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見張り ①

二人は馬車に帰還した。


戻ってから気付いたが、ゴブリンが放った矢により馬の脚に傷が付いてしまったようだ。


これでは、エリグハス王国までの道のりを進むことは難しいだろう。


「一応、馬に治癒魔法はかけたが、攻撃時の衝撃で気絶してしまっているみたいだな。これではしばらく目覚めることは無いだろう」


馬はぐっとりとして、地に倒れ込んでいる。


「まァ、いいじゃねぇか。馬が目ぇ覚めるまで休んでよーぜ」


ガッケルは先程の衝撃で目が覚めてしまったようだが、その後すぐに眠ってしまったようだ。


「待てガッケル。私達は休むことは出来ないぞ?」


タリスがガッケルの身体を揺さぶり起こすと、ガッケルは面倒くさそうな顔をして、タリスを睨みつけた。


「はァ? なんでだよ。こっちは疲れてねみーんだけど」


「はぁ……? 本当に君は頭が悪いんだな。寝ている場合じゃないだろ。我々は移動が出来ないんだぞ? そんな状況でなぜ君は呑気に寝ていられる? まずこのような状況ですることと言えば、まずは周囲の安全確認だろう。先程のように――」


タリスが長々と話を続けようとすると、手をパチパチと叩く音が鳴り響いた。


タリスはその瞬間、開いていた口を閉ざした。


「はいはい! そこら辺で終わりにすんぞー。こっから長い間過ごすことになんだから喧嘩は無しにしよう……な?」


「……そうだな。ガッケル、それにみんなも、迷惑をかけてすまない」


タリスが謝罪をすると、皆はそれぞれそれに対して返答した。


「まァ、俺も悪かった」だとか、「うちは別にめーわくじゃないし。全然いーよ!」という声が聞こえた。


パッチンはやっぱり凄いな。

初対面の俺から見ても、タリスは……かなり尖っている人間だ。


かなり長い時間、タリスと過ごしていかなければこうやって収めることは出来ないだろう。


下手したら、殺される可能性もありそうだし。


「では、交代制で見張りをすることにする。まず、今から私が周囲の安全を確認する。時間は2時間。その間、皆は休んでいろ。2時間経った後、次は他の誰かが見張りをしてくれ。その繰り返しだ。馬が目覚めれば、すぐにでも出発しよう」


交代制か。 なら、タリスの次は俺が―――


「じゃ、うちがタリスの次に見張りする〜!」


「待て、エミリー。君はパッチンとサユリのどちらかと共に見張りをするんだ」


そうか……! パッチンとサユリ姉さんは、戦闘能力が全く無い。


そんな二人に、周囲の安全なんか確認させることは出来ない。


周囲の安全どころか、自分達の安全を確保することすら難しいだろう。


だからこその二人での見張り。

そうすれば、二人も安全な状態のまま周りを見ることが出来る。


そんなこと、全く頭になかった。


「んじゃ、うちはパッチンと見張りするよ。フォルネ君はサユリと一緒にいたいだろーし」


一連の話が終わった後、タリスは席から立ちあがった。


「なら、『メアリー、パッチンペア』『サユリ、フォルネペア』。で……」


あ、そういえばガッケル……。


「仕方ない……私がガッケルと組もう。よろしく、ガッケル」


ガッケルは眠たかったせいか、全く話を聞いていなかったようだ。


「ん……? タリスてめェ、またなんか言いやがったか?」


ガッケルがそう言うと、タリスは呆れた表情をしてこう言った。


「はぁ、君とは上手くやっていける気がしないよ」



◆ ◆ ◆


周囲の様子は先程と全く変わっていない。

違うことと言えば、今私の隣にいるのが【フォルネ】ではないことだ。


今いるのは、頭の悪そうな男が1人。

フォルネのパーティメンバーだと聞くが、フォルネはこんな人物とどうやってコミュニケーションをとっていたのだろう。


さっきから私が話しかけても、マトモな回答が返ってこない。


「あぁ」 「おう」 とか……。

こちらが気を使ってやってるのに、この態度は何なんだ……!


