願い
「はぁッ!!!!」
フォルネはまず、自身の魔力を放出した。
どの属性にも属さない。
魔法ではなく、ただの魔力放出。
魔力放出は、魔力の性質をコントロールして威力を上げる【魔法】とは違い、自身の体内にある魔力をそのままの状態で放出する。
そのため、威力は魔法に比べると格段に落ちてしまう。
だが、その分メリットもある。
魔力放出は、必ずどれかの属性に属する魔法とは違って、どの属性にも属すことがない。
そのため、何らかの属性に耐性がある者でも、防ぐことが出来ない。
フォルネは、まず魔力放出で相手の動きを止めることに専念したのだ。
自分の攻撃が当たるように……。
「魔力放出か。面白い…… だが! 我には敵うまい!」
魔力放出で動きを止められた時間は、約0.1秒。
だが、その0.1秒でフォルネは次の攻撃を繰り出していた……!
「属性変化 『風火』」
剣に風が宿る。
それは辺り一帯を切り裂くような強風だった。
そして、その強風に紛れ込むように燃え盛る火炎。
本来ならば、風によって消えゆく運命にある炎は今、共存していた。
「剣に属性を宿し、その属性同士を融合させる業か。高度なテクニックだ。幾千万年戦ってきた中でも、その技を使う者は少なかった……。お主で6人目だ」
6人……。
コイツがどんぐらい生きてんのか分かんねぇけど、昔にも俺と同じような事をしたやつが居たってことか。
ん? 待てよ。
もしかしたら、その“6人”の中に鬼神も含まれているんじゃないか?
俺のこの【属性変化】も、鬼神の力によるものだし――
「なんだ? 戦いの最中に考え事か。随分と余裕があるみたいだな」
ゼロの動きは速かった。
ほぼ0秒と言っていい時間の間に、
地を蹴り、速度を増す。魔力を込める。魔法を放つ。
そして、蹴る。
その4つの動作を、ゼロはわずかな時間で成した。
「あっぶねぇ!!!」
マジかよ……!
攻撃の直前で、魔力強化に徹してなかったら死んでた。
腹にガッポリ穴が空いて、内臓垂れ流しになるぞ……。
てか、どうなってんだよ。
ゼロの攻撃は。
防御していたのに、腹には火傷の跡みたいのが残ってる。
皮がベロンと向けて、肉の赤い部分みたいのがチラリと覗いている。
まあ、この程度なら自然に回復するからいいんだけど……。
あともう少し深い攻撃だったら、内臓が潰されていたな。
「はぁ!」
次は俺だ。
俺の動きは、お世辞にも速いとは言えない。
だが、今の俺は違う。
本来の速度に、風火による強化付きだ。
強風で動きを無理やり速くする。
身体がバキバキになる可能性もあるけど、一か八かだ。
俺の身体が風火の風に耐えられるか、それとも背骨が折れるか。
「【強風】!」
フォルネの身体が、背に周った風に押される。
ベキ、と少しばかり嫌な音が鳴るが、フォルネは気にしない。
この程度の痛み、これまでに受けてきたものに比べればへでもない。
「速度を無理やり上昇させたのか……! 乱暴者め」
勢いは留まることを知らず、一直線にゼロの元へと飛び去る。
「だが、その攻撃も防御すれば問題無し。【光盾】!」
閃光が、フォルネの目を刺す。
だが、フォルネはもう動きを変えることはしない。
ただ、一方方向に進むだけである。
フォルネが剣を振った、その時だ。
カンッ、と乾いた音が鳴り響き、フォルネの身体が地に落ちる。
フォルネの突進は、光盾に防がれた。
呆気なかった。
フォルネの骨を賭けた攻撃は、ゼロにとってはなにも無かったと同等。
「所詮……人族のような下等な種族では、我らのような高次元の存在には敵わないという訳か。勇者と言われている者なのだから、傷1つは付けれると思ったんだが」
フォルネの脳裏には、ここで1つの疑問が浮かんだ。
今、コイツは“我ら”と言った。
この言葉が正しいんだとしたら、ゼロのような奴が少なくとも二人以上居るってことか?
気にし過ぎか…?
よし、そろそろあれをぶちかましてやるか――――
「う、うわー……。負けた。くやしー」
マルク、ガッケル、そしてゼロ。
皆の視線が凍る。
あからさまな演技。
誰もが分かるような、下手くそな演技だ。
「は? お主、舐めているのか?」
「なんだお前。油断してていいのかよ」
地に野垂れているフォルネが人差し指をくいと動かした。
その瞬間、短剣が2つ、ゼロへと飛んでいった。
ゼロでも防御出来ないほどの攻撃だった。
防御する間もなく、短剣は二本ともゼロの背に突き刺さっていた。
短剣には、氷が纏わりついていた。
その氷は、ゼロの肉体の中で内臓を凍らせ、アイスのようにした。
「なっ……?」
ゼロは笑っていた。
先程まで、苔にしていた少年が、自分にダメージを与えた事に対する喜びに。
久しぶりに感じた、戦いの歓び。
それを与えたのは、13歳の少年。
その事実は、ゼロを大きく動かした。
「ふふふふ……」
「なに笑ってやがる! 馬鹿にしてんのか?」
ゼロは笑い、フォルネは怒っていた。
ガッケルとマルクは、その状況をあまり理解出来ていなかった。
「よし、気に入った。勇者よ」
「はぁ?」
気に入った……って、さっきまで街をぶち壊そうとしてた奴にそんな事言われても「それで?」としかならねぇっつーの!
それに、今のどこに気に入る要素があったんだ。
俺はただ、さっき投げておいた短剣に属性を付与して動かしただけなのに……。
もしかして、コイツМか?
「その歳にして、その実力……」
ゼロがコツコツと歩く。
フォルネの背は回復し、フォルネは立ち上がっていた。
「お主は素晴らしい。類稀な才能を持っている。その祝いとして、褒美をやろう」
「褒美ぃ?」
「褒美として、“なんでも”叶えてやろう」
なんでも……?
「もちろん。失った命をこの世に戻すことも可能だぞ? 我はお主らよりも上の存在だからな」
失った命……。
死んだ奴を、生き返らせる――
リアムを―――
いや、それは駄目だ。
そんなの、非人道的だ。
「どうした? 生き返らせたい人間でもいるのか?」
そもそも、コイツが嘘つきの可能性だってあるんだ。
俺は……。
「リ……リア……」
俺は、どうすればいいんだ――――




