あれから一月
約2ヶ月前
ギルドには、二人の冒険者がいた。
片方は12歳くらいの男の子で、もう片方はパーティーメンバーが全滅した女の子。
私は、それを見た時 若いなぁ と思った。
私がこのくらいの歳の時なんて、ずっと外で遊んでいたのに…
「いらっしゃいませ〜?」
男の子のことは、見たことがない。
新人さんなのかな?
この女の子は、一週間前くらいにみたけど…
「あの…パーティーを組みたくて」
「あ、パーティーですね! 今手続きしますのでお待ちください」
二人の仲は、あんまり良くないみたいだ。
犬猿の仲とでも言うんだろうか?
「えっと、お名前は…?」
「リアム・パリアとフォルネ・ラリバーです」
「分かりました。では、こちらにサインをお願いします」
手続きも終わり、次は任務についての説明だ。
「まず、任務について説明します。任務は、
蕾級
光級
迅級
蒼級
炎級
の5つに別れており、蕾級が最も難易度が高い任務となっております」
「へー、そうなんだ」
「そんなのも知らないの? 馬鹿じゃない?」
「はぁ?」
「ははは…」
この子達、相性は良さそうなんだけどな…
「じゃあ、簡単なやつお願いします」
「分かりました。少々お待ちください」
んーと、炎級の任務だと、今は宝石、蜘蛛…とかか。
とりあえず、この3つをおすすめしてみよう。
そして、時は現在に戻る――――
コイツ…魔物といっても、レベル的には蒼級レベルだ。
ただ化ける力を持っているだけで、ただの魔物とあまり変わらないじゃないか。
さっさと片付けてしまおう。
「『炎帝』」
炎帝…火炎魔法か。没用性は高いが威力はさほど高くない。
なんなんだ。コイツは一体何がしたい。
俺の噂は知っているはずだ。
「貴様、一体何がしたいんだ」
飛んできた炎弾を剣で受け止める。が、やはり対して強くない。
本当に威力の高い魔法なら、この程度の剣など溶かしてしまうからな。
「うむ。まず、お前はフォルネ・ラリバーで間違いないな?」
「あ? いや、ちげぇよ」
「嘘をつくでない。その顔立ちは正しく、フォルネ・ラリバーじゃ!」
肉体は、フォルネ・ラリバーだが精神(中身)は違う。
俺も、魔物と似たようなものだからな。
「生き別れの兄弟だと思うぜ? それじゃ…」
「そんなわけ無いのじゃ! 『物体停止』」
クソ。この魔法に対しての耐性は、この肉体には無い。この身体の弱点の一つだ。
「まぁいい…死んでもらうぞ!」
この構えは…岩剣か。
「『岩剣』ッ!」
残念だったな。
岩剣は、耐久力があまり高くない。
素手でも破壊できる程度の硬さだ。
「死んだか!」
砂煙が、辺りに舞う。
砂煙が晴れてくる頃、1つの人影が砂煙の中に映る。
煙が晴れていくにつれ、その人影は濃くなっていく。
「その程度か」
『剛手一閃』
「うぶへっ!」
手刀で片付けられる敵だ。
俺の腕には、紫色の血液が、べっとりとついていた。
この魔物のものだろう。
「ドーン。怪我が治ってねぇんだから、無茶すんなって―――」
背後にいたはずの、ドーンがいない。
どこを振り返っても居ない。
あるのは、魔物の死体だけ。
まさか、騙された。
こいつは囮。
真の目的は、ドーンを攫うこと…魔神軍を裏切ったドーンを。
「黒竜討伐は、後回しだ」
ドーンが連れて行かれるとしたら、どこだ。
魔神軍の居場所が分からなければ、ドーンの行方も…
「ん?」
血痕。
魔物のものではない。臭いが人間のもの…
ドーンは、対抗したのか?
