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ラブコメ・恋愛

メンタルの弱いネット作家 感想返しは妹に任せる


 月間一位を獲った俺。ワサビワナビ。もちろんペンネームだ。

 感想欄は、もちろん開けているし、感想返しだって毎回やっている。

 誰がって?ーーーー妹が。


 そうワサビとワナビ。二人一役作家なのだ。

 一人は感想返し、一人は執筆。

 

「お兄ちゃん、いい加減、感想に向き合うか無視するか決めなよー」


 妹のワサビちゃんは、俺の月間一位作品の感想に淡々とキーボードを打っていく。なんと返しているのか、いまだに知らない。

 感想を見るのは怖いのだ。

 もし感想で批判という名の名状し難い指摘を受けたら、メンタルを病むこと不可避。

 ネット初作品で受けた感想から、俺は二度と感想なんて見ないのだ。でも、感想欄を閉じることもできず、妹に代わりに感想返しという作業をやってもらっている。

 幸い、ネット小説とかキモいなんて言う妹じゃなくて良かった。


「お兄ちゃんは、妹を半身だと思っているから問題ないんだ」


「わたしは、ペンネームの半分を背負ってるつもりはないんだけどなー」


「文字数的に、半分。大丈夫、書籍化の収益も折半だ」


「わーい。でも、編集者との話し合いもわたしがするんだよね」


「もしっ、も、もし、編集者に、名状しがたい迂遠な指摘をインテリ気味にされたら、筆を折るかもしれない」


 編集者なんて作家の敵、筆頭だ。

 編集者のあけすけな批判で、俺は自殺まで考えるぞ。お兄ちゃんのメンタルのなさを知ってるだろう。


「もはや折りたがってるとしか思えないんだけど」


「いいかい。一本の矢は折れやすい。しかし、2本だったら」


「それ三本いる話だよね。できれば一本立ちして欲しいけど」


「エラリークイーンも二人組。おれたちも二人組。それでいいじゃないか」


「少なくとも、プロットと文章で分けるならわかるけどね。やってること、マネージャーかプロデューサーなんだよねー」


 妹は会話をしながらも、次々と感想を返していく。

 全く考えずに、小説執筆より早くタイピングしていく。感想返しの文字数もきっと小説本文並みになっているだろう。


「わたしがまともな感想をピックアップするんじゃダメなの。おかしなのは、感想削除やブロックしとくよ」


「そのまともな感想でメンタルブレイクするかもしれない」


 作家の俺は、言外の意図。裏の裏の裏まで読めてしまうんだ。

 眼光紙背に徹して、完膚なきまで相手の悪意を読みとってしまうだろう。


「なんで、そんなに感想にビビってるんだろう。作家様だぞ、ぶちコロがすぞっと」


「ちょっとワサビちゃん。そんな高圧的な返ししてないよね」


「冗談冗談。でも、クレーマーはブロックしてるけどねー。レスバは疲れるし。掲示板でやれってね」


「よかった。実は、感想が面白くて見てる層だらけという結果だったりーー」


「あー、たまに、そういう感想もあるねー」


「鬱だ。今月は書かない」


「ちょっ、半身の頑張りで納得しなよ」


「ふっ、どうせ、感想欄で、みんな大喜利とかしてるんだ。俺の小説なんて、所詮、みんなが盛り上がるための話題に過ぎないんだ」


「はいはい。いじけないの」





「プロフィール。間違ってね」


 俺は書籍化された本の帯を見ていた。プロフィール写真が載っている。かなり女子っぽい机。まぁ、そこは許すとしても。文章が……。


「え、現役ピチピチ美少女jkだよ」


「いや、そうなんだけど」


「SNSのフォロワーすごいよ。書籍化ってすごいね」


「それ、jkに群がってるだけじゃね。常識的に考えて」


「ちゃんと姉妹で書いてるって書いておいたよ」


「俺はいつから姉に」


「きょうだいも兄弟って書くよね。だったら姉妹もそういうことだよ。男女平等的に正しい。編集者にも何も言われなかったし。間違っていたら訂正するよね」


 それは、俺が男だと知らないからだろう。

 姉妹と聴いて、片方は男と思う言語の語用なんて誤用でしょ。


「大丈夫。いざとなったら、心は女と言って女風呂に突入すれば解決だよ」


「俺は心も男だ」


 そして女風呂に突入する合理的な理由がなさすぎる。逮捕されちゃうよ。まだ人類の大多数はその領域に踏み込んでないから。石橋になったら、微レ存。混浴しか存在しない世の中になったら。


