ガーヴァン王国 その2
「ガーヴァン王が、死去しました。」
その言葉に、俺とリアムは言葉を失っていた。
「え…待って、私は完璧に傷は治したはず…!」
バルセルは、涙を堪えていた。
「はい…リアムさんの、治療は完璧でした…」
「それじゃあ、なんで!」
ガーヴァン王が…
あの、ガーヴァン王が。
優しくて、国民のことを第一に考えていた。
あの人が…
「病です。心臓の病。ガーヴァン王は、病を患っていたんです。」
「…治癒魔法は、病気は治せない。」
「存じています。まずは、ガーヴァン王の火葬を。」
そうだった。
死体はしっかり燃やさないと、アンデッドになってしまうんだった。
「分かりました。行こう、フォルネ。」
――――
「安らかにお眠りください。ガーヴァン王。」
ガーヴァン王は、苦しそうな顔でもなく、ただ、安らかに眠っていた。
「本当に、死んでいるんですね。」
「はい。本当に、寝てるだけみたいですけどね。」
リアムは、手のひらをガーヴァン王に向けて、魔法を放った。
「安らかに眠ってください。炎波。」
俺やリアムだって、辛い。
だけど、本当に辛いのは、長年共にいた兵士達だ。
バルセルも、もう何年も一緒にいるだろう。
「うっ、うぐ…ガーヴァン王…」
バルセルは、涙を流していた。
パチパチと、火花が飛ぶ音と、バルセルの声だけが、響き渡っていた。
――――
「リアム、気にするな。」
「うん…」
治癒魔法で、病気を治せるのは極一部の人間だけだ。
だが、リアムでは無理だ。
その治癒魔法を使えるのは、魔法使いの中でも数人程度。
使えないのも無理はない。
「おやすみ…フォルネ。」
「おやすみ。」
そう言った後も、リアムのすすり泣く声は聞こえる。
こうやって、リアムを傷つけてしまうなら、リアムを俺の旅に連れて行くのは、やっぱり駄目なんじゃないか。
足手まといというわけではない。
むしろ、俺よりリアムのほうが活躍している。
だけど、今回みたいなことがまた続くと、リアムの精神は限界になってしまう。
リアムの事を思って、やっぱり俺1人で旅をするべきなんじゃないだろうか。
そんな事を考え、俺は眠りについた。
「ん…」
朝日の心地よい光に照らされ、俺は起きた。
隣には、リアムが寝ていて、まだ起きる気配はなさそうだ。
このまま、何も言わずに1人で旅をしようか。
だが、そんな事をしたらリアムが傷付く。
1人で旅をするとしても、しっかりと話し合ってからにしよう。
「うし、バルセルと探索でもしに行くか。」
ベッドから起き上がり、リアムの顔をチラッと見て、ドアを開けた。
外はもう明るくて、空は真っ青だった。
だが、地上は瓦礫だらけ。
あの中に、まだ生きている人がいるかもしれない。
助けに行こう。
「あ、フォルネさん。昨晩は眠れましたか?」
「ああ、ぐっすり眠れた。バルセルは?」
「僕も久しぶりにぐっすり眠れましたよ。貴方方が来てくれて安心したのかもしれないです。」
なんだそれ。
ま、冗談が言える状態に、バルセルもなったってことか。
「そういえば、リアムさんとフォルネさんって、お付き合いされているんですか?」
突然だな。
付き合ってない。
まあ、あっちは俺のことが好きなんだろうが…
俺は…どうなんだろう。
「いいや、付き合ってないですよ。そう見えます?」
「まあ、リアムさんのアピールが凄くて…フォルネは私のものです、的な。」
あ〜、そうかもな。
まあ、そう見られても仕方ないのか。
「で、フォルネさんはどう思っているんです?リアムさんのこと。」
俺が、リアムにどう思っているか…か。
改めて考えてみると、どうなんだろう。
「どうなんでしょう…ね。俺にも良く分かりません。」
「ハッキリしましょうよ。男ならビシッと! ね?」
ビシッと! か。
そうだな。
ハッキリさせよう。俺が、リアムにどう思っているか。
「で、どうなんです!」
バルセル、お前恋バナとか好きなタイプだなぁ?
