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神術

小石に揺らされる、馬車。

ガタガタと揺れ、走路を進む。


周りには小屋が数軒。

たまに少数民族の集落が見える程度。


その他には、木が何百本も生え揃っていたり、大きな岩山があるだけだ。


そんな道のりを進む、1つの馬車。


その中には、6人の人々が乗っていた。


――


「俺は、フォルネ。よろしく!」


黒髪で青い瞳の少年。フォルネだ。

彼は活溌な少年で、リーダー的な役割を担う事が多い。


「んァ? あー、俺はガッケル。武道家やってる、よろしくゥ」


赤髪で、緋色の瞳を持つ青年。ガッケル。

馬車の揺れにより、眠ってしまったようだ。


「えっと、私はサユリ。ってもうみんな知ってるか!」


サユリはこう言っているが、ガッケルはサユリと全く面識がない。


「俺はパッチン。ま、知ってるか」


パッチンも、ガッケルとは面識がほぼない。


「私の名はタリス。『タリス・アレリンドット』。これから少しの間、行動を共にすることになるから教えておく。私は魔力も、剣も使わない。独自の術で戦う。補助は要らん。私は単独での戦闘を得意としているからな」


タリスは、白髪の女性だ。

サラサラとした髪で、その髪は肩の辺りまで伸びている。


瞳は反転的な色の黒で、飲み込まれてしまいそうな深い闇の色だ。


「最後はウチか。ウチはエミリー! ちょっと忘れっぽいとこあるけど、優しい目で見てくださーい」


彼女の名はエミリー。黄金色の毛髪で灰色の瞳を持つ少女だ。

歳はサユリの2つ下。


サユリが17歳だから、15歳ということになる。

リアムと同い年だ。


これで、全員の自己紹介が終わった。


そして、タリスは話し始める。


「リムルダから出発して約4時間。ここから少なく見積もっても、エリグハス王国の主軸となる都市につくまでは3週間はかかる。これから3週間の間、行動を共にするんだ」


タリスは饒舌である。

誰にも止められなければ、永遠と話し続けるのだ。


「恐らく、道中で戦いが起こるだろう。その時、仲間の能力、技。そして動き。それを知っていれば、上手く立ち回る事が出来るはずだ。だから、君達の能力、技を教えてくれ。もちろん、私の能力も教える」


フォルネはこの話を聞いて、こう思った。


話長い、と。


フォルネは戦闘面での頭はキレるが、人の話を理解したりする方での頭は全くと言っていいほどキレない。


そして、タリスが言っていることももちろんよく分かっていない。


このタリスって女の人、すげぇ喋るなぁ……。

こっちはもう眠気Maxだってのに。


パッチンとかサユリ姉さんは、こんなのと行動してたのか。

疲れそう……。


「これに賛同してくれる者はいるか? 居ないのなら、私は少し休ませてもらう」


俺は別にどっちでもいーけど、まあよく分かんないし、パッチンとかの反応を見てから決めよう。


「ウチはさんせ〜! タリスも言ってたけど、実戦で仲間の能力が分かってれば困らないし〜!」


この人は確か、エミリー……って名前だよな。

タリスさんとはまた別の種類で騒がしい人だな……。


「俺も賛成。ここの馬車にいる奴らは信頼出来るしな。って言っても、俺は非戦闘要員だから前線に出ることはまず無いと思うけど」


パッチンは……そうだよな。

昔から頭は良かったし、コミュニケーション能力も高かったけど運動神経とかは全く良くなかったし。


「あ、私もパッチン君と同じかな。私に関しては、なにもできないけど」


そういえば、サユリ姉さんはなんでパッチンの旅に着いてきたんだ? ホントに一般人なのに。


いや、パッチンも一般人ですけどね。


「ふむ。それでは最後に君の意見を聞かせてもらおう。勇者フォルネ」


あ、俺か。

そういえば、ガッケルの奴は寝てるんだった……!!


んー、俺はさっきも言ったように、正直どっちでもいいんだけど。


まあ、パッチンとサユリ姉さんが信頼を寄せてる相手なら、俺も信用出来るな。


「んじゃ、俺も賛成!!!」


タリスは皆が賛成の言葉を述べると、姿勢を崩して自分の事について話始めた。


「私の力は、君達とは違う。君達の体内に巡っているのは【魔力】。魔法を放ったり、肉体を強化することが出来る。だが、私は違う」


違う……?

魔力がないってことか……?


「私の体内には、【神力】という力が巡っている。これは、魔力とは全く異なる性質を持つんだ。神力には、持っている人間それぞれに異なる能力を持つ」


異なる能力?


