闘技場での決戦 ②
「おりゃァア!!!」
ガッケルの拳が、空気を切り、マルクの肉体にぶつかる。
「グっ…! 凄まじい力ダ。ダガ! オレに下手に攻撃ヲ加えないほうがイイゾ!」
マルクが地を蹴り、宙を舞う。
上空は、人族にとっては不利な場所だ。
なぜなら、上空では身体を思うよう動かすことが出来ないからだ。
「アリサさん!」
「分かった…!」
アリサは手にしていた剣を思いきりマルクへと投げつけた。
この程度の攻撃では、マルクにかすり傷すらつけることが出来ない…だが。
アリサさんの剣に意識を奪われている間に、俺が背後から思いきり斬る。
その後、ガッケルが地面に落ちてきたマルクを超速度で蹴り、その後3人で同時に叩く!
上手くいくかどうかは分からんが、やってみるしか無い。
「『炎雷斬』ッ!」
「ナニ!?」
背後は取った。
油断すんなよ。
マル―――
フォルネの腕に、衝撃走る。
なんだ…!?
腕が…いてぇ。
折れてんのか?
マルクの奴、アリサさんの剣から俺に意識を移して俺に攻撃を…
もう右腕は使い物にならねぇ。
いや、回復魔法を使えば…
「『癒やしの―――」
マルクによる攻撃。
それにより、喉は嫌な音をたてて潰れた。
声を出すことも難しい。
必死に捻り出して出た声は、掠れた喘ぎ声だけ。
「くっそ! フォルネがやられた! アリサ、俺らだけでコイツ片付けんぞォ!」
すまない。ガッケル、アリサさん。
俺はなんの役にも立てなかった。
それどころか、迷惑をかけてしまった。
「詠唱ガデキなければ、魔法はウテナイ。残念ダナ。ラリバー」
「うぉりゃァアァア!!」
ガッケルの攻撃が繰り出される。
ものすごい速さでの連続攻撃だ。
「うぉおおおお!!!」
マルクはびくともしない。
肉体の強度が更に増したのだ。
「はああ!!」
ガッケルの猛攻が続く中、アリサの足は動いていた。
ガッケルの手助けをするために。
まだ属性が付与されているフォルネの炎雷剣を手にして、アリサはマルクへと攻撃をしかけた。
「フンッ!!」
マルクの腕に、オーラが纏った。
あれは…魔力だ。
腕に、全魔力を集結させたんだ。
今マルクに殴られたら、骨が折れるどころか即死もあり得る。
「ちッ、ノーダメージか…! なら!『速脚蛸足』。」
ガッケルの足が、8本に増幅した。
いや、増幅したように見えた。
残像のようになっているのか。
「オッりゃァア!」
「両方向カラの挟み撃ちか。ヒキョウなことを…!」
「ガッケル君!」
合図を同時に、攻撃が開始される。
ガッケルは速すぎて残像となっていた足で、何度も蹴りを入れた。
まるで銃でも撃ってるみたいな音が、ガッケルの攻撃と共に響く。
アリサは炎雷剣を振り、マルクの身体に攻撃を放った。
マルクはその攻撃に、怯んだ。
ガッケルの攻撃により、マルクは血反吐を吐き、アリサの攻撃により斬り傷ができた。
「やった…! ガッケル君――」
喜んでいたのも束の間。
アリサへとマルクの打撃が入れられた。
それも、全魔力で強化された打撃だ。
「あ゛…」
アリサの腹に、腕が貫通している。
マルクの腕だ。
マルクの身体は既にボロボロだが、ガッケルやアリサさんを殺せないほどじゃない。
「ユダン、スルナ」
直後、アリサさんは死んだ。
内臓ごと貫かれ、即死だった。
「うわぁァア!!」
ガッケルの咆哮が、闘技場の全てを包み込んだ。
既に巨人族の男の戦いは終わり、こちらに向かっている途中だった。
だが、その叫びに驚き、巨人族の男の足は止まっていた。
「あ゛…う゛ぅ!」
俺も、怒りを抑えられなかった。
もう俺は戦力外と言ってもいい。
けど、戦う。
最期の時まで諦めない。
俺は足元に滑り込んだ剣を手に取り、叫んだ。
「あぁあァア!!」
ガッケルも、構えた。
「テメェ! ぶっ殺す!」
ガッケルの拳に、『魂』が乗った。
フォルネの剣にも、『魂』が乗った。
『魂の一撃』である。
「マジか! 二人ドウジに!」
怒りによる爆発。
120%の怒り。
「フォルネ、殺るぞ!」
たりめーだ。
俺ら二人で、マルクをぶっ殺す!
