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旅立ち


今から約100年前。

世界を支配しようとした一人の魔王が居た。


その名は、魔王ネルフォル。

魔王ネルフォルは、幾度もの復活を繰り返し、ついには世界を支配をすることが出来た。


だが、支配出来たのも束の間。

ある村から、一人の勇者が現れた。


勇者は仲間と協力し、魔王を討ち取った。


魔王が討ち取られ、世界には光が溢れ出したのだった……



――――


「お前キモいんだよ!」


罵声が飛ぶ。

誰もそれを止めない。


「ねえ、お母さんとお父さんはどこにいったわけ? あ、死んだんだった!」


みんな、俺を笑う。

そして、虐める。


俺が何をしたと言うんだ。


ぐるぐると心のなかで、嫌な感覚が回り続ける。

それが不快で、苦しくて、泣きそうだった。

俺はただ、名前が変なだけじゃないか……


「いっそのこと、俺がお前退治してやろうか? そしたら俺は勇者だな! 悪魔をぶっ殺したんだからなぁ」


息が、出来ない。

胸が苦しくなる。


いつもこうだ。


「何息荒くしてんの? きっもー」


俺はこの先の人生。

永遠にこうやって虐められるのか。


あぁ…もう嫌だ。



―――――


「うわぁああ!!!」


夢……なのか

今のは、数年前の……


ベッドから飛び降りて、自分の手をじっと見つめる。


この夢をみるのは、何度目だろう。

10か20か。数えたことはないが、多いのは確かで、そのたびに心臓が締め付けられるような感覚があるのは確かだ。


どうして、俺が幼い頃虐めにあっていたのか。

それは、俺の名前に原因がある。


名はフォルネ・ラリバー。

大昔に大虐殺を行った悪魔と、同じ名前である。


だが見た目は悪魔なんてものじゃなく、ツンとした黒髪と宝石のように透き通った青色の瞳が特徴的な、まだ12の少年だ。


フォルネはその名のせいで、幼き頃から色々な人から忌み嫌われ、虐げられてきた。


彼は幼い頃に思った。

俺は虐めてきた奴らを見返したい、と


だが同時に、自分にはあいつらを見返せる程の力はない、とも思った。



自分の思いを伝えるのが怖くて、言いたいことも言えず、学業だって並以下の落ちこぼれ。そしてなにより、俺にはアイツらに立ち向かう勇気なんて、無い―――


「おーい、フォルネ!」

窓の外から、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

この声はパッチンだろうか。


パッチンというのは、幼い頃から嫌われていた俺にとっての唯一の友達であり、親友だ。

パッチンがいつも隣に居てくれたおかげで、俺は今もここにいれているんだと思う。


「なんだ? なんか用でもあんのかよ!」


「やっぱ知らねぇのな、お前。今日デレーズ城で【勇者選別試験】っつーのがあんのしらねーのかよ?」


勇者選別試験? なんだ、それ。


「とりあえず外来いよ。じゃねーと遅れんぞー」


パッチンは、特徴的な緑色の髪をなびかせ、走り去って行った。


嘘かホントか分からないけど、もし勇者を選ぶって試験なら、俺にもあいつらを見返すチャンスがあるのかな。


とりあえず、サユリ姉さんに聞いてみよう。


「サユリ姉さーん、今日勇者選別試験とかいうやつがあるんだって、知ってた?」


サユリ姉さんは焦げ茶色の髪をゆらゆらと揺らしながら言った。


「あぁ、あの試験のことー? 私の友達が言ってたんだけど、王様が8歳から16歳までの少年少女の間に勇者が居る可能性が高い? みたいなことを言っててほんとかどうか確かめるんだってー、だからフォルネも行かないと駄目よ」



