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片鱗

静止したはずのアリティムの身体は、再び再始動し始めた。

独立した身体は治癒魔法をかけ、頭部と断面を接合させた。


少し馴染んでいないのか、首をポキポキと鳴らせている。


「合格点だな。よくここまでやった」


アリティムは血液を垂らし続けるタリスに目をくばせ、不敵な笑みを浮かべていた。


「俺に血を流させた者は数十年ぶりだ。この情けない勇者より、よっぽど勇者らしい」


フォルネに対する視線は冷たく、道端で踏み潰された花を見るのと同じ見方だ。


既に、壊滅状態。


勇者は崩れ、戦士は静まり、神術使いは跪く。


巨神轟腕王。魔人アリティムは未だ傷1つ無く生存している


「巨神轟腕王。俺はお前を仲間に引き入れる為にやって来た」


「ア? オレは仲間、作らん」


想定通りとでも言うのか、アリティムは間髪入れずに巨神への交渉を続ける。


「言い方が悪かったな。仲間というより、協力関係に近い。巨神轟腕王、貴様が協力してくれれば、魔神軍のさらなる戦力上昇に役立つ。報酬としては、我々が所有する魔王の地全体を贈呈する」


「土地、ヨク分からん。ケド、家無いからありがたい。ズット、一緒な訳じゃない。ワカタ。協力する」


「契約完了だな……。期間は、人間の支配する国を全て“魔物主体の国”へと変化させるまでだ」


その時、意識を取り戻した男が居た――――


紅い髪に、包帯を巻いた腕。

その細身ながら引き締まった肉体を持つ男。



マジかッ。アリティムの野郎、デカブツを味方に付けやがった。


ガッケルが目覚めた。


フォルネが気絶する前、ガッケルに施した『癒やしの暴風』のお陰で速く目覚める事ができたのだ。


……やべえ、気絶しちまってた。

デカブツに光線みたいのぶっ放されて、やられたのか。


まだ、視界がぼやけてる。

フォルネ達はどうなった。まさかアイツにやられたなんて事、ねえよな。


まだ、戦ってるかもしんねェ……!

なら、速く目覚めねェと。


視界の粗が取れ、綺麗になった。

薄めた眼で、先を見る。


そこに居たのは、巨神と三つ目の男の姿であった。

その外見は、一度フォルネに聞いたことのある魔人アリティムの特徴と酷似していた。


青い鱗のような肌に、3つの目を持つ赤髪の巨大な男。


だが、それ以外。

明らかなものがあった。


それは圧倒的な力(オーラ)

一目見ただけで、すぐに分かる強者感。


近くにはボロボロのタリスと気絶しているフォルネ。


ガッケルは動こうとしたが、すんでのとこで止めた。


正直、この2人相手にやりあえる程の力はない。


巨神だけなら、【30秒間の死の覚悟(サーティ・パーティー)】で片付けれる。

でも魔人アリティムは無理だッ。


俺の最高速度でも、攻撃に追いつけるかどうか分かんねェ……。

2人がかりならもっと無理になっちまうッ……!


ここは、この場で眠ってるふりすんのが安牌かァ? でも、目の前に標的がいんだぞッ!

ここで“逃げ”に走んのは、フォルネの仲間として有り得て良い事なのかよッ!


なァフォルネ……兄貴! 教えてくれ。

俺はここで、動くべきなのか……!!


葛藤の中、ガッケルに恐怖の戦慄走る。


「おい。ガッケル・サラバーン。なぜ寝たフリをしている?」



「 」


言葉が喉から出ない。

圧倒的な力の差によるものだろうか。


これまでに味わった事の無い恐怖感。


まだ戦ってすらないのに過る“敗北”の2文字。


「…………」


考えても無かった。

いざ魔神軍と対峙したところで、自分は臆せず立ち向かえると。

違った。


こんなのを前にして、声を出す事すらままならない。


「ガッケル・サラバーン。臆しているな?」


アリティムの重い足音が地面に響く。

ニヤついた笑みは、恐怖を加速させた。


長い爪が、空を刺す。



「超上位……炎魔法。【豪火球烈千灰煌ごうかきゅうれっせんはいこう】」


指先から、緋色の球体が出現する。

球体にひびが入り、水圧に耐え切れぬ硝子のように、中に入っていた“全て”が溢れ出す。


灼熱の炎が球体を包み、巨大な球体が出来上がった――――


それはまるで、この世界を照らす光。

【太陽】のようであった。



「さらばだ」


指をくいっと曲げると、豪火球烈千灰煌はそれに呼応し落下してゆく。

地に近づけば近づくほど、その熱さは増していき、肌が焼け溶けそうな程の熱さだった。


「ッ……! フォルネェ、タリスっ。す、すまなねェ」


もう、手遅れだッ。

このままじゃ、みんな死ぬ。

負けちまうんだ。

俺で出来ることをやり尽くすしか無いッ。


「【氷刃アイスカッター】ァ! 【水球ウォーターボール】ッ!」


氷、水系の魔法を撃ち尽くして、出来るだけ火力を抑えるんだっ。

範囲的にも、俺の足じゃ間に合わないんだ。

魔法を撃ち尽くして、抑えるしかない。


「うおォオ!!!」


必死に魔力をかき集め、知り尽くす限りの氷、水魔法を放つ。

それでも、火力は以前増すばかり。


そしてついに、ガッケルの魔力は底を尽きた


何も残っていない。

一滴も、絞り出す事すら出来ないほどの枯渇状態。


ガッケルは絶望した。

自分自身の情けなさに対し。


「なんも……出来ねェっ」


ガッケルの頬には涙が垂れていた。


炎がガッケルの腕を掠め、焼く。

一瞬でついた焦げ跡から、この炎の温度が分かる。


気温は上昇し、真夏の最高気温を遥かに越えようとしていた―――


一瞬の事だ。


炎球を、巨大な氷が包んでいた。

まるでここが、氷の世界であるかと錯覚してしまうほどに、薄い雨色の氷が囲っていた。


タリスの血液が、一瞬にして止まる。

凍ったのだ。


「は、ァ?」


ガッケルも理解出来ず、氷を見つめる。


「久しぶりに出てきたが、なんか調子乗ってるみたいだな。魔神軍」


その声の主を探るべく、ガッケルが視線を変更すると、そこには「フォルネ」がいた。


だが、その顔は、どこが不自然で。


顔には赤く塗られたような紋様が刻まれていたそれは、フォルネではなかった。


「【広・癒神帝ボディヒールズ】」


緑の円が彼から展開されると、傷口が塞がり、欠損した部位もすぐに治った。


「あ、あんたは誰だァ!!」


ガッケルの声に反応し、振り向く。




「鬼神。かつての戦士だ」




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