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私は、かならず



それから私は、神術の訓練を始めた。

そう言っても、以前とやる事は変わりない。

身体を鍛え、まずは基礎体力を上げる。


以前と違うことがあるとすれば、神力という存在を意識したことだろう。

前までは、神力そのものを知らなかった。

だが今は違う。


今のところ、父の動きに変化は見られない。

だがほぼ確実に、奴の目的は私のこの神力(ちから)、早めに神術を習得しなければな……



「タリス様? 最近ずーーっと顔が険しいですよ。紅茶でも飲んで、ちょっとは休んでください!!」

「エルフォンス……ありがとう。―――そういえばなんだが、神人と呼ばれる種族についての文献等はもうないか? 以前買いに行った時に見かけたりはしなかったか?」

「言われたので探してみたんですけど、それが全然無くて。タリス様が前読んでた本すら無かったんですよ!」

「そうか……それは残念だ。有難うな、ありがたくいただくよ」


淹れたての温かな紅茶を持って、ゆっくりと口に運ぶ。芳醇な葉の香りが広がり、美味だ。


少し、頭を整理できた。


ここ、【バラモーフの街】は世界の東に位置するカラスネス大陸の北に属する街だ。

カラスネスどころか、世界レベルで見てもここまで書物が揃っている街はないそう。

バラモーフの起源が、愛読家が集まるところとして使われていた事に関係がある、とは言え私は外に出たことはないから、街の実際の大きさはもちろん外観もわからない。


資料などには写生画はありはするが、平面的なものばかりで全容が分かるわけではない。


この街に無いという事は、他の大陸にもある可能性は低いか。

だがこの本は一体どこから……このような本が他にもあるとするなら、それはどこに―――




「また、考え事ですか?」

エルフォンスが、私を心配して優しい声でそう聞いた。まだ先ほどから時間も経っていないのに、心配性だな、まったく。


「なあ、エルフォンス。少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」

彼女は目をぱちぱちとさせて、驚いていた。


「ま、まぁ私でよければ……ぜひ」

「ここ、バラモーフには大量の本がある。だが私の求めている本は一向に見つからない。となれば一体、どこに()()()があると思う?」


黙り込んで、顎に指を添えて考えた。

頬に当たる指は、柔く包みこまれていた。


「うーん、私も全力を尽くしているんですけど神人といわれる存在についての本は一切見つからなかった……うーん、個人的予想にしか過ぎませんけど、こう言った古代文献の類は表には出回らないのかもしれません。それが有名な神書などであれば話は別ですが、言ってしまえば有名ではない、人気がないということです」


そもそもの話、一般的に購入しようとしていた事自体が間違っていたのか……それも充分にあり得る事だ。


「なら、このような本があるのか。ここからは本当に予想ですが、国の管理下にある、もしくは遺跡や祠などの手の触れようのない場所にあるのではないか……と思いました」


それは容易に想像出来ることだった。

このような重大な秘密が隠されている本を、安々と手渡すわけがない。

可能性の一つとして、考えていた事ではあった。


だが、それが分かったところでどうする?

私にはここを脱出する術もないのに、国単位を相手にして、本を盗り逃げ切るなどほとんど不可能に近い。


私一人なら……だが。

協力者が欲しい。


「なるほど……だが私は外に出ることが出来ない。それは分かるな?」

こくりと頷いて、驚いた猫のように丸い瞳孔がこちらを見つめる。


「私にとって、最も信頼を置ける人間が君だ。この数年、私は自分以外の人間と触れ合ってきていない。触れ合うとすれば、食事の際とここで君と話すときくらいだ」

「はい、それは存じています」


「君が迷惑でなければ、私に……協力してはくれないか? これまで隠していたことも、全て言う。完璧に、信頼を置いているのは君しか居ない、だからお願いだ」


深々と、腰を曲げて頭を下げた。

タリスが、今までしたことのないことだ。


エルフォンスは、少しの間黙り込んだ。

何故ここまでして、彼女が願うのか。

神人という存在に、どれだけ惹かれているのか。


彼女はそのまま、頷いた。


「私にとっても、ここ数年は貴女と話すのが楽しみだでした。だから協力したい、けれど私にも立場というものがあります。あくまでも私は雇われているだけです、この事が“上”に伝わればかなりの処罰が下ります。それこそ、7年前の彼女(エイマ)のように」