王さまが? 一体どうやってそんなこと……

いや、そんな事はいい。だとしたらあいつの言ってたことは嘘じゃないのか。


俺は軽く身支度を済ませ、玄関に立った。


「じゃあ、とりあえず行ってくるよ」

「はぁい、行ってらっしゃい」


勇者か……そんなものになれたら、名前の事について何も言われなくなるのかな。

まあ、なれるわけ無いけど。


「よ、もう始まってるみたいだぞ」


パッチンは、既に並んでいるようだ。

前に、何百人も居る。

こりゃ時間かかりそうだ。


「それで、勇者はもう出た?」

「いや、まだ出てない。もしかしてお前だったりしてな」

パッチンは冗談交じりにそう言った。

もしそうだったら、いいんだけどな。


「てか、魔王が何十年も前に倒されてんのにさ、なんで今頃国は勇者探してるわけ?」


俺は疑問に思い、パッチンに問いかけてみた。


「なんか最近さ、魔神軍っていう魔王軍の残党だけで構成された組織が暴れまわってんだとよ、それみんなが危ない! ってなって、今頃探してるっぽいよ」


魔神軍…どこかで聞いたことがある気がする。

もし勇者になったら、そんな奴らと戦わなきゃいけないのか。

それはちょっと嫌だな。


30分後


試験管の男が、紙の資料を見てから俺に話しかける。


「えっと、フォルネ・ラリバー……君で本当に合ってるかな? 書き間違いとか……」

「正真正銘、俺の名前はフォルネ・ラリバーです」

「え? あぁそう。じゃあ、手を僕に向けて開いて?」


試験官は、青紫色の石を俺の手に当てた。


なんだ、この石。

なんか毒々しい色だな。


そんなことを考えていた、その時。

石が光り出し、石に書かれている紋章が白く輝き出したのだ。


「えっと、なんですか? これ?」


そう聞いても、試験官には反応はない。

聞こえていないのか?


「まさか……君が……!」


他の試験官も、一旦選別をやめ、俺の方へ全員集まった。


これはマジでなんかやばそうだな。

この石、一体なんなんだよ。俺なんか、変なもんでも持ってたのかよ、なんだ!?


