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電脳の生死  作者: 有為
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八話

冬休みが終わってしまったので更新はゆっくりペースになっております。

 島にやってきて早四日。毎日島の探索を進めているのだが、安全エリアは見つかる気配すらない。代わりに、いくつかのことが分かった。

 まず第一に、モンスターの種類がおよそ判明。サイみたいな姿をしたモンスターの名は、『リノウス』。こいつは攻撃が単調なので、落ち着いて戦えば、さほど怖くはない。

 逆に厄介なのが、『土の精の僕』。いつの間にか『泥人形』という愛称が定着したこいつは、人型で、ゆえに攻撃のバリエーションが多い。

 その他、場所によってはさまざまなモンスターが発見されたが、その中でも重要なのは、『魔キノコ』というモンスター。強さとしては、レベルさえ高くなければ脅威にはならないモンスターなのだが、こいつを倒すと落とすアイテムの中に、まれに、レアアイテムの『転移魔方陣』が含まれることがわかったのだ。尤も、そのドロップ率は極めて低く、今のところたった一度それをドロップしたのが確認されただけで、どのくらいの確率でドロップするのかは明らかになっていない。

 船底のダンジョンのボスであった、『パイレートゴースト』も落としたこのアイテムは、自分が行ったことのある町のセーブポイントに、一瞬で転移する非常に便利なアイテムなのだが、めったに手に入らないうえに、一度使うと無くなってしまうので、ものすごい希少価値がある。加えて、いつ帰れるかわからないこの状況。この島にいるプレイヤーにとって、無条件で大陸に戻れるのアイテムというのは、のどから手が出るほどほしいものだった。

「どうしたものかな……」

 しかしまさに今、そのことによって頭を抱える人物がいた。裕である。

「さすがに五百人をいっぺんにまとめるのは困難か。ならばせめてこれ以上の分裂を阻止しなければ……」

 この島から脱出することができるアイテムの存在によって、ある程度レベルの高いプレイヤーが、キノコ狩りと称して、島の探索から抜け、魔キノコの集中討伐を始めたのである。これによって、島の探索が思うように行かなくなったのは言うまでもない。

 さらに他の問題も発生している。

 食料難である。

 そこそこレベルの高いプレイヤーがキノコ狩りでごっそりと抜けてしまったために、食料の採取も思うように行かなくなったのである。一度船に戻って食料を大量購入したが、何とあっという間に在庫切れを起こし、最初の二日ですっかり無くなってしまったのである。

 保存食の類も、持ってきている量には個人差があるし、レベルの低いプレイヤーは特に、大量の食料を用意できなかった者が多く、さらにそのレベルゆえにうかつに食料採取に赴くことができない。低レベルプレイヤーを守りながら、高レベルプレイヤーが食料を採取しているが、キノコ狩りに向かったプレイヤーの分を引いても四百人はいるプレイヤーを養うほどの量はとることができなかった。

 さらに高レベルプレイヤーは働きづめで、そろそろ限界が近いという問題も発生している。

 島の探索を進めても、おそらく安全地帯は見つからないだろうという意見が大半を占める今、島の探索をいったん止めて食料採集に力を入れたいところだが、それをやっていても、その場しのぎにすぎない。海の精討伐を主張する帰還派の動きも強まってきたので、裕の胃は痛みっぱなしである。

「どうしたものかな……」

 今日何度目かわからない呟きを裕が吐いたのとほぼ同時に、裕を呼ぶ声がした。

「マスター、大変です」

「またか。今度はどうした」

 もううんざりですといった調子で振り返った裕に、走ってきた少女はまくしたてる。

「帰還派がこちらから完全に独立して行動すると言い出して、現在広場でメンバーを募っています」

「それに同調しているのはどれくらいいる」

「以前から帰還派だったプレイヤーも含めて百人近くがそちらに着くことを表明して、さらに人数は膨れ上がっていました。私の見立てでは最終的には二百人くらいにはなるかと」

