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緊急任務②


今からおよそ100年前。

魔王ネルフォルが世界を支配していた時代だ。


勇者が魔王を討伐したのは有名な話だが、勇者が大魔人と呼ばれる怪物を封印した話はあまり知られていない。


【大魔人】巨神轟腕王(きょしんごうしゅおう)


全長50m以上。

一度拳を突けば、地は揺れ雲は裂ける。


そんな伝説さえ残されている巨神轟腕王へと、現代の勇者(フォルネ)は立ち向かっていた――――



タリスが作ってくれた、この数秒。

無駄にするわけにはいかないんだ……。


全速力で登っていたフォルネとガッケルが、ついに巨神の肩に到着した。


「よォ! デカブツゥっ」


巨神の大きく無機質な眼が2人を睨みつけ、身体を小刻みに揺らす。


「短期決戦だ。長引かせたら後が無いッ」


フォルネの顔には数粒の水が滴わっていた。

それは焦りか、それとも単なる身体を動かした事によるものかは定かでは無かったが、どちらにしよ不安を煽ることには変わりない。


「【速赤神雷】ッ!!」


ガッケルの両足が紅に染まる。

肩からさらに上へ、ガッケルは強化した脚力で頭部の辺りまで跳び上がった。


「くらえェ!! 一撃(ショット)ォッ!!!!」


両腕を腰の後ろに構え、突き出す。

風圧で巨神の首が傾く―――


だが、巨神は全くと言っていい程怯まない。


「ッマジ!?」


―――攻撃を終えた者に待っているのは。

“反撃”であった。


巨神が口を大きく開き、空中に居るガッケルに方向を変える。


喉の奥からなにかの光が溢れ出て、口内からは高温で蒸気が吹き出す。


そして、巨神の眼が光った直後。

重低音を奏でた光線が発射された―――。


ガッケルは腕をクロスさせ、防御の姿勢を取る。




フォルネの目に映っていたのは、光線がガッケルに衝突した事による煙と自身の攻撃により火傷した巨神の姿であった。


なんだ……!? 何が起こった。

俺じゃ、何が起こったのか全然分かんなかった。


ハイレベルすぎる。

ガッケルは速度に特化した戦士だ。

俺は“虎脚の如く”を使ってるとはいえ、動体視力まで上がった訳じゃない。


デカブツについては、まだ謎な点が多すぎる。

ゼロによって魔物化された人間なのか、それとも元々存在した魔物なのか。


コイツが魔物なのかも不透明なんだ。

やっぱり、気軽に手を出して良い相手じゃ……。


「フォルネっ! 何を止まっている!? 動くんだ。ガッケルがやられた!」


タリスが掠れた声でそう叫ぶ。

「ガッケルがやられた」。そんな事を、信じられるはずも無かった。

自分が少し追いつけなかったあの一瞬に、やられたなんてこと。


だが、事実なんだ。

タリスが嘘をつくわけがない。

タリスの目は、少しだけ塩水で潤んでいた。


「マジでやんなきゃ、ここで終わる……!」


フォルネの脳内に浮かぶのは、仲間の姿。

皆の姿。


ここで終わらせるわけにはいかない。

リアムの為にも、魔神軍を倒さなきゃいけない。


この世界で、魔の手に脅かされている人々の為にも。


「お前なんかに、時間食ってる暇無いんだよ!」


フォルネが足を踏み込み、跳んだ。

風の力を応用し、自分の身体が吹き飛ぶ―――


すれ違いざまに、落下して行くガッケルの姿が目の端に映っていた。


それを見たフォルネは、巨神の目の前まで飛び、腕を突き出し魔力を込めた。


血液が傷口から出てくるように、自然に手のひらに炎が集まる。


フォルネの魔力を大量に込められた炎は激しく燃えさかり、海のような青色に変化していた。


業火の如く燃え盛る炎は使用者の肉体さえ燃やし尽くしそうな勢いである。


ここで決める。

そうじゃなきゃ、駄目なんだ。

この先も、一体一体に時間をかけていちゃ、アリティムを倒すのに何年かかるか分からない。


「よく……覚えておけ。俺の名を、そのデカい頭に刻むんだ。俺の名前は“フォルネ・ラリバー”!お前を倒す現代の勇者だァ!」


手が炎に耐え切れず焼けてゆく。

だが、そんな痛みをものともしないかと言うように。


フォルネの掌から炎が放出された。


「【炎ッ帝ッっ】!!!」


炎の弾丸が、ガッケルの拳よりも速く、鋭く巨神の口内に撃ちつけられた。


先程の攻撃で緩んでいた肉は、巨神を守らず、いとも簡単に穴が空いた。


大量の出血。

流石の巨神でも、これほどの攻撃を喰らえばただではすまない。


そう思った。


巨神は、無傷であった。

いや、正確に言えば()()()()()()、だ。


治ったのである。

ほんの数秒の間に。


地に落ちたガッケルを抱えたタリスも、その光景に唖然としている。


誰も動かなかった。

フォルネも、タリスも、そして()()()()()


