武道家 ガッケル
それは、古い書物だった。
およそ、103万年も前に書かれたものらしい。
その書物の正体。それは、初代勇者の冒険録。
邪神ダガーを討伐するために旅立った勇者の記録だ。
その勇者は、それから誕生するどの勇者よりも賢く、強かった。
邪神ダガーにより、暗黒に包まれた世界。
生命の数は、どんどんと少なくなっていった。
そして、最後の人族の集落 『アーサー』は、魔物の襲撃によりさらなる被害を受け、ほとんどの人間は死んでしまった。
アーサーの集落の中で、一人の青年が立ち上がった。
その青年の名は『カリス』。
青年は、少ない物資を持ち、旅に出た。
魔物を倒し、経験を積み、時には死にかけることもあった。
だが、カリスは奮闘した。
カリスの剣は、魔を絶つ剣だった。
最初は、ただの古びた剣だった。
だが、カリスが剣を振るっていくうちに、その剣は変化した。
仲間は居ない。
たった1人で、邪神を倒すために戦ったのだ。
そして、旅立ちの日から数年。
ついにカリスは邪神の所へ辿り着いた。
両者はほぼ互角。
光を絶つ魔の剣『魔剣バラモス』と、魔を絶つ聖の剣『聖剣カリバス』。
カリスの魔力が尽き、回復魔法が使えなくなった時。
カリスは詰みだと思われた。
そしてダガーが最期の一太刀を放とうとした時。
聖剣カリバスは神々しく光、ダガーの剣を包みこんだ。
その瞬間、魔剣バラモスの力は失せ、ダガーはカリスの一撃により殺された。
その後、世界には平和が訪れた。
聖剣カリバスはどこかの地へ封印。
魔剣バラモスはある地へと封印されたのだった。
―
「ふん。聖剣カリバス…」
「ガッケル! これは凄い発見だぞ!」
古びた祠に、二人の男がいた。
片方は眼鏡をかけた誠実そうな男。
もう片方は、前髪を上げて、武道家のような見た目をした者。
彼らは、この世界でまだ誰も知らない。
魔剣バラモスの在処を今知ったのだ。
かつてから、おとぎ話として勇者カリスの話は語り継がれていた。
だが、その中に出てくる。
聖剣カリバス、魔剣バラモスの在処は、誰もわかっていなかったのだ。
それを、彼らは見つけた。
聖剣カリバスの場所は分からずとも、魔剣バラモスがどこに封印されているかは分かる。
その地の名は、魔王の地。
単純な名前だ。
だが、最も分かりやすくもある。
魔王の地は、ここからずっと東にある大陸の名だ。
行くのにはだいぶ時間がかかるし、そこまでの船も出ていない。
そのため、自力で魔王の地まで行かなければならないのだ。
それは、不可能に近い。
「どうします? この書物を売れば、一生遊んで暮らせるだけの金は貰えますよ。もちろん、魔剣バラモスを売ったほうがもっと稼げるとは思いますが」
「ふん…どうでもいい。行きたきゃ行け。俺はザリバーム帝国に向かう」
「は? ザリバーム帝国って…あそこなんていい事1つもありませんよ。報酬金は少ないですし、それに治安が悪い。ガッケルなら、そこらのチンピラなら勝てると思いますが…」
「とにかく、俺はザリバーム帝国に行く。ライード。お前が魔剣バラモスを取りに行くってんなら1人で行け。その本もてめぇにやる。煮るなり焼くなり好きにしろ」
ライードは困惑していた。
この本をあげると言ったのか? この本の価値は凄まじいのに。
ガッケルが望むのは、金でも剣でもない。
強きものだ。
彼が望むのは、ただそれだけ。
「それじゃあな」
「え? あ、え? 分かりました。手紙は送っときます」
そうして、ガッケルはザリバーム帝国へと走り出したのだった。
―――2ヶ月後――――
(フォルネがリアムの故郷についた頃)
「はあ…やっとついたぜ」
自分の故郷に、帰ってきた。
ザリバーム帝国。
それは、ガッケルの故郷である。
少年期を、青年期をここで過ごした。
思い入れのある場所だ。
だが、旅の途中でこんな事を聞いた。
ザリバーム帝国がぶっ壊されたって。
そんなこと、ありえるはずがない。
ぶっ壊されたりしないために、地下にあるんだ。
大規模な魔力爆発が起こったとしても、ザリバーム帝国は壊れない。
だが、俺の目に映るのは、国の半分が削り取られている姿だ。
そこでガッケルの脳裏に浮かぶのは、自身の家族のこと。
父も母も大嫌いだった。
だから、そいつらの事はどうでもいい。
だが、兄貴はだめだ。
俺をいつも助けてくれた、大切な兄貴。
走り回って、兄貴を探す。
だが、兄貴はいない。
どれだけ走っても、走っても。
兄貴は見当たらない。
「くっそ…! 兄貴!」
悪い予感がした。
死体回収の馬車が目に入ったんだ。
そんなはずはないと思いながら。
もしかしたら、という少しの可能性を考えて馬車を覗く。
全てに目を回す。
兄貴らしきやつは、いない。
よかった。
兄貴は、まだ生きている可能性があるんだ。
まだ、俺には家族が残ってる。
馬車の貸出と、運転の仕事をしてた兄貴。
最近少し太ってきたらしいけど、そんなのどうでもいい。
一抹の不安が消えた所で、ちょっくら復興の手伝いでもするかな。と、思っていた。
その時、1つの馬車が俺の隣をゆっくり通り過ぎる。
かた、かたと。
心地の悪い音をたてて。
俺の目に、映った。
小太りの男。
よく見た顔だった。
幼い頃から、ずっと憧れていた存在。
兄貴が、ぐったりと横たわっていたんだ。
「兄貴ィイイイ! うわぁああ!」
「ど、どうされましたか? お兄様が…?」
「兄貴…兄貴! 起きてくれよ! おい! うわぁあ!