作戦なんてクソ食らえだ。
感覚でいく。
「コイ!」
先に放たれたのは、ガッケルの一撃。
マルクの強度をもろともせず、ガッケルの拳が繰り出された。
フォルネも、右腕の痛みを掻き消すかのような叫びを発しながら、剣を振った。
マルクは驚いた。
ダイヤモンドよりも硬い身体を、豆腐でも攻撃するみたいに攻撃する二人に。
そして、
魂の一撃とは、なんて恐ろしいんだ。
とも思った。
マルクは二人の同時攻撃で、全身が吹き飛んだ。
止めることの出来ない速度。
肉体の抵抗。
これ以上動けば、肉体が二度と動かなくなるという忠告が肉体から発せられていた。
巨人族の男は、弾丸のように飛ぶマルクに気付く間もなく、倒れた。
マルクに衝突したのだ。
マルクはその後、闘技場の観客席に飛んで行き、そこでやっと動きが止まった。
マルクの身体はボロ雑巾みたいにボロボロになっていた。
巨人族の男も、強い衝撃により気絶。
3ヶ月は動けない状態だそうだ。
決着がついた。
闘技場での戦いの終わりが来たのだ。
【しょ、勝者は! フォルネ・ラリバー選手 ガッケル・サラバーン選手 のお二人です! 皆さん、勝者に拍手を!!!】
観客席から、歓声があがった。。
1人が歓声を上げた途端、他の観客も全員歓声を上げた。
「おい! 司会!!!」
ガッケルが、その場の空気を止めた。
「勝者は“3人”だ。アリサも入れろ」
ガッケルはそう言い、立ち去った。
【えー、ここで訂正を。勝者は3人! フォルネ選手。ガッケル選手。そしてアリサ選手です!!! 今一度拍手を!】
アリサさん。勝ったよ。
でもごめん。
俺のせいで巻き込んでしまって。
俺がいなかったら、アリサさんは生き残っていたのかもしれないのに。
――――
「『癒やしの暴風』」
ここが、勝者の間。
闘技場での優勝者だけが案内される部屋か。
「ありがとうございます。サッチさん」
「いえいえ」
サッチさんとは、闘技場専属の僧侶だ。
戦いが終わって、生き残った人の治癒を担当している。
「では、ガッケルさんも…」
「いや、俺は良い」
ここの部屋に居たのは、俺とガッケル。
そしてサッチさん。
あともう一人…
椅子に座っている、闘技場の管理者。
どんだけ凄い人なんだ…
そして、管理者が振り向いた。
「優勝! おめでとーーーん♡! 久しぶりだよ〜 マルクちゃん以外がこの部屋来たの♪」
おっさん…だよな。
おっさんが、女みたいな喋り方してる。
「で、なんだよおっさん」
「あっれれー、ガッケルちゃん失礼だなー! 私はれっきとした『女』よ」
ガッケルは面倒くさそうな表情で、あー、そうですか。
と軽くあしらった。
「自己紹介が遅れたわね。私はここ、『リムルダの闘技場』管理者のパッシム・ウンギョンよ。よろしくね」
「俺らになんかくれるんですか?」
「当たり前じゃなーい。と、言いたいところなんだけどね…この間マルクちゃんに賞金用のお金全部取られちゃってお金はないのよ…ごめんね?」
別に、お金が欲しかった訳じゃないしいいんだけど。
「代わりと言ってはなんだけど、ガッケルちゃんは武道家で、フォルネちゃんは勇者なのよね! それで役に立ちそうなものを…」
パッシムは大きな机の中をゴソゴソと漁って、2つの物を取り出した。
「ガッケルちゃんには、この腕輪を、あ♡げ♡る♡。筋力を増加させる効果のある腕輪よ」
そういえば、癒やしの耳飾りが俺にはあったじゃないか。
多少の傷なら治せるらしいし、あの時喉は治ってたんじゃないか。
いや、時間経過で治るタイプなのかな。
だとしたら、あの時声が出なかったのにも納得できる。
まあ、どうでもいいことか。
「フォルネちゃんにはこれ。指輪をあげる。肉体の強度を上げてくれるのよこれ。便利でしょ?」
中々良いじゃないか。
有り難くいただこう。
「もう帰っていいのか? 俺はフォルネと話があるんだ」
え、話ぃ…?
