二話
今回は思ったよりずっと早く更新できました。
柳にギルド入団を誘った今月香苗という少女は、別に勧誘活動をしているわけではなかったし、さらに言えば勝手に他の人の入団を許可するほどの権限も持ち合わせてはいなかった。
もちろん、香苗からギルドに推薦してくれるのだろうが、それでもすぐに入団というわけにはいかないだろう。
実際その通りだった。香苗がギルドのトップに柳を推薦したところ、柳は入団試験を受けなければならないことになった。試験は、ギルドの人間立ち会いの元での、モンスターとの戦闘。はっきり言って、柳にとっては楽勝も楽勝。なんていったって、試験で相手にするモンスターは、ただのゴブリン。柳のレベルならば、一発攻撃を当てれば倒すことができるだろう。
結局、柳は余裕で試験をパスし、その時の戦闘の手際の良さと、レベルの高さに驚いた試験管が、ギルドのトップに話を伝えに行ったほどだった。
こうして、柳は晴れて、ギルド『青空』のメンバーになったのだった。
ギルドに入ったことによって、柳の生活はますます忙しくなった。
柳の強さに目を付けたギルドマスター(ギルドのトップの人)が、たびたび柳をレベルの高いメンバーと共に、ダンジョンの攻略に向かわせたのだ。そこで柳は遺憾なく力を発揮し、戦いの日々を送った。
しかし柳の人付き合いの悪さは治らなかった。柳とパーティを組んだ人の中には、柳とはもう組みたくないと言った人もいるほど、柳は人と話さなかった。実際、ギルド内で重宝されてはいるものの、柳と仲良くしているのは、香苗ぐらいなものだった(それも香苗が一方的に話しかけているにすぎないが)。
それでも少しづつ柳がギルドになじみつつあったある日、ギルドの運命を左右する、大きなニュースがもたらされた。
「臨時招集?」
「そう、臨時招集よ。重要度は最大。ギルドマスターが、なるべくすぐに、拠点に来るようにって。柳のとこにはメール来てないの?」
「あ、来てたけど読んでなかった」
肩まで伸ばした黒髪を乱れさせ、かなり必死で走ってきたであろう様子の香苗に言われて、初めてメールの内容を確認した柳は、周りにいた敵を手早く倒して、『青空』の拠点となっている建物へと足を向けた。
時間をケチって走る柳に、息を切らせて香苗がついていく。
「ちょっ、柳速いって。私は走って柳に伝えに来たのに」
ギルドの拠点に着いたころには、香苗は倒れる一歩手前だった。
「同志よ、よくぞ集まってくれた」
ギルドマスターの『小笠原裕』という、ひょろりとした、あまり強そうでない細長い感じの青年が、しかしよく通る声で話し始めた。
その横に控えるのは、黒いローブを着て、フードを被り、いかにも黒魔術師といった格好をした、サブマスターの『黒澤和』。魔法攻撃の威力において、彼の右に出るものはいないと言われている、このギルド屈指の実力者である。因みに彼もまた、柳同様口数が少ないのだが、あまりにも雰囲気がマッチしすぎているため、意外と人望がある。
ギルドのメンバーが静かになったところで、裕が話し始める。
「今日、皆に集まってもらったのは、他でもない、新たなダンジョンが発見されたためだ」
ここで、「おお」とか、「待ってました」といった声が上がる。直接ダンジョンの攻略に行かない者でも、ダンジョンの攻略が始まればギルドが潤い、結果彼らにも様々な利益が出るのだ。これを喜ばない者はまずいない。
「しかも、今回発見されたダンジョンは今までとは一味も二味も、いや、根本的に違うところがある」
ギルドの面々の興奮は、留まることを知らないかのごとく高まってゆく。
「故に、今から皆に伝えることは、絶対に口外しないで貰いたい。このことは、当ギルドの最重要秘密として扱わせて貰う」
