多くの決意
「えー! まじかー…シグマ死んじゃったのー!!」
彼の名はザーノ。
この洞窟の支配者である。
これは困った…といいたげな表情で、ザーノは水晶を見ている。
その水晶には、フォルネとシグマの戦いの様子が映っているようだ。
「どーしようか…もう部下みんな死んじゃったしな…他のはみんな情報調達に出してるし…」
現在、ザーノの部下は残っていない。
部下は大量にいたが、シグマ1人いれば充分と考え、他の者を情報調達。
主に、勇者や冒険者の情報を探りに行かせたのだ。
フィアーマンも、その1人。
丁度、勇者フォルネについての情報を手に入れ、シグマに報告していたのだ。
だが、そこで運悪くフォルネと遭遇。
そして、フィアーマンはあっけなくやられてしまった。
シグマだって、ザーノの部下の中では最も優秀だったのだ。
なのに、ぽっと出の勇者などにやられてしまった。
もう、この洞窟でフォルネに対抗出来るのはザーノしかいない。
元々、この洞窟には強力な魔物が巣食っていた。
だが、全員捕らえて、情報調達に行かせてしまった。
アイツらがいれば、シグマが死なずにフォルネを倒せたかもしれない。
「あー、しくったな」
フォルネの目的はわかっている。
今、ザーノの隣に眠らされている。
ドーン・ボレス。
コイツを救うため、フォルネはここに来ている。
でも、ドーンを渡すわけにはいかない。
コイツは、今後の計画の為に必要なんだ。
こんな所で引き渡してしまったら、これからの計画が全てパーだ。
それは避けたい。
ここは安全を確保するため、この洞窟を抜け、別の場所へ移動する必要がありそうだ。
フォルネを殺すだけなら、簡単なんだが…
ドーンを奪われないようにするというのは大変だ。
フォルネと戦っている間に、ドーンが奪われかけない。
いつ、フォルネの仲間が来るか分からないしな。
「ここは、一旦撤退だ。部下共にはそうだな…ま、察してもらおう」
魔法陣を展開し、ワープの準備をする。
ワープをするための魔法は、特殊な技術がいる。
そのため、魔法陣を展開しないとワープをすることが出来ないのだ。
それは、魔王ネルフォルも同様である。
「はぁっはぁ!」
バタンと、部屋の門が開く。
そこにいたのは、先程まで水晶で見ていた顔だった。
だが、傷は完治している。
なぜなら、シグマが治したからだ。
シグマのやつ、何をしているんだ。
何が、天晴…だよ。
敵を全回復させちゃ、意味ないじゃん。
「ドーンさんを…返せ!!」
やはり、ドーンが狙いか。
ま、それ以外に無いしね。
どうしよう。
ちゃちゃっとアリティムのとこへワープしてもいいけど、そうするとコイツまで着いてくるんだよな。
めんどくせー。
あ、そうか。
向こうについた瞬間、魔法陣を破壊すればいい。
アリティムには迷惑かけるけど、友達だから許してくれるよね。
また魔法陣を展開すればいいだけだし…
「それは無理だよ。ザーノは今忙し〜んだ♪ 君に構ってる暇なんて無いんだよ!」
「じゃあ、無理にでも構わせてやる」
「かまってちゃんかよ〜でも、ごめん。もう行かなきゃ! バイバ~イ!」
魔法陣が水色に輝き、光が広がる。
徐々にザーノの身体は光っていき、その全てが光った途端、ザーノとドーンは消えた。
「くそ…逃げられたのか?」
―――
ザーノとやらに、逃げられた。
アイツさえ倒せば、ドーンさんを助けられたのに…
魔法陣は、ザーノが消えた直後、すぐに光らなくなった。
何度やっても無駄だった。
俺は、ザーノの所へ行けなかった。
ドーンさんは、もう助からないかもしれない。
だめだ駄目だ。
希望を捨てるな。
生きていると考えよう。
毎回毎回ネガティブな考えになるな。
ひとまず、外に出よう。
そして、シグマを墓に入れてやろう。
俺は、シグマを殺した。
けど、シグマとの戦いは楽しかった。
そして、最後に俺を助けてくれた。
シグマは最期のあの時…いい奴だった。
ホントは、いい奴なんだろう。
「いい…天気だな」
空は、いつもと変わらず青い。
それを見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。
スタスタと歩いていると、いい場所を見つけた。
小さな湖に、ポツンと浮かんでいる小島。
