魔神の本
神殿から出て大通りを歩いている。
神官が集まって来たせいか、街には活気がある。
王が街のために神官を集めたのなら賢いと思うけど。勢いよく内容のない話をしていた人に、そんな考えがあるとは思えない。
本当に魔王を退治しようとしているんだろうなあ。
昔話で魔王の話はあるけど、その時代の王の敵のことではないか、といわれている。
つまり、今の時代の敵を、あの王様が勝手に魔王にしているんだろうなあ。
にゃあ〜、うんざりしたところで鳴くね。
街には多くの人が住んでいて、大通りには店が並んでいる。
突然勇者と魔王が出てくるようなことになっても、街の人々の暮らしは変わらない。
にゃあ、にゃああ。
猫がうるさいな、何だって? 走っていく猫を追って本屋に入ってしまった。
平積みの本の前まで来ると、なぜか私の足に登ろうとしている。抱っこしてほしいのか、にゃにゃとせがむ様な声を出す。
仕方ないな、猫をひょいと抱き上げると『魔術と魔神伝説』と書かれた本の上に飛び降りた。
にゃにゃにゃにゃにゃにゃ、小刻みに聞いたことのないような声で鳴く。喜んで、足踏みしながら本の上で鳴く。
「お客さん、猫が買ってくれって言ってるよ」
店の奥から本屋の親父が出てきた。猫を見て、迷惑そうな顔をしている。
にゃああああ、猫が親父に向かって鳴く、踏みすぎて表紙が破れそうだ、あー。
「この本ください」
買ってしまった。
本屋を出たところにある石のベンチに座って『魔術と魔神伝説』を開いてみた。
(火の魔神、とても危険、火を吐く、目が怖い)
なんだこの簡単すぎる説明は、子供向けなのかな。
(魔術は便利、この図形に触れると魔神の力が手に入るよ、気をつけてね)
これか、大きな丸の中に炎みたいなマークがある。
どうせ嘘だろう、指で押してみる。
(魔人になりました、おめでとう!)
次のページに書いてある。はいはい、魔人ね。
にゃあああ、猫が何か言ってるけど、なにもないよ、えいっ。
「わっ、あぶない」
座っていた石のベンチが火を吹いた、魔人になった?
にゃにゃ、猫が知っているかのように鳴く、お前のせいだぞ。
にゃ、返事をする。
わかっているのか。
あ、もしかして、魔人って王様に倒されるの?
いや、名札を見せたら敵ではないだろう、どこも変わってないんだから。
本はどうしよう、本屋に返してこようかな。それにしても罠みたいな本だ。
本屋に戻ると誰もいない、留守なのかな。
平積みの本の上に『魔術と魔神伝説』を置いた。