頼りがいのある仲間
「【氷の螺旋】!」
エミリーは僧侶でありながら、高精度の魔法を扱って魔物と戦っている。
「【雷炎剣】……! からの天空斬りィ!」
フォルネもまた、自身の力を駆使し、大量の魔物を相手にしている。
だが、次々と湧いてくる魔物共。
その数に圧倒され、2人は追い詰められていた。
「今ので何体やったんだよ……!」
「分かんないって〜! でも、絶対100はいってんね!」
属性変化を使いすぎた。
そろそろ魔力が枯渇してきたな。
こっからは魔法や属性変化を使わず戦おう。
じゃないと、いざと言う時に回復魔法を使えない。
ガッケルがやってたみたいに、身体の中にある魔力を循環させて魔力を外に出さないようにする。
そして攻撃と防御の時、攻撃箇所、もしくは防御箇所に魔力を集中。
後はそれを、剣にもやる。
剣を身体の一部だと思え、これを折られれば、腕を斬られたのと同様。
この剣に、魔力を注ぐ。
魔力を通し、身体と剣の境界線を限りなく無くす。
「―――君! フォルネ君何してんの! 危ないって〜!」
「っ……!?」
不味い。
集中しすぎて、周りの様子に気を配るのを忘れていた……!!
だがもう大丈夫。
俺とこの剣の境界線は既に閉じている。
息を吐き、研ぎ澄ませる。
己の攻撃が、正確かつ、広範囲に届くように。
フォルネは、蒼き瞳を魔物共へ向け、正面に広範囲の斬撃を撃ち放った。
「まじやば〜! フォルネ君の“それ”ちょーカッコいいんですけど!」
「ありがとうございます。でも、こんなのじゃ……」
未だに増える魔物。
街の住民は、誰一人として見つからない。
外観から見るに、かなりの人口が居たはず。
なのにも関わらず、なんだ? この量。
エリグハス王国自体、魔物が入らないように警備をかなり厳しくしているはずだ。
ここで感じた。
違和感。
警備が厳しく、入国する事すら難しい。
ということは、国から出るのも至難の業。
それが一国の王などであればまだしも、一般人。
さらに下の奴隷だとすれば、普通は出れない。
エルは、一体どこから国を出た?
逃げてきた。
そう言っていた。
だが、逃げ道なんて無い。
この国は毎日、毎時間ごとに国を守っている壁を点検、整備する。
そんな事までしているのに、不備があるはずは無いんだ。
国から出るには、東西南北それぞれに設置されている関所へ向かう必要がある。
エルは、関所へ行った……? 身分証も無しに、出られないだろ。
エルと出会った場所。あそこは、整備された道を通らなければ、北門から近い場所にあった。
兵士は6人体制で見張りをしている。
見落とすことなんて、あるはずがない。
ない。
考えうる事。
脳内に浮かぶ、最悪の可能性。
エルは……。
「【氷彫鳥】! ってやば! 魔力切れとかパないんだけど!?」
メアリーの魔力が切れ、魔物に囚われそうになる。
ゴツゴツとした、力強い手で腕を掴まれ、メアリーは引き寄せられた。
「ちょ、フォルネ君〜〜!! ごめんけどちょい助けてほしーかも!!!」
名前を呼ばれ、俺は咄嗟に魔法を放った。
「【炎帝】っ」
危ない。
さっきので分かってただろ。
戦いの最中で、戦い以外の事考えてちゃ駄目だ。
「凄すぎ! その魔法。そんな威力高かったけ?」
「ん? いやこれは、俺の仲間が使ってた魔法で……。俺の方が威力は低いんすけど」
そう言うと、メアリーは目を見開いて言った。
「へ? それマジ? マジだったらガチ目に凄いんですけど。そのお仲間さん。よっぽどその魔法気に入ってたんだ〜」
「まあ、よく使っていた気がしますし……思い入れとかあったんだと思いますよ。多分」
炎帝。
弾丸のような炎を放出する魔法。
メアリーが他の人と比べ、俺の炎帝に驚いていた理由は恐らく、俺の炎帝はリアムのものを真似たもの。
真似元の技術力が高いから、俺も強くなった。
……自分で言っといてなんだが、よくわかんないな。
まあその分。普通の炎帝よりは魔力消費量大きいけどね。
「やべ、俺もそろそろ魔力すっからかんだ……!」
「へ!? それ結構ッ! ピンチじゃない?」
メアリーはフォルネの短剣で魔物を薙ぎ倒しながら、問いに返している。
「まあ、剣使いは最悪魔力無くなっても戦えるんでね。ピンチなのはメアリーさんじゃないすか?」
メアリーは微笑んだ。
「そーかもね!」
メアリーは魔力切れ。
メアリーが使えるマトモな武器は俺が鞄の中に入れてた非常用の短剣だけ。
この短剣に魔法でも属性変化でも仕込んどきゃ良かった。
けど、属性変化のタイマーは、一度発動したら再度魔力を込めなければ再発は出来ない。
一度の必殺として使うならそっちのほうがいいけど、継続的な武器として使うんなら魔陣弾みたく、武器“そのもの”に魔法を刻んでおいたほうがいい。
まあ、今更悔やんだ所で……。
いや待てよ。
俺にはまだ魔力が残っている。
なら、一本くらいなら魔法を込められるんじゃ……?