「もう、しょーがないなぁ。じゃあ、身体の方から。あーあー、書籍化の収益は手術代かー」


「やめれ。俺の下半身を見ないで。縮こまってるから」


 身体の方から入るやつなんて、きっといないぞ。


「ま、会うことないし。大丈夫でしょ。たまに会う機会があれば、女装すればいいだけ」


 俺が女装することに精神的ストレスを感じることを無視している件について。


「前にわたしの服をギラギラと見ていたし」


「それは女装願望ではありません」


 ちなみに性欲でもない。ただの資料としての観察です。

 断じて、妹に欲情なんてしない。妹と一緒に浴場に入っても興奮しない。


「それでー」


 妹は、話を変えるといった感じで切り出す。


「感想欄が、荒れてます」


「な、なんで。まさか若い女性の成功は気に食わない系、弱者男性どもがーーダメだ、俺に響く」


「いやー、ネカマ野郎って。どう考えても作者は男だって」


「あー、うん。男ですね。生粋の男ですね」


「こんな女子っぽい感想返ししてるのにねー」


 どうすれば女子っぽい感想返しになるのか詳しくっ。

 まぁ感想なんて見ないけど。SNSも同上。同左?

 エゴサーチなんて自殺願望でもある人間しかしない。見たくないものを見ない自由。正しい批評――、なにそれ、なにが正しいか決めるのは、俺です。てか作家個人に批評をぶつけにこないで。


「辛辣な感想返しがたまらないって。ワサビのようなツーンとした感じがよろしいって」


「ちょっと待って。感想欄、なんかvtuberのコメントプロレスになってないよね。いや見ないけど」


「安心して。ブロック祭りは止まらないから」


 変な祭りが開催されていた。それ、起こさない方がいいやつだよね。


「わたしがこの世界の神だ。はい、ブロックブロック」


 妹はそう言いながら、ポチポチとキーボードを数回叩く。


「大丈夫そう?」


「まぁ有名税みたいなもんだよ。どうせすぐに飽きるって。アニメ化とかしたら、また増えるかもだけど」


 焔から焔に飛び回る蛾をつぶすように、妹は容赦なさそうだった。



 まあ、そんなこんなでワサビワナビで作家業をしていたんだけど。


「お兄ちゃん、SNSで失敗して、高校名バレちゃった。うーん、この画質で制服って分かるもんなんだね」


 SNSリテラシーの必要性。なぜプライバシーがバレそうな画像を投稿してしまうのか。

 ストーカーとかも最近は危ないんだぞ。


「ちょいちょい、俺たちのSNSの運用どうなってるの」


「えっ、リア充美少女の日常みたいな」


 なにそれ、俺が欲しいんだけど。キラキラしたところだけでも切り取れるぐらいのキラキラが欲しい。どこを切り取っても、キラキラがないです。 


「見たい、すごく見たい。だけど、俺には――」


「いや、小説の感想欄で無理なら、SNSなんて無理じゃない。ゴミカスとかキモいとか単純な罵倒もとんできてるよ。長文お気持ち表明とかも」


「うん。見なくていいや。現実なんて知らない。フィクションだけで生きていくんだ」


「お兄ちゃん、文才なかったら、確実にひきこもってそう」


「いや、田舎で農業してるよ。全部サービス業が悪いんだ。コミュ二ケーション労働なんて本当は必要ないんだ」


「作家も、その必要で言えばいらなくなりそうだけど……」


 妹があきれていた。


「まぁ、高校がバレても、わたしたちは兄妹しまいだから大丈夫だね。高度な叙述トリックをしてしまったよ」


「いや、そのトリックは犯罪的すぎるだろう」


 ミステリの本で、その叙述トリックがあったら、迷いなく星一つの評価して、古本屋に売る。



 ま、一作家の高校なんてバレていようが、マスコミが騒ぐわけもなく、学校でも知っている人も少ない。

 単純に、ネットの一界隈が盛り上がっているだけ。炎上したっ、「その界隈以外誰も知りません」みたいな。みんなが怒っている、「国民の0.001パーセント以下」みたいな。

 学校に影のように登校しても、そんな作家様の噂話なんて耳にはいってこない。

 えっ、ともだち?

