王都の神殿
「神官さん着いたよ」
「ありがとうございます、助かりました」
商人のおじさんは、王城の前まで運んでくれた。お礼に銀を渡した。
荷台からなぜか猫も一緒に降りると、人の流れとともに王城に入った。神官が行列を作っている。
行列はある人数で区切られて、どこかに入るようだ。大広間かな、そこに入ると演説を聴いて、登録して、外に出るらしい。王城での神官登録が必要だ、と前にいる二人組が話している。
「なんのための登録だろう?」
「新王の新しい仕組みなんだろうけど、面倒なことするなあ」
神官は所属する神殿での修行を終えてから、神官長に任命されてその神殿の神官になる。すでに神殿ごとに神官は登録されているし、王の許可でなるものではなかったはずなんだけど。
「こんなに大勢神官を集めて、何するんだろうなあ」
何でしょうねえ、嫌な予感しかしないな。
「魔王が来るっていううわさだし、関係あるのかなあ」
やっぱりそう思うよね。
「にゃ」
猫もそう思うんだ、これも登録するのかな。
そろそろ順番になるようだ。ぞろぞろと300人くらいが一度に大広間に入る。前の方に少し空間があって、そこに勇者の王がいるようだ。人の頭越しに王冠がやっと見えるくらい。
元気のいい声は聞こえるんだけど、何を言っているのか内容がはっきりしない、まだ若い王様みたい。
「おおー!」
お、おお。これで終わりのようだ。一人ずつ紙に記名して部屋を出る。これに手間取って行列になっているんだな。
猫は記名なしで外に出た。小さな名札をもらった。
『魔物討伐神官団』と書いてある。やっぱりそういうことなんだね。
「にゃあ、にゃあああ」
なんで鳴いたの? 魔物討伐したいのか、猫が魔物なのか。それにしてもこの猫、いつまでついてくるんだろう。
なんだか猫はうきうきしていて、足どりが軽い。
王城から王都の神殿に向かう人が多い、何してるんだろう? そのまま歩いてついていくと、神殿の中に人が集まっていて、暑苦しいことになっていた。
「私は東部で一番の実力者です!」
突然、叫び出す人もいる。ああ、そういえば、権力争いしてるって言ってたなあ、これか。
誰かが、とんとん、と背中をたたいた。後ろを振り返ると、あんまり会いたくない、見知った顔が見えた。
「ここへは来ないって言ったよなあ、何しに来た?」
にゃあー! 猫が答えた。同じ神殿にいた、先輩神官だった。
「ええ、この猫が、どうしても王都に行きたいと言ってですね」
「猫がそんなこと言うか!」
にゃあ、にゃあ。言ってないけど鳴くんですよ、これが。
「俺たちの邪魔はするなよ」
「はいはい、人の迷惑にならないように生きてますから、邪魔なんてしませんよ」
どうだか、と言いながら先輩は去って行った。今まで私に邪魔されたことがある、みたいにきこえちゃって困るな。こっちの方が気の強いあなたに振り回されてましたけどね。