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ガーヴァン王国

「ありゃ、フォルネさん起きたの?」


医師は怪訝な顔でそう問いかけた。


「まぁ…おはようございます。」


「奇跡だよ。あんな量のエネルギーを身体に閉じ込めて、こんなに元気でいられるなんて。」


自分的には、あまり変わった気がしないけど、本当にエネルギー入ってるんだろうか。

もしかして、全部にげていったりしてないよな。


「それで…退院はいつ頃になりそうですか?」


姉さんは、心配そうな顔で医師に聞いた。


「あ?退院…退院は、今日でもいいよ。もう大丈夫だし。」


「え…あの、しばらく動いちゃ駄目とか無いんですか?」


「いや、逆にじゃんじゃん動いてくださいって感じ。」


「はぁ…? まあ分かりました。みんな、行こう。」


その後、あっけなく俺は退院した。

普通、ああゆうのってその後も何日か様子を見るものかと思ってたけど、違うんだな。


「んー、じゃあフォルネの誕生日祝いとして、みんなでどこか行こう!」


「じゃ、私はどこかで暇でも潰してきますよ。」


リアムは、当たり前かのように、その場を去ろうとした。


「何言ってるのよ。リアムさんも行くよ!」


「え!? いや、大丈夫ですよ! 申し訳ないですし!」


「もうあなたも家族よ!」


パッチンは、俺の隣でため息をついている。


「家族って、なんでですか!」


息を荒げたリアムが、姉さんに問いかける。


「だって、フォルネの彼女さんでしょう? なら…」


「え? え…そう見えます?」


リアムは顔を赤らめながら、俺を上目遣いでみてくる。


「姉さん、リアムはパーティメンバー。彼女とかじゃないから。」


「なーんだ、残念。」


リアムは、落ち込んだ表情で、俺を見てきた。


パッチンは俺に耳打ちしてくる。


「あの娘可愛いじゃん。なんで駄目なの?」


それに対して、俺も耳打ちしかえす。


「今は魔神軍倒すことに精一杯で、そんなことにうつつ抜かしてる暇はないんだよ。」


「ふーん。でも、いいじゃん。あっちはお前に、気があるみたいだし。」


パッチンめ、勇者の大変さを分かっていないな。

こいつも一回勇者になってみればいいのに。


「とりあえず、行きますか!」


姉さんは、伸びをして、先頭を歩いた。



―――



この町は、ライオットの町 という。

ガーヴァンからは結構離れた町だが、医療や魔法の技術面が優れているらしい。


その証拠に、町には多くの魔道具店がある。


「パッチン。お前、いつ帰るんだ?」


「んー、まあ3日後には帰るよ。お前の姉さんもその日に帰るっぽいし。」


「そっか…」


3日後、か。



「じゃあここにしましょ! 」



入ったのは、結構いい店だった。


内装も豪華で、料理も美味しい。

結構高いんじゃないか?


