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対話


「お疲れでしょう。本日は城で休まれてください。私達も、まさか巨神轟腕王が封印から目覚めるなど、予想打にしませんでしたから……」


「すいませんね。なんか迷惑かけてしまって」


鬼神は再び引っ込んだ。

俺はあの時、気絶した。


だけど、朧げな意識の中で、鬼神がこう言ってたのは覚えてる。


「そろそろか」


その言葉の後、俺は何も見えなくなって、起きたら馬車に居た。


アイツが今まで、なんで出てこなかったのか。

それは全然分からない。

アイツがいれば、直ぐに終わった場面もあっただろうに。

別に何か言うわけでは無いけど、少し引っかかる。


あの時、鬼神(お前)が居れば……。


ハサドが古い民家の前で立ち止まり、ドアを開けた。


「こちらの地下に転移魔法陣があります。荷物を置いて、お一人ずつ、転移魔法陣の上に立ってください。少し経てば城に着きますから」


「転移魔法陣?! こんな古ぼけた民家にか……。悪用のリスクもあるだろうに、何故こんなところに……」


()()()()()()()()()()()()()()。転移魔法陣を設置するんですよ。誰もこんな所に置いてあるとは知らないでしょう。それに、地下室への扉は専用の合言葉を唱えないと開きませんしね」


