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禁術


「くく…面白い。死者蘇生とは…」


足元には、兵士達の亡骸が転がっている。

それを見て、『彼』は思う。


所詮人間など、呆気なく死ぬのだと。

必死に生きていても、80年やそこらで死ぬのだと。


「てめぇら、魔神軍だな?」


「はい。それがなにか? もしかしてアリティム様の下僕になりたいとでも?」


「なわけ。あんな糞野郎に従うわけねぇだろーが」


「な、なんだと?」


魔術兵『パウ』はアリティムに心酔している。

そして、彼の中で1つの掟がある。

アリティムの事を悪く言う者は、皆殺す。

そう誓っているのだ。


「あらら…パウを怒らせてしまったわ…」


「『死の影(デスブラッド)』!」


闇魔法か。

当たれば大抵の人間は死ぬ。

だが俺は、当たったとしてもダメージはくらうが死なない。


「来いよ」


どう来るか…見ものだな。

あの女も攻撃を仕掛けて来るんだとしたら、避けよう。

単体なら、問題ない。


「発!」


発動したか。

死の影は、対象の影を具現化し、自身の支配下におく魔法。

その影の攻撃は、人間の肉体をいともたやすく斬り裂くといわれている。


俺自身も、この魔法を使える奴が少なすぎて実物を見たことはない。


地面から、影が出てくる。

俺の影か…


背格好も、俺にそっくりだ。

ただ、1つだけ決定的に違うところがある。


顔のパーツが何一つないのだ。


顔の形は同じだ。

本来目があったはずの部分には、くぼみがある。


だが、目は付いていないし、顔の模様だってない。


女の方は、見ているだけで攻撃を仕掛ける気は無いみたいだ。


「行け。影よ」


動き自体は、追えないほどじゃない。

俺なら、こいつを圧倒的できる…!


「ふんッ!」


地面に蹴りで叩きつけるが、怯まない。

流石は闇魔法だ。 通常の魔法とはわけが違う。


「……」


口がないから、喋んねぇのか…

ま、それもそうか。


「偽物が…本物に勝てるわけ! ねぇだろーがッ!」


言葉の合間合間に、斬撃を入れる。

刃は通る。だが、傷は負わない。


「何故だ…?」


パウは、高笑いをし始め、説明を始めた。


「それは、貴様の『影』…つまり貴様『自身』と言ってもいい…」


こいつは、俺自身?


「簡単に言うとな、お前ではコイツ()を倒すことは出来ないんだ」


「ふん…」


「まだ分かっていないようだな? では理由を言ってやる。特別だ。

この闇魔法は、お前の複製体を作り出す。作り出すためには、対象の影が必要…

そして、この魔法で設定した対象は、その複製体を攻撃することは出来ない。なにせ自分自身だからな…」


長い説明だったが、なんとなく理由は分かった。

この魔法は、コピーを作ることは出来るが、本物はそのコピーに攻撃を加えることはできない。


だから、俺がコイツを倒すのは不可能…ということか。


「おーっほっほっほ! 滑稽ですわ! 自分自身に殺されるなんて」


「ははは! そうだなァ!」


「影…に有効な手段か」


本当に極稀に、影が暴走して、アンデッドになる事がある。

そのアンデッドの名は、影人ブラッドリー

この魔法は、その暴走を意図的に発動させる魔法だ。

ならば、対処法が一つだけある。


その対処法とは


『影の本体が死ぬこと』


だ。


影は、あくまでも本体から流れ出た部分だ。

そのため、活動していられるのは本体はいきている時だけ。

死んでしまったら、影も共に死ぬ。


「では、じゃあな。勇者フォルネ!」


対処法は、俺が自害すること…!


「あぁ、地獄で会おうぜ」


「は?」


自殺魔法 自身の死と引き換えに、膨大な威力の魔法を発動させる魔法であるが、禁術として魔術本などには記されており、その使い方を知るものは数少ない。


「『禁死爆きんしばく戦終せんしゅう』」


身体の奥底から、熱く燃えたぎるような高揚感が湧き上がり、マグマで煮えたぎられるような痛み。

身体中の穴から、炎が飛び出してくる。


心臓の痛みも加速していき、身体が閃光に包まれる。


そして、爆発した。


周囲に居た者は皆巻き込まれ、離れていた人々も轟音で鼓膜が破れた。

そして、アリティムもこの音に不快感を覚えていた。


「なんだ。この音は…!」


そして、爆発後には何一つ残らなかった。

いいや、灰だけが残った。


そして、この事件から既に1ヶ月。


リアムは…



◆ ◆ ◆




「フォルネ…フォルネぇ…」


酒場で涙を流し、1日中突伏していた。


「お、嬢ちゃん暇してる? 一緒に飲ま―――」


「うるさい! 次話しかけたら殺すから!」


「へ、へい…行こうぜ…」


フォルネが、爆発に巻き込まれてからもう1ヶ月

ザリバーム帝国は、入口が広がり、物流も多くなったらしい。

けど、そんな事はどうだっていい。

フォルネが死んだんだ。


爆発に巻き込まれて、魔神軍の連中に殺された。

あの後、私はすぐにザリバームに向かった。

その惨状は悲惨で、言葉にならなかった。


国の人達に聞くと、この国には魔神軍が住んで“いた”