「まあ、嫌いではないけど。」
「それってつまり、好きって事ですか?」
「いや、うーんと…」
なんだか照れくさいな。
あんまり、人とこうゆう話しないし。
「どうなんだろうな…」
バルセルは、不機嫌そうな顔になって、俺に言った。
「ハッキリしましょう! 好きor嫌い はいどっち!」
なんだなんだ。
ホントに急だな。
「それは…好き…だけど。」
「ふーん。良いじゃないすか。青春って感じがして。」
「でも、今のは別に、そうゆう意味じゃ。」
バルセルは、ニヤケ顔で俺に向け、こう言った。
「ホントに好きなら、早めに想い伝えたほうがいいっすよ。どっちとも、いつ死ぬか分からないんですし。」
いつ死ぬか分からない。
俺はその言葉に、何も言えなくなっていた。
そして、それと同時に俺の中で何かを決意する音が聞こえた。
◆ ◆ ◆
日の光が、燦々と部屋に入り込む。
光が自分の眠りを妨害して、嫌々起きる。
隣には、誰も居ない。
どこかに彼が行ってしまったのかも知れないと思うと不安で、彼の鞄を見て落ち着く。
なんだ。ただどこかに出かけているだけか。
安心すると、全身の力が一気に抜け、ベッドに倒れ込む。
また、瞼を閉じたら寝てしまう。
駄目だ。
何度も寝ていたら、生活リズムが崩れちゃう。
「んー、起きるかぁ…」
洗面台で、顔を洗う。
歯を磨き、身なりも整える。
そしたら、いつもの格好に着替え、帽子を深々と被る。
少し見えづらいので、帽子の角度を少し上にして、視界を広げる。
いつからだろう。
私がフォルネのことを好きになったのは。
多分、フォルネが攫われた時だ。
大切なものは、失ってから初めて気づく。
なんて、あまり信用していなかったけど、本当にそうなのかもしれない。
現に、私はその時から彼のことが好きだ。
だけど、フォルネは私にその気を全然見せてくれない。
やっぱり、諦めるべきなんだろうか。
でも、ずっと一緒にいるんだ。
諦められるわけない。
大好きなんだ。
私はフォルネのことが。
何度も命を救ってもらって、まだ子供っぽいところも少しあるけど、それでも私より立派。
「じゃあ行こ…」
ドアを開けると、明るい廊下が続く。
外をチラリと見ると、フォルネとバルセルが楽しそうに話しているみたいだ。
「私もいーそご。」
―――
「ふぅ…やっぱり見つからないな。もう探し始めてから何時間も経ってるけど」
もう、みんなアンデッドになってしまったのか。
いや、そんなはずはない。
まだどこかに、生存者がいるはずだ。
「もう、駄目です…」
隣にいたバルセルが、そう呟く。
「諦めんなよ…! まだ、生きている人が…!」
そこで、俺は気づいた。
あぁ、そうだったのか。
もう、生存者はいない。
そう、もう既に、俺達はガーヴァン王国の全てを探してしまっていた。
生存者の数は、宿に収まり切るレベルの人数だったのだ。
嘘だろ。
こんなの、おかしい。
全員がアンデッドになったってことか。
いいや、もしかしたらアンデッドとして動くことが出来ないレベルまで、グチョグチョになっているのかもしれない。
「フォルネ〜‼ バルセル〜‼ 元気〜?」
リアムは、いつもの格好で、元気よく走っている。
「あ、リアムさん」
「どう? 調子は」
「いいえ、誰も見つからなかったです。というか、もう駄目かも…」
少し怒ったような顔をして、リアムは言った。
「諦めちゃ駄目よ。まだ瓦礫に埋もれている人がいるかもしれない」
「もう、瓦礫も全部退かしました。ですが、見つからなかったんです…」
バルセルは、涙を流し、絶望していた。
そして、それから何時間も経ち、既に夜になっていた。
「もう、出て行ってしまうんですね。」
「ごめんなさい。国の復興を手伝えなくて…」
「いえ、いいんですよ。あなた達は、魔神軍を倒すことに集中してください。」
バルセルは、これからどうするつもりなんだろうか。
この国は、もう元通りにはならない。
これからは、バルセルがリーダーとして動いていくのか。
だとすると、次期国王はバルセル?
「では、お元気で。」
「そっちも、元気でな。」
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