王の神官
奇跡のような巨大な炎は、兵士たちの顔を青ざめさせた。
火の神を信仰している異民族なのか、怯えているように見えた。
兵士も神官団も、天罰が下った、と感じたようだ。
王の命令でも神殿の破壊には罪悪感があった、ということだろう。
女神様の神殿を破壊することは、神官団にとって予想外のことだった。
ついこの間までいたところを、なかったことにするには抵抗がある。
まだ信仰している人が多くいるのに、いきなり破壊するのはありえないことだ。
王はまだ生きていて、神になると本人が思っていても信仰している人はいないだろう。
この国はもう何年も、国境を守るために戦っている。
数年前、多くの異民族が攻めてきた記憶は、人々の不安な気持ちを大きくさせた。
このまま平和だった昔のように過ごしていては、不幸なことになるのではないか。
そんな気持ちが勇者を王にしたのかもしれない。
古代からの女神信仰を捨てて王都に集まった多くの神官は、新しい何かを求めてここまで来た。
「後味が悪いにしても、この遠征は成功した」
わたしが何かしたのかと疑った先輩が話しかけてきた。
今までも故郷の神殿では、おかしなことがあるとわたしのせいにされてきたのだ。
「俺のような、金と権力が欲しい男にはちょうどいい場所だ」
先輩は権力争いに勝ち目があるのか、王の神殿で神官として生きることを選んだそうだ。
「お前はどうするんだ?」
「どうしたらいいんでしょうね」
新しい何かに期待したいが、このまま王の神官にはなりたくない。
異民族を支配した勇者の王は、同じように他の神殿を破壊して支配するのだろう。
そのやり方にがっかりしたのか、炎に怯えた兵士の指示がないため、神官団はその場でばらばらに解散した。
王都に帰る人は少ないのだろう、さまざまな方向に歩いていく。
港に向かう人たちは、遠い別の街に行くのだろうか。
北の町で歩き回って、夕方までに宿屋を探すことができた。
寝台の上で、かえるのように寝転がっている。
「痛い、そっと貼って」
長距離を歩いたせいで足が痛い。
シューに湿布を買ってきてもらった。
異民族の兵士と同じ速度で、かよわい神官が歩けるわけがない。
「なさけないですね」
シューに呆れられている。
「猫がついてきているはずなんだけど、見なかった?」
「白猫なら町の中を歩いてましたよ、この町は猫が多いですね」
そうなんだ、いないからちょっと気になって。