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「フォ〜ルネ!」


彼女は、俺の肩をぽんと叩き、俺の名を呼んだ。


なんだ? と、これに返答する。


その後は、いつも通りの会話。

くだらないけど、楽しい。


あの時は、そんな日々がいつまでも続くと思ってた。


だけど、それは違った。

少し考えれば、分かることだった。


冒険とは、戦いとは――――。


いつ、いかなる時でも命を賭してするものだということを。


俺は、甘かった。


甘かったんだ――――――。







「どうするのだ? 勇者よ」


ゼロが、フォルネに問いかける。

ゼロが最初にそう問いかけてから、既に2分が経とうとしていた。


「オイ、ガッケル。ラリバーの奴はナニをシテいるンダ」


少し離れた所で二人を見ているのは、ガッケルとマルクの2人。


ガッケルは、ただ無言でフォルネとゼロを見つめていた。


「…………」


呆れてきたのだろう。

ゼロが姿勢を崩し、フォルネに別の言葉を投げた。


「なんだ。願いは叶えないのか。人間は皆、自身の欲に忠実な生物だと思っていたんだがな」


もし、リアムを生き返らせたとして、果たしてリアムはそれを喜ぶのか?


リアムだって、一度死んだのに再び蘇ることなんて望んでないじゃないか?


それに、もしリアムがそれを望んでいたとして。

それは、非人道的な行為だ。


死者を生き返らせるなんて、人間、いや生物の出来ることじゃない。


そんなのが出来るのは、神だけだろ……!


