入国。そして襲撃
「【ウム……。暇だ】」
ある古城。そこに黒き龍が佇んでいた。
ゼロ―――。
それが彼の呼び名だ。
「【ついこの間、少し面白い小僧を見つけたんだがな。だが、現在はエリグハスに向かってる頃だろうし……。もう死んでる頃か】」
「【この姿はやはり動き辛いな。変えるか】」
ゼロは龍の姿から、瞬時に少年の姿へと変化した――。
「ふう、やっぱりいいな。……それで? 何の用だ。魔族の恥よ」
魔物の恥と呼ばれる者。
その正体とは、一体……。
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ……。マジ疲れんだけどぉ」
エミリーは自身の杖で大量の魔物と交戦し、歯を食いしばっていた。
その隣で剣を振っているフォルネは、エミリーに問い掛ける。
「エミリー、これやばいよな?」
「マジやばいぃ。こんな数、相手出来ないよ〜」
いくら倒しても、無尽蔵に湧いてくる魔物。
その魔物と、フォルネ達は交戦していた。
この状況を説明するには、少し前に戻らなくては行けないだろう―――――。
1時間前 エリグハス王国 関所
病院に行き、審査を受けたフォルネ タリス エル の3人。
本来ならかなりの重症で、後遺症が残る可能性もあったそうだが、迅速な怪我の処置により3人は難なく怪我を完治させることが出来た。
フォルネ達は病院を出て、次はエリグハス王国に入るための関所に向かった―――。
「エリグハス王国に入国する為には、定められた国の許可証が必要だ」
関所に居た兵士にそう言われ、タリスは兵士に、声を荒げて詰め寄った。
「許可証……!? 私が以前、野暮用で入国した時は身分証を提示するだけで良かった筈だぞ!」
タリスと相反するように、兵士は質問の回答を淡々と話し始めた。
「およそ三ヶ月前。密輸を目的とした人々により、大量に違法薬物が国内に流通してしまうという事があり、それ以来入国する事が難しくなったんだ。理解してくれたか?」
「……まあいい。こちらにはフォルネが居る。彼が頼めば、許可証を入手する事など容易いだろう。なんせフォルネは勇者なんだからな」
そう言い、タリスがフォルネに目を向けると、フォルネは手に何かを握りしめていた。
「その手の中にあるのは……一体なんだ?」
「これは……旅に出る前日、勇者が誰かを審査するみたいなのがあって、その時に使った石なんだけど―――」
それをフォルネが見せると、兵士は驚いた顔をして、すぐさま門を開いた。
「そ、その石は……!? 申し訳ございません。お通りください」
この石、確か俺が勇者だって分かった後、試験官が俺に渡してくれたんだよな。
その時は、よく分かってなくて適当に受け流してたけど……。
もしかして、これって結構凄い物だったのか。
これがあれば、どんな国でも……。
「―――? 何故かはよく分からんが、通っていいみたいだ。行こう。みんな」
◆
無事、エリグハス王国に入国する事が出来た。
一瞬入れないんじゃないかと思って焦ったが、そんな事も無かったな。
そういえば、兵士はこの石を見て国に入れさせてくれたよな……。
これは、勇者を見極める力を持つ石。
であると同時に、国に入るための証明書や勇者の証としての面もある。
そう考えれば、納得がいく。
というか、十中八九そうだ。
でも、盗まれたりしたらやばいよな……。
「フォルネェ……。腹減ったァ」
ガッケルが腹の虫を鳴かせ、ぐったりとしている。
そのガッケルの言葉に、パッチンが同意した。
「確かに……。俺達、さっきからなんも食べてないよな。一応携帯食料あるけど……みんな食べる?」
「あァ、もうそれでいいから食わせてくれ……飢えてくたばりそうだ」
パッチンは鞄からクラッカー型の携帯食を取り出し、ガッケルに投げ渡した。
「私は大丈夫だ。確かに、腹は空いている。が、ここで無闇に食料を貪り、食料危機に陥る方が一大事になることは、容易く想像につく……。それに―――」
そこで、サユリが手を上げた。
「えっと……私おにぎりとかサンドイッチとか作って持って来てるんだけど……。もしよかったらー」
サユリが取り出したのは、数個のおにぎりと、ハムと卵のサンドイッチが数個。
携帯食は、決して美味しいと言える物ではない。
だが、サユリが取り出した“これ”を見て、皆は感じた。
「これ美味いやつだ!」と。
その場に居た全員の視線が、おにぎりとサンドイッチに集中する。
そんな中、一足先に取ろうとしたのは―――
「……や、やはり栄養を補給し、次の戦いに備えるのも大事だしな。うむ、いただくとしよう」
タリスだ。
タリスはひょいとサンドイッチを手に取り、口いっぱいに頬張り始めた。
幸せそうな顔をしている。
「ズルいニャ! あちしも食べたいニャ!」
エルがおにぎりを目で追えない速さで手に取り、行儀も悪く急いで貪り食った。
「エルちゃん。喉に詰まるからゆっくり! お茶もあるから……」
「お、俺も貰おうかな。しばらく食べてなかったしぃ……」
