と呟いてから、
「ま、アンタも頑張りなさい」
と、ウィンクをしました。
――どうして、わたしみたいな人を応援してくれるんだろう。
「葛城先輩、何コソコソ話しているのかわかりませんが、来たなら注文聞いてくれませんか?」
御大地くんが入ってきたことにより、わたしの疑問は一旦保留となりました。
「うるさいわね! ちょっとした女子トークくらいさせなさいよ!」と葛城先輩は返しましたが、すぐに接客モードへと切り替え、「んじゃ、ご注文はいかがなさいますか? お嬢様方」と聞いてきました。その様は、なんだか常にやる気のない、気だるげな執事という感じでしたが、これはこれでなんだかいいなぁと思うわたし。
御大地くんがぶどうジュース二つを注文したあと、しばらくして再び円樹先輩が現れて、ぶどうジュースを運んできてくれました。
「はい、ご注文のぶどうジュース二つです。このあとも、ゆっくりして楽しんでね」
円樹先輩はジュースを机の上に置いてから、「あ、そうそう」と、わたしたちに笑いかけます。
「二人のクラスの演劇も、優子と見に行くから! 楽しみにしてるから、頑張ってね!」
じゃ、来てくれてありがとー! と、円樹先輩は忙しそうに、また接客へ戻っていきました。
せっかく御大地くんが来たというのに、円樹先輩は接客にも手を抜かずに、全部に全力なんですね。
(なんだか眩しいなぁ……)
わたし、本当に勝ち目がありません。
御大地くんがこんな素敵な人を差し置いて、わたしに振り向いてくれるなんて……やっぱりありえない。
わたしのこの『恋』は、やっぱり隠しておくのが一番……ですね。
御大地くんを無駄に困らせずにも済みますし。
暗くて重くて黒い気持ちが、フツフツと腹の中で煮えくる。
こんな気持ちになるつもりで、御大地くんのお誘いに乗ったわけじゃないのに。
この気持ちを洗い流すつもりで、わたしはジュースを口にしていると、御大地くんから話を振ってきました。
「……なぁ、このあとはどうする?」
「……このあと?」
「僕らの出し物までまだ時間あるし、このあとも適当に校内を巡りながら時間潰さないか? 北千種さんがよければ、だけれど」
「……どうしてわたし? 円樹先輩じゃなくて?」
わたしが言うと、御大地くんは「……僕といるのは嫌か?」と聞いてきました。
……嫌なわけ、ない。
むしろ、いっしょにいたいに決まっています。
「……わかりました。いいですよ、御大地くんの暇つぶしに付き合ってあげます」
――ああ、わたしってどこまでも単純で、簡単な人です。
絶対に今、満面の笑みで答えているに決まってるんですから。