最重要秘密。ギルド『青空』では、独自の罰則規定を設けており、ギルドのルールに違反した者は、これに照らし合わせて、罰金や退会処分などの罰則を与えられることになっている。ギルドの最重要秘密を他に漏らすということは、それなりの罰則を受けるということになるのである。しかし今まで、何かが最重要秘密に指定されたことは、一度もなかった。それだけ、今回の発見は凄いものなのだろう。
「今回我々の調査隊が新たに発見した物は……」
ここで裕は、大きく間をとった。
「……未開の島行きの船だ!」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
ここにきて人々の興奮は最高潮に達した。
未開の島とは、その名の通り、いまだプレイヤーが足を踏み入れていない、或いは踏み入れたものがいても無事生還せず、ほとんど誰にもその存在が知られていない島のことを指す。そういったところには、新たなダンジョンはもちろん、今までになかったアイテムや、モンスターがいる可能性が高い。
しかし未開拓の地には当然、危険も付きまとう。例えばそこに別の社会的動物(プレイヤーでない人(NPC)がいることもある)がいた場合。プレイヤーが足を踏み入れた途端に、その島に先に築かれていた国家との戦争のクエストが発生することだってある。そうした時には、こちらも大人数でもって、そこのネイティブ(先住民)と戦い、打ち負かさなくてはならなくなる。
さらに未開の島には、今までに見ない形式の物が数多くある。それは全てがプレイヤーの利になる物ではなく、中には新種のトラップや、モンスターの予想もしない攻撃などが、突然プレイヤーを襲うこともあるのだ。
つまり未開の島へ行くというのは、ハイリスク、ハイリターン。しかし攻略することによって潤う攻略ギルドに、引くという選択肢はない。さらに言えば、他のギルドに知れ渡る前に、未開の島を開拓し、主要なダンジョンを網羅し、アイテムがこちらの大陸で出回る前に、高値で売りたいところなのだ。
「先程私はこれを最重要秘密にする。と言った。しかし情報とはどこからともなく漏れるもの。よって、我々は情報が漏れるよりも早くに未開の島に進出したい。そこで、未開の島への出発は、明日の朝零時、集合場所はこことしたい。それまでは、船の場所は秘密とさせて貰う。船に乗れるのは五百人。参加希望者は今ここで名乗り出てもらう。おそらく我々では五百人に満たないだろうから、不足分は傭兵を雇うことにする。ということで、まずは、ここまでで異論のある者はいるだろうか」
ここまで一気に喋って、裕はギルドのメンバーを見回した。
人々は興奮した様子で、周囲の人と話しているが、異論がある者はいないようだった。質問はあったが。
「マスター、メンバーの基準はどうなんですか。僕のような生産職は参加できますか?」
「未開の島には何があるか分からない。食料の確保が困難になる可能性も否めない。その他生産品を手に入れるのは困難だろうと予測される。よって、攻略に行くメンバーは戦闘職、生産職を問わない。ただし、皆も知っての通り、未開の島は危険が多い。そこで、攻略メンバーの条件として、レベルが十五を超える者とさせて貰おうと思うのだが、どうだろうか」
これにも、特に反対意見は出なかった。ちなみに、柳の現在のレベルは四十ちょうど。現在の最高レベルはおよそ五十レベルと言われている。二十五レベルから急にレベル上げが難しくなると言われているこのゲームでは、十五レベルは決して高いレベルではない。そこまでレベルの低い者を連れていってでも、なるべくギルド内の人間で固めたい。というのが裕の方針だった。
「他には?」
「リーダーは行かれるんですかー」
「今回は事の重要性から、出来得る限り最高のメンバーで行きたいと思う。よって私は勿論、和も行くし、主要メンバーは全員行く。他には?」
「参加する場合何持っていけばいいですか?」