パッチンはゆっくりと、息を殺しておにぎりを取った。
米の輝きに目を光らせ、ゆっくりと口に運ぶ。
「美味しい……」
口から漏れたその言葉は、まだ取っていない者達の食欲を、さらに活性化させた。
その後、皆は幸せな食事をした……。
が、そんな幸せな時間も束の間。
「……なんかおかしくない?」
皆が食事を終え、馬車の硬い椅子に腰を降ろしてぐったりと、静かにしていた。
だがパッチンが、その静寂を終わらせる。
皆が思っていた疑問。
それを口に出したのだ。
「もう、近くの街くらいには着いてるのが普通なはずだ。なのに、全く着かない。もうご飯食べてから3時間だぞ!?」
え、もう3時間も経ってんのか。
時の流れってのは、速いなぁ。
フォルネは呑気にそんな事を考えていた。
「まさか外で何かあったんじゃ……」
「あぁ、普通に考えればそうなるな。だが、まずは確認してみないことにはどうにもならない。まずは私が見よう」
「頼むよ。タリス」
タリスが仕切りを掻き分け、外の様子を覗いた瞬間。
残像が出来る程の速さで、タリスが消えた。
刹那に起きたこの事実に、馬車の中に居た全員。 まだ理解する事が出来ていなかった。
「タリス!!!」
ガッケルが馬車の壁を壊し、
無理やり飛び出す―――。
「やめるんだ。ガッケル!」
パッチンは空を掴み、既に居ないガッケルを掴もうとした。
だが、やはりガッケルは居ない。
「うち達が守るから、パッチン君。外には絶対出ちゃだめだよ〜!」
エミリーが防御結界を展開させ、馬車全体を守護する。
「何だニャ? 何かデカい音が聴こえたけどニャ」
眠っていたエルもまた、騒音で目覚める。
「サユリ姉さん! 大丈夫か!?」
「え、うん。私は大丈夫! だから、ガッケル君とタリスちゃんを……」
どうなってやがる……。
なんで急に、こんな事になんだよ!
さっさと行かせてくれ……。
俺は、魔神軍を止めたいんだ。
人々を苦しめて、殺して……そんな事して満足してるような奴らを止めたいんだ。
俺は、俺は……。
「ニャ!?」
その時、一瞬の出来事だった。
馬車が、馬車全体が崩れた。
そして、見えた景色。
見る限り、四方八方に居る魔物。
奴らの波に飲まれ、戦う事すら出来ずに手を天に上げているタリスとガッケル。
「まじか」
フォルネが隙を見せた瞬間、腹目掛けて斬る。
「ッ゛ゔ……!」
魔物の強靭で、鋭い鉤爪に横腹を切り裂かれ、
噴水のように噴き出す血液。
「逃……げ……ろ゛。みんなぁ!」
エミリーが、その言葉にいち早く反応し、3人を連れて行こうとする。
だが、遅かった。
いや、相手が“速すぎた”。
この一瞬で、動きの遅いサユリとパッチンが魔物共に掴まれた。
エミリーの力では、エルを助けるのが精一杯だった。
既に向かう所が無くなったエミリーは、後方に足を運ぶ。
「めんご! フォルネ君……。うちの力じゃ、2人助けられなかった!」
エミリーさん……。
この状況じゃ、仕方ないか。
くそ……。
また、まただ。
俺は何も出来てないじゃないか。
助けれてないじゃないか。
俺を認めてくれた。
大切な仲間を……!
「属性変化 炎 “時限発”」
フォルネとエミリーの周辺を囲うように、大量の魔力で作られた短剣が出現する。
「まじやば! 何この魔法!」
時限爆弾式の属性変化。
普段使っているのよりも威力を高く設定した。
これなら、魔物共も手早く片付けれる筈だ。
少しばかり、仲間も巻き込むことになるかもしれないけど仕方ない。
一応、4人には攻撃しないように工夫はしといたけど……。
炎を纏った短剣が勢いよく、風を切り裂き魔物達を燃やし斬る。
けたたましい声を挙げ、死にゆく魔物達。
「タリスッ! 危ねえェ!!!」
魔物の群れから開放されたガッケルが、未だ魔物に掴まれているタリスを救出するべく、【速脚蛸足】で群れへと飛び込む。
そこへ向かう短剣。
短剣が直撃する直前に、ガッケルがタリスを抱えて群れから脱出する。
形勢逆転。
そう思われた。
だが、それは全くの誤算。
逆に、状況は悪化するばかりであった。
遠方に居る魔物すら、この騒音や光に寄せられてこちらへと向かっている。
「くっそォ!!! フォルネェ! あんがとよォ!」
ガッケルが拳で10数体の魔物を蹴散らす。
エミリーも、魔法で魔物を足止めしている。
タリスは、少ない魔力で下級魔法を何発が撃ち朽ちた。
エルも爪で切り裂き、フォルネは風を纏い斬っている。
だが、ものの数秒でフォルネとエミリー以外。
全員倒れてしまった。
魔物の圧倒的な数の暴力。
それに、実力で勝てなかった。
「はぁ、はぁ……。マジ疲れんだけどぉ」
エミリーは自身の杖で大量の魔物と交戦し、歯を食いしばっていた。
その隣で剣を振っているフォルネは、エミリーに問い掛ける。
「エミリー、これやばいよな?」
「マジやばいぃ。こんな数、相手出来ないよ〜」
いくら倒しても、無尽蔵に湧いてくる魔物。
その魔物と、フォルネ達は交戦していた。
この状況を脱するため、2人はどう対処するのだろうか―――――――。