審査員は、俺の聞こえないところへ移動して、少し話したあと俺にこういった。


「フォルネ・ラリバー君。落ち着いて聞いてくれ」


「あ、はい…」

「君が、勇者だ」


勇者……? 勇者って、あの勇者のこと……なのか。


「え? 俺が、勇者って……冗談ですよね?」

「この石が光ったのが証拠だ。この石は勇者の力を持つ者のみに反応する石。世界中で何万人も検査したが、光ったのは君だけだ」


石…その毒々しい色の石が、勇者を判別するための道具だったとは。

でも、俺が勇者なんて…


「え、いや、なんかその石、壊れてんじゃないすか?」


「いいや、壊れていない。正真正銘、君が勇者だ」


辺りが騒めく。

その中には、「なんであいつが」だとか言う声も聞こえた。


俺が…勇者。


俺が悩んでいると、試験官はこう言った。


「まだ理解が追いつかないと思うが、君には勇者として旅に出てもらわなければならない。明日の朝、出発だ」


その言葉にも、俺はなにも返答することは出来なかった。


「……旅に出たくない気持ちも分かるが、君が行かなければ、魔神軍を倒す事はできないんだ。魔を絶つ力を持つ勇者。君が必要なんだよ」


そんな急に言われても、決断なんて出来るわけ無いじゃないか。

俺は今、なんとも言えない表情だろう。

そして、俺の頭に浮かんだのは、パッチンの顔や、姉さんの顔だった。


「少し……落ち着く時間をください」

「あぁ、頼むぞ。ラリバー君」


俺は、パッチンと一緒に家まで帰っていた。


「お前、そんな顔……するよな」


俺がいなくなったら、姉さんは1人きりだ。

家で、一人ぼっち。

俺は、どうしたらいいんだろう。


「俺さ、冗談でお前が選ばれるとか言ったけど、本当にお前が選ばれるって思ってなかったよ」


俺も、ただの冗談だと思っていた。

けど、選ばれてしまった


「俺もそう思ってたよ。けど……」

そんな暗い雰囲気を打ち壊すように、パッチンは笑顔で言った。


「でもさ、お前は強いから、勇者になれるって! 俺いっっつも思ってたんだよな。虐めてくる奴らの事さ、一発ぶん殴ればいいのに! って」


「はは、俺にはそんなこと…」


「あいつらも喋ってみれば良いのにな。フォルネは案外陽気な奴だってことがわかんのに…」


パッチンは、この空気をどうにかして盛り上げようとしているんだな。


申し訳ないな。俺が不甲斐ないから、パッチンにも気を使わせてる。


「後お前、勉強は全然出来ないし、バカだしアホだしマヌケだけど、いいとこのほうが多いぜ?」

「一言余計だ……じゃあ言ってみてよ。1個あればいいから」

「咄嗟の判断力とか、人に優しくできるとことか、誰かのために行動できるとことか。あと何故か運動神経すげーいいし! みんな絶対知らないよな。お前がデッケェ木ひょいひょい登れること。あと慰めになるか分かんないけど、俺の名前パッチンだぞ? 俺からすりゃ、フォルネの方がかっこいい名前で羨ましいよ」

