表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな力が集まったら  作者: ちゃい
30/30

魔を解く 

これで終わりです。

読んでいただいてありがとうございました。

 朝になって目が覚めると、炎の魔物はどこにもいなかった。

 夢か幻だったかのように消えた。


 炎の魔物が出てきた時にはもう夢を見ていたのかな。

 目に見えない世界に戻った魔物の、溶けるような不安定な気持ちだけが残っている。


 ナナに昔そんな魔物がいたかと尋ねると、千年くらい前の有名な街の壁に描かれた神獣ではないかという。


「ほら、これよ」

 ナナが見せてくれた本に描かれているのは、レンガでできた巨大都市だった。


「ここにいるでしょう」

 美しい街の巨大な壁や門には、神獣として立つあの炎の獣の姿が彫られていた。


「こんなに街の人たちに大切にされていたのに、なんで魔物にされたの?」

 とナナにきくと、

「この国を滅ぼした国では、滅んだ国の神獣を魔物扱いしたのよ」

 と答えた。


 なんだ、その土地の燃える水から自然に発生して、神獣として神様に仕えただけなんだね。

「その時代の偏見が魔物にしただけで、なにも悪くないのに」

 昔の人たちにそう思われて魔物にされてしまった。


「千年後の本には、この美しい神獣の姿だけが残ったのよ」

 そうか、千年の長い時の中で偏見がなくなって、今では神獣と認められているんだね。


 それなのに昔の人間が言ったことをまだ信じている。

 もしかしたら近くにいるかもしれない、と思って声をかけた。

「炎の神獣はいませんか」


 するとナナの部屋の入り口付近から、ゴトっと音がした。

「そこにいるなら、出てきてほしい」


 声をかけると、炎の獣が部屋の入り口に姿を現した。

 自分を魔物だと思っているのか、美しい神獣ではなくて炎のトカゲのような姿だ。


「魔王になるのか?」

 と炎の獣が尋ねるから、そうではないと返事をした。


「君は魔物じゃない、神獣だ、この本を見るといい」

 のそのそと近づいてくる炎の獣に向けて本を立てて見せると、驚いたように立ち止まった。


「これは神様の街じゃないか、ああ、こんな所に私がいる」

 炎の獣はそう言いながら、懐かしそうに街の絵を見た。


「君が仕えるのは、魔王じゃないよ」

 声をかけても、固まったように絵を見続けている。


「ここは神殿でわたしは神官だ、そして君は神獣だ」

 炎の獣が古い偏見から解き放たれることを願いながら言うと、わかったのか炎の獣の姿は絵の中の美しい神獣の姿に変化していった。


「なにしてるのよ、誰かいるの?」


「誰かって、見えないの?」

 炎の神獣に本を立てて見せながら、話しているんだけど。


「誰もいないでしょう」

 美しい炎の神獣の姿は、ナナには見えないようだ。


「いや、この神獣がそこにいるんだ」

 と言うと、

「いつもアレンにだけ特別おもしろいことが起こるのね」

 とナナに文句を言われた。


 神獣が見えないとナナも神獣もかわいそうだ、と思って神獣の絵を描いてみた。

 うまく描けたと思ったんだけど、神獣にもナナにもなんか違うと言われた。


 その絵を礼拝堂に置いておばあさんたちにも見てもらうと、

「まあ、かわいらしい顔だこと、この神獣さんにもお祈りしましょう」

 と言って神獣の絵にもお供えをしてくれた。


 顔がかわいすぎる神獣の絵は、それから何年もおばあさんたちにかわいがられた。

 そのせいか、炎の神獣の顔も昔の絵とは少し違ってきたようだ。


 今のシューは白猫を軽々と抱えられるほど背が伸びた。

 神殿の青い壁の前で神獣とすれ違ったそうだ。

「顔は違うけどあの絵の神獣がいましたよ」

 と教えてくれた。


 シューに姿を見られたからもういい、と神獣が思ったのか。

 祈りの力が集まって神獣の力が強くなったのか。


 この神殿には特別な神獣がいる、と言われるようになった。

 見える人には見えているようだ。


 ナナは見えているようで、

「この神殿のことを本にして残した方がいいわよ」

 と言う。


「そうすれば白猫も神獣も、今ここで過ごしたことが永遠に残るでしょう」


「本で人間とどんなふうに関わったかを残せば、次の時代でもそれを知ることができるんだね」


「その本を読んだ未来の誰かが、白猫と神獣を思うことができるわ」


 白猫と神獣は、人間と関わることでその時代に存在することができる。

 本で残せば、読んだ未来の誰かが白猫と神獣に関わるかもしれない。

「じゃあ写本もたくさん作ろう」


「写本が完成したら本屋に売りに行こうかしら」

 その本を読んで、どこかの国の誰かがいつかこの神殿に来てくれるかな。

 数百年後に廃墟になっても、少し掘ったらナナの蔵書が見つかるかもしれないね。


 そんな会話をおもしろそうに炎の神獣が聞いている。

 神獣は多くの人の祈りの力が集まって美しい姿になった。

 

 また誰かに会える日が来るといいね。

 



 



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