これは、ドーンの血…か。
「まずは、情報収集だな」
この街で稼いだ知名度を活かし、魔神軍についての情報を聞き回る。
晩から朝まで。
そして、夜が明けた。
「なるほど…なんとなくわかったぞ」
魔神軍についての情報はこう
魔神軍は、ガッサン大洞窟というところに向かった。
ドーンを最後に目撃したのは、やはり俺が戦っている途中。
ドーンは、髑髏の魔物に連れ去られ、どこかに行った。
「ガッサン大洞窟か」
ガッサン大洞窟。
そこは、とても過酷な所だ。
生息している魔物のレベルは、光級以上のみ。
一匹一匹が、パーティーを壊滅させることのできるくらい強い。
俺であれば、倒せるだろう。
物体停止を使われると、キツイが。
今すぐにでも向かわないと、間に合わない。
ここからガッサンまでは、約2日。
既に、死んでいる可能性もある日数だ。
「おい、馬車を用意しろ。とびきり速いやつで、長距離向けのやつだ」
―――
「やっと、ついた」
ここが、ザリバーム帝国…ここにフォルネがいるんだよね。
まずは情報集めだ。
フォルネ…いや、任務を荒らしているフォルネ似の男は知名度が高い。
だから、聞けばすぐに見つかると思う
「すみませ〜ん」
「あ、はいぃ? いらっしゃいませぇ」
あれ、この国って治安悪いって聞いてたけど…
あんまり悪くなさそうだな。
「あの…フォルネ・ラリバーってココに来ましたか?」
「フォルネ・ラリバー様ですか…それなら、昨晩来ましたよ」
やった…! フォルネは生きているんだ。
よかった…
「あの、私その人のパーティーメンバーで! これ」
証明としてギルドカードを差し出す。
よし、フォルネは任務に行っているだろうしここで待ってればいずれは…
「任務荒らしのヤツ、黒竜討伐の任務を放棄してガッサン大洞窟に向かうらしいぜ」
「マジかよ! アイツもビビったんじゃねぇのか? 黒竜討伐なんてさ」
任務荒らし…フォルネのこと?
「ねぇ、あんた達」
「あ? 何だよ姉ちゃん」
「その話、本当?」
酒臭い男達は、今話してんだから邪魔すんなよ。と言いたげな顔でこちらを見る。
「あ?」
酒臭い男は、片目が潰れているようだ。
恐らく、冒険者だろう。
でも、こいつらに声をかけたのは間違いだったか?
まともに話してくれなさそうだ。
「ま、アイツが朝に馬車を借りてるとこ見たしな。本当じゃねぇの?」
「へへ、もう死んでたりしてな」
もうフォルネは、ガッサン大洞窟に向かってしまったってこと…
ここからガッサン大洞窟までは、遠すぎる。
どうしよう。
テレポートとか使えれば楽だけど…そんなもの存在しないしなぁ。
店内には、酒臭い男達と私の他には、店員しかいなかった。
その時、一人の男がギルドを来訪する。
コツコツと、油でジメッとした床を無心であるいている。
その青年の姿は、どこかで見たことがある。
見慣れた顔に、良く似ている。
この1ヶ月間、ずっと探し求めていた顔だ。
「フォル…ネ?」
「あ? って…」
両者は、お互いの顔をじっと見つめ合う。
リアムは、涙を溢した。
青年は、驚いた顔をしてリアムを見つめた。
「やっと会えた…!」
抵抗する間もなく抱きつかれてしまった。
さて、どうするか…
俺はフォルネではない。
その事実を突きつけるのはあまりにも残酷すぎるだろう。
だが、正直に言わなければ彼女はずっと勘違いするのか?