タリスの傷は完全に治り、後遺症も残らなかったようだ。

これも、鬼神の高度な魔法技術の賜物だな。

あいつには何度も助けられた。いつか恩を返せるなら、その時はしっかりと恩返しを果たそう。


「な、なァフォルネ」


ガッケルが俺を見て不安そうな顔をしている。

なぜだろうと思ったが、ガッケルはこの中で唯一鬼神状態の俺を見た。

身体への影響がないのか、心配してくれているんだろう。

というか、そうであったら嬉しいってだけなんだが。


「安心しろガッケル。俺は大丈夫だ!」


だが、ガッケルが考えていたことはフォルネが思っている事とは違かった。

ガッケルはある意味野生の感で、地下室に行ってはいけないと感じていた。


「では、皆さん入ってください……」


3人が民家に足を踏み入れた瞬間。

足場が割れ、奈落の底へと急降下した。




3人が落ちたことを確認すると、ハサドは重い鎧を脱ぎ捨て前髪をたくし上げた。


「普通に考えれば、城からここに来るまでに何日もかかるってのに……アイツらバカ過ぎだろ。転移魔法陣なんて見たことねーよ」


「本当っすよ。しかも騎士が自ら来るわけ無いっすからね。王の護衛で手一杯ですって」


「だ〜よな。勇者御一行と言っても、ガキだよな。()()()がダメダメだ」


頭をトントンと叩き、憎たらしい顔でそう言う。


2人もまた、エリグハス王国へ入国した旅人である。

彼らは運良く、暗黒龍による大規模な【魔物化】の被害に遭う事が無かったが、物資を手に入れることも出来ずに途方に暮れていた。


そんな時に会ったのがフォルネ達だ。

もちろん、新聞やらなんなりでフォルネの顔は知っていた。


巨神轟腕王が復活したのには驚いたが、そんな事はどうでもいい。


まずは物資の補給だ。



「あいつら、全然物資持ってないっすよ。まともなもんは、勇者が鞄に入れてた帽子くらいのもんっす」


「帽子だと? ……ほぉ、なかなか良い物じゃねぇか。こいつは高くつくぜ。素材も良いし、しかも性能も良い。金貨2枚はくだらんぜ」


「金貨2枚? そんなにすか。ならまあいっすね」


「だな。これなら上等だろ。さっさと国から出ようぜ。こんな状況じゃ、金稼ぐなんて出来やしねぇ」


鞄を取り、ハサドは自分達の馬車に乗った。


「そんじゃ、とりあえず門まで向かうぞ。あそこは年中稼働してっからな。国が壊滅してても、大丈夫だろ」




「そうだな。実際俺達はそこから入って来たわけだし」




「あぁ、そうだったっけ? あんま覚えてねえけど―――って、お前誰だぁ!?」


地面には横たわるハサドの仲間が居た。

その隣に居たのは、フォルネである。


「幾多の死線をくぐってきた俺が、こんな落とし穴程度で怯むと思ったか? 馬鹿かお前」


フォルネの手刀で、ハサドは沈む。

静かに横たわり、気絶した。


「ま、そんなことだろうとは思ってたよ。こいつらの言う通り、騎士は王の護衛で手一杯だろうし、兵士達は魔物化についての処理に追われてるだろーしな」


「んな事言って、ホントは気付かなかったんだろォ? フォルネェ〜」


「ばか! それ言うなよ」


だが、一番恥ずかしいがっていたのはタリスなのであった―――



「今日はここに泊まろう。もう夜も遅いし、魔物の活動も活発になる。急ぎすぎると、いい事無いって言うしな」


今日はこの民家に泊まることにした。

さっき落とし穴があったので、他にもあるかと思ったが無かった。

老朽化によるものを、奴らが発見して利用しただけだろう。


他はかなり頑丈に作られているのか、綺麗な状態で残っていた。


ここなら、一夜過ごすには最適だろう。


「あァー、久しぶりにベッドで寝たぜェ……。ずっと馬車か野宿だったからなァ」


「少し埃っぽいな。私達の部屋だけでも掃除しないか? 実は少し潔癖なんだ。あの二人組の部屋は埃だらけでもいいが、寝る時に埃っぽいとどうも―――」


「分かった。弱風を起こして外に埃を出そう」


よくよく考えれば、しっかりとした場所で寝るのは久しぶりだったな。

最後にこうやって寝たのは、いつのことだろうか。


ずっと戦いっぱなしだったからな。

硬い床で寝たりしていた。


ここも、魔物化によって使う人がいなくなってしまった場所だ。

埃っぽいと言えど、寝れないほどじゃない。


あ、そうか……

最後は、ガーヴァン王国で


寝た……のが、最後か―――




―――


―――――


―――――――



「おい。フォルネ」


その一声で、目が覚めた。

いや、実際には覚めていない。

なぜならここは、精神世界だからだ。


「鬼神……。お前、久しぶり」


「ああ、俺も昨日久しぶりに表へ出た。外の空気は中々良いもんだったぞ」


「てか、なんで今まで出てこなかったんだよ。俺、心配してたんだぜ? それに……お前がいれば、すぐ解決してたろ」


「……俺が今まで出てこなかったのには理由がある。それは、お前の成長のためだ」


「はあ?」


「考えてみろ。今まで、結局何とかなって、その度に成長している。なら、俺の助けは要らなくないか?」


「そりゃそうだけど……でも」


「俺が今回出てきたのは、もう“どうしようもない事態だった”からだ。これから何をしても、お前は負ける。だから助けた」


鬼神はそう言う。

だけど、リアムは負けた。

どうしようもなく、惨殺されたんだ。


「じゃあなんで……リアムの時は助けてくれなかった……。確かに、今までは何とかなってた。けど、“あの時”は違う! お前が居れば助かったんだ……。リアムだけじゃなく、ザリバーム帝国の人々だって、殺されることはなかった―――」


「少し酷なことを言うが、俺はお前が死ななければどうだっていいんだ。お前が死ねば、肉体に宿る魂もまた消える。その時、俺も消えてしまうんだ。だからリアムやザリバームの奴らが死んだところで、俺には何の障害もない」


