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力なき者達



ザーノが何処かへ行った。

旧魔王城も、跡形もなく消え去った。

大きな節目は過ぎたのだ、ひとまずの安息が訪れたんだ。

だけどこの国が戻ることはない、被害が大きすぎる。


安息が訪れたといえど、それは本当に一瞬の安息だ。

何故なら、俺達には船で魔王の地へ行くという目標があるから。

そのためにまずは、船を手に入れなければならない。


「ガストル、船は用意出来るか?」

「ああ、魔物共にぶち壊されてなきゃな。他国に渡航する時に使った船が一隻残ってるはずだ」


港町も魔物に占拠されてると考える方が自然だな。

相応のリスクは伴うか……けど仕方ない。

港に止まっているガストルの船を使って、魔王の地まで行く。

そんな中、ハサドが気まずそうな顔をして言った。

「あの、ツッツはどこにいったんすか?」


それに対して、誰も答えなかった。唯一答えようとしたのはガッケルだったが、()()がツッツだという確証を得れない以上は何も言わなかった。

真っ先に口を開いたのは他の誰でもない、タリスだ。


「ツッツは、ハサドに化けていた……奴は私達の暗殺を企んでいたようだが、上手くはいかなかった。私の意識が途絶える前にツッツが言っていたことが正しいのなら、彼は魔神軍の手先だ」

「もう平気なのか……! 意識は?」

「驚くくらいにハッキリしているよ。ありがとうフォルネ、それにみんな。そしてハサド、すまない」


タリスは横たわりながら口を開いた。

立ち上がろうとしたが、格好が格好なのでひとまずガッケルの上着を貸すことにした。


少しブカブカだが、身体を隠すならこれで良い。

ハサドに視線を向け、タリスは腰を折り曲げて頭を下げた。


タリスらしくない行動だ。


「私の注意不足だった、殺さずに済ます事も出来たのに……君の友人を殺してしまってすまなかった」

深々と頭を下げるタリスを見て、ハサドは慌てていた。早く頭を上げてほしいのか、ぺちゃくちゃと何か言っている。


「全然気にしないでくださいっす、被害者はあんたなんですから。それに、ツッツはたまにいらつく事とか言ってきましたし……全然余裕っす!」

口ではそう言うが、内では動揺を隠せていなかった。

それもそのはずだ。友人が魔神軍の手先だと知れば無理もない。

「私にも、大切な人を失う気持ちはよく分かる。例え余裕がなかったとはいえ、君の仲間を……」

「だから大丈夫っすよ! 魔神軍の手下だったんなら悲しみもなんも無くなってきましたわ。安心してください、ほらさっさと船取りに行かなきゃでしょ?」

でも今は悲しみに暮れる時間はない、エミリー達と早く合流しなきゃならないんだ。

サユリ姉さんも、パッチンも、どちらとも無事なはずだ。


「……そうだな。分かった、行こう。港町へ」







8時間前 Aチーム出発と同時刻

一方、Bチームは―――



「それじゃ、うちらも出発しよーか」

甘い香りが漂う馬車内、草原の上に彼女らは立っていた。それは何故か、ある人間を探しているからだ。


その人間とは『サユリ』と『パッチン』、エミリーの旅仲間でありフォルネの姉と親友である。

2人は大量の魔物の襲撃により姿を見失ってしまった。

うちらがしっかりと周りを見ていればこんな事態にはならなかったのに。


だけど悔いても遅いんだ、今うちに出来ることはみんなを探すこと……!

そして、もう一つ……ピルク親子を安全な場所に送り届ける事だ。この2人は魔族だけど、戦闘なんてできない、うちが守るしかないんだ。


「エル! 準備だいじょぶー?」


あと馬車に乗るのはエルだけど……エルだって獣族とはいえ戦えるわけじゃない。

うちががんばんないと……!!


エルが馬車に乗り、全員が搭乗完了した。

外は少し肌寒い。

嫌な風が、身体の熱を奪う。


「それじゃ出発ー!!!」



―――



フォルネ達と違って、うちらBチームに明確な目的はない。もちろん! ピルクくん達を無事安全な場所に送り届けるって任務はあるけどそれとこれとは別問題。


うちらはどこへ向かうとか、そういうのはない。

だからといって闇雲に進むのも良くないし……どうしたもんかな。

何かこれまでの出来事の中に情報(ヒント)はないかな……


じっくりと考えてみても、答えは浮かばない。

もう夜が近づいてる。このまま夜の道を進むのは危ないし、何より意味がないからやめよう!


