表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき3

かたづけ

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくきゅう。

 


 柔らかな風がカーテンを揺らす。


 久しぶりに晴れ間がのぞき、気分も上向きになった。

 ので。

 部屋の片づけをしようと動いた今日。

「……ふぅ」

 本棚の整理は時間がかかりそうなので、後回しにして。

 とりあえず、クローゼットやタンスの中の片づけをしていた。

 あまり量は持っていないものだと思っていたのだが……。

「……」

 想像以上に、モノが色々と出てきた。

 いつ買ったのかも分からない浴衣に、着ることのなさそうな上着。やけに彩のあるTシャツに、絶対に私の趣味ではないパンツ。

 ……この辺りは妹のと混じったのか、はたまた泊りに来た時にでも忘れていったのか。

「……」

 しかしホントに、この浴衣が一番謎だ。なんでここにあるんだろう。

 まだ学生の頃に学校でそういう催しがあって、バイトで得た金を使って買ったものだ。家に置いてきたものだと思っていたんだが……引越しの時に適当に突っ込んでいたからなぁ。

 妹とは趣味が違うから、私の買った浴衣を着ることもなかったし。あの一回と、祭りに何度か着たくらいの浴衣だ。

 たいしていい思い出もないし、捨ててもいいとは思ってもいたが。

「……」

 そういうものに限って、捨てきれなかったりする。

 昔から変な収集癖もあったりして、こう片づけをしていると。

 私の変な偏愛ぶりというか、固執ぶりというかがうかがえてしまって少々滅入る。

「……」

 ま、それもこれも昔のことで。

 今はそんなことはない……と思うので、この辺りは捨てることにしよう。

 着ない服も何着か出てきたし、リサイクルに出してもいいかもなぁ。

 人様の役に立つとか言う、高尚な思考はないが、あっても困るし、必要な人のところに行った方がいいのかもしれないだろう。

 海の向こうでは、こんな悩みも持てないほどだとも聞くし。

 いやだから、そういう意思はないのだけど。

「……」

 ま、とりあえず、この辺りの整理は終わりだ。

 出てきたモノの処理はおいおい考えよう。

 クローゼットが心なしすっきりとして、気分がいい。

「……ん」

 と。

 何かが落ち着いたところで、腹の虫が鳴った。

 何度でも言う。虫ではなくこれは獣だ。

「……」

 時間的にもいい感じだし、何か食べるとしよう。

 冷蔵庫に何かあっただろうか…。

 今日は何か作りたい気分だ。

「……」

 袋に入れた着ない衣類を部屋の隅に置き、クローゼットを閉じ。

 キッチンへと向かう。

 到着ついでに手を洗い、軽く水を飲んでから。

 冷蔵庫を開く。

「……」

 ふむ。

 何かしらあると思ったが…卵と、納豆。賞味期限はまだ大丈夫そう。

 あとは、飲み物と、その他諸々。

 冷凍庫には、うどんと、冷凍食品少々というあたり。

「……」

 野菜室…。

 お。

「……」

 半分に切られた白菜と、半分ほど残っているキノコ。

 調味料はあったはずだから……。

 これでスープぐらいはつくれるだろ。

「……」

 取り出した白菜とキノコをキッチンに置き、鍋を取り出す。

 1人分の小さなものなので、大したサイズではない。

 それに水を入れ、火にかける。

「……」

 正しい作り方などは知らない。

 いつもこうやって、適当に野菜を切って入れて、調味料で味をつける程度だ。

 もっといいやり方はあるんだろうけど、食に対してのこだわりはさしてない。

「……」

 まな板の上に白菜を置き、適当に切り、そのまま鍋に入れていく。

 キノコは、鍋の上でほぐしながら入れればいい。

 正直言うと、スープにキノコを入れるのはあまり好きではないのだが、この際だ。仕方あるまい。

「……」

 ある程度煮立ってきたところに、固形のコンソメを一つ入れる。

 おたまで軽く混ぜながら、溶かしていき軽く味を見る。

 冷蔵庫から卵を一つ取り出し、そのあたりにあった小皿に割って落とす。

 それをかき混ぜ、鍋に入れていく。火は止めて。

「……」

 蓋を閉じ、なんとなぁく火が通ったかな、と言う程度の感覚で蓋を開ける。

 ふわりと漂う香りに、ほんの少し安らぐ。

 最後にコショウをかけて、味を調えて。

 ―完成。

「……ん」

 我ながらいい感じにできたのではないだろうか。

 棚の中から、深めのスープ皿を取り出し、注いでいく。

 これと、ほんとはパンでもご飯でもあれば良かったが、そのあたりは買っていない。

 ま、腹が減ったといっても、たいして量は食べられないからこのスープだけでも十分だ。

「……」

 出来立てのスープをリビングに持っていき、とりあえず机に置く。

 座る前に、キッチンに再度戻る。

 飲み物と、スプーンを手に、リビングに戻って、座る。

「……」

 空気の入れ替えもかねて開いていた窓から、風が入り込んできた。

 久しぶりの晴れ間ではあったが、風がこうも冷たいとあまり温かさは感じない。

 それでも。

「……」

 暖かなこの部屋で。

 温かなスープを飲んで。

 たまにはこんな日もいいものだ。






 お題:浴衣・キノコ・海の向こう

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