かたづけ
三題噺もどき―よんひゃくきゅう。
柔らかな風がカーテンを揺らす。
久しぶりに晴れ間がのぞき、気分も上向きになった。
ので。
部屋の片づけをしようと動いた今日。
「……ふぅ」
本棚の整理は時間がかかりそうなので、後回しにして。
とりあえず、クローゼットやタンスの中の片づけをしていた。
あまり量は持っていないものだと思っていたのだが……。
「……」
想像以上に、モノが色々と出てきた。
いつ買ったのかも分からない浴衣に、着ることのなさそうな上着。やけに彩のあるTシャツに、絶対に私の趣味ではないパンツ。
……この辺りは妹のと混じったのか、はたまた泊りに来た時にでも忘れていったのか。
「……」
しかしホントに、この浴衣が一番謎だ。なんでここにあるんだろう。
まだ学生の頃に学校でそういう催しがあって、バイトで得た金を使って買ったものだ。家に置いてきたものだと思っていたんだが……引越しの時に適当に突っ込んでいたからなぁ。
妹とは趣味が違うから、私の買った浴衣を着ることもなかったし。あの一回と、祭りに何度か着たくらいの浴衣だ。
たいしていい思い出もないし、捨ててもいいとは思ってもいたが。
「……」
そういうものに限って、捨てきれなかったりする。
昔から変な収集癖もあったりして、こう片づけをしていると。
私の変な偏愛ぶりというか、固執ぶりというかがうかがえてしまって少々滅入る。
「……」
ま、それもこれも昔のことで。
今はそんなことはない……と思うので、この辺りは捨てることにしよう。
着ない服も何着か出てきたし、リサイクルに出してもいいかもなぁ。
人様の役に立つとか言う、高尚な思考はないが、あっても困るし、必要な人のところに行った方がいいのかもしれないだろう。
海の向こうでは、こんな悩みも持てないほどだとも聞くし。
いやだから、そういう意思はないのだけど。
「……」
ま、とりあえず、この辺りの整理は終わりだ。
出てきたモノの処理はおいおい考えよう。
クローゼットが心なしすっきりとして、気分がいい。
「……ん」
と。
何かが落ち着いたところで、腹の虫が鳴った。
何度でも言う。虫ではなくこれは獣だ。
「……」
時間的にもいい感じだし、何か食べるとしよう。
冷蔵庫に何かあっただろうか…。
今日は何か作りたい気分だ。
「……」
袋に入れた着ない衣類を部屋の隅に置き、クローゼットを閉じ。
キッチンへと向かう。
到着ついでに手を洗い、軽く水を飲んでから。
冷蔵庫を開く。
「……」
ふむ。
何かしらあると思ったが…卵と、納豆。賞味期限はまだ大丈夫そう。
あとは、飲み物と、その他諸々。
冷凍庫には、うどんと、冷凍食品少々というあたり。
「……」
野菜室…。
お。
「……」
半分に切られた白菜と、半分ほど残っているキノコ。
調味料はあったはずだから……。
これでスープぐらいはつくれるだろ。
「……」
取り出した白菜とキノコをキッチンに置き、鍋を取り出す。
1人分の小さなものなので、大したサイズではない。
それに水を入れ、火にかける。
「……」
正しい作り方などは知らない。
いつもこうやって、適当に野菜を切って入れて、調味料で味をつける程度だ。
もっといいやり方はあるんだろうけど、食に対してのこだわりはさしてない。
「……」
まな板の上に白菜を置き、適当に切り、そのまま鍋に入れていく。
キノコは、鍋の上でほぐしながら入れればいい。
正直言うと、スープにキノコを入れるのはあまり好きではないのだが、この際だ。仕方あるまい。
「……」
ある程度煮立ってきたところに、固形のコンソメを一つ入れる。
おたまで軽く混ぜながら、溶かしていき軽く味を見る。
冷蔵庫から卵を一つ取り出し、そのあたりにあった小皿に割って落とす。
それをかき混ぜ、鍋に入れていく。火は止めて。
「……」
蓋を閉じ、なんとなぁく火が通ったかな、と言う程度の感覚で蓋を開ける。
ふわりと漂う香りに、ほんの少し安らぐ。
最後にコショウをかけて、味を調えて。
―完成。
「……ん」
我ながらいい感じにできたのではないだろうか。
棚の中から、深めのスープ皿を取り出し、注いでいく。
これと、ほんとはパンでもご飯でもあれば良かったが、そのあたりは買っていない。
ま、腹が減ったといっても、たいして量は食べられないからこのスープだけでも十分だ。
「……」
出来立てのスープをリビングに持っていき、とりあえず机に置く。
座る前に、キッチンに再度戻る。
飲み物と、スプーンを手に、リビングに戻って、座る。
「……」
空気の入れ替えもかねて開いていた窓から、風が入り込んできた。
久しぶりの晴れ間ではあったが、風がこうも冷たいとあまり温かさは感じない。
それでも。
「……」
暖かなこの部屋で。
温かなスープを飲んで。
たまにはこんな日もいいものだ。
お題:浴衣・キノコ・海の向こう