らしい。

だけど、今回の事件で魔神軍はまたどこかに去ってしまったのだ。


私も、死のうかな。

そうすれば、フォルネに…

いやいや、駄目だ。

フォルネの分まで、生きるんだ。

といっても、立ち直れる気がしない…


「うっ…うぅ…」


「な、あんた」


なんだ。

また人が話しかけてきた。

私は今忙しいんだ。


「話しかけないで、次話しかけ――」


「フォルネ・ラリバーだろ? それならまだ生きてるって噂がある」


「え?」


その情報に、私はあまり信頼を寄せてはいなかった。

なぜなら、あの大爆発に巻き込まれて生き残れる人なんて、ほとんどいない。

たとえ、フォルネであってもだ。


彼は淡々と話し始めた。


「これは、一週間前の話なんだがな」


彼の言うには、一週間前に酒場で飲んでいる時、ザリバーム帝国まで旅に出ていた友人と、偶然再開したらしい。

その友人に、ザリバーム帝国の今の様子を聞くと、


「国の被害は大きかったみたいだけど、あんまり深刻な事態では無かったかな。あ、そうそう、あとねフォルネなんとかって奴がさ、任務全部掻っ攫っていったの! まじむかつくー」


と言っていたらしい。

そのフォルネなんとかが、フォルネなんだとしたらいいんだけど、同じ名前の人なんて何人もいる。

それに、任務を掻っ攫っていくなんて、フォルネらしくないというか…


「って理由なんだ。だが、他の奴らが言うには、顔はフォルネ・ラリバーにそっくりなんだけど、顔に変な模様が付いててなんか変だった。とか言ってたな」


顔に、変な模様…?

まさか…


私はその正体に心当たりがある。

だとすると、フォルネはまだ生きている?


「ま、信用するかしないかはあんた次第だ」


だが、その情報は何故か信用出来た。

何故かは分からない。

だけど、信頼出来たのだ。


「分かった。ありがとう…名前は?」


「名乗るほどのモンじゃねーよ。彼氏さん見つかるといーな。じゃ」


彼氏…か。

私がフォルネの彼氏になんて、なれるんだろうか。

分かんないな。言ってみないと。


とりあえず、ザリバーム帝国にもう一度向かってみよう。

そこに、フォルネがいるらしいから。



――――



「おいおい、黒竜の討伐任務を単独て受ける馬鹿がいるかよ」


「お前、知らねぇのか? あいつ、ここ1ヶ月ギルドを荒らしまくってる冒険者だぞ?」


二人の男が、一人の青年に視線を向けて話している。

その後ろ姿は、まだ幼いにも関わらず、既に()()()()生きているようだった。


「ザリバーム帝国の依頼はやり尽くしたか。そろそろ、別の国にでも行こうか…」


その青年の持ち物はたった1つ 己の剣のみ。

古びた服を着ていた。

いいや、古びているのではない。

返り血をくらって、赤黒く塗装されているのだ。

その汚れは、多少は落ちているものの、全てが落ちているわけではない。


「じゃ、また来る」


店の外は、もうすっかり暗かった。

黒竜の討伐は、別に今日じゃなくてもいいのだが…早めに終わらせておきたい。

さっさと此処を立ちたい。


あれから1ヶ月。


俺が自爆をしてから、もう1ヶ月だ。

あの日、俺は生き残った。

俺は不死身みたいなものだからな。


だが、あの日から一回も『フォルネ』は出てきていない。

本当なら、あいつが主人格として動くはずなんだが、ここ1ヶ月は俺が主人格だ。


何があったんだ。

色々な可能性はある。

自爆に巻き込まれただとか、本人が出てくるのを拒否しているのか…


あぁ…くっそ。

この身体だと思う存分動けねぇ…


人間の身体は、脆い。

脆いといっても、中身(精神)が違ければいいんだが。


「見つけたぞ」


暗闇の中から、一人の男が出てくる。

老けた男。

80代くらいか…?


「お前が、爆撃犯だな…?」


バレている。

証拠なんて、全部灰にして消してやったのに…


「はァ? なんだよ。それ」


「とぼけていても無駄だ…! 儂の国をズタボロにしよって…!」


儂の国、か。

なるほど。

ザリバーム帝国の王様ってわけね。

でも、なぜわかった?


「鬱陶しいな。こっちは任務に向かっている途中なんだ。邪魔すんなよ。しっし」


「く…馬鹿にしよって! 殺れ! 兵士達よ!」


王の後ろの路地から、大量の兵が出てくる。

どこに隠れていた? 魔法で隠れていたか?


まあいい。

この程度の敵、秒で片付けられる。


「数より、質の方が大事なんだぜ? 爺さん。どんだけ数がいても、弱きゃ意味ねぇーよ」


俺は腰に携えていた剣を使うまでもなく、兵士を次々と倒していく。

あまりにも、戦力が低い。

爆撃犯が居ると知っても、この程度の兵士しか出さないなんてな。


「王…!?」


ドーンのやつ、出てきやがった。

せっかく隠していたのに…


「ドーン…! 生きていたのか!」


「おっと、近寄るな。魔物が」


「は? なんじゃと…?」


ザリバーム王は高笑いをし、俺達の事を睨みつけた。

彼の姿は、泥のように変わっていき、醜い姿へと変わっていく。


「なぜ、分かる」


「あんたからはクセー臭いがしたからな」


「はッ! いいじゃろう。相手になってやるわい!」


やっぱり魔物じゃねぇか。

まあいい。

こいつはここで、確実に仕留める。

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