北の神殿
「北の神殿に向かう」
朝の神殿で、集まった神官たちにそう言うのは、この国の人ではない異民族の兵士だった。
王が支配した国から来た、信頼されている兵士なのだろう。
力を誇るように大きな剣を持っている、この大柄な男が兵を率いているようだ。
北の神殿には行ったことがある。
海に突き出た場所にあって、本物の海と空が美しく装飾された大きな柱の間から見える。
すべてが浄化されるような大きな神殿で、一度行ったら忘れられないような特別な場所だ。
数人の兵士が、神官団の前に出て歩きはじめた。
兵士に連れられるように、神官団は街の大通りを抜けてさらに北に向かう。
「大丈夫? 遠いよ」
シューに声をかけると、北の神殿に行ってみたいからがんばって歩く、と言う。
猫はシューがいると寄って来なくなったけど、いつもいるから近くを歩いているのだろう。
ぞろぞろと歩く神官団を街の人たちが見送った。
行列が北の神殿に着いたのは、昼休憩の後、さらに数時間歩いたころだった。
後ろにはまだ歩いている神官団の長い列が見える。
子供のシューの方が体力があったのか、他の神官の体力がなかったのか、行列の前の方にいる。
神殿の中には広い空間があり、大きな柱が海の近くまで並んでいる。
兵士たちは礼拝所に入ると、入り口の扉の前に一人の神官を連れてきた。
「おやめください」
兵士にすがるように、後ろから出てきたおばあさんが声を上げた。
年長の信者なのだろう、どこの女神様の神殿にもいるような信者の代表のようだ。
「うるさい黙れ、逆らうのか、お前は魔女だろう」
そう言いながら兵士が、おばあさんを突き飛ばした。
「ああ」
見ていた神官団から声が出た。
このおばあさんが魔女ではないことなど、誰もがわかっている。
「やめてください!」
扉の前にいる、北の神殿の神官が叫んだ。
もし神殿に残ったらこうなった、という自分を見ているようだ。
そう思った神官は多いのではないか。
王に保護される新しい宗教に興味があって、神殿を捨てて王都に来た。
そうしなかった善良でまじめな神官がこの人だ。
シューが泣きそうな顔で言う。
「あの人は魔女じゃないよ、こんなのは嫌だ」
「そうだね、こんなつもりでここに来たわけじゃないのに」
嫌な予感はあったけど、いきなり無抵抗の人を突き飛ばすなんて。
シューが怒ったせいか、つむじ風が神殿の柱から海へ向かって動いている。
途中で兵士にだけ当たるのは、風を制御しているのかな。