「パッチン……いいよ。気遣わなくて」


俺がそういった途端、パッチンは足を止めた。

パッチンの緑色の髪の毛は、夕暮れに照らされて少しだけオレンジがかっていた。


パッチンは、息を大きく吸い込んで、吐き出すように言った。


「俺はお前に、気なんか使った覚え一度もないぞ! 今こうやって言ってんのは全部本当の事だし、ただ話したいだけだ!」


その言葉で、俺の中の何かが切れた。

今まで考えていた事なんて、どうでもよくなったような。


そんな感じがした。


「パッチン……ありがと! なんか勇気出たわ!」


「おうよ! んじゃーな!」


そう言い手を振ると、パッチンは走って帰っていった。

パッチンとは、何があっても友達でいよう。


そう、思った。


「おかえりー、どうだった? もしかして勇者だったとか! そんなわけないか」

姉さんは笑って、俺を出迎えてくれた。

この笑顔を見ると、いつもは嬉しいけど、今は胸が苦しくなる。


「俺、勇者に選ばれたんだ!」

いつも笑顔で優しい顔をしているサユリ姉さんの表情が、一気に変わった。

「え……おめでとう! フォルネが選ばれるとは思ってなかったよ」


「うん、ありがと」

「ほら、とりあえず靴脱いで、ご飯にするよ」


サユリ姉さんは、悲しんでいる。

顔を見れば、すぐに分かる。


俺はただ椅子に座り込んでいた。

姉さんも椅子に座り、真剣な顔で聞いた。


「どうするの?」

「どうするの? って、そりゃ…行きたくないけど」


本心では、行きたい。

あいつらを見返したい。


「それ、本心?」

サユリ姉さんは、何でもお見通しだな。


「そう…だよ」



「姉さんの事騙そうとするなんて…私はそんな子に育てた覚えはないよ! なんてね」


サユリ姉さんは泣きそうなのを堪えている。

この顔を見ると、俺も泣きそうになる。


「でも、サユリ姉さんが1人に…」

「だーかーら! いいよ。私のことはさ、1年に2回帰ってこればさ、だからフォルネの好きにしなよ、ね?」


その言葉に、俺は頷き、この夜ごはんが姉さんと食べる最後の晩飯かも知れないと考えながら食べた。



◆◆◆

翌日


まだ夜が明けてからあまり経っていない頃、家にノック音が鳴った。


こんな時間に誰だろう。


俺は、緊張のせいか眠れなく、この時間まで起きていた。


もちろん、サユリ姉さんは寝ている。


階段をゆっくりと降りる。

木が軋む音がした。


玄関まで、ゆっくり向かう。


こんな時間に用なんて……随分と迷惑な人がいたもんだ。


「はーい」


ドアを開けると、そこには昨日の試験官がいた。


「起きていましたか。ラリバー君」


「え? まあ、はい」


「緊張…していますよね」


当たり前だ。

誰であろうと、いきなり勇者になれと言われれば緊張もするだろ。


「それで、こんな朝っぱらになんの用ですか?」


「あぁ、そうでした。今日の10時にデレーズ城でセレモニーを行いますので、9時半までにデレーズ城に来てください」


セレモニーか。

自分の門出を祝ってくれるのは、いい気分だ。


お金……いっぱい貰えるといいな。

ちょっと向こうで遊べるくらいには欲しい。


なんて、贅沢言っちゃいけないか。


「フォルネ? どうしたの、こんな朝っぱらから」


ビックリした。

サユリ姉さんか。


さっきの会話で、起こしてしまったか。

疲れているだろうに、申し訳ないな。


「あぁ! 起こしてしまいましたか。申し訳ありません。フォルネ君にセレモニーの開催をお知らせにきてまして……」


サユリ姉さんは、寝起きのせいかあまり理解出来ていなかったが、「ああ、そう」と、頷いた。


「では、失礼しました!」


試験官は、そそくさと帰っていった。


「セレモニー……私も行っていいの?」


「もっちろん!!」



―――



「よくぞ来た。勇者フォルネよ」


ここが城の中、何気に初めてきた。

随分と豪勢な内装だなぁ……


まあ、デレーズで一番デカイ建物だし当たり前か…。


「フォルネよ。聞いておるのか?」


「ああ、すいません」


なんも聞いてなかった……

やべ〜


「お主に、国で一番の宝剣を授けよう」


おお、なんか強そうだな。

それに、いざという時に売れば結構な金額になりそうだな。


「あ、ありがとうございます」


この空気、苦手だなぁ。

セレモニーってもっとお祝いだ! みたいな感じだと思ってたのに、なんか空気が重い…


その後も、長ったるい話が20分ほど続いた…



疲れた……

なんだよ。


王様、話長すぎ。

しかもおんなじような内容を永遠と繰り返しているだけだし。


魔神軍倒して帰ってきたときも、おんなじような話を聞かされると思うと憂鬱だよ…。


「フォルネ。門へ行くよ」


「うん」


サユリ姉さんは相変わらず、暗い表情のままだ。

サユリ姉さんには、元気になってほしいのに。


特に会話もなく、ゆっくりと門までの道を歩く。


「あ―――」


サユリ姉さんは、そう何度も言ってはやめてを繰り返している。


こうゆうときは、俺から話しかけたほうがいいのか?


「サユリ姉さん! あ、あの〜」


話しかけたのは良いものの、話題が浮かんでこない!


なんて悩んでいる間に、既に門まで到着していた。

門には、沢山の人の姿があり、人混みを掻き分けて、門まで向かった。


掻き分けた先には、パッチンがいた。


「元気でな。フォルネ」

「ああ」

パッチンと会うのも、これで最後かもしれないんだ。

最後の会話は、しっかりとしよう。


「じゃあ、これ持ってけよ」


パッチンは袋を投げた。

ずっしりしていて、結構重い袋だった。


「パッチン、これって?」

「俺の貯金、全部だ。お前にやるよ」


「ありがとう。俺のこと忘れるなよ?」

「忘れるかよ、馬鹿野郎が」


俺は、堪えていた涙が大量に出た。

ありがとうパッチン、俺はお前の親友だ。


パッチンとハグをして、別れの言葉を言う。


国の人から、宝剣と装備の入った袋を渡された。

中を覗いてみると、かなり良いものだった。


「申し訳ありません、国の冒険者や魔法使いを連れて行かせようと思ったのですが……全員大型任務にでていまして……」

「いや……全然、良いですよ」

「なんと寛大なフォルネ様!」

「は、はあ…」


最後だ。


「姉さん…」


「フォルネ…元気でね」


「うん、絶対手紙も書くよ」

「分かった。楽しみにしてる」


「姉さん、大好きだよ」

「姉さんも、大好きよ」


俺と姉さんの顔には、涙が溢れていた。


「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


そうして、俺は旅に出た。

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