「ちょっと待ってくれ。タリス」


俺は話を止め、タリスに質問をする。


「少し聞いてもいいか? 俺の知り合いに、肉体にダメージが蓄積されるほど、魔力が増えるって奴がいたんだ。そいつは魔力が増えるって言ってたけど、それは神力による能力なのか? 神力による能力ってのには、何か法則性があるのか?」


「ふむ。2つ、お答えしよう。まず1つ目。その“知り合い”とやらが誰なのかは知らんが、そいつは“魔力”が増えると言っていたんだろ? ならそいつは神力の使い手ではない。2つ目、神力による能力には法則性など無い。ほとんどなんでもできる」


なるほど……。

マルクはただの特異体質ってだけか。

神力による能力には法則性が無い……ってことは、ゼロのあの【願いを叶える力】は神力由来の力の可能性もあるな。


魔力じゃ、あんなことは到底成し得ない。


「ありがとう、話を止めてごめん。タリス、続けていいよ」


「神力による技を、【神術】と呼ぶ。まあ、有名なのだと魔王軍のバヴァリアン等も神術を使っていたと言われている。それで、私の神術だが……」


―――ガコッ。


唐突に鳴った何かが折れる音。

それは馬車の方から聞こえていた。


「あ、ぁあ!!! ま、魔物です!」


馬車を操っていた男が、慌てて馬車の中に転がり込んでくる。


魔物……? こんな整備された道に?

商人用の道だから、魔物は入れないように警備されてるはずだ。


「よし、フォルネ。私と一緒について来てくれ」


タリスは俺の腕を引っ張り、馬車から引きずり出した。


他の面々は、いってらっしゃい、とにこやかに手を振っていた。



―――


荒野に佇む一人の少女。

それを傍観している一人の少年。

今、激闘が始まろうとしている―――


なんて事はなく、立っているのは汚れた草の上。

周りにあるのは馬車に潰された果物や死骸のみ。


どこを見ても地。


そんな場所に、少女と少年が立っている。

少年は剣を取り、少女はただ立っている。


「ぐへへぇ……女もいんじゃん」


それに対するのは、醜い顔をしたゴブリン。

キツイ体臭を撒き散らしながら、荒削りな棍棒を握りしめている。


「本当に気持ちの悪い生物だ。フォルネ、下がっていろ。この程度の雑魚ならば、私一人で片付けられる」


「いや、油断すんなよ。危ないだろ?」


「はぁ……まあいい。そう言っていられるのも、今のうちだろう」


ゴブリンは一歩前へ進み、徐々に徐々に二人へと歩み寄った。


「フォルネ、説明するより“見せる”方が私もやりやすいんだ。実際に見せてやる、神術とは何かを!」


タリスは上着をバッと脱ぎ投げ、腕を前に構えた。


「【神術解放(しんじゅつかいほう) 終いの鎮魂歌(ラスト・レクイエム)】」


随分と……。

なんというか、臭い名前だな。


ある一定の歳に達したら心が燻られそうだ。


「ラストレクイエムだぁ? だっせえわざ――― 」


その瞬間、ゴブリンの足が潰れた。

トマトのように肉は潰れ、骨はクッキーのように簡単に折れ、足は潰れた。


「能力の説明をしてやろう、フォルネ。私の神術は、相手の四肢、内臓、骨。全てを手中に支配することが出来る。まあ、本物ではなく、一時的に生み出された模型だがな。私の【終いの鎮魂歌】発動中に、模型に施した行いは全て、現実にある“本物”の身体の一部に反映されるんだ」


は? そんなの、最強の能力じゃねぇか。


「ゴブリン、しようと思えば、お前の心臓をすぐにでも潰す事が可能だ。最も、それでは実験にならんからそんな事はしないがな」


全てを手中に収める……

まるで神じゃないか。


人の生死を、手のひらの上で転がすことが出来る。

なんてやばい能力なんだ。


「実験というのは、ゴブリンの生命力についてだ。ゴブリンというのは、足を潰されてもあまり怯まないんだな。それでは次は―――」


次に、ゴブリンの足が潰れた。

先程までタリスを劣情の目で見ていたゴブリンの目は、恐怖の目へと変わっていた。


タリスは次々にゴブリンの身体を潰していき、最期は脳を潰して、ゴブリンにトドメを刺した。


「スッキリした。戻るとするか、フォルネ」


「あ、は、はい」


【終いの鎮魂歌】……そんなに強い能力になんの制約もないなんてことあるのか?

俺の属性変化には大した制約はないけど、高度な魔力操作が必要だ。

ならタリスも、高度な神術の操作力みたいなのがあるのかな。


「何をボケっとしている? 早く戻るぞ、皆が心配している」


タリス・アレリンドット……かなり頭のおかしいやつだが、かなり強い。

関わり方は、考えよう。



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