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八つ当たり

「あ? 俺らを殺す…だぁ? ふざけてんじゃねぇぞ」


門番の獣人は、その青年が何者なのかを分かっていないのか、青年に危害を加えようとしていた。


「笑わせてくれるぜ? な? ジュージ」


ジュージと呼ばれている虎の姿をした獣人は、今目の前に立っている青年の正体を知っているようだった。


「おい、ルーサ…コイツ、勇者だぞ」


「はぁ? こんなガキがぁ? 冗談きついぜ―――」


ルーサの全身が、宙を舞う。


「冗談じゃねぇよ。獣ヤローが」


もう一人の門番は、フォルネを見て涙を浮かべた。


フォルネがジュージの瞳をじっと睨みつけると、ジュージは動揺した。


「ひ、ひぃ!? やっぱりコイツやべぇ! すまねぇルーサ。俺はにげる!」


地に叩き落されたルーサが、逃げていくジュージを見つめ、悲しげな顔で見ている。


「マジか…流石勇者…つえぇ…」


「ここのボスはどこにいる。答えろ」


「けっ、ボスの事は言えねぇよ。死んでもな」


3秒間の沈黙のあと、フォルネは容赦なくルーサを刺した。


「とりあえず、入ってみるか」


――


中は閉鎖的な空間だった。

見渡す限りあるのは、照明と下へ降りるための階段のみだ。


階段は、およそ3つある。


果たして、この3つのうちどれがボスの所へ続くものなのだろうか。


とりあえず、手当たり次第に全てを探る。


そしたら、いつかは当たりが見つかるはずだ。


手早く終わらせて、さっさとドーンを救出して帰ろう。

今日はもう疲れた。

早く眠りたい。


「ん?」


岩壁に、何かの跡のようなものが残っている。


なんだ? 血痕ではない。

何かの手の跡のような…


あぁ、そうか。

この跡は焦げ跡。


火炎系の魔物が触れた跡だろう。


もしや、ここになにか入口があるのか?


無くてもあっても、どうでもいい。


無かったら無かっただ。


俺は、その焦げ跡に自身の手形を合わせた。


「何も、起こらない…か」


その時、俺の手が岩壁にめり込んだ。

粘土を捏ね繰り回している時と同じ感触。


さほど力は入れていないのに、岩壁は崩れた。


岩壁は、扉になっていたのだ。


崩れた岩の中から、人一人がギリギリ通れる程度の小さな扉が現れ、開いた。


扉の奥は、今までの閉鎖的な空間と同じ場所にあるとは思えなかった。


豪華な絨毯に、吊るされた蝋に灯されている炎。

地面は岩。

岩といっても、先程までの整備されていない岩とは違う。

岩は平坦に整備され、艶々になるまで磨かれている。


まるで、どこかの王宮を見ているかのような感覚に陥った。


「!」


扉の奥で何者かと対話していた炎に包まれた男が、俺に視線を向けた。

すると、炎男は驚いた表情をし、俺の方へスタスタ歩く。


「…焦げ跡の正体か」


炎男がフォルネに近づいた後、炎男 『フィアーマン』 は話し始めた。


「御名答。俺はお前をここに誘導するため、あえて焦げ跡を残しておいた。まさか引っかかるとは思っていなかったが…お前が阿呆でよかったぜ。あんな罠に引っかかるような阿呆でさ」


「言い訳ご苦労。これからお前は地獄に落ちる。言い残すことはあるか?」


フィアーマンは炎をさらに激しく燃えさせ、フォルネに言葉を投げかける。


「地獄ぅ? お前はわかってないようだな。ここが俺にとって有利すぎる場所だということを」


そう、ここは密室。

炎が一度襲って来れば逃げ道はない。


「なるほど…そうゆうことね?」


しかし、フォルネは恐怖の欠片すら残さない。


フォルネには、策がある…のだ?


