震
―――壁に拳を叩きつけ、チョコレートのようにバラバラになる。
瓦礫が魔物に衝突し、小型魔物は倒れる。
「おっしゃァア! 暴れまくんぞ。フォルネ!」
「いくぞ。ガッケル!!!」
窓から飛び出し、ガッケルは拳を、フォルネは剣に魔力を込めた。
「おい。ハサドと……」
「ツッツでっす!」
「……ツッツ、お前らは別方向から敵が来ていないかの確認と、すぐに撤退できる準備をしておいてくれ」
「了解っす! さ、ツッツ。行くぞ!」
「はい兄貴ぃ!」
後は私とガストル。私の【終いの鎮魂歌】では多対個は難しい。
となれば、武器の使用が必要不可欠。
現在私が保有しているのはフォルネから預かった短剣数本とエミリーから護身用に渡された簡易魔法銃だけ。
魔力は一応あるが、なるべく使用は控えたい。
何しろ、回復に時間がかかる。
今では初級魔術を一つが限界だろう。
となれば、短剣と簡易魔法銃での戦闘か。
簡易魔法銃は、あらかじめセットしておいた魔法を任意タイミングで3度放出できる拳銃型の魔道具だ。
拳銃は、私のような魔力を持たない、もしくは少ないものが本来使用するはずだがそんな人間が少ないせいか流通量も少ない。
威力もさほど高くなく、何発か撃てば銃身が脆くなる。
全くもって必要性は感じないが、その形に関しては褒めれるべきところが多い。
まずは……。
「おい、お前そんな呑気に考え事してる場合か? さっさと出ねぇと、城崩れちまうんだが」
「貴様は、いつ私に命令できる立場になったのだ?」
仕方ない。
タリスは短剣を2本、両手に握りしめて飛び降りた―――
「【属性変化 風火】」
風の刃に乗る炎が、魔物の腹を切り裂いて進む。
それにより怯んだ列に割り込むのは、迷惑客だ。
屈み、アッパーを体格の良い魔物に叩きつける。
ガッケルの身体が、アッパーの影響で上がる。
隙を見せる間もなく、回転蹴りをしながら着地をした。
「どーよ! 俺のアクロバティックな動きは!」
「くっ……。やっぱ数が多いな。剣の刃こぼれが心配になる」
「ッて、フォルネお前見てたか!!?」
「戦いの途中に戦い以外に集中してる暇ないから見てない」
ガッケルはそう言われると気分が落ち込んだのか、 筋肉が萎んだ。
ジジイかよ……。
まあ、ほっとけば治るか。
一体一体は、やっぱりそこまで強くもない。
元が人間だからなのか? 普段の魔物よりも弱く感じる。
それとも、危機的状況に陥って俺らが強くなった……とか。
恐らく前者だ。稀に強めのやつがいるのは、知性をもったまま魔物に変化したからだろう。
だからといって、話が通じるわけではない。
所詮は魔物。
元が人間だとしても、躊躇う必要はないんだ。
それに、俺はもう人を何人も殺した。
今更、躊躇ったって何の意味もない。
……よし。思いついた。打開策!
「ガッケル、飛ばすぞ!」
「おう! 来……今なんつっ――― 」
フォルネはガッケルの腹と足を持ち上げ、手と足に魔力を集中させ、こう叫んだ。
「ぶっ飛べェええ!!!」
フォルネは足を踏み切り、思い切りぶん投げた。(それと同時に叫び声も鳴っていた)
ガッケルの身体は摩擦で熱くなり、どんどん天空へ飛ぶ。
雲の上に到達したくらいで、やっと進みは止まる。
「フォルネの野郎。戻ったらゆるさねぇ……」
そういいながらも、ガッケルはフォルネの真意を汲み取ろうと頭をフル回転させていた。
「あいつはそんな無意味にぶん投げたりするわけねェ。俺の兄貴でもあるまいし……」
こうしている間にも、ガッケルの落下速度は上がる。
「……熱さか?」
俺の身体は、魔力で防御しているから燃えねぇが、体温は上昇してやがる。
なら、魔力での防御を解除すれば身体は燃える。
そんで、天空から炎を纏った数十キロの物体が落ちてこれば、下の奴らはひとたまりもないよなァ。
落ちる瞬間、足だけに魔力込めりゃ衝撃も緩和出来る。
やるしかねぇ……。信じてるぞ、フォルネ。
「あッつ!!!」
魔力防御を解除した瞬間、全身が炎に包まれた。
熱すぎるが、今までの痛みに比べりゃどうってことねぇ。
俺は戦士だ。
こんぐらい耐えられてこそ、一人前ってもんだ!!
