暗黒龍 出現
街の門付近で、俺とガッケルは話していた。
「ほーら、言ったこっちゃねぇだろ?」
ガッケルの言う通りだ。
ガッケルの読みは外れていなかった。
暗黒龍だ。
なんで暗黒龍なんかが…。
ここにいる全員が束になってかかっても、勝てるかどうか怪しい…。
逃げるか? いやいや、そんな事したらここの住民が死んじゃうだろ。
「おーい、フォルネ!」
こ、この声は…!
「パッチン!」
てっきり、とっくの昔に帰っているものだと…!
試合が終わってから、もう2時間だ。
なんでまだ帰ってない。
いや、直接まあ会えたのは嬉しい。
だけど! なぜこのタイミングなんだ。
「さっきの試合凄かったな。あの女の人は…残念だったけど」
パッチンが話していると、それを見ていたガッケルは疑問気に俺に問いかけた。
「なあフォルネ、コイツ誰?」
ああ、ガッケルはパッチンのこと知らないんだっけ。
「コイツはパッチン。俺の親友だ。パッチン、コイツはガッケル。俺の新しいパーティメンバー」
パッチンは、ガッケルに挨拶をした後、周りを見渡して何か変だと感じたのか、俺に聞いた。
「そういや、リアムさんは?」
そうか。
パッチンには、まだリアムが死んだ事、話してなかったっけ…
「この間… ある奴との戦いで…」
そう言うと、パッチンは途中で申し訳無さそうにして、俺を止めた。
「ああ! フォルネ。もう言わなくていいって…」
その時だ。
耳を塞ぎたくなるほどの咆哮が轟いた。
何かの叫び。
肉体の芯が震えるほどの、叫びだ。
「んだよ… もう来たか」
街の入口、そこに居た。
とてつもなくデカく、燃え盛る黒い火炎のような鱗を持つ怪物が。
暗黒龍…!
「フォルネ…ガッケルさん。なに? あれ」
「暗黒龍だ…。パッチン、お前は逃げろ」
パッチンだけでも、逃さないと…。
パッチンは、暗黒龍の前では戦闘能力が無いに等しい。
ただの、一般人だ。
多少喧嘩が強くても、暗黒龍相手じゃそれは塵の差にもならない。
「おい、フォルネ。パッチン逃して、俺らで龍ぶっ殺すぞ!!」
「おう!」
だけど、こんな巨大な敵…。
一体どうすれば。
数秒足止めするにしても、数秒じゃパッチンは逃げれない。
最低10分はないと…。
「ゥウウォオオオオオオォオオ!!」
暗黒龍が、遂に動き出す。
破壊を、殺戮のみを楽しみとしている【破壊神】。
その肉体は、幾千もの冒険者を葬ってきた返り血で、黒く染まっている。
その血は、呪いのようなものだ。
死んでいった冒険者の無念。
それが、暗黒龍の肉体へとこびれ付いている。
「属性変化 『氷』!」
「おい、パッチン! さっさと逃げやがれ。俺ら二人でコイツを止める!」
パッチンだけじゃない。
この街の人々を、沢山救わなきゃ。
出来れば全員助けたいけど、全員助けることは不可能。
だからその分、出来るだけ多くを助ける…!
一足先に、戦場へと足を踏み込んだのはガッケルだ。
ガッケルは、物怖じすることなく暗黒龍へと突進した。
自慢のスピードで、ガッケルは連撃を繰り出す。
「オラオラオラァ!!」
それに負けまいと、暗黒龍も反撃の一手を繰り出した。
「ゥウ! ぁあァ!!」
暗黒龍は、体内にある体液を瞬時に火炎へと変化させることが出来る。
そしてその火炎は、人体を一瞬で溶かすほどの高熱である。
暗黒龍が火炎を噴射した。
街が溶けている。
ドロドロに溶けたチョコレートのように。
「あっぶね! フォルネ、お前もさっさと手伝え!」
「おう!」
足を力を入れ、大きく跳ぶ。
フォルネは上空を大きく舞った。
その氷剣は冷気を発しながら輝いていた。
「おっりゃぁあ!!」
空を蹴り、フォルネの速度は勢いを増す。
その勢いを止めることなく、氷剣を振りかざした。
だが。
「刃が通らない…!?」
フォルネは即座に引こうとするが、空中では地上のように軽く動くことは出来ない。
龍は爪を立て、憤怒している。
その瞬間、「ザシュッ」と気持ちの悪い音が鳴り、龍の鉤爪が、フォルネの肉を切り裂いた。
「うごっ…! 」
まじか。
氷剣の攻撃が通らない。
それに、苦しい…!
内臓に傷がついたのか? 呼吸が荒くなる。
回復魔法だ。
回復魔法を…。
胸に手をかざすが、魔法は出ない。
魔力が練れないんだ。
なら、このまま死ぬか!?
血が無くなって、死ぬのか?
違うだろ。
俺はこんなとこでくたばる訳にはいかない。
けど… もう俺は無理だ。
俺は今、空中から落下している。
後0.1秒後くらいには、地面に叩きつけられて、潰れたトマトになっちまうんだ…!
