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量より質


「よし、これで出発準備はOKだな」


俺達は馬車を手に入れ、ついにエリグハス城へと向かおうとしていた。


「本当に良いんだな。エミリー、エル。恐らく、そちらのチームも苦労する事になるだろう。戦闘が得意でない2人だが、大丈夫か?」


「うちらのこと舐め過ぎ! タリスは、か・ほ・ごってやつだよホント。こっちにはピルク君もいるしね!」


エミリーがピルクに目くばせをすると、ピルクは頬を赤らめて首をぶんぶんと震わせた。


「明らかよわそうだけど、大丈夫ニャのか? あちしの爪の方が、よっぽど役に立つニャ」


「あ、す、すみませ―――――」


エルの頭に、たんこぶが出来た。


「じゃあ、少しの間お別れだな。各チームの用が終わったら、港町で集合ってことで」


「じゃーニャ。みんなありがとうニャ!」



こうして、俺達はしばしの別れとなった。




馬での移動は、かなり酷なものである。

決して乗り心地が言いとは言えないし、馬車のように腰をかける事も出来ないので腰が痛い。


とはいえ、これ以外の移動手段が今は無いのだから、仕方ないのだろう。


転送魔法を使えば、すぐに移動出来るんだがな。あれは一回転送先にワープポイントを設置しなきゃいけない。


便利なんだか不便なんだか。


「なあフォルネ。もしもの話になるんだが、いいか?」


隣を走るタリスが、前を向きながらそう言った。


「なんだ? 」


「もし、エリグハス城へ行けたとして、そこが()()()のようになっていたらどうするんだ? ああなっていたら、船も手に入れることは出来ないぞ?」


それは、あの街でピルクから話を聞いてからずっと思っていた。

そうなれば、魔王の地へ向かう事が出来なくなる。


エリグハスで作られた船は、耐久力に長けているらしい。

もし魔王の地へ行くんなら、エリグハス産の船が最もいいだろう。


実際、エリグハス王国から魔王の地へ向かう為の船が、今までに3つ出ているらしい。


帰ってきたとは言ってないが……。


「そうだな。その場合、別の方法を探す他無いだろ。無理に丈夫じゃない船で行って沈む……なんて事が起こっちゃいけないからな」


「そうだな……。私もそう思う。空から行ければいいんだが、そんなのは難しいな。現代の技術じゃ、作れたとしても長距離は無理だ。魔法でも魔力切れが来る」


空を飛べる魔法なんてあんのか? すげーな。


「まあ、行ってみないと分かんないだろ。な?」


「そうだな。行く前から、諦めるのは良くない」


「…………ァ、おはよう」


ガッケルは俺の背中で思い切り寝てたみたいだ。

このクソ野郎めが。


「俺とタリスは眠いながらも馬で走ってんのにお前はすやすやと寝やがって。次交代だ。お前がやれ」


赤髪の青年は眠気で後ろに倒れてしまいそのまま落馬した。

速度を上げていた馬から落ち、しかも頭から落ちた青年はそのまま死――――


「―――んでねぇからァ!! 勝手に殺すな俺のことォ! わーッたよ。俺がやればいんだろ? フォルネの次はタリスが休憩な!? それでいいだろ!」



「おい。ガッケル貴様静かにしろ」


タリスが人差し指を口に当て、黒い眼で当たりを見回した。


暗くなったこの場所には街灯とかつて使われていたであろう民家があるだけだ。

どれだけ大きな国であろうと、こんな平凡な場所は存在する。


だがこの場所はたった今()()()()()()()()()


地震かと疑う程の揺れが辺り一帯を襲う。

馬が驚きで逃げ出す。


ガッケルがすぐに立ち上がり、血で滲んだ視界を拭き上げた。


暗くてはっきりとは見えないが、そこにいた“ナニカ”はとてつもなくデカい。


悟った。

これは人間が戦っていい相手じゃないと。


解った。

能力を使っても太刀打ちする事が出来ない。

いや、能力を使用する暇すら無いと。


キレた。

自分達の馬を逃がした上、地震で驚かしてきた事を……!


