今日は休日
「おぇええ…気持ち悪い」
「大丈夫か? だから食い過ぎはやめとけって言っただろ。それに酒まで飲んで…」
「だって、いっぱいお金あったしぃ…」
「早く宿戻るぞ」
リアムは絶賛体調不良。
何故かって? 少し前まで遡ろう。
―――
三時間前 酒場
「らっしゃい! お! 若いカップルのお二方! さっきぶりだねぇ。その顔見ると、さっき任務が終わったばっかってとこかな?」
なんでこの人は分かるんだ。
っておもったけど、まあ1日に何十人も冒険者の顔見てりゃそんなの分かるか。
「じゃあご注文は!」
「んーじゃあとりあえず沢山ください!!!」
「おお! 気前のいい姉ちゃんだね!」
「じゃあ俺はオレンジジュース!」
ガヤガヤした雰囲気。
嫌いじゃない。
「んー、美味い!」
「確かにめっちゃ美味い!」
「そりゃ嬉しいぜ! おいてめぇら! この若いカップルの任務終了を祝って、今日は飲みまくるぜェ!!!!」
他の冒険者は、歓声をあげて酒を飲み干している。
「私も…私も‼」
あ、なんだ。まさか酒を飲むとか言い出すんじゃないだろうな。
「酒、飲むぞ〜!!!!!!」
その言葉の直後、多くの冒険者が叫び、また歓声をあげた。
その後は、もう分かっているだろうけど。
みんなが茶化して、リアムにめっちゃ飲ませた。
俺は流石にやめといた。まだガキだし。
そして酔いつぶれて、今に至る
――
「あ〜、気持ち悪い…フォルネぇここにいてぇ」
「はぁ、早く寝ろよな」
酒って怖いな。
リアムがこんなになるなんて。
「もう寝るぅ」
「じゃあ早く寝ろ。俺もねみぃんだよ」
「一緒にねるぅ」
なにいってんだこいつ。
もーいいや、さっさと部屋戻って風呂はーいろ。
「おやす…オロロロロロロ」
うげぇ…吐いた。
あー、
「もうトイレにいろ! リアム!」
「はぁい」
ゲロ、俺が処理すんのか。
あ、そうだ。
龍の爪を手袋代わりにして、処理しよ。
うん。これなら手が汚くなんねぇし、別にいいや。
明日は任務無理そうだな。
じゃ、もーどろ。
―――――
痛い…頭痛い。
ズキズキする。
飲みすぎた? 多分飲みすぎた。
あぁ、まじ飲まなければよかった…
てかトイレで寝てるし。
はぁ、フォルネに迷惑かけたかも。
「んー、服汚いだろうし、昨日お風呂入ってないよね、お風呂入らないと。」
結構悲惨だな。物が散乱してる。
あぁ、シャワー浴びるだけでちょっとマシになる。
ずっとシャワー浴びてたい…
温かいな、お風呂。
今日は二日酔いで任務無理そう。
というかそろそろ他の街か村に行かないと。
ずっとここに留まるわけにもいかないし。
ごめん、フォルネ。今日は休日かも…
―――――
今日は、休日。冒険者に休日なんてあるのか?別に任務受けなければ毎日休日じゃないのか。
リアムは休日って言ってたけどさ。
今日は、ゆっくりこの村を探索でもしますか。
この村は、結構広い。
色んな店があるし、人も結構住んでる。
魔神軍を倒し終わったら、姉さんと一緒に来よう。
そんな事を考えながら、いい匂いに釣られて路地裏に入ろうとした、その時だった
「オマエか、フォルネ・ラリバー。メシの匂いに釣られる勇者トハ、トンダお笑いダナ」
背後に、誰か居る。
「何者だ」
「オレはオマエを殺しにキタ。任務デナ!」
任務? 誰かに依頼されたってことかよ。
どこから俺が勇者だって漏れたんだ。
「そうか、じゃあ殺されないようにするよ」
「ソレは無理な話ダ、ラリバー!」
剣、剣…
不味い、剣は宿だ。
ただ村を散歩するだけで剣を使うことになるとは思ってもなかった。
どうすんだ。マジで死ぬぞ。
俺魔法なんてマトモなの使えないし…
落ち着け、落ち着け…
多分こいつ、結構強い。
「ドウシタ? ビビってんのか?」
今日は休日だってのに、何でこんなことになるんだよ…
そうだ! 確か昨日、結局龍の爪の機能を確認するために、いじってたらそのまま寝ちまったんだ。
結局、機能を確認してる途中に寝たから、ちゃんと使ったことは無い。
けど今はこれに頼るしか無いんだ。
「ビビってなんかないさ」
腕を横に突き出すと、前腕から刃が出てきた。
ホントに使えるんだな、これ。
「来い! ラリバー!」
ジャンプシューズの力で、パンチにスピードを込めれる。
まずは一発、刺す‼
「遅イゾ! ラリバー! 勇者ッテノハこんなもんカ!」
速い、避けられた。
けど、刃はこいつの頬を掠ることができた。
「ナニッ! いつの間に……!」
「今だよ」
「ジャア次はオレの番ダ!」
何も武器を持ってないのか…?
