「生きたい」
エリグハス王国、俺が建国した国の名だ。
これ見て、俺は一安心した。
努力は、失われていなかった。
あれから、聖暦が1500年も進んでいる。
死からもう1500年、鬼族の皆は生きているのだろうか。
いや、死んでいるか。
もう一度母やアルへに会いたい気持ちはあったが、仕方ない。
だがもし生きているものが居た時のために、俺は以前呼ばれていた名でこれから過ごすことにした。
【フォルネ】 と。
―――2年後
「そこの方! もうお時間ですので、退室願います!」
眼鏡をかけた、スーツ姿の男がそう言う。
時刻は、丑三つ時。大図書館に1人のゴブリンが座っていた。
「はい、今出ます」
俺はあれから、狩人を引退して勉強に集中することにした。1500年の空白期間、アルへが国を引き継いでくれたみたいで良かった。
だがまさか、俺の隠し子の存在がバレるとは思わなかったな。
興味深い文献一つを借りて、雪道を歩く。
足場が悪く進みづらい。
空は、綺麗だった。
この2年、空白期間のエリグハス王国を知るという目的で大図書館に通った。
そして、勉強というのにも手を出してみた。
かなり楽しいものだ、知識がついていく事は。
俺は2度目のこの命を、かなり満喫出来ていると思う。
前回みたいな、暴君じゃない。
顔の模様と、胞はまだ残っているようだが……
魂自体に、もう刻まれているんだな。
星空は、美しい。
空を見ながら、俺は倒れた。
そして、死んだ。
―――
そして、それから俺は何度も生まれ変わった。
胞と顔の模様、それを引き継いで何度もだ。
だが、俺は学ぶ中で気づいていった。
胞がある限り、20年以上生きることはできないと。
悔しかった。
もっと、長く生きたかった。
そして、この「生まれ変わり」の原因。
それは104回目の生まれ変わりで発覚した。
俺があの日、アルへから譲り受けたあの宝石。
あの毒々しい色の宝石が、この生まれ変わりを引き起こした。
あの宝石の名前は【勇石】。
生まれ変わりの力を授かるに値する人間が目の前に現れた時、その宝石は光る。
俺の時、それは光ってないように見えた。
実際は、俺がすぐに懐に入れてしまったせいで光に気づかなかっただけだ。
【フォルネ】の名はどの時代にも存在し続けた。
あの時代に生きた者達に、それを伝えるために。
勇石……か。あの石が発生したのは、宇宙の始まりと同じ時である、と言われている。
幾度も旅をする中で、古代遺跡の石碑によって分かったことだ。
あの石には力の解放を促す能力があり、それのお陰で俺は良い戦績を残し続けることができた、というわけだ。
さて、ここからが本題だ。
幾度も生まれ変わる中、俺はこの魂の空間でも思考を保つことが可能になった。
魂が肉体に入ることが出来るのは、肉体が適している時だけだ。そうでなければ、そもそも魂が肉体に入り込む事ができない。
以前までだと、適した器が見つかるまでに短くても100年だった。
だがそれも、時が立つにつれ短くなる。
1年、早かった時だと1日という時もあった。
ここ数百年で、器の出現率は格段に上がっている。
何か、不吉なことが起こる前兆か?
ぽつんと、光が灯る。
そして、俺の魂は再び肉体を得た。
―――
「…………」
赤ん坊……それも人間の。
これまでの肉体は、生まれたばかりのものじゃなく、少し成長した身体だった。
これには、何か意味があるのか。
いや、大した意味もないだろうな。
まあいい、今世でもどうせ20までしか生きられない身だ。
学んで、強くなって、目的なんて明確なものはない。
あるとするなら、一度くらい、最期まで生きてみたい、ということだけだ。
―――8年後
魔王 ネルフォル。
以前から名は聞いていた、だが俺が魂となっている十数年の間に活動を開始したとは……
今や、あいつの力は俺でも止めることが出来ない程に肥大してしまった。
このままでは、世界は終る。
世界が終われば、俺は生きる事ができない。
俺は、生きたい。
―――5年後
ある日、閑散としていた村がやけに賑わっていた。
山へ狩りに行った後で、状況があまり把握出来なかった。
村に戻ると、村人が1人の青年に群がっていた。
人混みで、姿はよく見えない。
見えるのは、腰に一本の剣を携えている、ということだけだ。
村人がざわざわとしている、が。
俺にはどうだっていい、今はどうにかしてネルフォルを止める方法を探らなければいけないだけだ。
早くしなければ、後数年で奴は…………
「お前か! ここらへんで一番強いっていう奴!」
―――誰か探し人でもいたのか、まあそうじゃなきゃこんな田舎村に来ないだろうな。
そう思い、小屋へ戻ろうとした時
肩にぽん、と手を置かれた。
後ろを振り向くと、そこには青年がいた。
腰に剣を携えた、1人の青年。
「あ、自己紹介まだか……俺はアレフ! 魔王ぶっ倒しに旅してる!!」
「は……?」
「言わなきゃわかんねぇよな。ごめんごめん! つまり俺はお前と一緒に旅したいんだ! 強い仲間が欲しくてな、噂でこの村にすげぇ強い奴が居るって聞いて来てみた。どうだ! 魔王倒したら飯奢るぞ!」
こいつは、アホなのか。
ネルフォルを倒す、こんなガキが……?