人が住めるほどの大きさもない本当に小さな島。
だが、墓を立てるにはいいサイズだ。
「こんな墓しか建てれねぇけど…我慢してくれ」
簡素な墓だ。
土で作った山に、今掘った木の十字架を差し込む。
「戻るか…ザリバーム帝国に」
リアムの墓も…建ててやらないとな。
長い道のりだった。
途中で馬車を拾えたから良いものの、それまでは歩きだ。
足も痛いし、喉もカラカラだ。
そして、やっとついた。
リアムの死体…焼かれてないといいんだが。
いや、焼かれてたほうがいいか。
ザリバーム帝国の絵面は、まさに地獄。
人々が、混乱に陥っている。
自身の家族は死に、家は焼かれ、何も残っていない者。
国の半分が、魔道士バヴァリアンにより破壊。
その中に、王宮もあった。
その中には、もちろん王もいたはずだ。
そして、道を歩いていく中で馬車を見つけた。
死体を運ぶ馬車だ。
そこには、居た。
リアムが。
ピクリとも動かない状態で、リアムは馬車に載せられていたのだ。
「あ…すみません」
「はい? なんでしょう?」
「その馬車に乗っているこの魔法使い…俺のパーティメンバーなんです」
その事実を伝えると、彼は哀れみの目で俺を見つめ、死体を俺に引き渡して回収に戻った。
やっぱり、綺麗だ。
リアムの顔は…
はは、これから俺は、どうすればいいんだろうか。
仲間も居らず、1人で旅をする。
そんなのも、良いかもしれないな。
また、仲間を失うのは嫌だし。
そうしよう。
装備品を整えて、困らない程度の食料を持って、行こう。
「とりあえず、今日はここの復興に付き合ってやるか」
そして、色々な作業をし、簡素な宿に泊まり、夜が更けた。
朝から国は忙しかった。
皆が復興のために動いていた。
まだ食べられる食料類を探し、生きている人間を探した。
途中、チンピラ同士の争いがあったが、それも難なく止めた。
朝から働きっぱなしだな。
まあ、それはみんな同じなんだけど…
リアムの死体は、できるだけ早めに処理しよう。
そうだな。今日の夜中がいい。
もし、リアムの死体がアンデッドになったら、俺はそのアンデッドを殺すことが出来ないだろうな。
「ふぅ…疲れたぁ」
腰が痛い…
ずっと働き詰めだったし…
少し、休憩するか。
近くにある村で、飯でも食おう。
そして、物資を整えて…
国の人達に、物資を分けてあげよう。
みんなも、お腹空いてるだろうしな。
「あ、あそこか」
遠くに、村があった。
あそこがナギ厶村。
自然を大切にして、村には新鮮な野菜が沢山売っている。
村の人達も優しくて、たまに野菜を分けてくれる…らしい。
らしいというのは、この話は人から聞いたものだからだ。
その人というのは、皆さんご存知のリアムだ。
そう、ナギ厶村はなんと。
リアムの故郷なのだ。
物資を整える…という目的もあるが、一番の目的はリアムだ。
リアムは、しっかりと故郷で安らかに眠って欲しい。
そして、リアムの親御さんにも報告しないとな。
なんて言おう。
お宅のリアムさん…戦いの中で亡くなってしまいました。とかかな。
まあ、殴られる覚悟はしておこう。
そして、しっかり謝ろう。
定期的に、墓参りにも行こう。
そして…そして…
あの世に行った時、リアムに謝ろう。
俺が、しっかり守らなかったせいで死んじゃってごめんって。
…俺があの世に行くのはいつになるんだろうな。
明日かもしれないし、もしかしたら今日かもしれない。
そんなの、分からない。
分からないけど、それだけはしっかり成し遂げよう。
―――
良い村だ。
リアムが言っていた通り、自然が豊かだ。
住民の人達も、優しい顔をしている。
俺の他にいた冒険者達はみんな、大量の野菜を抱えている。
凄いな。
俺は、あんな顔出来ないな…
それで、リアムの家はどこだろう。
とりあえず、住民の人達に聞き回ってみるとするか。
「あの…すみません」
「あ? なんじゃ若造。儂に何か用か?」
こ、こええ…
顔のせいというと失礼なんだが、何と言うか…
その、達人って感じの顔だ。
刀を極めた男って感じの…
貫禄がある。
「その…リアム・パリアって人の家を探してまして…」
そう言うと、達人の男は目を見開いて、俺の肩をギッシリ掴んだ。
俺の肩が、ぶっ壊れそうだ。
握力が、強っ…!
