見張り ②
やべェ……!
今喰らったの、毒だよな。
毒には詳しく無いけど、俺の身体はまだ動く。
動く内に、他の奴らを片付けねぇと。
「おい! 他の奴らも出て来やがれェ!」
ガッケルが大きな声で魔物を呼ぶが、魔物達が出てくる様子はない。
なぜだ? いや、当たり前っちゃ当たり前だな。
自分達の仲前を殺した奴に呼ばれても、出てくるどころか動く訳すら無い。
罠の可能性だってあるんだしな……。
「来ねぇなら、こっちから攻めさせてもらうぜ!」
ガッケルが一歩一歩、魔物達が居ると思われる場所へと向かう。
だが、ガッケルが近付いても魔物達が動く様子はない。
もしかして、逃げられたのか!?
それなら好都合。
俺の目的は、魔物共を根絶やしにすることじゃない。
フォルネ達が乗っている馬車を守ることだ。
その時、ガッケルの腹部を閃光が貫いた。
「……ッソ!」
吐血。
それも大量に。
口内に溢れる、嫌な鉄の味。
それは留まることを知らない。
「キキッ! このレイヴン様のッ! 前で! あんま! 調子! 乗んなよォ!?」
「はぁ゛?」
なんなんだ……? コイツ。
コアラみたいな見た目してるけど、脚は蜘蛛みたいだ。
なんというか、気持ち悪いな。
コアラには似ているけど、目は飛び出ているし、歯は所々生え揃っていない。
そして、コイツの手にある物。
これは『拳銃』だ。
魔物が、拳銃を使っている。
これはかなり知能が高い証拠だ。
拳銃……って事は、さっきの攻撃は奴によるものか。
かなり厄介そうだな。
俺がコイツに気づく前に、銃弾を放った。
直前まで気配を消していたって事だ。
それもかなり高度。
「てめー、強いだろ」
ガッケルが正面にいるレイヴンに対して話しかける。
レイヴンは歯ぎしりをして脚を震わせていた。
「カカッ! 当たりめー! だろォ!」
かなり自己肯定感の高い魔物だな……。
というか、さっきの魔物といい、コイツといい……。
なにかおかしい。
俺はそんなに魔物の種類に詳しい方じゃないけど、こんな魔物、見たことも聞いたことも……。
「油断! すんなよ! なぁア!」
レイヴンが横へと跳ぶ。
蜘蛛の脚により繰り出される浮遊は、ガッケルが目で追うのがギリギリなほどに速かった。
そして、レイヴンは跳ぶ瞬間、トリガーに指をかけていた。
「グッ! バイ! ってやつだ!」
銃声と共にガッケルの元へと飛んで行く銃弾。
それは魔法を込められた『魔陣弾』であった。
魔陣弾は、通常の弾丸に魔法をかけることにより、弾丸に何かの効果を付与している状態の事。
そして、レイヴンが放った魔陣弾に込められていた魔法。
それは物体、生物の速度を上昇させる魔法。
【虎脚の如く】であった……!
「マジか!!!」
間に合わねぇ! 速すぎる。
何だこの異常な弾は!?
普通の弾丸なら、不意打ちでもない限り当たんねぇ!
けど、これはヤバイ!
当たったら、死ぬ……!
避けれるか!? いや、無理だ!
なら、止めるしかねぇ!
「【速赤神雷】!」
今まで身体全体の速度を上げていたのを、今度は一部だけ!
右腕だけに、全ての力を込める!
着弾するほんの直前、ガッケルは着弾よりも速く、右手を額のあたりに動かした。
ジュウッと、肉が焼ける音がする。
ガッケルは弾丸を必死で止める。
「どれだけのダメージを食らっても、死ぬことに比べれば掠り傷!」 ガッケルはそう思っていた。
ガッケルは、何秒もの間、弾丸を止めていた。
レイヴンはその隙にも、ガッケルに近付いている。
防御の末、勝利したのはガッケル。
弾丸は黒焦げになり、地に落ちた。
だが、まだ終わっていない。
本体はまだ残っているのだ。
ガッケルは拳を一段と握りしめ、こう呟いた。
「【30秒間の死の覚悟】ィ!」
ここでコイツを仕留めろ。
じゃないと、このレイヴンとかいうやつはみんなを殺す。
そんなのは嫌だ。
まだ会ってから短いけど、それでも、皆は俺の仲間なんだ。
だから、俺がレイヴンを、この『30秒間』で仕留め切る!
「技! か! カカッ! なら俺様も! 【虎脚の如く】!」
ガッケルが飛び出した。
ガッケルの身体からは、魔力が湯気のように沸き立っている。
その姿はまるで、雷のようだった。
疾く、そして強く。
ガッケルはレイヴンの右腕を吹き飛ばす。
「ガッ!? 俺様! の! うでぇ!!」
レイヴンがそれの仕返しかのように、ガッケルに蹴りを入れた。
だが、今のガッケルはいわば無敵。
30秒間、膨大な量の魔力と頑丈な肉体を手に入れる代わり、今後1日の間は魔力も使えず、肉体の強度と力が5歳児の時に戻ってしまうという諸刃の技。
だが、その30秒間は魔神軍の幹部と1人でやり合える程度には強くなるのだ。
「ハッ!? 俺様の! 蹴りが通じなッ!」
動揺しているレイヴンを横目に、ガッケルは渾身の一撃をレイヴンに叩き込んだ。
「じゃーな。レイヴン」
レイヴンの腹部に入れた、渾身の一撃。
レイヴンはその痛みに悶絶していた。
「ガッ、ガ……」
もはや、レイヴンはガッケルにしてはただの虫。
蟻を踏み潰すのと、なんら変わり無い事なのだ。
「しぶといな。ん……? そろそろ30秒か」
ガッケルは、【30秒間の死の覚悟】の状態で速赤神雷を発動した……!
30秒間の死の覚悟により強化された肉体の全てを、自身の拳に乗せて殴る。
これがガッケルの出せる「最高火力」だ。
「うォォオ!!!!!!!」
辺りには、痛々しい音が鳴り響いていた。
「はぁ……はぁ」
クソ……。やっぱりこの技使うのは駄目だな。
魔力がすっからかんだし、体中も痛い。
握力もだいぶ下がってるみたいだしなぁ……。
これじゃ、馬車なんて守れねぇな。
―――――
木々が生い茂る森の中、タリスは気絶していた。
この頃、ガッケルは人型の魔物との戦闘をしていた。
だがタリスは、一向に目覚める事はない。
このままだと、魔物ではなく森林に潜む動物に食い殺されそうだ。
そんなタリスに忍び寄る暗い影。
一体、タリスはどうなってしまうのだろうか……!