「新……技ァ!! 【太陽発熱撃波】!!」
地面が見えてきた。
やっぱ敵多いな。
けど、こんくらいのほうが潰しがいあるってもんだ。
「待たせたな。俺のバンジージャンプに付き合えェエ!!!」
「な!!?」
フォルネはなんか驚いてた。
なんでかはしんねぇけど、ぶちかますぞ!
―
想定外だ……!
まさか魔力防御を解除するとは思わないだろ。
だってそんなことしたら身体焼けて死ぬぞ!!?
俺の予定では、空からガッケルの本気パンチを地面に向けて撃つ。
それだけだった。なのにあいつ……炎まで付属させやがった!
予想を超えてくる、流石だよガッケル。
すぐに回復魔法の準備しないと、あいつマジで死ぬぞ。
ガッケルは全身に炎を纏い、急速に落下する。
それは、太陽のように―――
「見てろォ! てめェら!!」
駆けつけたタリスが唖然として空を見つめる。
魔物ですら、それを見ていた。
知能の高いものは、仲間を掻き分けて必死に逃げようとするが群体に飲まれる。
着地の瞬間、衝撃が奔る。
真下の魔物の肉は熱で溶け、跡形も残らない。
それは仲間すら巻き込んで、タリスとフォルネの手足をえぐった。
爆風が、さらなる被害をもたらす。
灼熱に包まれた魔物は燃え尽きた。
―――
「……終わったな。無事か? タリス」
「あ、あぁ……双方無傷とは言い難いが仕方あるまい……にしてもガッケルのやつ、どんな無茶な手を使ったんだ」
2人は氷塊の中に包まれていた。
視界は全て水色に着色されている。
俺の責任だ、俺が説明しなかったから、こんな事態に……。
「まあ、気に病むな。ガッケルは馬鹿だから、フォルネと違って理解が出来ないんだ。周りへの被害なんてのを考えれない奴だ。まあ、これも奴の苦肉の策なんだろうがな」
衝突の瞬間、防御が間に合わず俺は左足首と左腕に削り取られたみたいな傷。タリスは両手首と右の太ももに俺と同様の傷。
「【癒やしの暴風】」
緑色の優しい光が、2人の身体を包み込む。
傷口は治り、再起可能な状態になった。
「そういえば、ガストルの野郎どこ行った?」
「知るか、あんな下衆の事。私は奴より先に出た、今頃城で茶を飲んでゆっくりしているんじゃないか?」
「この震動でそれは凄えな。じゃあガッケルのとこ行こうぜ。じゃないとほんとに死んじまう」
氷塊を溶かして焦げた大地に降りる。
焦げた匂いが、鼻を突き刺す。
魔物の焼けた匂い、豚とも鳥とも違う独特の臭さ。
そして、これは元々人。
これが、人の焼けた匂いなのか? いや、違う。これは魔物の匂い。
そう考えないと、おかしくなりそうだった。
タリスは焦げた死体を踏み潰しながら、進む。
この中にいるガッケルを、探す。
ガッケルは多分、焦げて大変なことになってる。
俺の回復魔法で間に合うか? 最悪の場合、もう死んでるなんてことも……。
タリスが、立ち尽くして周りを見る。
そうすると、口に手を当てた。
「おい!!!!! クソ間抜けアホバカガッケルーーッ!!!! 雑魚なのに調子乗るからそうなるんだァーー!!! さっさと出て来い!」
「は!?」
タリスの突然の罵倒にフォルネは困惑を隠しきれなかった。
タリスが手のひらを広げた。
「…………きた」
タリスの手のひらに、人形が生成される。
その姿は『ガッケル』、のはずだ。
というのも、ガッケルの顔ではある。
だが焦げた影響か、髪や肌が原形をとどめていない。
「ガッケルの『人形』? 一体何に使う気だよ?」
「これが出来たということは、まだガッケルは生きているという事。だから安心してくれ」
タリスは、俺の不安気な顔を見て察してたのか。
ガッケルが死ぬ事を考えていることを、見抜かれてたみたいだ。
タリスの前では、隠し事は通用しないな。