「エイマは……恐らく私の事を処分しようとしている父に対して抗議した。その結果、エイマは父に反抗した罰として撃ち殺された、というわけだろう」


共に、7年前の悲劇を目撃した者同士だ。

エルフォンスはあの事件が起きた当時11歳であった。

まだ彼女は幼く、先輩メイドであるエイマからの指導を受ける立場にあった。


例えるなら、姉のような存在だったのかもしれない。

エルフォンスは、若くして両親をなくしてメイド見習いとして屋敷に雇われた。

家族の温かみも、あまり知ることのないまま育った彼女にとっては、エイマが唯一のより所であり家族だった。


そんな大切な人を、失った痛み。


それは、タリスと同じ、癒えない心の傷である。


「私も、エイマさんにはすごくお世話になった、エイマさんにはメイドとしての流儀を叩き込まれてきた。だからこれまでは、メイドとしての立場を全うして来たけど……タリス様が私を頼ってくれるというのなら、私は立ち向かいたい、それがたとえどんな結末でも」


口元が緩んで、笑みがこぼれる。

喜びなのか、なんなのか。私には分からなかった。

自然と溢れた、笑みだった。


「ありがとう、エルフォンス。君には、助けられてばかりだな。これまで私が普通に暮らせたのも、君のお陰だよ。もしエルフォンスがいなかったら、私はもっと早くに父と戦っていたと思う、そして死んでいた。ある意味、命の恩人とも言えるかもれない―――あともう一つ」


人差し指をピンと立てて、目の前にいるエルフォンスをじっと見つめた。

急に見つめられたエルフォンスは、動揺しながらもしっかりと目線を合わせていた。


「―――はい?」

「―――私のことは、タリスと呼んでくれ」


その瞬間、エルフォンスの顔が照らされたように明るくなった。

暗闇に、マッチで明かりを付けたように、顔が明るくなったのだ。

その言葉が意味するのは、対等な存在である、本当の友人として認められたということ。


その感動が、エルフォンスにとっては初めてのことだった。


そして2人共、共通の敵である(雇主)に対しての怒りを放っていた。




◯◯1日後◯◯


協力者である、エルフォンス。

彼女が味方についた事は非常に大きな進歩だ、だがそれ以上に、精神的な安心感が訪れた。

一人で抱えてきた怒りを、分かち合う事ができた。


私は、ずっとこうしたかったのかもしれない。

初めての感覚に、タリスは酔いしれていた。


最近、父は外出する事が多い。どこへ行っているのかは分からないが、大体夕食後に出ていき丑三つ時に帰ってきている。

ここ数年はなかったことが起きている、やはり私が神術の存在に気づいたことは、向こうにも気づかれているのか……?


自前の果物ナイフを研いで、いざという時のために備える。

ナイフに反射する自分の顔は、ひどく怒っているようだった。


「……私、かならず貴女の敵を討つから。エイマ、見守っていて」


自室の戸を開き、いつも通り図書室に向かう。

長い廊下を歩くのも、もう慣れた。




「タリス! お茶とお菓子を用意してあるから、座って座って! 」

エルフォンスは前に比べて、格段に明るくなった。

私との関係が主従関係から、友人に変わったからだろうか。私としても、とても嬉しい。


「エルフォンス、おはよう。今日もこの部屋は空気が淀んでいない。ここに来ると、怒りも何もかも、忘れることができそうだよ」

そう言われると、彼女ははにかんだ笑いをした。

白く、雪のような肌は今にも崩れてしまいそうなほどに美しい。

こんな純粋無垢で、優しい人に、あれ程の怒りを与えるというのはどれだけ難しいことだろうか。

彼女にとって、エイマの死はとてつもなく大きな事だったのだろう。


「ありがと! そういう事言われると照れるなぁ―――けどダメダメ。私達の目的はあいつをこらしめる事でしょ! 今の時間帯はあの人は居ない、予定は大抵把握しているからね、だから話すなら今だよ」