」
兄貴が死んだ。
その事実を、俺は受け止めることが出来なかった。
兄貴は、最期のとき。
魔法使いの女と、ガキと一緒に死んだらしい。
多分、兄貴はお人好しだから。
馬車にその二人を載せようとしてたんだろうな。
いや、そうじゃないかもしれない。
けど、兄貴は。
兄貴は…
その魔法使いも、死んだ。
そして、ガキの方も瓦礫に潰されて死んだらしい。
「あぁ…くっそ」
とにかく、酒でも飲んでないとやってらんねぇな。
けど…ザリバームには今店なんかねぇし。
近場にある村でも行くか。
散歩ついでだ。
ま、1時間くらいで着くだろ。
――
「リアム…どうか天国で幸せに…」
「次会ったら、一緒にメシでも食いに行こう…」
雨が、降っていた。
ポツポツと降っていた雨は、だんだんを勢いを増していった。
その中で、葬式は行われる。
この村のほとんどの人が、ここに来ていた。
リアムは、好かれていたんだな。
村のみんなから。
「リアムうっ…うぅ…私が…あっちに行ったら、またご飯作ってあげるからねぇ」
「家族3人で、またメシィ食おうなぁ!」
そうして、リアムの葬式は続いた。
もちろん、俺も出た。
みんな、リアムの顔を見た瞬間泣いてしまっていた。
かく言う俺も、少し涙が出てしまったのは内緒だ。
これで、リアムとの旅は終わりか…
そんなに、何年も一緒にいたわけじゃないけど、俺にとってはこの数ヶ月はそれほど濃い旅だった。
リアム、見ていてくれよ。
「それじゃあ…もう行きます」
「もう、行っちまうのかい。まだいてもいいんだぞ?」
「いえ…ありがたいですが、僕には使命があるので」
「…そうか。なら、これだけでも持ってってくれ」
そう言うと、リアムの父親は家の棚から何かの包みを取りだし、俺に手渡した。
「これは…?」
「それはな、俺が昔お客さんにもらった『癒やしの耳飾り』って代物さ。これをつければ、体力が少しではあるが回復するんだ」
そんなもの…俺が貰ってもいいのか?
結構、貴重そうな物だけど。
「いいんですか? こんな高そうなもの…」
「そりゃな、リアムの誕生日にあげる予定のやつだったんだよ。けど…それはあんたにやる」
「それこそ、俺が貰っちゃ…」
リアムの父親は、にかっと微笑み、俺の手をがっしりと掴んだ。
「リアムも、あんたに貰われることを望んでるはずさ。他の誰かに使われるよりかはな」
ほんとに、そうなんだろうか。
リアムの気持ちを、もう聞くことは出来ない。
だから、リアムの本心なんて俺には分からないけど。
「分かりました。ありがたく頂戴します」
「応! 行って来い!」
「はい!」
―
次は、どこに向かおうか。
それといった目的地もないし、大きな街に行くか。
にしても、ココらへんは暑いな…
ローブを脱がないと死にそうだ。
水も…あんまないな。
村で買っておけば良かった。
まあ、商人かなんかいるだろ。
その人たちから、水を買おう。
「あ…そうだ」
癒やしの耳飾り…
体力を回復させる効果があるって言ってたか?
とりあえず、一回付けてみるか。
「っと、これでいいのか?」
そんなに、変化があったようには感じられないな。
まだ、体力が減ってないからか?
どこかに、魔物でもいないか…
辺りを見ても、いるのは一人の旅人だけで、魔物はいない。
「まあいいか。そんなに急がなくても、いつかはこの効果が実感出来るだろうし」
それじゃ、向かうとするか。
適当に進んで行けば、どこかにはつくだろ。
「おい、そこのあんた」
「はい?」
旅人だ。
見る限り、武道家だろうか。
武器は持ち合わせていないようだ。
「勇者フォルネ…だよな?」
俺のことを知ってる…
俺も有名になったもんだ。
嬉しいなぁ。
「そうっすよ。どうしました?」
「いや、気になってな」
「何が…でしょうか?」
「お前が、どんだけ強いか…だよ」
そう言うと、武道家は拳を顔の前に構えて、攻撃態勢に入った。
コイツ、根っからの戦闘狂か!?
俺が強いかを確かめるために、戦うって…
「そっちがその気なら、コッチだって本気でいかせてもらう」
さっそく、この耳飾りの効力を確かめることが出来そうだ。
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