 なにそれ、おいしいの。

 学校は勉強だけして過ぎ去る場所です。絶対に、同窓会には行きません。いや、ただ時間とお金の無駄だからだよ。学校にはフラットな感情を持っています。起伏のない毎日です。


「お兄ちゃーんっ」


 やめろ、そんなまぶしい笑顔でお兄ちゃんと呼ぶな。

 光で浄化されるだろう。普通の妹は、兄の教室に来て、お兄ちゃんなんて呼ばないよ。ソースは俺以外。

 妹は、友達であろう少女を連れていた。そして、こっちこっちと教室の外へと俺を呼び出す。


「ど、どうしたんだ」


「この子の身体を利用しようかと」


 なるほど、分からん。

 この平均的な女子高生の身体をどう利用するというのか、詳しく手取り足取り説明してください。

 え、エッチなのはいけないと思いますよ。そうだね、まずはマッサージからコミュニケーションを始めようか。言葉には頼らない。


「うーん、ワサビちゃん、身バレしちゃった」


 おーい、妹。SNSに注意しろ。

 もう遅いか。でも、全然ざまぁできない。一蓮托生だから。


「大丈夫大丈夫。この子だけだから。それで、この子にワナビちゃん役をしてもらおうかなって。ほら、ネカマ言ってた感想欄をギャフンとね」

 

 姉妹――「姉妹」特別な関係になってない。ああ、お姉様。


「姉妹お出かけデート写真をあげれば、本当に姉妹だって思わせられるよ」


 俺たち、なんのミステリトリックを読者にしかけようとしているんですか。

 いったい、妹は感想欄とSNSで何と戦っているんだ。

 まぁ、もちろん、そのあたりはすべて妹にまかせる。妹は小説に口出ししない。俺は感想やSNSに口出ししない。作家プロデュースは妹任いもまか


「まぁ、いざとなったら、義姉にすればいいから」


 ん、なんか、俺の人生さえプロデュースされてそうな言葉が――気のせいだな。




「なんか爆売れしてるなぁ」


「やっぱり、女の子が、執筆しているというだけでアドだよね」


「いや、男が書いていようが、女が書いていようが変わらないでしょ」


 というか、その売れ方は、どうなんだ。まぁ、最近はアイドルやなんちゃら女優が小説書いたりしてるけど。知名度は重要なんだろうけど。


「チッチッチ、文学少女は平安時代からの伝統だよ。もし紫式部が男だったら源氏物語は売れてないよ」


 いや、あの頃、文学で食ってないよね。えっ、まさか、美少女の書いた文だから保管しましたなんて理由で最古の小説にはなってないよ。だいたい原本は紛失していたような。


「それで、そろそろお手つきにしないの」


「ワサビちゃん、友達は大事にすべきだと思うんだけど」


「まぁ、もうすこし売れてからだよね。目指せ一〇〇万部、累計5000万部!!」


 俺への期待値が高すぎる件について。ミリオンセラーにならないよ。あと、5冊ぐらいシリーズ化でもしないと。

 

「美少女現役JDのうちに、JDブランドを使い切らないと。そうだ、vtuberもしようかな。作家兼vtuber、これは相乗効果でWin-Winでシナジーだ」


 二足のわらじをはきまくろうとしていた。まぁ、二人いるから問題ないのだけど。実際は、現在三人なのだが。

 俺は、絶対に見ないけど。ふと、動画のコメント欄を見てしまえば、勢いあまって、キーボードをかち割るかもしれない。真面目に本を書け、とか言われたら、次の本に、真面目系クズを書いてしまいかねないぐらいメンタルに影響を受ける。


「vtuberってなにするの。小説の書き方とか?」


「えっ、ツイスターゲームやってみたとか、最近はやりのゲームとか、歌ってみたとか」


 作家、関係なさすぎた。作家ってなんだっけ。


「ああ。小説音読ASMRとかもありかも」


 特殊すぎる。普通にオーディオブックによくないですか。昔の詩人かな。自分の詩の音読会。





「よーし、お兄ちゃん、SNSでやっちゃうよ、本当に」


「それ、しないとダメなのか」


「結婚発表をSNSでするのは、今時だよ」


 いや、作家の結婚未婚なんて、完結と未完ぐらいの違いしかないよ。


「ううっ、これで何人のフォロワーを失うんだろう」


「お兄ちゃん、妹が承認欲求のバケモノにならないか心配なんだけど」


「わたしの承認欲求を満たしてね」


 バケツに穴が開いてなければいいけど。


『この度、ワサビワナビのワナビは、高校の時からの知り合いの女性と結婚しました』


「うんうん、シンプルが一番だよね」


 えっと、これって、女性同士で結婚したとか思われていないかな、かな。

 やばい、気になる。

 気になりすぎる。

 しかし、俺は、俺は――――、こんなことのエゴサーチなんて――。


 はぁはぁ、見るのか。

 俺、これまでも、一度も、そんなことしなかったのに。

 いや、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ。

 見ちゃダメだ。

 見ちゃ…………うよねぇ――。


おしまい。


評価、ブクマありがとうございます。


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