ひとまずの目標を、父の殺害にすることにした。

確かに文献は欲しいが、それが本当に国の管理下にあるのかすら分からない。

なら、私達の一番の宿敵、つまりは父を殺す事が最重要目標だ。



「そう……だな。もう一度聞くが、本当に良いのか? つまり作戦が成功すれば……私達は犯罪者だ。君の人生まで、私に奪う権利はない」


エルフォンスは大きく息を吸い込むと、覚悟の決まった顔でこう言った。


「私にも、あの人には恨みがある。ほとんど、これは私の私情でやるみたいなもの! だから、大丈夫だよ。一緒に、頑張ろう? 」

それを聞いて、胸の奥が温かくなる感覚があった。

「了解だ、では作戦会議に移ろう……!」





開いたのは、一つの絵のようなものだ。

これは作戦においての、地図のようなもの。

それというのも、街の明確な地図というものはない。

ので、代用品として画家である『カール・ブラヘンリッチ』が描いた街の風景画である。


発行されたのは2年前の事だから、おおよそは現在の街と変わらないはずだ。

幸いなことに、カールは天賦の才を持ってこの街を描いた。それは100枚にも渡る長い画集で、この街を説明するにはもってこいの物である。


「確かにカールは凄く絵が上手で、分かりやすいけど……地図に比べたら全体図は分かりにくいよ。これじゃ、脱出経路を確保するのは難しすぎる」

「そうだな。私も同意見だ、だが一つ策がある。聞いてくれるか?」

「もちろんだよ!」


つまり、必要なのは「地図」だ。

なら、我々で地図を作ればいいだけの話。

時間はまだある、じっくりと、来る日に向けての準備をしなければならない。


「今から我々は『地図』を作る。これから数ヶ月は、それに時間を当てるぞ」


エルフォンスは何も言わず、こくりと頷いて紙を取った。

そして、画集を参考にし、エルフォンスは実際に現地へ行って、それからの数ヶ月は地図を書いた。

大雑把ではあるが、だがそれでも精密に、確実に道を切り開く為に―――



△ 数ヶ月後 冬 △







「―――ついに完成か。エルフォンス、お疲れさま」

両者疲弊していた、それもそのはず。この街全体をたった3枚の紙にまとめたのだから。


「タリス……でも私達はこれからが本番だよ。頑張ろう!」

「あぁ、そうだな。最近は父の外出頻度が減ってきている。つまりは、猶予は迫ってきているという事だと考えてよいだろう」


温もりのある、暖かいこの部屋で、我々は今から人殺しの計画を立てる。

これがもし成功しても、しなくても。

犯罪者の第一歩であることには変わりない。


静かな図書室には、誰も来ない。

我が家で本に興味関心を抱く人物など、私とエルフォンス以外にいないからだ。


―――まあ稀に、来客の際にここに来る人間もいるが、そんなのは本当に稀だ。

ここなら安心して、作業を続けられる。



「私も……今から計画を練ろうとするほど馬鹿じゃない。地図を作成する際、おおまかな図は頭の中に出来ていた。だが、出来た作戦も大雑把で緻密に作られたものじゃない。大筋だけ、今から説明する―――」