暗い中魔物に襲われたりしたら、うちらの戦闘力じゃかないっこないしね。

ここらへんに宿でもあればいいんだけど、あったとしても魔物化のせいで蛻の殻だろうなぁ。


野宿もピルク君達が居るし出来るだけ控えたほうがいいよね。どうしたものかなぁ……


「エミリー、どうしたニャ?」

「エルちゃん……! 寝ていれば良かったのにー、今は泊まれそうな場所を探してたんだけど……中々見つかんないね!」

でも幸い、まだ暗闇ってわけじゃない。

どうにか日が落ちる前に泊まれる場所見つけないとな。


馬車を2時間ちょっと走らせたけど、見える景色は荒れ果てた土地と破壊された小屋だけ。

流石に破壊された小屋に寝泊まりするのはピルクくんやエルにとっては良くない。


街でもあれば、多少は寝泊まりできる場所が見つかるだろうに。

この国はあまりに広すぎる。


このままじゃ……魔物が活性化する夜に間に合わない。うちじゃ、みんなを守ることなんて出来ないよ。

疲れで瞼が降りて来る、疲労が限界に近づいているんだ。


そんな時、肩に強い衝撃があった。

何かぶつかったのか、何なのか。

後ろを振り向くと、そこにはエルがいた。


焦り、衝撃、そんなものが顔に表れている。

馬車の動きが止まる。


「どうしたー? うちの運転に不満あった?」

エルが恐る恐る口を開いて言った。

ぴくぴくと鼻を動かしている。


「遠くから、大量の魔物の匂いがするニャ……あちしでも分かるくらいに強い匂いと気配が、遠くからこっちに向かって来てるんだニャ」

語尾のせいで腑抜けた感じになっているけど、その顔を見るに嘘ではない事は明確だ。


もしもそれが、パッチンくんとサユリさんを連れて行った魔物たちなら……

うちらだけじゃ対処出来ない。


考えるんだ。うちが今できる最善策。

戦う事? いや違う、そんなのは最悪の策だ。

最善は()()()()()


不幸か幸いか、この国は大きい。

世界で最も巨大な国なんだ、離れた場所まで逃げることができたら、魔物と遭遇する確率はぐんと下がる。


「エルちゃん、うちらに向かって来てる魔物はどっちから来てる?」

「匂いも薄いから正確じゃニャないけど……多分東の方角だと思うニャ」

さっきの魔物の軍勢も確か、うちらから見て反対方向に行った。あの時は魔物は北に行ったけど、何故か今は東から来ている。


そもそも前回はなんで急に何処かへ行ったんだろう。

別にピンチだったわけでもないし、まるで何かに呼び寄せられているみたいだった。

魔物化騒動の原因と何かしら繋がりがある……って考えるのが自然ね。


「方向転換するよー! ちょっと運転荒くなるから、しっかり掴まってて―――」

今出せる最高速度で、西へ進む。道は整備されているから、走りづらいなんてことはない。

むしろ他の国よりも快適かな……!


よし、この速度なら魔物からは逃げれる!!

けどどうしよう、逃げたとてうちは眠ることすらできないからなぁ。

エルちゃんと交代交代で見張りするしかないよね。

頼んでみよう。


「エルちゃん、起きてる?」

馬車の幕を開いて、エルはひょこりと顔をのぞかせた。獣族はとても愛らしい種族だ、もふもふしたい。

―――いや今はそんなことじゃない。


「馬車、交代交代で乗らない? うちもそろそろ疲れてきてさー休めそうな場所もないし」

エルはきょとんとした顔をしていた。


「エミリー、休めそうな場所。ここらへんなら一個分かるニャ」

「え!? ほんとー??」

「ここから東に行かなきゃいけニャいけど、そこへ行ったらあちしの住んでた街があるはずニャ。魔物は多分移動したから、今なら休める場所があるはずニャ」


エルちゃんのお家があった街か……確かにここらへんって言ってたっけ?? 今となっては数時間の移動でも苦痛だから、早めに休みたいけど……仕方ないか。

それに、今はそれくらいしか頼れる情報もないからね。


「あとエミリー、今からあちしの住んでた街着くまで寝てていいにゃ。随分寝かせてもらったから、あちしも働かなきゃご飯食べれないのにゃ!!」

その元気に、エミリーは微笑みを見せた。

「じゃあ、そのお言葉に甘えさせてもらおーかな? 何かあったらすぐ起こしてねー!!」

馬から荷台に移動して、すぐに横になる。

荷台の中は人が数人寝れるくらいの空間があるから、狭くて寝れないなんてことはないと思う。

もちろん狭いものは狭いけど……そこは妥協だ。


目を瞑ると、すぐに眠る事が出来た。


エミリーは深い眠りの中、夢を見た。

暗い闇の中に、自分一人ぽつんと立ち尽くしている夢だ。その夢では自分は姿形が存在していなくて、周りに誰もいない。

一つだけある情報とすれば音だ。


何かの声か、それとも風の音なのか。

それすら判断出来ないほどにノイズがかかっている、それはある種の悪夢とも言えた。

時間は進む、だけど物凄くゆっくりで体感時間と実際時間が噛み合っていないようだった。


そんなエミリーを起こしたのは、揺れだ。

荷台に頭を思い切りぶつけて、その痛みで目が覚めた。


「いった〜ピルクくんは大丈夫?」

隣に目を向けると、ぐっすりと父の腕の中で眠るピルクがいた。

うちも、お父さんの腕の中が大好きだったな。

そんな様子を見て、温かな気持ちになっていた。


「エミリー!!! 街が見えてきたにゃ」

エルの呼びかけで荷台の外を見ると、辺りはもう暗くなっていた。

暗い中、うっすらと遠目に街が見えた。


「そろそろだよねー、拠点早く確保しなきゃ!」

「そうだにゃ、あたしたちも早くゆっくり寝たいにゃ」


エミリーたちを乗せた馬車は、夜の道を駆け抜けていた。





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