はじまりの初デート(3)
「あ、ねぇねぇ。プリ撮りに行かない?」
――街の中を巡っていたとき、ふとアタシは思い立って、守くんを誘った。
「えぇ……僕、ああいうの苦手なんですけれど……」
守くんはあんまり乗り気じゃないようだったけれど、アタシは「いいじゃん、記念記念!」と、半ば強引に守くんの手を引き、ゲームセンターを目指した。
中は混雑していたけれど、幸いにもプリ機は一台空いていた。
アタシは「こっちこっち!」と守くんを連れ、カーテンをくぐる。
「えっと、お金……」
「いいよ、アタシが行きたいって言ったんだから」
財布を取り出す守くんを遮り、アタシはお金を投入した。
プリ機は撮影モードに入り、途端に守くんは緊張の表情を浮かべていた。……ちょっとかわいい。
隅っこに立つ守くんを中央に引き寄せて、アタシはポーズを取りながら、守くんに指示を入れていく。
「守くん、もう少し寄って。手はこうで、角度はこう斜めにするといい感じだよ」
「なんですか、そんな決まりあるんですか」
「あるよ、これが一番盛れるの」
「……はぁ」
守くんは困惑しつつも、アタシのポーズのマネをする。
次の瞬間、切られるシャッター。守くんは「もう出ていいですか?」と言ってきたけど、アタシは「ダメだよ! まだ枚数残ってるから!」と、すぐに引き止めた。
「じゃあ、次はまたポーズ変えよ」
アタシはそう言って、さりげなく守くんに密着する。
「……円樹先輩」
「……こうやってくっついて撮るの、流行ってるんだから」
――ま、ウソだけれど。そんなの流行ってるかなんて、アタシは知らない。
シャッターが切られるたびに、アタシは少しずつ守くんと距離を詰めていく。
守くんは拒否してくるかと思ったけれど、そんなことはなくて。
指先が触れるたびに、一度ずつ体温が上がっていくような気がして。
「……次で最後だからね、守くん、バッチリ決めてよ」
「僕はここに立ってるだけで、せいいっぱいですよ」
「もーうっ、そんなこと言わないったら!」
アタシはそのまま守くんを引き寄せるように、守くんと腕を組んだ。
アタシが不意に腕を引いたからだろう。守くんはよろけて、アタシへ向かって前に倒れ込んできた。
「「……わっ」」
お互いの顔が急速に近づく。
危うく倒れかけた守くんだったけれど、ギリギリのところで壁に手をついたおかげでそれは防いだようだ――だけれど、その両手はアタシの顔のすぐ横にあって、この状況をだけを見られたら、守くんがアタシに覆い被ろうとしているように思われるだろう。
つまり、今アタシは――憧れの『壁ドン』を受けている状態だった。
(しょ……少女マンガで何度も見た光景を、まさか体験するなんて……!)
マンガでさえあんなにドキドキしていたのに、いざ実際にされると、こんなにも胸が苦しくなるくらい緊張するなんて。
「ご……ごめ――」
なんとかして謝ろうと口を開いたとき、シャッター音が遮った。
「え……えっ!? ちょっと待ってよ!」
撮り終わった画像には、アタシたちの事故の様子が写し出さてれいた。
「……すみません、最後の一枚……こんなので」
守くんは口元を隠しながら、目を伏せ謝ってきた。耳はすごく赤く染っていた。
「ううん、元はといえばアタシのせいだし、ごめんね。……でも、これはこれでなんか……いいかも」
アタシは答えて、守くんの服の裾を掴んだ。
「次は隣に移動しよ」
隣のブースへ移動したアタシたちは狭い椅子に横並びに座って、お喋りをしながらさっき撮った写真に落書きしたり、デコレーションをしたりして楽しんだ――といっても、守くんはほとんどアタシが操作しているのを見ていただけだったけれど。
「えへへ〜、せっかくだから目、もっと盛ろう」
「これじゃあ宇宙人ですよ、何もしなくてもいいんじゃないですか」
「えー、せっかくプリ撮ったのに、何もしないとかもったいなくない?」
「そうですかね。僕は、そのままの円樹先輩が一番かわいいと思うんですけれど」
不意に掛けられた言葉に、アタシは一瞬だけ手を止める。
ひたすらに画面に視線を落としながら、
「……守くん、そういう無意識なところ、よくないかも」
と、アタシは呟いた。
守くんはあんまりピンときていないようで、「……? はあ」と言った気の抜けた相槌を打っていたけれど。
――あっという間だった写真撮影も終わり、ゲームセンターを出たアタシたち。
「あ。今日撮ったプリさ、今RAINで画像送っちゃうね」
「写真って、プリントされた分だけじゃなくて、スマホにも入れられるんですね」
「もうずっと前からそうだよー。守くん、ホントにプリとは無縁だったんだね」
「そりゃあ、そういうの興味ないですから」
守くんはそう答えながらも、なんだか満更でもない顔をしていた。
「じゃ、このあとはどこ行こっか」
ショッピングもいいし、街を散歩するのもいいし……とアタシは考えていると、守くんは何やら、妙に真面目な表情をしていた。
守くんは足を止めた。それに気づいたアタシは数歩進んでからその場に立ち止まり、振り向く。守くんはアタシを見つめ、探るような物言いでこう聞いてきた。
「……なら、次はカラオケなんてどうですか?」
アタシは守くんから提案してくれたのがうれしくて、すぐに首を縦に振った。
次の目的地を決めてから、なんだか守くんの瞳の色が冷たく変わったように見えたけれど――アタシは気のせいだと思い込んだ。