まずは屋敷からの脱出方法だ。

今回の任務は2つ

父、カレブルス・アレリンドットの殺害

街からの脱出

この2つだ、最も重要なのは父の殺害だ。

これが失敗すれば、どれだけ緻密に作戦を練っても意味がない。

「―――だから、まずは父を殺す。その為に時間を使う、私達の目的はそれだ」


今しているのは、見つかれば即終わりの暗殺作戦。

その行為が、鼓動をさらに、早く動かす。


作戦決行日は、既に決めている。

1月12日 その日に我々は人殺しをする。


―――


「まず、どうやって奴を殺すか……だが、それは―――魔法だ」

「え、魔法? 一体、誰が」

「君だ、エルフォンス」

タリスが、エルフォンスに向けて指をさした。

向けられた指をじっと見ながら、驚いた顔をしていた。

「生憎の事だが、私は神力保有者である可能性が高い。神力保有者は、魔力が無い。もしくは観測できないほどに微力だ。現状私が持つ対抗手段は、これだけだ」

鋭い果物ナイフを、握りしめた。


「一般の成人男性を完璧に殺すには、初級魔法でも厳しい。人には必ず、魔抗力と呼ばれる魔法攻撃に対する耐性能力が備わっている、エルフォンスのように洗練されていない魔法攻撃では、おそらくは拳銃による反撃を繰り出されて終わり。―――だから私が居る」

その時、エルフォンスの顔色が途端に暗くなった。

タリスを見る目も、変わった。


「タリス……あなたもしかして―――」

「あぁ、私が囮になる」


机が揺れて、紅茶も揺れる。

それは、エルフォンスが机に向けて放った抗議によるものであった。

「そんなのだめ、私達は“2人”であいつを倒して、ここを脱出するんでしょ? なら尚更、そんなのはだめだよ!」

「だが、仕方ないんだ。魔法を放つのにすら時間はかかる、当たるかどうかも分からない。なら聞くが、確実に魔法を当てられて、殺すことができる策がなにかあるのか? それに、死ぬと決まったわけじゃない。果物ナイフでは、仕留めきる事は難しいだろう。しかし私は、この数年ずっと肉体強化を図ってきた。努力は、確実に肉体に刻まれている」

胸を、ぎゅっと掴んだ。

その身体は、一切震えていなかった。

その覚悟が伝わったのか、エルフォンスもタリスを信じた。

「分かった……ほんとに大丈夫なんだよね?」

「任せてくれ、神術はまだ発現していないが、身体技術なら並以上にはある……と思いたい」


というのも、対人訓練はするがそれはあくまでも訓練。外に出た時に、全く自分の力が通用しないことだってあり得るんだ。

いや、心配しすぎても厄介だ。

ここは落ち着いて、冷静になろう。


「エルフォンスは氷系の魔法を会得するんだ。炎は室内ではあまり使用するべき系統ではないし、他のものも火力はある。だが最も利点が大きいのは氷だ。致命傷にならなくとも、相手の動きを留めることができる。形状も自在に変化させることができるからな、それが出来るかはエルフォンス次第だが、できそうか?」


彼女は数十秒程度悩んで、吃った後にため息をついた。

木彫りの机をぐるぐるとなぞって、俯いている。


悩むのも仕方ない。初めて魔法を会得して、しかもそれが作戦の要になる重要な役割だ。

失敗すれば“死”。確実に成功させなければならない。


一口、紅茶を飲んで、クッキーを口に放り込む。

ザクザクとした音が鳴り終わった後、エルフォンスは顔を上げた。


つばを飲んで、眉間にしわを寄せていた―――


「んでぇ、氷魔法ってのはどーやって覚えたらいいのか教えてくれる?」

「勿論だ。私がどれだけ、魔法を会得しようとしたか―――知識だけなら、豊富にある」



図書室の少し広々としたタイルの上で、2人は立っていた。タリスは普段通り、薄手のぶかぶかとした長袖と青いパンツを履いていた。

タリスの楽な格好と比べて、エルフォンスは正装だ。

がっちりとした、いわゆるメイド服というやつ。

似合ってはいるが、この格好だと動きづらそうだ。


「まずは基礎から固めていこう……と言っても、氷魔法は初級魔法に分類されるから、あまり難しいものじゃない。中級以上になると、それ相応の時間は必要だが慣れれば簡単だ、氷魔法は水魔法の応用。つまり基礎魔法であるウォタスを会得すれば、後は簡単だろう」


