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【一般】現代恋愛短編集

よりにもよって餃子を食べた時に告白しないでよ!

作者: マノイ

 壮馬(そうま)のばか、ヘタレ。

 あそこまで完璧なシチュエーションでどうして告白出来ないのよ。


「はぁ……早く恋人になりたいな」


 結城(ゆうき) 壮馬(そうま)

 高校二年の男子で私の幼馴染。


 格好良くて優しい王子様、なんて感じるのは私が壮馬のことを好きだからかな。


 でも王子様は恋愛に関してはかなりのヘタレで、私に何度も告白しようとして諦めちゃう。


 昨日なんか夕陽の見える丘の上で二人きりっていう最高のシチュエーションで、今日こそは告白するぞって意気込んでいるように見えたのに、しかも甘いムードになってここしかないって雰囲気にもなったのに、最後の最後で逃げちゃった。


 私から告白しても良いんだけど、というか告白してさっさと恋人関係になってイチャラブしたいんだけど、壮馬が告白したがっているのに私がやっちゃうのは可哀想かなって思って我慢している。


 でもそろそろ我慢の限界だよ!


 最初の頃はヘタレっぷりも可愛らしいって思ってたけれど、それが一年以上も続くだなんて思わなかった。良くこれまで我慢できたと思うよ。


「ああもう、気分転換しよ!」


 もやもやした気持ちを吹き飛ばすにはアレしかない。


 ということでやってきました。


 某中華料理専門店。


 私が生まれる前からある古いお店で、お世辞にも映えるとは言えない見た目なので友達と会うことはまずないはず。


 私はこの脂ギットギトな雰囲気のお店の常連で、気分が落ち込んだ時に食べに来て元気をチャージする。


 注文する料理はいつも同じ。


「餃子定食大、お待たせ」


 これこれ。

 ここの餃子が大好きなの。


 まずは熱いうちにそのまま被りつく。


「はふっはふはふっ」


 噛むと同時に中から灼熱の肉汁が溢れて来て、あまりの熱さに最初は味が全然分からない。

 でも徐々に口の中が熱さに慣れてくると……


「くっさぁ♡」


 大量のニンニクとニラの香りが口一杯、鼻一杯に広がって人には見せられないだらしない表情になっちゃう。

 このお店の餃子はニンニク多めのニンニク餃子だから、普通の餃子よりも遥かに臭いがきつい。

 それが私は堪らなく大好きで、一口頬張るごとに幸せな香りに包まれるかのような気分になる。


 もちろん花の女子高生。

 きっつい香りを振りまいて出歩くなんて恥ずかしいから、何も予定が無い日にしか出来ない豪遊。

 今日はフリーの休日なので、このまま家に直帰してずっと引きこもっているつもり。


 たとえ壮馬にデートに誘われても、今日ばかりはお断りだよ。




 と思っていたのに。

 神様はなんて残酷なことをするのだろうか。


「あれ、リリーじゃないか」

「!?」


 幸せ気分で家に帰る途中、壮馬に会ってしまったの。


 ちなみにリリーは私の事。

 日本生まれ、日本育ち、英語が話せないアメリカ人。


 くっさい餃子を食べると聞いて外国人の私を想像した人はいたかな?


「昨日は慌てて帰っちゃってごめんね」

「う、うん」


 そう言いながら壮馬は私の横に並んで歩こうとして来る。


 別に許可なんていらないし、こうして外で偶然会った時に一緒に家に帰るのは私達の間では普通の事。


 でも今日だけは止めて!

 近づかないで!


「昨日の夕陽綺麗だったなぁ」

「(綺麗だったのは夕陽だけ?)」


 って言いたい!

 言って壮馬の背中を押して告白させたい!


 でも今日だけはダメなの。

 というか口を開きたくないから長文なんて言えないの!


「また今度一緒に見に行こうね」

「う、うん」


 悲しき頷きマシーンになりきるしかない。

 お願いだからオープンクエスチョンはしないでね。


「リリーは今日何してたの?」


 するなって言ってるでしょうが!


「リリー?」

「…………」


 どうしよう。

 そもそも口を開けて話が出来たとしても、くっさい餃子を食べに行っただなんて恥ずかしくて言えないし。


「ごめん。言えないこともあるよね」


 私が沈黙してたら壮馬が勘違いしてくれて助かった。

 でも悪い事を聞いちゃったな、みたいな感じで凹んじゃった。


 そうじゃないの。

 壮馬は何も悪くないの!


「あ、この公園は……」


 住宅街にある小さな公園。

 その横を通りがかった時に壮馬が何故かそこについて触れた。


 今まで何度も通ったことがあるのにどうして今日に限って。


「ね、ねぇ。少し寄って行かない?」


 はは~ん。

 分かったぞ。


 ここで昨日のリベンジをするつもりなんでしょ。


 この公園は私達が幼い頃に一緒に遊んだ想い出の場所。

 中心に植えてある少し大きな木の下で、結婚の約束をしたこともあるんだ。


 誘い方が少し挙動不審だったし、昨日みたいに覚悟を決めた表情になってるし間違いない。


 今度こそちゃんと告白してくれるのかな。


 じゃないよ!


 どうして今日なの!


 今日はお口くっさぁだからダメって言ったでしょ!


「さぁ行こう」


 あ……手を握られちゃった。

 壮馬ったら付き合っても無いのに平気でこういうことしてくるんだよね。


 その度にいっつもドキドキさせられてるって気付いてる?


 じゃなくて!


 ドキドキしてたら断るタイミング逃して一緒に公園に入っちゃった!


 しかも一直線に想い出の木の下に連れてかれちゃった!