俺そんなこと聞いてないんですけど。
「あら…残念。大切なお話みたいだし、もう行っていいわよ♡。次回もまた、参加してちょうだい♪」
ここには、二度と来たくない。
闘技場なんてもうごめんだ。
階段を降りている最中、ガッケルは足を止めて俺に話した。
「なぁ、やっぱり駄目か? 仲間になんの」
…やっぱりその事か。
今回ので分かった。
俺とガッケルは息が合う。
かなり良いコンビネーションだった。
正直、俺はもうガッケルを仲間にしたい。
けど、俺は誓った。
もう仲間は作らないって。
その時、俺の耳元で何かが囁かれた。
「もう、いいよ」
と、一言だけ。
この声は、俺の耳がおかしくなければリアムの声だ。
意図は分からない。
幻聴かもしれない。
だけど俺は、この言葉を仲間にしていいよ。という意味だと受け取った…!
「…分かった。ガッケル。俺と共に、魔神軍をぶっ倒そう」
そう言うとガッケルはにっこりと笑い、叫んだ。
「うっしゃぁあ!!」
はは…
これで、いいんだよな。
リアム。
なーんて、聞こえるわけ無いか。
―――
「ふんふふーん。なあフォルネ。ここを出たら、次はどこへ行くんだ?」
「ここを渡って、エリグハス王国に行くつもりだよ。あれだけデカイ国だったら、魔神軍の情報も1つや2つは見つかりそうだし」
ここにもう用はないし、さっさとエリグハス王国へと向かうか。
ま、また機会が有れば立ち寄ることにしよう。
エリグハスから戻る時は結局、ドンラの大橋を渡るんだし。
街から出ようと歩いていた時、地が揺れた。
地震だろうか。
珍しいとは思いつつも、すぐに揺れが治まったので歩き始めた。
だが、ガッケルは何か勘づいていた。
野生の勘というものだろうか。
ガッケルは、その揺れが何によるものなのかを見抜いたのだ。
「龍が、こっちに向かってきている」
龍? 龍なんて、普通現れないだろ。
龍が目覚めるのは、1000年に一度と言われているんだ。
前回目覚めたのは約100年前。
丁度、先代勇者が魔王を倒した時代だ。
だから、まだそれほど年月も経っていないし、普通はありえないんだ。
しかも、人間が観測出来ている限りでは龍は一体。
『暗黒龍』しかいない。
他の龍の可能性は限りなく低いだろう。
「お、おい。なんだありゃ! みんな逃げろぉおー!!」
入口付近にいた住人の1人が、何かをみて走り去った。
何かがこっちに向かってきている。
遠目だが、人目でわかった。
あれは、暗黒龍だ。
通称『破壊神』。
見たもの全てを破壊し尽くす化け物だ。
これは…やばいことになったな。
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