まるで、なぜ治ったのか理解出来ていないようだ。

なぜ何年も寝たきりだった者が、突然目覚めた時のように、理解が追いついていなかった。


そんな時、巨神の頭部に人影が浮かんだ。

体格の良い、筋骨隆々の何か。


その姿はハッキリとは見えないが、誰かは分かる。


あの日。

初めて感じた“圧倒的な恐怖”。

それを、忘れるはずもない。


「久しぶりだな。勇者よ」


耳にこびりついて取れない。

嫌な声。

圧倒的な力。


三つ目の紅い髪。

青い肌。

みただけで分かる。鱗のように硬い皮膚。


魔神軍TOPにして、魔王軍No.2。

そう。【魔人アリティム】であった。


「な、なんで……お前がここに居る」


固唾を飲む。

恐怖で強張った唇で、震えながらもそう質問する。


剣を持つ手は既に不安定で、今にも剣を落としそうである。


「勇者 フォルネ・ラリバー。それに、タリス・アレリンドッド。ガッケル・サラバーン。以前の仲間は死んだのか」


巨神の頭部から地上へと、一直線に降りた。

降りた時の衝撃で、地面が凹んだ。


アリティムはタリスを見て言う。


「貴様だな」


長い人差し指でタリスを指差しながら、ゆっくりと右へ手を動かす。


首をなぞるように、ゆっくりと……。


「……貴様がアリティムか。話には聞いていたが、かなりの魔力と力を持っているようだ」


アリティムの手が止まる。


「ほう? この、状況で談笑をしようとするとは……。実に面白い」


「談笑? ふざけるな。私はそんなしょうもないことはせん。今しているのは“宣戦布告”。貴様を殺すという、殺害予告にも近いものだ」


タリスの服の中に、一体の【模型(ドール)】が精製される。


タリスの白い肌とは対照的に、青い模型だ。


「タリス・アレリンドッド。お前程度が、このアリティムを殺すと……笑わせるな。傷一つ付けることはできん」


「そうか? 私は殺れると思っているがな」


タリスは服の中に手を入れ、模型に触れた。

アリティムを再現した模型の首を、人差し指と親指で掴む。


「調子にのるのも今日で終わりだ。貴様の計画も、全て……!」


模型の首を思い切りへし折り、服の中から折れた頭部のみが転がり落ちる。


それと一切のタイムラグ無しに、アリティムの首も地面に落ちていた――――


「な……!?」


アリティムを、タリスが倒した?

こんなにも簡単に……。


信じることが出来なかった。

あまりにも呆気なさ過ぎて。これなら、先程の巨神がラスボスだと言われた方が、まだ納得が出来る。


「模型は消えた。それは奴が“死んだ”と言う事だ。フォルネはこれでもう、戦わずに済む」


おかしい。

そもそも、怪しい動きをするタリスを、なぜアリティムは仕留めなかった。

舐めていた? その結果、予想していない攻撃をされ、死んだ。


そんなこと、ありえるのか?

魔神軍のTOPである、アリティムが。

タリスの能力を把握していないなんてこと……。


いや、待てよ。

よくよく考えてみれば、タリスと魔神軍との接触というのは、一度も無かった。


全て、ゼロや山賊によるものだ。


なら、知らなかったのも納得がいく。


「……ありがとう。タリス」


巨神から飛び降り、ガッケルを回復させる。


巨神はまだ、動かないようだ。



「正直、まだ実感湧いてねぇよ。これで終わりなんて」


フォルネはアリティムの首の前に立ち尽くしていた。


「おい。まだか? 巨神が動いてしまうぞ」


「あぁ、今行く」


フォルネがアリティムの頭に剣を突き刺そうした瞬間、切り離されたアリティムの“体”が動いた。


スパン――――

そう、何かが斬られる音がした。


「え?」


フォルネに外傷は無い。

驚いて背後に振り向くと、そこには――――



「タリス……?」


跪いているタリスがいた。


草には赤黒い血液が滲み渡り、それを糧とする虫が集まる。

上半身には、いつもあるはずのシルエットが1つ無かった。


右腕が、無かったのだ。

第二関節辺りからが無い。


さっきの草に染み渡る血液の正体。

それが何か分かった。


落ちた右腕だ。

静止して、肉塊となった右腕だ。


それだけじゃない。

顔からも、血液が滴り落ちている。

真っ赤に染まった顔が、フォルネを恐怖させる。


目の辺りに、横一本の傷がある。


「あ、あ……」


既に動かなくなったタリスを見て、フォルネは腰を抜かした。


「ア、アリティ―――」


そこで、フォルネは意識を失った。


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