「リアムか! リアムの知り合いか!」
お? この人、もしやリアムの知り合い?
「儂! リアムの父親なんじゃよ!」
あ…リアムのお父さんか。
そう言われると、急に胸が痛くなってくるな。
この人に、あのことを伝えなきゃいけないなんて。
「まあ、家に入ってけ入ってけ! 茶でも出してやる。リアムのこと…聞かせてくれや!」
「…はい。ありがとうございます」
―――
「それで…母さん! お茶!」
「あぁ…もうお父さんったらぁ」
どちらも、優しそうだ。
怖いと思ったリアムのお父さんも、元気なだけで…良い人だ。
「あ、お構いなく…!」
「いいんじゃいいんじゃ! それより、リアムの話を聞かせてくれや!」
「あ…はい」
心臓の鼓動が、どんどん速くなる。
言わなきゃ、言わなきゃ。
リアムが…
リアムが―――
「単刀直入に言うと…リアムさんは戦いの中で命を落としました」
空気が、一瞬にして静まる。
先程まで騒がしかったリアムのお父さんも、何も喋らない。
お母さんの、お茶を淹れる手も止まった。
この人達の感情は、言葉で表すことが出来ない。
リアムがどうゆう経緯で旅に出たのかは分からない。
家出的なものなのか、みんなに別れを告げてから行ったのか。
どちらにしても、実の娘がどこにいるか分からない状況で、突然現れたリアムの知り合い。
その知り合いが、単刀直入で言ったのは「リアムが死んだ」ということ。
そんなの、傷つかないはずがない。
いや、どんな状況であろうと、実の娘が死ぬなんて…
俺だったら…絶対耐えられない。
「リアムは…リアムは役に立ったのか?」
「もちろん…俺の命を、救ってくれたこともありました」
「誰に…やられたんだ。リアムは」
「魔道士バヴァリアン…という魔王軍の手下です」
「そうか…リアムは、魔王軍と立派に戦ったんだな…そりゃ、良かっ…た」
そして、言わなきゃ…
俺が、リアムを守れなかったからリアムは死んだって。
リアムは、俺のせいで死んだんだって…
「気に病まないでください。勇者様」
「え?」
「リアムは、手紙でいつも貴方のことを書いておりました。その内容はどれも、貴方様のご活躍について…」
リアムが、そんなことを…
俺のことを、手紙で書いててくれたのか。
「そして、いつも手紙の最後にはこう記されていました。「いつ、死ぬか分からないけど、私はいつまでもみんなを忘れません」と」
「そうです…か。そうですか」
「だから、リアムの事を忘れないであげてください。そして、魔人アリティムを必ず倒してください」
忘れるわけ、ないだろう。
俺が、リアムのことを。
絶対に、忘れてなんかたまるか。
もし、記憶を消されても…俺は必ずリアムのことを忘れない。
絶対だ。
「分かりました。ありがとうございました。そして、ごめんなさい」
「く…そ…いいんじゃ。勇者様。儂は光栄じゃよ。自分の娘が勇者の役に立てて」
「ありがとう…ございます」
「しっかりしろ。リアムの分まで生きるんだ。そして、世界を平和にしてくれよ」
「はい!」
俺は、必ず。
1人でも必ず。
魔人アリティムを倒す!
「その…リアムはお墓に入れたのかしら?」
「あ、いえ…今日ここの村で埋葬してあげようと思って」
「そう…今リアムはいるの?」
「馬車の中に…」
「後で、連れてきてもらえますか? 娘の顔を見たいのです」
「今すぐ連れてきます。待っててください」
「はい。よろしくお願いします」
もう迷わない。
恨みや怒りに任せて行動はしない。
覚悟を、決めたんだ。
フォルネ、お前は
『勇者』だろ
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