「「逃げるぞ!」」


フォルネとタリスが一斉に後方へ走り出す。

それとは反対に、ガッケルは……。


「ブッ倒す!!! 馬返せやこの野郎!」


ドンッと言う音と共に、ガッケルの超スピードで地面に小規模のクレーターが開く。

空を切って進む隕石のような物体は、一目散に自分よりも何倍も大きなモノへと向かっていた……!


「まず一発ゥ! 【1点集中(ワン・ブイント)】!!!!」


ガッケルがデカブツに拳を突き上げる―――――


腕を振り上げた直後 轟音と共に、衝撃が奔る。


衝撃で凹むデカブツの顎。

黄色の血液を吹き出し、少し後ずさりした。


「あーッ。いってぇ!」


力を込めた拳には血管が浮き、ほとばしる筋肉は今にも破裂しそうな程に膨れ上がり、紫色に変色していた。


「力に腕が耐えれてねェ……。魔力を1点に集中させんのは、やっぱだめだな」


ガッケルの奴、あのデカブツに攻撃しやがった……!

暗黒龍よりも何倍もデカいぞ?


ドスの効いた音が空気を伝って耳に届く。

その音は声のようでありながらも、どちらかといえば楽器に近しい音だった。


「イテ」


その二言だった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「やるしかない……。ガッケル! タリス。やるぞ!!!」


絶対に勝てない、そう思いながらも、俺達は戦わざるを得なかった。

それはヤツが。


デカブツが、殺意を顕にしていたからだ。


「……ガッケル。なぜ貴様攻撃した!? あのまま逃げていれば、こうならなかったかもしれないだろう!?」


「あァ!? それは……。アイツにムカついたからだァ!」


「今は理由は良い! もう相手は殺る気なんだ。やるしかねぇだろ……!」


タリスはフォルネがあげた護身用の短剣を。

ガッケルは拳を。


フォルネは氷と炎を剣に纏わせていた――――



「【虎脚の如く(ブースピード)】!」


まずは脚力を上げろ。

このデカブツに追いつく為にはそれしかない。


てかガッケル。

コイツ腕ボロボロじゃんか!!


「ガッケル! 【癒やしの風(ヒーリングウィンド)】っ」


ガッケルの右腕がみるみる治ってゆく。


「武器はあまり使わん主義なんだがな。状況が状況だ。仕方あるまい……!」


タリスが短剣を思い切り投げ、デカブツに当てようとする。が、短剣の速度は落ちていき地へとへたり込んだ。


「なっ!?」


「たりめェだろ。デカブツまでの距離はかなりある。魔力が少なくて、魔力循環もできねェお前じゃ力が足りねぇッ」


ガッケルとフォルネが平野を走る。

交互に左右へと動き、攻撃を当てられないようにしていた。


2人の息のあった動きがデカブツを翻弄していた――――


「モォ!!!」


図太い腕を地面に振り下ろす。

ずっしりとした風が髪をなびかせ、揺れが起こった。


直線上に留まってちゃ駄目だ。

アイツの攻撃は、一発一発の範囲がデカすぎる。


今だって、ガッケルとの動きが無かったら片方やられてた……。


でも……!


「これで登れるっ! ガッケル、行くぞ」


振り下ろして、地面に突き刺さった腕に登り肩へと向かう。

剣を引きずり、走ったところを凍結させる。


少しでもダメージを蓄積させ、本気の一撃で仕留められる確率を上げるんだ。


「クソ! フォルネェ。これじゃアイツが腕引っこ抜く前に俺ら辿り着けねぇよォッ」


あと腕半分登れば肩まで着くんだ。

頼む。

凍結が上手く効いてくれ!!


「フォルネ! ガッケル! 安心しろっ! 私が、こいつの周りの地面を凍らせた。あと10秒は持つ! 急ぐんだ!」


あれは、氷魔法……!

タリス。少ない魔力を使って凍らせたのか。


【氷風剣】(かぜおりの剣)!!」


氷を風で拡散させ、広範囲に氷傷を負わせる。

低温度で凍った風の刃も、デカブツの肉を削り取ってくれるはずだ。


「こっからが本番だッ! 待ってろよ。デカブツゥ!」


デカブツの大きな瞳がじっと、2人の人間を見つめていた―――――

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