「最低でも十日はもつように保存食をもって行ってくれ。他には回復系アイテムや、テントがあった方がいい。それから日用品は、サバイバルキットシリーズをもって行くことを強くお勧めする。今回の旅はいつ帰れるかわからない。何せ船は一隻しかないし、自動操縦型だから、すぐにこちらに帰れる保証は全くない。だから各自、持てるだけの物を持って行ってほしい。急なことだから万全の準備は難しいかもしれないが、可能な限りの物を用意してほしい。おそらく自分のことは自分でどうにかしなければならなくなると思う。他には?」
その後、三十分ほど質問が続き、最後に参加希望者の確認が行われた。急なことにも関わらず、未開の島行きに立候補したのは、三百を超えた。実にギルドのメンバーの七十パーセント、十五レベルを超えている者の、九十パーセントが立候補したのだった。勿論、柳も、香苗も立候補していた。
秘密を守ることを再度確認した後、解散となった。
解散してすぐに、柳はアイテムを揃えにかかった。柳はレベル上げと並行しながら、生産にもかなり力を入れているという離れ業をやっているので、持ち物は少し変わった物となる。柳が得意とする生産は、魔法具生産。生産品に何らかの特殊効果を持たせるもので、生産するときに魔力を消費する。これにより、柳が戦闘中に使っている、様々なアイテムが作れたり、装飾品に対魔法防御の効果を付加させたりできるのである。
柳は自分の借りている宿に道具を取りに行き、その中でも、最高のアイテムを選りすぐって、自分のアイテム収納用の鞄に詰めていく。その後、ショップに行って、保存食の大量購入、テントなどの購入を済ませて、ギルドの拠点に戻った。ここならこの遠征のことについて、何かしら有用な情報が得られると思ったのだ。
柳がギルドの拠点の、けっこう豪華な扉を開き、レンガ造りの建物内に入ると、すでに準備を終えたのか、香苗がいた。彼女はどうやらいろいろな人と情報交換をしているらしい。「何持って行けばいいかなー」といった声が聞こえてきていた。人と話すのが苦手な柳は、今までは基本的に掲示板などで情報収集を行ってきていたのだが、今回はギルド内限定の秘密情報なので、掲示板からでは何も情報を得られなかった。ならばせめて話しやすい香苗から情報を得ようと、香苗たちが話しているところに近づいて行った。
「あ、柳。どう、準備終わった?」
案の定、香苗が柳に話しかけてきた。
「まあ、大体は」
香苗と話していた二人の女性を猛烈に意識しながら(別にやましい意味ではない)、いつも通り、短く返す。
「私何用意したらいいかわからなくて、瑛理ちゃんと綾女ちゃんに相談してたんだ。あ、この人が柳。滅茶苦茶無口で無愛想だけど、根はいい人だよ」
そう言って、二人に柳を紹介してしまう。
「へー、柳君ね、私は山田瑛理。宜しく」
いかにも真面目そうな、短い槍を背負った、柳や香苗と同年代と思しき女性が名乗った。
「私は山之内綾女。よろしくぅー」
対するにこちらは、なんというか、人生気ままに生きてますといった感じの、ラフな格好をした、見たところ魔法使いの、これまた同年代らしき少女が、間延びした声で名乗った。
柳は小さく「宜しく」と答えた。特に女性と話すのは苦手なのだ。
「で、柳は何用意した?というかテントって高くて買えなくない?」
「簡易式のテントなら、一万円くらいで売ってるし、複数人で大きめのを買えば、一人当たり七千円くらいでどうにかなるぞ」
「なるほどー、でっかいテントでみんなでってのもいいね、みんなで一つ買わない?」
「一万円以内なら何とか……」
「いいよぉー」
香苗の言葉に瑛理と綾女が同意した。その後も女性たちの相談は続き、その中で柳もいくつか用意し忘れていた物に気がつき、それぞれは用意を整えたのだった。
ほとんど推敲せずに出してしまいましたが……。
いやすみません。