「俺は……俺は……」


口に出そうとしているのは、願いなんて叶えなくていい。という言葉。


だが、俺の魂が、それを言わないようにと規制している。


「願いなんて……」


「願いなんて?」


俺は……。


出そうな言葉を必死に噛み殺して、咄嗟に出た言葉を口に出した。


「……魔神軍の、居場所を教えてくれ」


咄嗟に出たのは、そんな言葉だった。


「そんなので良いのか。少し待て……。よし、分かった。現在、魔神軍は【魔王の地】という所に居るみたいだな」


こんなにもあっさりと分かるのか……。

今まで、ほとんど入手出来なかった魔神軍の情報が……。


「もう、終わりか?」


「あぁ……もう、終わりだ」


俺がそう言うと、ゼロは面白くなさそうな顔をした。


そして、ゼロは肩の力を抜き、元の龍の姿へと変化した。


「【さらばだ。勇者よ】」


ゼロは翼を大きく広げ、どこかへと飛び去った。


ガッケルとマルクの2人は、今起きた事に理解が追いつかない様子だ。


フォルネは剣を鞘に仕舞い、呆然と立ち尽くしていた。


「ガッケル。行こう」


「おい、フォルネ。一体何があったんだ……」


「目的地が変わった。今すぐに魔王の地に――」


ガッケルは自分の話を全く聞かないフォルネに腹が立ったのか、フォルネに言葉をぶつけた。


「だから、何があったかって聞いてんだよ! さっきの龍に、テメェ何言われた!」


「……願いを叶えてやるって言われた。それで、俺は……」


ガッケルは、よく理解は出来ていないようだが、フォルネに1つの疑問を投げかけた。


「願いィ? 何、願ったんだ?」


「魔神軍の居場所を……教えてもらった」


「あ……そうか。そんなのでいいのかよ? どうせ次行く国で情報は腐る程あるはずだぜ?」


次行く国……。

北の大国【エルグハス】。


世界一大きい国として有名で、エリグハスがある大陸1つだけで、俺達がいた大陸の約2倍の面積を持つ。


つまり、エリグハス王国1つだけで、ザーバーム大陸に存在する三代国家。


【ザリバーム帝国】 【ガーヴァン王国】 【デレーズ王国】


その全てを凌駕する力を持つのが、エリグハス王国。


国同士の力比べというのはよく分からないけど、それだけでエリグハス王国が異次元なのは分かった。


「ごめん、ガッケル……。ちょっと気が動転してた」


俺がそう言うと、ガッケルは「なんて事ねーよ」と言った。


ガッケルとは、これからもっと仲を深めていきたいな。

まだ、俺はガッケルの事、何も知らないから。


「それじゃ、行くぞ!」


ガッケルが急に口に出したその言葉に、俺は少し驚いて、声が漏れてしまった。


「え?」


「え? ってなんだよ。教えてもらったんだろ? あの龍に。魔神軍の居場所」


ああ、そうだった……。


「魔神軍の居場所は、『魔王の地』ってとこだって、ゼロは言ってた。俺はその魔王の地ってのをよく知らないんだけど、ガッケルは知ってる?」


「たりめぇーだろ! 魔王の地って言ったら、俺の友達が行ってるとこだぜ!!!」


ガッケルの友達が、魔王の地に……!

なら、ガッケルもそこについて詳しいはずだ!


「ま、友達が詳しいってだけで、俺はなーんも知らねぇけど」


……そんなことだろうと思った。

少しでも期待してしまった俺が馬鹿だった。


「オイ、俺モウ帰ってイイカ?」


あ、マルク。


マルクは、俺とガッケルが話している間、ずっと門に腰掛けていたみたいだ。


「おいテメェ、勝手に帰ろうとしてんじゃねェ!」


ガッケルがそう怒鳴ると、マルクは気圧されたのか、無言になってしまった。


「ジャア、俺はドウすればいいンダ……」


ガッケルは、少し考えた後、こう言った。


「うし、フォルネ。マルクもこれから一緒に連れて行くぞォ!」


は!? 連れてくって……仲間になる。って事だよな。


仮にも、一度俺を、いや2度か。

殺そうとした奴を、ノコノコと仲間に引き入れる馬鹿がいるか……!


「いや、ガッケル待て。そいつは……マルクは俺の事を殺そうとした奴なんだぞ?」


「ソウユウ訳だ。諦めろ……ガッケル」


ガッケルは悔しそうな顔をしたが、その後はなにも言わなかった。


俺達はマルクと別れを告げ、門を出た。


直後、俺はあることに気づいた。


そういえば、パッチンはどうなったんだ。

あの後、少しは時間を稼いだはずだけど……。


「ガッケル、俺はパッチンの様子見に行ってくるけど、来るか?」


「んぁ? 俺ぁ良いよ。そこで馬車借りて待ってんよ」


そろそろ、馬車借りるのも面倒くさくなってきたな。


あ、もう馬車を買えばいいじゃん。

金には余裕あるし、相当高くなければ買えんだろ。


そうと決まれば、パッチンの安否を確認した後、馬車を買いに行こう!