「メンバーの構成は?戦力になる人間はどれくらい混ざっている?生産系は?」

「戦力になりそうなのは以前から海の精討伐を主張していたメンバー、およそ二十人に加えて、傭兵系の連中が十人くらい、その他にも十人は混ざっていました。レベル三十を超えるものも何人かはそちらに着くようです。生産系は……、すみません。よくわからないです」

「そうか……、まあ、でも非戦闘系も五十人以上はそちらに持って行ってくれるようだな。今の状況だったらかえって人数が減った方が動きやすいかもしれないな。下手に引きとめて内部で亀裂を広げるような真似はしない方がいいだろう」

「そうですか……」

 裕が疲れたようにそう言うと、少女はすごすごと引き下がっていった。

「どうしたものかな……」

 げっそりとそんなことを呟いて、裕は立ち上がった。


「あ、柳、なんか大変なことになってるみたいよ」

 片手で生産を行いながら、食料調達に行こうと野営地を出ようとしていた柳を、香苗が呼びとめた。

「何が?」

「なんだか帰還派の人たちがメンバーを募って、独自に行動するとか言って、あっちの方で騒ぎになっているみたい」

「……そうか。見に行くか?」

 よもや柳が自分からどこかに行くのに誰かを連れて行こうとするなど、思ってもみなかった香苗は、三秒ほど固まったのち、何とか現世に復帰して、答えた。

「うん」


「…………というわけだ。我らに加わるものは二時にあちら側――野営地の東端に集合だ。すでに百五十を超える人間が参加を表明している。安心してほしい。こちらにはすでに十分戦闘能力のある人間が集まっている」

 野営地の中央付近で、外見年齢二十四・五歳の男が、声高に演説している。

 彼自身、なかなかの実力があるようで、レベルが三十を超えていた。

 彼の周囲には、数多くの人が集まり、しきりに悩んだり、自分はこっちに着くぞとアピールしたり、とにかく騒がしかった。どうやら別のところに野営している人々も集まってきているようだ。

「とうとう帰還派が動き出したかぁ、マスターも大変だろうな……」

 香苗がどこかでぐったりしているだろう裕を思って言った。

「香苗は……」

 柳がぼそっと言った。

「うん?」

帰還派(あっち)に行かないのか?」

「……………………は?」

 時間が止まったかのように、香苗が固まった。

「……あっちに行ってほしいわけ?」

 香苗が低く、小さい声で訊いた。

 柳たちの会話の一部始終を聞いていた周囲の人々は、空間が軋んだかのような錯覚に陥った。中にはすぐさまその場の離脱を図った者までいたほどだ。

 しかし当の柳は空気の変化に全く気が付いていない。……空気の読めないやつである。

「いや、別にどっちでもいいんだけど」

 加えて柳の余計な発言。これなら黙っていた方がましである。

「……もういい」

 香苗はすさまじい怒気を発しながら、どこかへ歩き去ってしまった。


 柳のあんまりな言い草に腹を立てた香苗は、特に目的もなく、草地をずんずん歩いて行った。

「なにもあんな風に言わなくてもいいじゃない」

 時折、柳に対して文句が口からこぼれる。

 別に柳に悪気がないのはわかる。少し冷静になってみれば、柳が、香苗が以前、先に海の精から倒したいと言っていたことを気にしてああいう風に言ったのはわかった。しかし、それにしても、もっとましな言い方はできないのだろうか。あれではまるで、香苗をさっさと厄介払いしようとしているみたいではないか。

「なんであいつはこんなに人付き合いが悪いのよ」

 今まで溜まっていた鬱憤が、思わず口をついてでてくる。

 或いは立て続けの野営で、ストレスが溜まっていたのかもしれない。

 香苗はイライラを持て余して、やみくもにただ歩いていた。

 いつの間にか野営地を抜けてしまっていたらしい。

 香苗はモンスターが徘徊していることに気が付き、しかし引き返すのも癪だったので、ざっと周囲を見回して安全な場所を探した。

 香苗の職業はレンジャーである。高い脚力を持ち、ちょうど今いる森のような、たくさんの障害物があるところでこそその真価を発揮する。

 香苗のレベルでは、この島でのモンスターとの直接戦闘は非常に危険である。柳たちよりははるかにレベルが低く、レベル三十にすら至っていない。普段なら、一人でこのような危険地帯をうろつくような真似は決してしなかった。しかし今は、とにかくイライラしていた。とにかくこのストレスを発散したくて、香苗は引き返すことをしなかった。