「こんなとこで死なせるかよォオ!!!」
俺の体を、誰かが掴んだ。
力強い手だった。
ガッケル!?
ガッケルが、俺が落下する直前に、助けてくれたのか。
「大丈夫かよ。フォルネ」
実際、大丈夫じゃない。
だけど、弱音は吐いてられない。
「大丈夫だ。もう一回やるぞ…」
俺の胸には、大きな斬り傷がある。
胸から腰まである、大きな傷だ。
これは予想だが、【癒やしの耳飾り】の効果。
それは、時間経過で、『癒やしの風』と同じ効果を発揮するのではないか。
時間経過というのがどのくらいなのかは分からないが、もし『癒やしの風』と同様の効果なら、この程度の斬り傷なら治せるはず。
現に、傷ついた内臓が治ってきている感覚がある。
魔法を使ってもいいが、魔力は出来るだけ温存しておきたい。
属性変化には、魔力が必要だからな。
それに、属性変化の『炎』と『雷』を同時に使うにはかなりの魔力が必要になる。
「属性変化『雷炎』。」
「『速脚蛸足』。」
暗黒龍は、俺達二人で――――
「ヨオ」
背後に、一人の男が立っていた。
筋肉質な男。
腰には、2つの剣を添えている。
先程、戦った相手。
マルク…?
なぜ、マルクがここに。
「タスケにキテやった。カンシャしろ」
何故かは分からねぇ。
けど、強かった敵が味方になるなんて頼もしいぜ。
「じゃあ、3人で!」
「「おう!」」
稲妻が疾走った。
音の速度で、ガッケルが飛んだ。
その直後、マルクも素早く移動した。
ガッケルは龍の右腕近く。
マルクは左腕の近くへと移動。
マルクとガッケルが移動したのを確認した後、フォルネは龍の背後へと回った。
「ハァ!」
マルクの剣が、龍の鱗を貫いた。
マルクに気を取られている間に、ガッケルは攻撃を開始した。
8回にも及ぶ連撃の末、ガッケルは龍の鱗を剥ぎ取った。
龍は叫びを上げるが、それに怯まずにフォルネも攻撃を開始する。
炎雷剣は紅く燃えさかり、金色に輝いていた。
フォルネは剣を振り降ろし、龍の尾を断ち切った。
「よし!!」
だが、今の一撃でフォルネの魔力は半分以下へと減少してしまった。
「頼む!」
今みたいな攻撃を撃とうと思ったら、あと一回しか無理だ…。
炎雷剣は、魔力消費が激しすぎるな…。
他のも考えておかないと…。
「『ギョォオオオオァア!!!!!!』」
脳が震えるほどの、大きな叫び。
耳が痛くなる。
ズキズキと、頭が揺れる。
いや、脳か。
脳みそが、揺れてるんだ。
俺は地べたに手をつき、動くことが出来なくなっていた。
「う、クソ! オマエら二人寝てんじゃネェヨ!」
マルクは単身で暗黒龍に突っ込んで行った。
「フンッ!」
剣を何度も振るが、かすり傷にもならない。
絶望はしない。
なぜなら、龍の攻撃でもマルクに傷を付けることは難しいのだ。
暗黒龍がマルクを殺すには、暗黒龍の爪を今の10倍程度に鋭くしなければならないだろう。
だが、それはあくまでも【今】の暗黒龍の状態での話。
暗黒龍は、古代から存在する唯一の龍だ。
そのような者が、マルク程度の存在に攻撃を与えられないなど、ある訳がない。
暗黒龍は、現在 実力の約5%を出している。
魔力強化は一切行わない。
爪の素の鋭さだけでの攻撃だけだ。
炎ですら、暗黒龍の出せる最高温度には遠く及ばない。
「ザコが!」
マルクの足元に、蜘蛛の巣のような模様が張り巡らされる。
それは蒼い光を帯びていた。
「コレで、お前をコロス!」
魔法陣とは、魔法の威力や速度を上昇させるためのものである。
魔法陣の難点は、発動までに時間がかかることと、細かな魔法の調整ができない事。
良い点は、展開さえしてしまえば良いところ。
魔法陣は、本人が解除をしない限り永遠に残り続ける。
もちろん、特別な場合でないかぎり、本人が死んでしまえば魔法陣も消えるが。
後もう一つは、なによりも威力が上昇することだ。
威力の上昇範囲は、展開した魔法陣による。
現在、マルクが展開している魔法陣は、元の魔法の威力を2倍にするものである。
「2倍の攻撃をクラエ! 『氷山散』!」
マルクの前に、氷の刃が出現した。
それは不格好な氷山を縮めたような形をしており、それがいくつもマルクの前へと現れた。
全てが出現した直後、その氷の全てが暗黒龍へと飛んでいく。
空気が凍り、その場所のみで氷河期が訪れているようだ。
「シネ。クロドラゴン」
マルクがそう唱えた後、氷の刃が暗黒龍の身体につきささり、風穴を開けた―――
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