何万もの時を超えた俺が勝てないんだから、コイツに勝てるわけないだろ。
「戯言はよせ、魔王は強い。お前みたいな子供じゃ、手も足も出ないだろうさ」
「子供って……俺もう15だ! 同い年くらいだろ?」
「ま、肉体上はそうだ。だが経験の差が違うんだよ。魔王は俺1人で倒す、帰れ」
「帰らない! 俺お前仲間にしたいからさ!」
アレフという名の青年は、それでも折れることは無かった。
追い出しても、毎日毎日交渉しに来た。
「いつまで……来るつもりだ。もう10日だ、本当に魔王をたおしたいってんなら、訓練でもなんでもしろよ」
「まあごもっともだけど……俺はお前とじゃなきゃ嫌なんだ。お前と、一緒に行きたいんだ!!」
何が、コイツをここまで動かしているのか。
俺という存在に、どれだけの思い入れがあるのか。
俺との関わりなんて、全くないのに。それなのに、何故ゆえにこだわる。
「お前は、何故俺にこだわる。俺以上のやつなんて、いくらでもいる。友好的なやつもな」
アレフは目をぱちぱちとさせ、眉をひそめた。
「なんでって……そりゃ俺がお前を仲間にしたいって思ったからだよ」
「そんな、単純な理由でここまでできる訳が無いだろ。どこからか、俺の秘密でも仕入れてきたか?」
「……? いや、よくわかんないけど理由とかはあんまりない。ただ、一目見た時にお前と一緒に旅したいって思ったんだよ」
「…………」
こいつの目には、嘘偽りはない。
本当にコイツは、俺を仲間にしたいと思ったから執拗に勧誘し続けているのだ。
まあ、もういいだろ。
どっちにしろ、一人じゃ無理だ。
協力者が必要だとは前々から考えていたが、妥協してコイツにしてやろう。
「俺とお前は仲間じゃない、協力者だ。実力、見せてもらうぞ」
「……いいってことだよな? よっしゃぁあ!! なら早く行こうぜ! 美味い飯屋あんだよ! いくぞいくぞ!!」
「はぁ、これだからガキは」
そして、俺は旅に出た。
―――
「―――てなわけだ。長かったが、しっかり聞いてたか?」
「あぁ、聞いてたよ。バッチリな」
「そいつは……よかった」
鬼神は、気まずそうな顔をした。
それが何故なのか、理由は何となく分かる。
「じゃ、俺はあと6年くらいしか生きられないんだな」
話の通りだと、こうゆうことだ。
鬼神の身体=俺の身体
つまり、俺の身体にも『胞』がある。
だとしたら、俺が鬼神の技を使える事にも納得がいく、点と点が繋がって、一つの線になった。
肉体が記憶している、というだけで同様の技術を用いる事はかなり難しい。
技というのは、魔力の量、練り方、放出方法等、様々な技術を使って行うことができる。
それを短縮化したのが『詠唱』だ。
本来であれば
体内魔力を感じ取る→魔力を集中→魔力を変化させ、特有の属性にする→それを体外に放出→威力をあげるために放出用の火薬を練る→放出
という工程が……
まて。
俺は、こんな事どこで学んだ。
自然な事のように発言していたけど、俺が生まれるよりずっと前から『技』は『詠唱』をして発動していた。
なら、これは―――
「俺の記憶だ。俺の生きていた時代の中には、魔法の詠唱がないものもあった。俺とお前の身体は、時間が立つにつれて一体化していっている、属性変化を使えるようになったのも、胞のお陰だけでなく、その影響だ」
「一体化、つまり俺とお前の精神が一つになっちまうってことか?」
「そうだ。その場合、俺が主人格となる。前にこういう例は無かった、おそらくだがお前の勇者の力が関与して2つの人格が統合されずに済んだのだろう」
なら俺は、もう少しで自分の精神が消えちまって、あと6年で死んじまうのか。
残念だ、爺ちゃんになるまでいきてみたかった。
「フォルネ、色々とすまない。……俺が鬼族の頃、争いを起こして人間を殺し尽くしていなければ……俺が、お前の身体に入らなかったら……」
「もういいよ。今更悔いたって、過去が消えるわけじゃない。大事なのはこれからだ、これからどうするか、それが大切だろ? 一緒に考えようぜ」
「…………あぁ 」
だが、俺が話そうとすると口が動かなかった。
口が固く、接着されているように固まって動かなかったのだ。
言葉も発せなかった。
なんでだろう、目もゆっくり閉じていく。
その最中、見えたのは暗い顔をした鬼神だけであった―――
◯ ◯ ◯
「―――っ!!」
ここは……元の世界か。
目の前を見ると、血だらけで伏せているザーノがいた。何故このような状況になっているのか、少し考えれば分かった。
鬼神だ、俺が戦意喪失している間に身体を使って戦ったんだ。
「…………くそ、がガキが―――舐めんな、よ」
俺は、そんなザーノを見てしゃがみ込んだ。
目線はザーノより少し高いくらいになり、俺はそれを見ていた。
「ザーノ、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ」
掠れた声で、ザーノが返答する。
「……それ、は、君が『勇者』だから……だろ? 囚われ、すぎだね」
「いや、違う。というか心読めば分かるのに、なんで読まないんだよ」
「読めない……、だ死にぞこないに、いつまで話させる……つもりだ」
エルフは、生命力が高いと聞く。
背を思い切り斬られ、甚大な傷を負ってもまだ話す余裕がある。
これが、魔神軍のエルフ ザーノの力だったのか。
「あのな、ザーノ。それは、俺が勇者だからじゃない」
息を吸って、答える。
「それは俺が―――
生きたいからだ」