「これでは、どこにいるかは分からない。魔力探知でもできる者がいればよかったんだが……」
「俺はさっぱり。魔法に関しては使えはするけど理解はできてないんでな」
背後から、無精髭を生やした男が歩いてきていた。
ガストルである。
「貴様、生きていたのか」
「あ? そりゃそうだろ。爆発の寸前に結界張られてる部屋入ったし。てかあの爆発あの野郎がやったのかよ。ふざけんなよまじ」
「それに関しては同意、だが。彼も彼なりの考えのあってした事。許容してやれ、現に魔物共は駆逐されている」
2人共、随分と相性が悪いみたいだ。
……いや、これに関しては相性の問題じゃないな。
ガストルの行いが、タリスの態度を引き出している。
ガッケルとタリスも、相性が悪いと思ったが案外そうでもないのかもしれない、と最近思う。
「勇者、さっきから思うがなんで赤髪を助けてやんねぇんだよ。そこに埋もれてんだろ」
ガストルが指を指した先は、俺の足元だった。
そこにガッケルがいるとでも言うのか。
疑いつつも、俺は足元の瓦礫を崩した。
そこにいたのは『人形』と同様の姿をしたガッケルであった。
呼吸は薄く、意識もあるのか無いのか分からない。
だが、タリスの能力が発動したということは声は聞こえているんだろう。
ということは、ガッケルはタリスに敵意を向けたという事だな。
「今、助けるからな。【癒やしの暴風】……!」
緑の光が、ガッケルの身体を包む。
折れた骨や負傷箇所が、治っていく。
だが、そこまでだった。
【癒やしの暴風】では、ここまでの回復しか出来なかった。
盲点だ。限界があることは分かっていたのに、これ以上を習得するのをサボっていた。
「まずい。死ぬ……」
「な! どうにかならないのか? ガストル、貴様は上級魔術を使えぬのか!」
「無理に決まってんだろ。最低限の護身としてしか魔法も剣も習ってねぇし。諦めろ」
この状況を打開できるのは【癒やしの台風】か【癒神帝】を使用する他ない。
癒やしの台風は、使ったことがない。
俺の身体で使用経験があるのは、【癒神帝】。
属性変化の時みたく、身体に残ってた感覚を思い出して使うんだ。
鬼神が、俺の身体で使ったんだ。なら、俺も出来る。
出来なきゃおかしいんだ……。
身体の、魔力の動きを思い出せ。
あの時、魔力は身体をどう動いた。
「頼む……出ろ。【癒神帝】……!」
その名を聞いた瞬間、ガストルの目つきが変わった。
「お前、その魔法……」
「いけ……頼む。死ぬな!」
――
目が、開けれない。
俺の体が動かない。
あー、これが死にかけって事か?
体中痛すぎて死にそうだ。
息も苦しい。
ここはどこだ。俺はどこに落ちた。
足に魔力は込めた。
なんでこんなダメージ喰らってる。
あ、間に合わなかったのか……。
バカだな。フォルネ。
俺がこうするって分かんだろ。まあ、いいか。
時期に、あいつらが助けてくれる。
それまでは、眠ってまってよう。
「―――! クソ間抜けアホバカガッケル―――」
このこえは、タリスか。
あのやろ、ふざけ……な 。
おれんこと、なんつった。
ぜって、ぶっ倒す。
ゆるさね、まじぎれだ。
あでも、もうねむい。
眠くて、体動かない。
もうねよ。
おこせよ、二人共―――
その時、体が少し温かくなった。
痛みが少なくなって、意識が戻った。
でも、まだねむい。
いや、待て。死ぬ、本気で。
ここで寝たら、終わりだ。
なんか出来ねぇか。
俺にも。
何か聞こえる。
フォルネが助けてくれようとしている。
なら、応えなくちゃな。
体を起こせ、死ぬ気で。
生き返れ、俺の体。
そう決意して、体を起こした。
痛みはもう無くて、視界は明るかった。
みんなは、驚いた顔をした。
「……おはよ? どうしたお前ら。なんか変だぞォ?」
「良かった。ガッケル」