「……あぁ、そうかよ。じゃあ結局お前は、自分の為に今まで戦ってきたんだな? さっきは俺の成長の為だとか言ってたが、所詮は保身のためだろ……!」


「ああ、そうだ。俺は自分の為に、今までお前を利用してきた。それだけの事だ」


「……もう良い。所詮お前は、悪魔なんだ。ふざけんなよ! 俺の仲間を返せ……お前はなんで、なんでそんなこと平気で言えるんだァ! 人がっ、死んでいるのにっ」


「また、どうしようもなくなったら出てきてやる。じゃあな―――」


そこで、俺の意識は途切れた―――



――――




「それでは向かうとしよう。我々は一刻も早く、船を手に入れなければ……」


昨夜、鬼神はああ言ってた。

もちろん。あいつが居なきゃ俺は死んでいた。


だから感謝はしてる。

だけど、あいつの言葉を受け止めたくはない。

確かに、あいつにとっちゃ俺の仲間が死んだってどうってことないのかもしれない。


だけど、それでも……。

俺は嫌なんだ。

旅をする以上、何かを失うことは確定している。


でも、失う数は、少なくできる。

最小限にしたい。

鬼神についても、謎が多い。

あいつがどこの誰で、なんで俺の体に居るのかも分からない。


「おいてめぇら。さっさと動かせェ!」


「は、はいぃ!」


ハサドは昨日の行いを償う為に、馬を動かしてもらうことにした。

ハサドは昨日のような邪悪な顔ではなく、縮こまって肩をすぼめている。


「フォルネ、さっきから顔が変だぞ? 調子でも悪いのか? そうなら、私が診てやろう。応急処置程度なら出来る」


タリスは俺の顔色を見て、少し異常があるのを察知したようだ。

彼女は勘が鋭い。

だが、今は大丈夫だ。


「そんな訳じゃないんだ。……少し嫌なことを思い出してな」


「あぁ、昔の仲間のことか。すまない。そっとしておくべきだったな…」


再び無言に戻る。

ガッケルはまた寝ている。

コイツはいつも寝てるか喧嘩してるかだな。


ま、それもいいとこなんだが……。


「フォルネ、私は一度眠る。お前も寝ておけ、ここからまた魔物(奴ら)と遭遇しないとも限らん。というかその方が確率は高い」


「そうだな。じゃあおれも、少し眠るよ」


目を閉じて、暗闇に吸い込まれる。

そしてどんどん、意識が薄れる―――





――――――!


―――――よ!


――たっすよ!


着いたっすよ!


その声で、俺は起きる。

何時間寝ていた。

首が痛い。変な体勢で寝ていたせいだろうか。


「ハサド。ホントについたのか?」


「厳密に言えばついてないですけど、ほぼ着いたみたいな感じです。この場所から城までの転移魔法陣がありますから」


ハサドが転移魔法師の話をしている……。

こいつ、俺達の事騙そうとした時もこうやってたよな。


「てめェ、次嘘だったら許さねェかんなぁ!?」


ガッケル、起きていたのか。

いつも寝ているが、目が覚めたりしてないんだろうか。

充分に寝た後にもう一度寝れるのって、案外才能だよな。

俺は無理だ。


「まあいいだろ。コイツらじゃ俺達を倒せんし」

「まァ、そーだな」


ガッケルの眼光がハサドに反射している。

その顔色は青ざめており、とても良いとは言えなかった。


「今回“こそ”本当っす。流石に俺らも命が大事ですからね。裏切るようなことしないですよ〜」


俺はこの時分かった。

コイツは絶対に“弱い者”を狙ってさっきみたいなことをするんだと。


こういうのは、しっかりと正しておかないとな。


「ハサド。お前弱い奴狙うのは絶対やめろよ。ダセーから」


「あ、はぃ」


ハサドは少し縮こまっていた。

コイツ、今まで何人のやつ騙してきたんだ……。


「この建物です」


それは立派な建物で、“古びた民家”では無かった。

看板には【エリグハス城直通転移専用場】と書いてある。


大きな木の扉に触れると、木目の切れ込みが心地よく、肌触りが良かった。

少し力を入れて押すと、建物の中に光が差し込んだ。


地面に引いてある赤いカーペット。

高級な物なのか分からないが、かなり良い。


靴越しだから、はっきりとは分からんが。


「屋内はこのようになっているのか。ただの転移魔法陣が置いてあるだけの場所かと思ったが、そうでもなさそうだな」


タリスが建物をじろじろと見回していると、奥から一人の女性が歩いてきた。

とても美麗な女性で、目を惹かれてしまう。


「転移魔法陣のご利用でしたら、国からの許可証。または冒険者カードの提示をお願いします」


許可証ってこれでいいのかな。

俺は旅立ちの日に貰ったあの石を出した。


「これで……大丈夫ですか?」


「そちらは勇石ですね。勇石の発光も確認出来ましたので、御一行で魔法陣へどうぞ」


この石。勇石と言ったか? これ、ホント便利だなぁ。

これさえあれば、どの国も入れるじゃないか。


頑丈そうな鉄の扉の奥には青白く光る転移魔法陣があった。


「あの上にのっていただくと、すぐに転移してお城付近にある【エリグハス城直通転移専用場行き転移場】につきますのでそこから真っ直ぐ歩けば城に到着できます」



や、ややこしい……。

名前が長すぎんだよっ!


「そんじゃ、フォルネさん達。またどこかで」


「ハサド。ちょーッと待てよ。案内しろよォ。な?」


「あ、はぃ」


転移魔法陣の上に立つ。

身体が青白い光に包まれて、心地よい暖かさだ。


皆の身体が靄になって消えていき、俺もどんどんと―――









この世界の通貨について

銅貨

日本円で100円程度

銀貨

日本円で5000円程度

金貨

日本円で50000円程度


ですから、緊急討伐任務の報酬として出された金貨30枚と言うのは大体150万くらいになるので、冒険者がこぞって参加するのも頷けますね


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