二度目
「今回の敵はみんな手強そうだね」
アリサは、周りの戦士達を見てそう言った。
確かに、強そうな奴が多いな。
さっきの大男もそうだし、あの武道家も中々強そうだ。
だが、一番やばいオーラを放ってんのはアイツ。
黒人の男。
フードを被っているからか、よく顔は見えない。
だが、男の肉体は鍛え抜かれている。
どこかで見たことがある気がしたが、それは気の所為だろう。
そして、特徴的なのが身体に巻かれている鎖。
“アレ”はヤバい。
直感的にそう分かる。
「ん? フォルネはアイツが気になる?」
アリサが俺の視線に気づいたのか、そう問いかける。
「まあ…はい」
「そ、なら教えとく! あれこそ『デーモンチェーン』! この闘技場で猛威を振るってる奴よ」
あれが…デーモンチェーン。
「それでは! バトル開始ィイイイ!」
始まったか…!
各々動いてるな。
やっぱりみんな、最初はデーモンチェーンから離れるな…
「アリサさん!」
「とりあえず、初動はあまり戦わないで! そうなると、他の人達に自分の技や能力を知られちゃうから!」
なるほど。
この闘技場では、いかに自分の技や能力を見せないか、が大切らしいな。
「ぐっひゃー〜!!」
この声…さっきの大男の声だ!
さっそく戦闘を仕掛けてきたか。
「くっ…逃げるよ!」
「はい!」
だが、逃げ切れないな。これ。
アイツデカいくせに速い。
腕の力で飛んでるのか?
「おい。お前」
大男に、一人の男が話しかける。
大男のペアの男だ。
武道家だろうか。
赤い髪。
赤い髪の武道家。
さっきも見た気が…
「ふッ!」
大男の身体が、物凄い勢いで跳ぶ。
ボールのようにポンポンと跳ねて、空中へと飛んだ。
「え? なんであの人仲間攻撃してんの?」
「分からない…けど、俺はアイツを見たことがある」
いや、戦ったことがある。のほうが正しいか。
まじか。
アイツ俺の仲間になるために…?
な訳ないよな。
「うし! よ、フォルネ」
予想は的中。
こいつはガッケルだ。
「よしフォルネ! 仲間に入れてくれ!」
「今はそんな事言ってる場合じゃ…!」
と話している間に、大男がキッカケか、全員が戦いを始めていた。
既に脱落しているものもいる。
「とりあえず、俺はフォルネと…そこの女と行動する。あのデブとペアを組んだのは、 仕方なく だしな」
それってルール的にありなのだろうか?
ココのルールをあまりよく知らないが、まあ駄目なら注意されるだろうしな。
そこまで気にすることでも無い。
「あ、なんか心配そうな顔してるから言っておくけど、3人でチーム組むのも別にいんだよ。けど、優勝賞金は最初に組んだ二人にしか渡されない。だからあんまり得はないね」
「俺は別に金がほしいわけじゃねぇし。勝ったら二人に金はやるよ」
「俺も要らん。アリサさんに全部やる」
「お、気前いいね〜! 有り難く頂戴します」
正直、勝っても負けてもどっちでもいいんだが…
ま、勝つに越したことはない。
負けて足止めを喰らうのだけはごめんだが。
「やっぱり、デーモンチェーンには誰も近づかないね…」
「結界かなんかを張ってるんじゃ?」
「いいや、違う。あれは『圧』だよ」
圧だけで、あんなにも恐ろしい気配を出すことが出来るのか?
俺の生物としての本能がアレに近づいちゃ駄目だって言ってるんだが…
【おっとー!! ここで何と! ついにデーモンチェーンが動き出しましたぁァア!】
その一言。
闘技場全体が騒めく。
デーモンチェーンが動き出した。その一言だけで、選手全員が動き始めたのだ。
「ヤット来た…待ちくたびレタゾ」
鎖をじゃらじゃらと鳴らし、コツコツと歩く。
会場には、その音だけが響いた。
恐怖。
今の感情を表すのに最適なのは、正しく『恐怖』であろう。
強気なガッケルでさえ、怯んだ。
奴へ近づくのを、躊躇ったのだ。
「なんで、動かねぇ」
アリサに至っては、もう言葉すら無い。
肉体の繊維一つ一つが、悲鳴をあげているのだ。
「フォルネ・ラリバー…再戦ダ」
その男は、俺の名を口に出した。
俺が、勇者だから名前を知っていたのか。
でも、コイツは今確かに『再戦』と言った。
俺は過去に一度、コイツと戦ったことがあるのか。
確かに言われてみればこの声…どこかで。
「おい、フォルネこいつと知り合いなのか?」
「いや、知り合いじゃない。多分人違いだよ」
「はぁ? でもコイツ今、お前の名前言ったけど!」
どうなって…
「覚エテいないのか。俺だ」
デーモンチェーンがフードを、上げた。
そこには、過去に1度だけ見たことのある顔があった。
それは、冒険を始めてから間もない頃。
リアムが酒を飲みすぎて、俺が1人で街を探索していた時に出会った。
「マルク…?」
なんで、ここにいる。
マルクはあの時、殺したはずだ。
生き返った…?