……馬車の買い方分かんねぇけど。



◆ ◆ ◆


【リムルダの闘技場】周辺の平原にて。


平原には、相変わらず、鳥の囀りが響き渡っていた。

だが、その平原には多くの人々が散らばっていた。


この多くの人々の正体は、リムルダに襲撃した暗黒龍から逃げてきた者達だ。


「おい! なんだよあれぇ! 金全部置いてきちまったよォ!」


こんな時まで、金のこと。

まあ、気持ちは分からなくもないが、死んだら元も子もないだろ。


「ねぇ、パッチン君。フォルネには会えた?」


自分に話しかける、華のような女性。

フォルネの姉 『サユリ・ラリバー』 だ。



「あー、会えましたよ。元気そうでした。サユリさんは、フォルネには会わないんすか?」


「んー、フォルネ忙しそうだしね〜。あ、でもフォルネも次行くのはエリグハス王国よね? なら、多分そこで会えるんじゃない?」


あー、確かにそう言われてみれば……。

リムルダの闘技場が目的じゃないんなら、ドンラの大橋に来た理由なんてエリグハスへの入国以外にないか。


にしても、人が多いな。

他の連れはみんなどっかに行ってしまったし……。


というか、あいつらはどこいったんだ。

さっきまでは確かに、一緒に居たのに。


そんな事を考えていた時、サユリが声をかけてきた。


「ね、ねぇ……パッチン君。あれって……」


サユリさんが指差す方は、空だ。

そして、その空をゆっくりと見ると、何か異変があった。


「パッチィイ〜〜〜〜ン!」


上空から落ちてくるフォルネは、日光に照らされてよく顔は見えなかったが、いつもと同じフォルネだった。


ドスンと、フォルネが着地する音が鳴り、フォルネはパッチンとサユリに近付いて行く。


「あ、サユリ姉さんもいたんだ。無事で良かった!」


フォルネの奴、あんな上空から落下してよくピンピンしてられんな……。


普通だったら死んでるぞ。


「……! あ、久しぶり。フォルネ」


「うん。久しぶり姉さん。で、二人共。これはどうゆう状況?」


フォルネは辺り一帯を見回して、そう問う。


「あの暗黒龍ってやつから、みんな逃げてきたんだ。あ、そうだフォルネ。お前さ、黄金色の髪の毛で、目が灰色の女の人見てないか? 俺らの知り合いなんだけど」


フォルネは少し考えたが、記憶の中にその女性が居ないことを確認すると、すぐに返答した。


「いや、俺は見てない。ガッケルとマルクなら見てるかもしんないけど……」


そうか……。

まあ、この大勢の人間が捌けてきたら見つけられるだろ。


タリスの奴は……あいつなら心配ないか。


「そろそろ行かないと。じゃあな!」


フォルネが再び上空へと跳ぼうとした。

だが、それを俺が止める。


「フォルネ、お前もどうせエリグハス王国に向かうんだろ? なら俺らの馬車、乗るか?」


そう言うと、フォルネは申し訳無さそうな表情をした。


「ごめん。エリグハスには行かないんだ。俺達がこれから行くのは魔王の地ってとこ」


魔王の地……!?

何があって、そんなとこに……。


「フォルネ……! 魔王の地なんて行くのは駄目!」


サユリが珍しく声を荒げた。

その声に驚愕し、フォルネは再び腰を伸ばした。


「サユリ姉さん。でも、いるんだ。魔王の地に、奴らが!」


奴らだと……!? 魔神軍って事だよな。

どうやって、そんな事を特定した。


数ある冒険者が、魔神軍の居場所を特定しようとしたが、ほとんどが不発に終わった。


「お前、どこでそんな事知ったんだ」


「まあ、色々あってね」


色々ってなんだよ! そこが一番気になるだろーが!


「まあいい。でも、どうやってあそこまで行くつもりだ? 馬車では到底行けないぞ」


俺がそう言った瞬間、フォルネは声を荒げてこう言った。


「え!!!??? まじかよ!!!!!!」


案の定、といった所か。

多分、魔王の地がそんなに離れていることを知らないんだろう。


魔王の地は、この世界の最も東にある大陸。

行くだけなら、船なりなんなりで行けるんだが、魔王の地への渡航者が居ないのは、魔王の地へと向かう時の海に原因がある。


魔王の地に近づけば近づくほど、魔の力はどんどんと濃くなっていく。


魔王の呪いとも言われている。

その影響は海にまで及び、海を汚染し尽くしている。


それに、その汚染された海が住処である凶悪な魔物共がうじゃうじゃいて、並の冒険者では刃が立たないと言われている。


それだけ、向かうのが難しい地なんだ。


大陸に着く前に、死ぬことだって珍しくない。


「どっちにしろ、船が無いと行くことは出来ないな。そういえば、エリグハスは船の生産も盛んって聞いたことあるけど……」


「そっかぁ……。船、ねぇ…………」


フォルネは時間をかけて、じっくりと何かを考え込んでいるようだ。


「んー、んー……」


5分ほど経った後、フォルネの答えが出た。


「おっけー! パッチン、サユリ姉さん。エリグハスまで、行動を共にしよう!」


……! やった。

また、フォルネと一緒に、色んな話ができる。


やった……!



こうして、エリグハス王国までの道のりを共にすることになったフォルネ達とパッチン一行。


だが、彼らは知らなかった。

これから起こる惨劇と、悲劇を……!


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