「メアリーさん! それちょっと貸して!」
「え!? おっけい!」
メアリーはひょいと短剣を投げ渡す。
俺は咄嗟に、その短剣に魔法を込めた。
「【碧炎】……!」
短剣は蒼く輝き、刀身には灼熱の炎が燃え盛っていた。
「あんがと! これでうちもかなりやれるよ……っと!!」
これで俺の魔力は、ほぼ0だ。
残ってんのは、身体全体に循環させている魔力だけ。
これを使う時は、俺の足か腕が斬られた時だけだ。
魔物の大群を剣で抑え、その中の一体を足で蹴り飛ばす。
想定外の攻撃に耐えられ無かったコウモリとゴブリンのハーフのような見た目をした魔物は思い切り後ろに飛んだ。
その衝撃で、その近くにいた魔物達もどんどんと体制を崩す。
その隙を見て、フォルネは剣を突き立て、魔物を狩った。
その頃メアリーは、華奢な身体で軽やかに動き回り、魔物達を翻弄していた。
先程フォルネにかけてもらった魔法のお陰か、かなり広範囲の魔物を一度に焼き殺している。
フォルネとメアリーから見て中央には、
エル ガッケル タリス がいる。
サユリとパッチンは、魔物の群れに押し寄せられて何処かへ行ってしまった。
意識を失っているタリスとエルを差し置いて、ガッケルが目覚めた。
幸い、ガッケルは頭部を軽く打っただけで重症ではない。
エルとタリスは、腹部や頭をかなりやられている。
この戦い中には目覚めないだろう。
クッソ。
俺が安々と眠ってる間に、何だこの状況。
2人だぞ?
たった2人で、この量の魔物を食い止めてる。
情けねぇ……!
兄貴。
あんたみたいに、俺ァ強くなんよ。
兄貴は太ってて、俺に喧嘩じゃいっっつも勝てなかった。
けど、最終的には勝っちまうんだもんな。
なんでか分かんなかった。
兄貴は、心が強かった。
俺が全く倒れない兄貴を見て、負けちまったんだ。
兄貴の目は、強かったから。
絶対に倒れないって意識を持っていた。
俺も、そうなりてェ!!!
「いくぜェ! テンション上げてけや!!!」
「ガッケル!? もう大丈夫なのかよ」
「たりめェだろ! 俺を誰だと思ってる。俺ァ兄貴の……女と子供ォ守ったヒーローの弟だ!!」
ガッケルが走り出し、警戒が薄かった左側にいた魔物達に向けて、全力の殴りを繰り出した。
拳が当たった後、その風圧で魔物が木っ端微塵になった。
「形勢逆転だぜ! お前ら覚悟決めろ。今から全員殴り殺してやんよォ!」
ガッケルの咆哮が、辺り一帯を包み込む。
ガッケルは武道家の中でも、速度に特化している。
ガッケルの『感覚を遅らせる打撃』は、同じ相手に打てば撃つほど速度は下がるものの、その初撃は音速と同等。
避けられるものは居ない。
「うォ〜!!! 【直射日光】ッ!!!!!」
ガッケルが地を蹴り速度を上昇させる。
摩擦で赤くなった拳はさらに赤く、ついには燃え上がる。
拳を突き出し、その勢いを止めぬまま魔物の群れを突っ切って行く。
その一連の攻撃が終わった直後、魔物は皆血を胸から噴き出して倒れた。
ズドンという爆発音のようなものと共に―――