いや、そんなはず無い。
まさか、あの時息があったのか?
「キズイタのならイイ」
マルクは俺の殺害任務を受け、俺を殺しに来た者だ。
その時、俺はマルクに殺されかけた。
剣を持っていなかったのもあるだろう。
だが、それ以上にマルクの体術は素晴らしかった。
素人の俺が見ても分かった。
これは達人の域だと。
何年も、何十年も鍛え抜かれていると。
「うっ、ォオオオオオ!!!!」
ガッケルが踏み出す。
恐怖を叫びでかき消し、己を鼓舞した。
お前ならいける。最強の武道家の俺なら行ける。
「ダレだ。オマエ」
やはり、ガッケルの速度は凄まじかった。
慣れた俺でも、目で追うのがやっとだ。
「死ねェエエエエエ!」
「その言葉を口にダスというなら、オレも全力でお前をコロシにカカルゾ!」
ガッケルの拳は、マルクの腹を突いた。
だがマルクは怯むことなく、攻撃を繰り出す。
「感覚が…オクレテいるノカ。面白イ」
ドヒュンと風を切る音がなった直後。
鎖がガッケルの首を締め付けた。
ガッケルは困惑していた。
二発目の攻撃ならまだしも、自身の最高速度の攻撃を喰らっても怯むことなく、そして反撃の一撃を放った。
その隙を、マルクは狙った。
マルクの筋力で鎖は締め付けられる。
ガッケルの声が段々と潰れていき、そして終いには出なくなる。
ビビってばっかじゃ駄目だろ。
落ち着け。
そうだよ。
俺はマルクに一度勝っている。
なら、必ず勝てる。
「やめろマルク。それ以上ガッケルに手を出すってんならお前をもう一度殺す…!」
鞘から刀身を抜き、構える。
日光の光が反射して、剣は輝いていた。
アリサさんはもう戦える状態じゃない。
恐怖で、身体が動かないんだ。
なら、俺がやるしかない。
「カカッテ来い! フォルネ・ラリバーァ!」
こいつに肉弾戦で勝つことは不可能。
絶対に剣を手放すな。
剣を放すのは、死んだ時だけだ。
「はァッ!」
鎖が飛ぶ。
俺を囲むようにしているのか。
だが、問題ない。
「ソウ来るか!」
この鎖は、以前は斬れなかった。
それは、鎖が硬すぎたからだ。
だが、俺は既にこの鎖を断ち切る術を知っている。
この鎖が何で出来ているのかはわからんが、少なくとも金属であることには間違いない。
大抵の金属は、熱に弱い。
高温で鎖を『溶かせば』、どれだけ硬くても関係ない。
「属性変化 『炎』ッ!!」
鎖は斬った。
だが、まだ完全に使えなくなったわけじゃない。
今の攻撃で切り落したのは、あくまでも先端。
なら次は…!
「属性変化 『雷』」
炎の次は電気だ。
金属は電気を通しやすい…
鎖に電気を流せば、マルクの腕から電流が全身に伝わり、大ダメージを与えられるはずだ。
マルクに電流が効くかどうかは分からんが、かなりの高圧電流だ。
並の人間なら死ぬ。
『並の』人間ならばの話だが…
鎖に雷剣の電流を流し、マルクの腕へと伝わせた。
「ウグぐゥゥぅッ! シミルゾォ!」
効果はない…か。
というか、なんだコイツ。
怯まないどころか電気流されて喜んでんじゃねぇか…
「そうか! なら! よかったな!」
斬って、斬りまくる。
マルクはダメージを喰らっている様子はないが、それでも蓄積していけばかなりのダメージになるはずだ。
「ふーッ…イイゾ♪ イイゾ♪」
様子がおかしい…
異常に喜びすぎじゃないか。
「ほッ! ♪」
その掛け声と共に、マルクの重いストレートパンチが、腹部に直撃した。
「ふんッッ♬」
再び掛け声と共に、重い殴り。
このパンチ…あの時よりも…痛い。
その時だった。
ピアノを端から端まで流して押したような音が鳴ったのだ。
その音は、俺の背後へと移動していった。
そして、俺の眼の前にいたマルクは消えている。
「油断スルナヨ」
「くっそ…!」
後ろかよ。
マルクの蹴りが、素早く打ち込まれる。
今の攻撃で内臓が傷ついたのか、血が止まらない。
剣も放してしまった。
とても手を伸ばして届くような距離じゃない。
「ラリバー。二度はナカッタナ」
情けない。
こんなに何度も死にかけて…というか今死にそうだ。
こんなとこで足止めを喰らいたくはなかったんだけどなぁ。
「マルク…じゃあな」
「アァ」
高々と拳が挙げられ、魔力が籠められている。
魔力強化の類か。
何回しぬんだ。俺。
「頑張れぇええ! 親友!!!!!」
そう、観客席から聞こえたのだった―――
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