「あ、あぁ… 久しぶりリアム」
とりあえず、一旦ここは誤魔化そう。
後で真実を…
「あれ? あなた…フォルネじゃない?」
「え!? そんなわけ…」
「てか、顔に模様付いてるし…あの時の奴でしょ?」
そうだったか。
顔に模様があるから、そりゃバレるか。
「なーんだ。ま、フォルネは無事なのよね?」
ま、これで気楽に話せる。
「…フォルネの無事は確認できない。この一ヶ月間はフォルネは出てきていない」
「え? どうして?」
「それが分からない。俺がザリバームで戦いになった時からだ。そこから出てきていない」
「ふーん。そうなんだ。でも、多分出てくるわよ」
「なぜだ?」
リアムは、出ていた涙を拭い取り、まだ赤らみた顔で俺に言った。
「フォルネは強いよ。だって勇者だもん」
勇者…そうか。そうだな。
アイツは勇者だからな。
絶対に出てくるはずだ。
「そう…だな」
「それで、ガッサン大洞窟に行くって?」
「あ? まぁな」
「私も行く。いつフォルネが出てくるか分からないし」
だが、俺の用事だ。
それにリアムを付き合わせるわけにはいけないだろう。
ガッサン大洞窟の難易度は光級…俺でさえ命の危険があるくらいだ。
正直、リアムの実力でガッサンを攻略出来るとは思わない。
それに、フォルネが怒ってしまうだろうしな。
「いいや、フォルネは出てこないさ…いや、出させない」
「え? なんで?」
「ガッサン大洞窟は、フォルネの強さだとまだ攻略することは出来ない。もちろんリアムでもだ。俺でも死ぬかもしれないんだぞ? そんなとこでフォルネが出てきたら、あの世に直行だ」
「それって、制御出来るものなの? だって、フォルネは自分であなたを制御することはできてなかった。それは、あなたも同じじゃ?」
「ま、そうだな。普段なら、フォルネの意識が無くなった時だけ俺が表に出てこれた。だから自由に出られたわけじゃない。でも、表に出てこられさえすれば簡単だ。フォルネの意識をもとに戻すのも俺がやっている。だから、フォルネがもし出てこようとするならば、俺がとめる」
そろそろ行かなければな。ドーンがしんでしまう。
「そう…分かった。じゃあ私はここで待ってる。だからその用が終わったら戻ってきなさい」
「了解した」
―――
「もう出発していいんでやんすか?」
「あぁ、早く出てくれ。急いでいるんだ」
「了解っす!」
運転手が馬車を走らせたその時、恐ろしいほど強力な魔力がこの国全体に走った。
「…なんだ?」
「一旦止めますぜ? あのブキミなオーラはなんでやんす?」
この魔力…まさか魔王軍の者か? いや、今は魔神軍だったっけか。
この魔力は、まずい。
かつての魔王に匹敵する魔力総量だ。
「ヒヒーンッ!」
「ど、どうしたでやんすか!? バッカレー!」
馬が暴れ、国の外に次々に人々が出て行く。
唾を飲み、しっかりとそのオーラを観察する。
不気味な色だ。紫色のような、紅色のような。
ただ、一目みて分かる。
あれは只者ではない。
少なくとも、100人は殺しているだろう。
「あんた、ここから出たほうがいい」
「え? でもあんたは客ですぜ? お客を置いて行くことは…」
地震 俺の自爆によって空いた大きな入口が崩れ、瓦礫が落ちてくる。
「くっ、くそー! 魔法盾」
「それはなんだ?」
「魔法盾って言って、この盾を掲げると防御結界を作ってくれるんすよ!」
魔法盾というやつがあれば、とりあえずコイツの心配をする必要はなさそうだ。
「俺は様子を見に行ってくる。瓦礫の落下が落ち着いたら出口を見つけて出ていくんだ! いいな?」
「え!? え! うーん。わかりましたでやんす!」
この国を放っておく訳にはいかないな。
ドーン、死んでても祟らないでくれよ。
俺は今から、アイツと戦う。
「ふん!」
頭に大きな痛みが走り、身体がふらつく。
なぜだ。なぜなんだ。
なにか、魔法でもかけられたの…か
俺はそのまま、意識を失ってしまった。
―――――
「よ、俺の身体は使いやすかったか?」
精神世界。
なるほど。フォルネに戻されたか。
「まーな。それで? 今から交代すんのか?」
「いや、だって友達助けなきゃなんないんだろ? ザリバームも救わなきゃいけないしな」
「じゃあ、なんで俺をここに戻した?」
「いや、1つ言いたかっただけだ。」
「ふむ?」
「絶対死ぬな…ってさ!」
俺は思わず、くすっと笑ってしまう。
当たり前だ。
「死んでたまるか」
フォルネが最後に、何かを言いかけてた気がするが、その言葉を聞く直前に俺の意識は戻った。
「今度こそ、行くぞ」
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