とは言え、私には魔法の感覚がどのようなものなのか分からない。基礎魔法は詠唱するだけでも発生させることが出来ると本には書いてあったが、実際に本当なのかは不確かだ。

本当ではあるんだろうが、エルフォンスが“例外”の可能性だってある。


そうしていると、エルフォンスが手を前に突き出して、集中していた。

一息ついてから、力を込めた。


「【水素(ウォタス)】!」


空気中から渦巻くように水が集まり、透き通った綺麗な水が手のひらに現れた。

目をキラキラさせて、エルフォンスはそれを見た。


「わぁ……! タリス見てみて! 私できたよ! これが魔法!? すごすごすごー!!! 綺麗、どうしよう飲めるのかなこれ」

「確か魔法で精製された水は飲料水としても使えるようだ。飲めるはずだぞ」


ずいぶんと興奮した様子のエルフォンスは手を椀代わりにして、丸い水を啜りのんだ。


「―――ぬるいけど美味しい。綺麗な水の味がする!!」


これでまず第一段階はクリアか……

次は初級魔法の覚え方だ。魔法が出る感覚が分かれば、きっと初級だってすぐに覚えられる。


「じゃあすぐ次に行くぞ! 時間はあまり無い。【水球(アクアボール)】を会得した後、魔力の性質を変換させて氷エネルギーに変えて同じ要領で放つ。そうすればすぐに初級氷魔法である【氷晶石(クリオライト)】を会得する事ができるはずだ。言葉で言うと難しそうに感じるかもしれんが、感覚さえ掴めれば恐らくは大丈夫なはず……試しにやってみてくれ」


エルフォンスは興奮を抑えて、落ち着いた顔で息を呑んだ。ぐっと力を入れ、先ほどの要領で水を出す。


「これを発射させるんだよね……」


静けさと、妙な涼しさが背筋を包み込んだ。


「ふー……」

「エルフォンス、君ならきっと出来る。身体から、(それ)を切り離すんだ」


「はぁあ!! 【水球アクアボール】」



手のひらの周りに、一気に水の渦が発生して それをきっかけに水球が推進力を増す。

楕円形になった水球は、勢いを増して図書室の壁に衝突した―――



衝撃で、壁にひび割れが発生していた。


2人はそれを、驚いた顔で見た。

顔を見合わせて、30秒程度の沈黙が流れた。


「今の……私がやったんだよね」

「あ、あぁ……きっとそうだ」


いくら攻撃魔法といえど、初級の実用性も少ない魔法だから、そこまでの威力は無いだろうと思っていた。

けど、まさか……壁にヒビが入るほどとは想定外だ。


だが、行ける……!

初級の【水球アクアボール】でこの威力なら、初級の中でも威力の高い【氷晶石】ならば確実に―――


その時

扉が、そっと開く。


長年の劣化か、開ける時に図書室中に音が響き渡るのだ。そんな音、聞き流すはずがなかった。


「……!!」


2人は危険を察知して、その辺の布で破壊跡を隠して自分も隠れる

心臓の音が、身体中を巡るのが分かる。


2人とも、冷たい汗がぽつんと垂れていた。


ドアが完全に開き切る音がして、2人はそちらに目を向ける。瞳孔が揺れる、恐れるな。

動揺するな。父はまだ、帰ってこない―――


まだ、姿は見えない。

本棚で、隠れている。


男だ、男が息を吸った。

ため息混じりに息を吐いた後、言った。


「昨日は、よく眠れたか? タリス、エルフォンス。今朝の食事は、豪華にしておいたんだ」


その声に、聞き覚えがあった。

何年も、ずっと聞き続けてきた。

カレブルス・アレリンドット……


私の、父の声だ





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