 しかし香苗の視界には、レベル不明のモンスターが何匹もいる。レベル不明のリノウスの攻撃をクリティカルで受けたら、下手をすれば一撃でやられかねない。

 香苗の判別スキルは低いため、自分よりややレベルの低いモンスターしかレベルが判別できない。いくらイライラしているとはいえ、さすがに自分よりレベルの高いモンスターを相手取るのは危険すぎる。しかも奴らの索敵範囲は存外に広い。香苗はモンスターの索敵範囲に引っかかるギリギリ前に、丁度よい木を見つけ、そこに登って身を隠した。木登りはレンジャーの専売特許である。

 木に茂る大量の葉っぱに身を隠した香苗は、背負った弓を手に取り、弓掛けをはめ、矢筒から矢を引き抜き、弓に番える。

 本来なら、そのまま隠れているべきであろう。しかし今の香苗は少しばかり冷静さに欠けている。

 現実世界(リアル)で弓道をやっていた香苗は、弓の扱いには自信がある。

 荒れる心を無理やり落ち着かせ、ゆっくりと弓を引き絞っていく。狙いはたまたま目についた土の精の僕。距離はさほど離れていない。首と胴体の繋ぎ目、クリティカルポイントをはたと見据え、矢を放つ。

 弧を描いて飛んだ矢は、狙い過たず泥人形の首に吸い込まれる。クリティカルヒット。

 突然索敵範囲外から攻撃を受けた泥人形は、クリティカルの攻撃を受けたことによって大量のライフを失いながら、標的を探す。その何もない顔に目が付いているかのように、その顔は香苗を見据えた。

 香苗が今度は素早く次の矢を番えているすきに、泥人形は走り出した。木に登ってくるつもりか。

 香苗はほとんど無意識に弦を引き絞り、二発目を放つ。

 今度は敵も動いていたので、クリティカルにはならなかったが、矢はしっかりと泥人形の胴体を捉えていた。それでも泥人形はひるむことなく、香苗のいる気に向かってかけてくる。

 登れるのだろうか?

 ふとそんな疑問が香苗の頭をよぎったが、泥人形が何の勝算もなしにこちらに向かってくるとも思えない。モンスターの行動パターンのプログラムは、驚くほど優秀なのだ。

 香苗はレンジャーの特性を生かして、器用に枝の上を渡り、枝が絡まりあっていた隣の木に飛び移った。泥人形は少し前まで香苗がいた木に激突し、その木を盛大に揺らしたが、香苗が飛び移った木は少ししか揺れなかった。

 三つ目の矢を番え、弦を引き絞る。土の精の僕が香苗が座っている木の枝のほぼ真下に来た時に、矢を放つ。今度も命中。

 武道が廃れてきた昨今において、香苗は十分優秀な弓の使い手だった(もちろんレベルアップによる筋力強化の恩恵は大きいが)。

 三発目の矢をもらい、ライフをすっかり失って光となってゆく土の精の僕を見届け、香苗は次の標的を探す。

 香苗はいやなことを頭から追い出そうと、ただひたすらに矢を放つ。

 敵を倒す爽快感でもって、(ストレス)を頭から追い出す。

 香苗は何かに取りつかれたように、矢を放ち続けた。

 今朝には千を超える本数の矢をストックしていた香苗の矢筒は、いつの間にか、残すところ二百本を切っていた。

 アイテムの補充がままならない未開の島に来ていることも忘れ、香苗は一心不乱に矢を放っていた。

漢字の間違いを修正しました。(気⇒木)


間違い多くてすみません。

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