「あ、フォルネ! 遅れたけど誕生日プレゼント。どーぞ」


姉さんは、小さな箱を俺に手渡した。


「ん、俺からも。」


パッチンは、姉さんより一回り大きい箱を俺に渡した。


「開けていい?」


「もちろん!」


中を開けると、姉さんから貰った箱には首飾り。

パッチンから貰ったものには腕輪が入っていた。



「ありがとう…二人とも。」


この2つ、死んでも外さない。


「その腕輪、筋力増加の効果があるらしいぞ。なんかの役に立てばと思ってな。」


「マジか! ありがとう。パッチン。」


「ごめんね。うちのはなんかの効果とか無いんだけど…」


そんなものなくなって、姉さんからの愛情が篭っていればいいんだ。




そして、3日が経った。




「あっという間だったなー…フォルネ、また会いに来るからな。」


「おう、また来いよ。」


友との別れに少ししんみりした気分になりながら、手を振り馬車に乗る親友を、俺は見ていた。


また…か。

また会えるように、絶対に死なないようにしよう。



「フォルネ、リアムさん。じゃあね、元気にしててね!」


姉さんは、手を振り馬車に乗る。


姉さんとも、また会うんだ。

必ず。



馬車は、あっという間に遠くに走り去り、全く姿が見えなくなっていた。



「じゃあ、どうする? ガーヴァンに戻るの?」


リアムは、腰に手を付き、上目遣いで聞いてきた。


「どうだろうな。物資も充分にあるし、ガーヴァンに一旦戻ってみるか。」


バルセルや、国の人達がどうなっているのか気になる。

瓦礫に巻き込まれただけで、そんなに犠牲はなければいいんだが。



「分かった! じゃあ向かいましょう。丁度馬車もあるみたいだし!」


「ああ、だな。」


馬車を拾い、ガーヴァンまでというと、運転手は驚いた顔をしていた。

この顔からするに、ガーヴァンの現状は悲惨。

ということだろうか。

俺が、もう少し上手くやれていれば。




◆ ◆ ◆




「お客さん。着きましたよ?」


馬車の揺れの心地よさで、つい寝てしまっていたみたいだ。

一週間も寝ていたんだから、身体の状態を元に戻さないと。


「あ、いま降ります。」


「フォルネ…もう着いたの?」


目を擦り、リアムは涙ぐんだ顔でこちらを見つめた。


「あ、あぁ。そうみたいだ。」


「あ! そう! じゃ、行きましょ!」


リアムは俺に対してのボディタッチが多い気がする。

というか、いつまでも鈍感ぶるつもりはない。

リアムは恐らく俺のことが好きだ。

そうでなければおかしい。


「ん? どうしたのフォルネ。」


「いや、別になんでもない。じゃあ降りるか。」


運転手が、嫌な顔をしていった。


「いちゃつくなら…他所でしてくれ。」


俺はいちゃついたつもりはないぞ。

リアムが勝手にやってきただけだ。

そうなんだ。



―――――



「これが、ガーヴァン王国…」


その姿は、悲惨だった。

城は崩れ、城壁もほとんどは崩れていた。

城下町も、城門付近にあった建物以外は、ほとんど崩れて跡形も無くなっていた。



「あ…フォルネさん。」


そこにいたのは、バルセルだった。


バルセルは、とても疲れていた。

着ていた鎧はボロボロで、髪も汚れていた。


「おい、どうしたんだよ!」


バルセルは、疲労で今にも倒れそうだったので、肩を貸した。

どうなっているんだ。

バルセルと、他数名の兵士しか見当たらない。


「ありがとうございます…それが…」


バルセルは、話し始めた。


あの戦いの後、バルセルは俺を連れて病院に同行した。

そして、俺を病院に連れて行き終わった後、自分も国の人の探索に参加した。


何人か瀕死ではあるが見つけた後、ガーヴァン王を見つけたらしいのだ。

急ぎで、瀕死の人々を治療し、また探索に移ろうとした時。


冒険者の悲鳴が聞こえたのだ。




◆ ◆ ◆




「なんですか!? 今の叫び声…!」


治療が終わったとおもったら、次は何なんだ?


宿のドアを、勢い良く兵士が開ける。


「ア、アンデッドです…!」


アンデッド…!



俺は、急いで案内してもらった。

そこで起こっていたのは、まさに地獄のようなものだった。


アンデッドとなった市民が、兵士を喰い。

その兵士が冒険者を喰う。

そしてまた、冒険者がギリギリ生きていた市民を喰う。


「あれは…マサキ?」


かつての親友も、変わり果てた姿になって、人を貪り食っていた。

その光景に、兵士や冒険者は、言葉を失っていた。

そして、俺も。

目を震わせ、歯を震わせ、体を震わせていた。


だがアンデッドごとき、俺達が殺す。

それが、かつての親友であったとしても。



「ゔーッ…ゔーッ…」


涎を垂らし、生者を求め歩き回る。

だが、瓦礫の下にはまだ生きている人が居る。

それを助けるのが、我らガーヴァン兵団の使命だ。


「行くぞッ!! アンデッドを殲滅するのだ‼」


剣を天高く上げ、攻撃の合図を仕掛ける。


アンデッドは、身体の動きが鈍いものがほとんど。

死してから、まだそれほど時間が経っていなければ…の話だが!


首を斬り落とし、頭を潰す。

アンデッドの弱点は脳、それを潰せば活動は停止する。


「あぁ! くっそ…死んだ人達がどんどんアンデッドになって攻撃してきてキリがないですよ! バルセルさん!」


それもそうか…この国の一般市民はほとんど死んだ。

それ全てがアンデッドになったとしたら、脅威だ。

国の外にもアンデッドが溢れ出て、パニックになる。


「死体は、出来るだけ早く処理するんだ! 火炎魔法で燃やせ! 骨が残っていたら駄目だ! 何日か経つと骸骨スケルトンになる!」


全ての死体を燃やしていたら、キリがない。

国中の魔法使いを召集するか?

いいや、駄目だ。

今、生き残っている人々を治療している者もいる。

ここにいる者だけで、全てを片付けるんだ。


「う、うわぁあ!! 喰われる!」


不味い! この声はタクロー!


「危ない! 斬撃風スラッシュウィンド!!」


良かった。だが、まだ駄目だ。

あと50は居る。


全員でやれば、いけるか…?