本当に苛々させてくれる……。


「なァ、タリス」


ガッケルがタリスの肩をトンと叩いた。


「なんだい、ガッケル。私は今忙しいんだ―――」


「構えろ。何かがこっち見てんぞ……」


何!? 全く視線など感じられない。

この男、もしかして凄まじい実力を持っているんじゃ……。


「多分だけど、2……いや3体はいるぜ?」


まず、なぜそんなに接近しているのに気付かなかった。


終いの鎮魂歌を解除している状態とはいえ、私が周囲の生物の接近に気付かないはずはない。


気配を消していたのか? だとしても―――


その時、二人の間に何かが奔る。


目で追うことすら出来ない“何か”が。


「タリスッ!!!!」


タリスがそれに気づいた時には、既に遅かった。


頭の中では、攻撃が始まった事は理解していた。

だが、脳が肉体への命令を開始する前に、敵はタリスへの一撃を食らわせた―――。


「う゛ッ!!」


何だ……! 身体が追いつかない。

コイツ、強い……!


タリスの瞳に写ったのは、人型の魔物。

ゴブリンなどのようなものではなく、人間に限りなく近い魔物の姿だ。


タリスの肉体は衝撃により、遠方へと飛ばされていった。


ガッケルは、それをただ見つめているだけであった。


「くっそ……! タリスがやられたかッ……!」


マジか。

タリスはしばらく戦えない。


馬車の中から、フォルネを引きずり出して戦わせるか?


いや、駄目だ。

そんな事をすれば、相手にバレてしまう。


馬車の中に人間がいることが……!


メアリーとフォルネは戦えるっぽいけど、パッチンと、サユリさんは戦えない!


2人を守りながら、コイツを仕留めきれるか? メアリーの助けを借りれれば、まだ可能性はある。


だが、駄目だ。


まだメアリーの力量が分からない以上、任せるわけにはいかない。


それに、あの2人にはこの後パッチンとサユリさんを守るという使命がある……!


なら俺の使命はなんだ。


俺の使命は……。


コイツを馬車から遠ざけ、馬車の中にいるみんなを守りながらこの魔物を殺す!


それが、俺の使命だ!



「来い。俺が相手してやんよッ!」


ガッケルが構えた。


それと同時に、魔物も構える。


「ふーッ……」


「う゛ォオ!」


両者が足を踏み出した。

地は抉れ、土は宙を舞う。


土の中に潜んでいた蚯蚓みみずは、衝撃により空中へと飛ばされる。


蚯蚓は地へと落ちていく。


0.01秒。


それは、空中に飛んだ蚯蚓が地に落ちるまでの時間だ。


だが、両者の戦いはその蚯蚓が落ちるまでの間に終わっていた。


2人は物凄い速度で入れ違いになり、魔物が立っていた場所にはガッケルが、ガッケルが立っていた場所には魔物が立っていた。


ガッケルの脚には、傷があった。


何かで引っ掻かれたような傷だ。

深く斬られたのか、血がドロドロと出続けている。


魔物の爪からは、ぽたぽたと血が垂れている。


2人が動かなくなってから2秒後。


ガッケルは跪き、呟く。


「毒……!」


この戦い。ガッケルの敗北か。


そう、思われた。



「へ゛ぶッ!」



魔物の口から、大量の血が吹き出た。

まるで噴水のように。


ドスっと倒れ、ピクリとも動かなくなった。


「ッし……! 勝ったァ!」


ガッケルは拳を握りしめ、勝利を噛み締めているようだ。


だが、まだ安心してはいけない。


ガッケルの体内には、蛇が持つと言われている強力な毒が回っている。


それに、まだ魔物は残っている。


ガッケルは、この魔物達に勝つことはできるのだろうか―――

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