「ほう? その態度…もしや俺に勝つ策でもあるというのか?」


1つだけ、フォルネには策がある。


「策は1つ。お前が攻撃を仕掛ける前に、俺がお前を殺す」


フィアーマンの炎が、怒りに煮え、更に強まる。

フィアーマンの感情の昂りを、止めることの出来る者はいないだろう。


「…!」


閃光が、フィアーマンの隣を通る。

フィアーマンは、その動きについていくことは出来ない。


「どんだけ疾くても、結界があればお前は俺に攻撃できない! 『炎の踊り(ファイアカーニバル)』!」


炎の踊り――

その魔法を聞き、フォルネの脳裏に思い浮かぶのは、数ヶ月前のあの日のこと――


――これは炎の結界、これ自体に民家を燃やしたりする効果はないから安心して―――


「うわぁあァアッ!」


フィアーマン。

お前には謝っておくよ。

すまない。


俺が、今からお前を殺す理由は単純明解。


ただの、八つ当たりなんだ。

リアムを殺された悲しみを、誰かにぶつけたいだけ。


本当は、俺のせいでリアムは死んだのに―

俺が、ずっと目覚めなかったから、こんなことになったのに―――


「どうだ! これで俺に攻撃出来ないだろう!」


炎の結界には、発動してから多少のタイムラグがある。

発動してから円状に炎が展開するまで、約2秒かかる。


だから、その2秒の間に結界の中に侵入すれば、結界は結界としての役目を失ってしまう。


結界というのはそもそも、戦闘が始まる前に展開するものであり、戦闘が始まってからの展開では効果を成さないことが多いのだ。


この魔物は、それを知らないんだろうな。


「よお」


フィアーマンが展開した結界の中に、フォルネが立っていた。

フィアーマンが、想定していなかった事だ。


「は?」


「結界ってのは、戦闘が始まってから展開するもんじゃないんだよ。知らなかったのか?」


「なんだと…!」


腰に携えている剣を、振るう。

そして斬撃が、飛んだ。


「『炎飛斬えんひざん』」


飛んだ斬撃が炎へと変化し、フィアーマンの炎体を切り裂いた。


「ぐわァ! くっそ! だが、炎に炎は効かねえんだよ!」


「属性変化…『氷』」


フィアーマンに纏わりついていた、フォルネの炎は即座にして全てが氷へと変貌した。

氷は、フィアーマンをがっしりと掴みこみ、どんどんと弱らせていく。


「があ…ぐゥ」


フィアーマンは、次第に小さくなっていき、ついには消滅した。


この飛ぶ斬撃と、斬撃の属性変化を会得したのはつい最近のことだ。

フォルネの身体を操っていた『鬼神』が、扱っていたもの。

その情報は、肉体に深く刻まれてフォルネの脳裏にも残っていた。

それ故、扱うことが出来たのだ。


「次、行くか」


次は、コイツが話していた誰かだ。

ソイツが、ドーンを捕らえているに違いない。


――


「ご報告を…フォルネ・ラリバーが到着…門番のルーサ、フィアーマンを撃破いたしました」


玉座に佇むのは、一人の少年

彼が、ここの洞窟の支配者である。


「そっかー、残念…あれ? てか門番ってもう一人いたはずだよね…? ま、いいや」


その門番とは、ジュージのことだ。

ジュージは、自身の任務を放棄し、逃げたのだ。

恐らく、始末されるであろう。


「恐らく、ジュージのことかと…」


「あ、そーそー。それ」


「フィアーマンはかなり強いのにね。でもフィアーマンは氷と水の攻撃に弱いから…ま、負けることは重々承知さ。で、次はもちろん君が行くんだよね? 『風斬りのシグマ』?」


シグマはこくりと頷き、立ち上がった。

そして、少年に、別れの言葉を言い、立ち去っていった。


―――


「さっきのヤツ…一体どこにいったんだ?」


フィアーマンは、さっき誰かと話していた。

姿はハッキリと見えなかった。

だが、なんとなくだが分かる。


尖った耳を持っている、エルフの男だ。

もしかしたら、吸血鬼とかかもしれない。

けど、吸血鬼なんてのは滅多に出現しない。


死体が何百年もの間綺麗な状態で保管されているか、ウィルスに感染するかのどちらかだ。

まあ、そのウィルスは今はもう絶滅寸前と言われているが。


「どこかに入口があるはずなんだが…」


どこを見ても、それらしきものは無いようだ。

おかしいな。

入口がないなら、エルフの男はどこに行ったんだ…

もしや幻覚…!?

ってことも、ありえるよな――


ビュウゥという音色と共に、首筋に強い風が通る。


風は、この部屋全体を覆い尽くし、支配した。

フォルネの背後には、エルフの男が立ち尽くしていた。


長身の刀を背に負い、金色の毛髪を風によって靡かせる。


「出たか…」


「『勇者』フォルネ・ラリバー…魔人ゾンバルを撃破する実力の持ち主。そのような者と戦うことになるとは… 」


コイツ、フィアーマンとは比べ物にならないくらい強い…

エルフは繊細な動きを得意とする種族。

魔法での攻撃が得意だ。


だが、こいつは刀…薙刀のようなものを使っている。

エルフというのは、接近戦は苦手とすると聞いたが、デマだったのだろうか。


「属性変化…『炎』!」


とりあえず様子見だ。

炎の剣で、まずコイツの間合いを詰める。


そして、雷剣へと属性を変え、雷剣で、コイツの肉体を斬る。


「属性変化…流石は勇者。その程度の技は容易いということですか」


「まあな。それで、お前は俺に勝てんのか?」


「もちろん…そんなこと容易いですよ。そして、私は風斬りのシグマ…迅速にあなたを排除させていただきます。」


「来い」


殺るやるか殺られるかのどっちかだ。

ならば、俺は殺る方に回る。


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