「懐かしいね……」

「う、うん」


 どうしようどうしようどうしよう。


 告白されるのは嬉しいけれど、お口臭いままオッケーなんて言えないよ。

 もしバレたら幻滅されちゃうもん。

 こんなお口臭い女の子なんかと付き合いたくないって思われちゃったら嫌だもん。


「ねぇリリー、ここで約束したこと覚えてる?」

「う、うん」


 覚えてるよ。

 忘れるわけ無いよ。


 でも今は告白するのを忘れて下さい!

 お願いします!


「ふぅ……」


 壮馬が続きを言う前に一息ついた。

 その震える吐息が艶めかしくてつい彼の唇を凝視してしまう。


 私には一つの夢があった。

 それは告白されたらキスをして返してあげるという夢だ。


 これから恋を育むタイプの告白であれば告白後即キスはありえない。

 両想いでの告白だからこそ出来ること。


 その夢を思い出して壮馬の唇に釘付けになる。


 ついにその夢が叶う時が来たのかもしれない。


 だから叶っちゃダメなんだって!

 この状態でキスなんかしたら百年の恋も冷めちゃうよ!


 こんなことならせめて口臭対策をしておけば良かった。

 少しでも長くくっさぁい気持ちに包まれていたかったから何も対処してないのよ。


 ブレスケア! 大事!


「リ、リリー……お、俺……」


 壮馬が真剣な目で私を見ている。


 あなたの瞳には私がどう映っているのかな。

 息が漏れないように唇を閉じて必死にか細く息をしているのがバレてないかな。


 こんなのが告白の想い出になるだなんていやああああああああ!


「…………」

「…………」


 そうだ。

 壮馬のことだからきっとまたヘタレるに違いない。


 結局告白出来ずに誤魔化して帰っちゃうんだ。

 だからもう少し我慢していればきっとバレずに解散出来るはず。


 がんばれ、わたし。


 乙女の尊厳と乙女の夢を守るのよ。




「好きだ! 俺と付き合ってくれ!」




 どうして今日に限って告白しちゃうのよおおおおおおおお!


 壮馬のバカ!


 仕方ない、夢は諦めて返事だけしよう。

 それなら頷きマシーンの私でもなんとかなるから。


 でも実はそれにも大きな問題があるの。

 本当に告白されたことでびっくりしたからか、最低最悪な問題が発生しちゃったの。




 げっぷがでそう。




 もう喉の所まで上がって来てる。

 「うん」って一言口にするのも難しそう。

 だってそれだけでげっぷの音が漏れちゃいそうなんだもん。


 お昼あんなに食べるんじゃなかったようわああああああああん!


「…………」


 壮馬が不安そうにこっちを見ている。

 早く返事をしてあげないと。


 こうなったら先にげっぷを出してしまおう。

 少し俯けば照れたように見えるよね。


 そぉ~っと、そぉ~っと、音が漏れないように細心の注意を払って……けぷ。


 くっさぁ♡


 口の中に更に強いニンニクの香りが溜まっちゃった。

 鼻からも出ちゃってるかも。


 おっと、早く返事をしないとね。


「うん」

「!?」


 笑顔で口を開けずに返事したけれど、これダメ。

 思っていたよりも口の香りが強烈だ。


 少しでも口を開けたら漏れちゃいそう。


 我慢よ我慢。

 我慢して早く家に帰って明日からイチャイチャするのよ!


「リリー……」


 え?

 どうして近づいてくるの?


 熱に浮かれたようなその表情はまさか……!?


 そうか分かった。


 息を漏らさないように必死にしてたから顔が真っ赤になって、壮馬からはすごい照れているように見えるんだ。そういえばもじもじしちゃってるし、壮馬の告白が嬉しくて大喜びしているようにも見えてるのかも。


 壮馬の中ではムードが高まりに高まっているように感じられて、つまりその先に待っているのは私の夢と同じ未来。


 どうしてこれまでヘタレだったのに急に積極的になるのよ!


 どうしよう壮馬の顔が近づいてくる格好良いでも臭いのバレちゃう嫌われたくないどうしようくっさぁどうしようくっさぁ壮馬くっさぁこのままじゃダメええええええええ!


「あ……ご、ごめん!」


 突然、壮馬が何かに気付いたかのように反射的に私から離れた。


 まさか……バレちゃったの……?


「いくらなんでもいきなりすぎだったよね。本当にごめんなさい!」


 違う、バレた感じじゃあなさそう。


「はいコレ」


 手渡されたのは綺麗に洗濯されたハンカチ。


「返さなくて良いから!」


 壮馬はそう言って逃げるように去ってしまった。

 一体何がどうなってるのかと思ったけれど、すぐに気が付いた。


 どうやら私はパニクって涙目になっていたんだって。

 しかも少し体を震わせてたから、急なキスで怖がらせたって勘違いしたのかも。


「助かったぁ……くっさぁ」


 安堵してようやく言葉が漏れたけれど、その拍子に流れ出た吐息があまりにも激臭だった。

 もしあのままキスしていたらこの息が伝わっちゃったんだよね。

 大事故だ。


 それにしても夢に見た告白シーンがこんな悲惨な結果になっちゃうなんて。

 最低最悪の想い出だよ。


 しかもあのヘタレの壮馬が自分からキスをしてくるなんて、この先いつになることやら。


 もうこうなったらやけだ!


「夕飯も餃子食べちゃおうっと!」


 本日二回目の餃子パーリィーだ!

















 帰り道で壮馬にまた会って今度はバレた。

 死にたい。


くっさぁ♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] リリーさん、欲望に忠実でくっさぁ♡ 臭い食物を食べた後にシリアスぶちこまれて悩むんだろうな
[一言] このあとどうなったか知りたい くっさぁ♡
[良い点] くっさぁ♡
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