――30分後―――




「こんなの…終わらないよ。」


アンデッドを、舐めていた。

あいつらは人がいる限り無限(∞)に増殖し続ける。

それは、人が一人死ぬたび、一体アンデッドが増えるということ。

もう、駄目だ。


アンデッド数も倍以上に増えている。

なのに、こっちの数は減っている。


旅立った冒険者もいれば、もしかしたら勝てたかもしれない。

フォルネさんやリアムさんは、大丈夫だろうか。

ついさっき会ったばかりなのに、もう何週間も経ってる気がするな。


「おい…バルセル。」


どすの聞いた声が、背後から聞こえる。

振り返ると、俺の先輩兵士のマッコンさんがいた。

この人も、生きていたのか。


「もう、夜明けだ…ぜ」


マッコンさんが、そう言い残して倒れた。

急いで脈を測るが、まだかすかに息はある。


そして空を見ると、空の色は、青色になってきていた。

変わったのだ。

暗い絶望から、明るい希望へと、空も、状況も変わった。


アンデッドの身体が、砂のように消えていき、跡形も残らず消えてしまっていた。

それが、全てのアンデッドに起こっていた。


これは、生き残ったんだ。

俺達は。

ガーヴァン兵団は、生き残った。


「みんなァア!! お疲れさまァアア‼」


滝のように涙を流し、俺はそう叫んだんだ。





◆ ◆ ◆





「それは…大変でしたね。すいません。戦いに加勢出来なくて。」


「いやいや、いいんですよ。魔神軍を倒してくれたんですから。」


そうか。

俺が、呑気に寝ている間に、バルセルは頑張っていたんだ。

申し訳ないな。


「もう、国の再建は不可能でしょう…城門付近の建物以外は、ほぼ壊滅していますし。」


バルセルの周りを見ても、あるのは瓦礫や血だけ。

城壁も、崩れている。


「あ、バルセル。私、治癒魔法使えるけど手伝ってくる?」


リアムは、宿の方に親指を指していた。


「お願いします。魔法を使える人も、アンデッドとの戦いで結構死んでしまって、人手不足なんです。」


アンデッド。

リアムから存在は聞いていたが、こうやって話を聞くと恐ろしい魔物だ。

人を食べるなんて、気持ちが悪い。


「そういえば、ガーヴァン王は大丈夫なんですか?」


俺も地面に座り込み、バルセルと同じ目線になる。


「ああ、無事です。早めに見つけられたので、あまり後遺症も残らないと思います。」


それは、良かった。

彼がいれば、また王国を再建することも、少しは希望がもてる。


「それで、お二方はどうするんですか? 魔神軍を倒すなら、旅をするんですよね。」


「そうだな…ここにはあまり長く居られないかもしれない。まあでも、また近くに用事があったらよるよ。」


これからは、色々な町を転々として行こう。

色々な町を周れば、魔神軍の有益な情報も入るはず。


「では、我々も宿に戻りましょうか。」


バルセルの周りにいた兵士達も、宿にむかって歩き始めた――――



「宿には、何も被害はないんですね。」


宿は、俺達が泊まっていたときの状態のまま、綺麗に残っていた。


「はい。あいつら(魔神軍)は、表の城門ではなく裏から攻撃してきましたから。」


部屋のドアは、ほとんどが開いている。

何かあったときのためだろう。


「まだ部屋が1つ開いているんです。そこを使ってください。」


俺は部屋に案内される。

その部屋は、やはり綺麗だった。

だが、その部屋の窓から見える景色は、俺達が泊まっていたときとは、大きく変わっていた。


「はぁ…魔神軍め…」


部屋のドアが、静かに開く。

目を向けると、そこにはリアムがいた。


「とりあえず、みんな治しておいた。ノーコストで治癒魔法が出来ると、やっぱり便利!」


「そうか…」


リアムは、俺に不安そうな目を向けて言った。


「フォルネ、何かあったの? 」


「俺が行った村とか国に、魔神軍が来てる。俺のせいで…みんな。」


「…………」


リアムは、何かを考えていた。

俺は思う。


魔神軍は、俺を狙っているんだ。

だから、ガーヴァン王国は狙われた。

俺のせいで、みんな死んだ。


「そんなこと無い! だって、魔神軍はフォルネが勇者になる前から色々な所に襲撃をしていた。だから…フォルネのせいじゃ!」


その言葉を遮るように、俺は言う。


「明日には、ここを立とう。そして、色々な町を転々とする。」


リアムにも、迷惑かけてしまうな。

もし、リアムが死んでしまったとしたら、俺は立ち直れるだろうか。


いいや、立ち直れない。


「失礼します。バルセルです。」


バルセルは、深刻な顔でいった。



「ガーヴァン王が、死去しました。」


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