こいつ、己の肉体のみで殺る気だ。
「イクゾ!!!」
この筋肉、どんな鍛え方してんだよ!
突進した勢いで、パンチにスピードを込めるのか。
攻撃は、腕で防ぐ!
「甘いゾッ‼ ラリバー‼」
違う。こいつが狙ってるのは腹でも、胸でもない。
背中!
「ガァァッ!!」
重い蹴りが、俺の背中に直撃する。
一瞬息が出来なかった…
「ドウシタラリバー、モウ終わりカ?」
「まだだよ」
こいつの攻撃、洗練されてる。
多分、子供の頃から今まで、ずっと戦いを続けてきている。
どこに攻撃を与えれば、深いダメージを与えられるか分かってる。
けど、流石に空中までは来れないだろう。
脚力増加靴で思いきり飛ぶ。
そうすれば、来れるまい。
どんだけ身体能力が高くてもだ。
「あばよ」
俺は空中に舞い上がり、一旦移動しようとする。
「念のタメ、鎖を引っ掛けておいてヨカッタ」
鎖⁉
足に、引っ掛けてある!
鎖を引っ張られ、地面に全身を思いきり叩きつけられる。
「ぐ…くそ…」
「マダ生きてるのか。シブトイヤツだ」
どうすればいい、リアムは多分寝てるし
他の冒険者に助けてもらうか。
いや、こんな危険な喧嘩(戦い)に自分を参加させてまで、俺の命を助けたいお人好しなんか居ない。
ここは路地裏。
狭くて、自由に動けない。
もし、もう少し広いところに移動出来れば、勝機はある。
脚力増加靴の力を最大限発揮することが出来る。
一か八かだ。
飛んだ瞬間、引っ張られて殺されるか、飛んで、アイツも引っ張られるか。
「その鎖、足に付けたせいで、お前は負けるかもなぁ」
俺はニヤけて、コイツの目を見た。
「ア?」
飛んでけ!俺の体!
俺の体は、勢いよく後ろに舞い、足の鎖をつかんでいた奴も、俺と同様に飛んでいった。
成功した。
これで、勝てる確率は上がった。
俺たちは路地裏を通り抜けて、少し広い場所まで着地した。
「ククク、イタかったぞ」
ほとんどダメージ無しか。
鎖を龍の爪で断ち切って、立ち上がる。
「ン? マダヤレルカ!」
「あぁ、まだやれるぜ」
全身が痛い。
骨も何本か折れてる。
でも、こいつの任務を完了させてたまるか。
「オレの名は、マルク。オマエをコロスモノだ、覚えておけ」
「あぁ、明日までは覚えておく」
「フン、調子に乗るな」
マルクは、俺の方へとてつもない速さで走る。
「タァアッ!!!!!!」
拳に刃を生やし、俺も走る。
刃を上に切り裂く、切ったのは空気。
マルクには当たっていない。
けどこっちも、もうお前の攻撃には慣れてきた。
「フンヌ‼」
この動作、さっきもしてた。
次は蹴り。
「はあっ!!!」
マルクの右腕に攻撃をする。
「ウグッ! 油断したゾ……」
赤い血が、飛び散った。いける。
もうこれでマルクの右腕は使い物にならない。
「オレの、俺の肉体が」
マルクの額には、血管が浮かび、鬼の形相であった。
「あんたの肉体は、俺みたいなガキに切られるほど、軟だったってことだな」
その時、マルクの中で何かが切れた。
「調子ニ、乗るなァア!!!」
全身の筋肉は肥大し、一回りくらい大きくなっていた。
怒りに任せた攻撃、さっきのような計算された攻撃じゃない。
こっちは冷静にいけ。
こいつを倒せる。
ジャンプシューズで、跳べるだけ高く、青空へ飛んだ。
ジャンプシューズで上から攻撃を仕掛ける。
勢いよく落下していく俺に、避ける隙もないマルク。
「マジカ」
鎖はもうない。
これで、トドメだ。
そして、思い切りマルクを斬った。
「マジカ、ハジメテ負けた」
そう言い残して、マルクは死んだ。
マルクの死体は、どこかへと消えていってしまったようだ。
任務とはなんだったんだろう。
勇者討伐とかいう任務でも出ていたんだろうか。
だが、マルクは教えてはくれなかっただろう。
とりあえず、もう帰るか。
勇者に休日なんて、無いのかもしれないな。
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