王都へ
「それじゃ、元気でね」
「ああ」
ナナは変なくらい明るく見送ってくれる。旅に出る相談をしただけなのに、なぜか旅立つことになった。
わたしが邪魔? 疑いたくなるほど親切に支度を手伝ってくれた。嬉しそうに手を振って神殿の中に入って行く。
仕方ないな、どこへ行くか決まってないのに。
神殿から出て大通りを歩いてくと、町の入り口の門に着く。門番の脇を通り過ぎて街道に出る。
神官が旅をするのはよくあることで、修行していることもあるし、ただ用事があって遠くの神殿へ行くこともある。一般の人より不審に思われない。
王都には勇者がいて魔王まで出てくるって言ってたな、そこへは行かないことにしよう。街道は河の下流に向かうと王都で、上流に向かうと聖都に着く。目の前を通った隊商の後ろについて歩き始めた。聖都には何回か行ったことがある。
「おお、神官さんかい? 乗せてってやろうか」
羽振りの良さそうな隊商のおじさんが声をかけてくれた、ありがたい。
「そうです、お願いします」
「その白い猫も一緒かい、かわいい猫だね」
猫? なんだかわからんが、荷台の後ろに猫と私を乗せてくれた。そして隊商の出発だ、くるっと向きを変えて。
「あれ、王都に行くんですか?」
「そうだが、神官さんは違うのかね? 新しい神殿には神官が集まっていると聞いたが、どこへ行くのかね」
どこって、決まってなかったな。聖都に行く神官は少ないのか。
「降りるなら早いほうがいいぞ」
降りて歩くのも嫌だな、聖都に用事があるわけじゃないし。
「いいえ、王都に行くんですよ、お願いします」
「にゃああ」
猫まで返事をした。なんだこの猫? じーっと見つめると目をそらすぞ。怪しい猫だ。
昼間の王都へ続く街道には人の往来が多い。危険が少ないのか商人の他に一般の人たちもいる。
「にゃ」
猫はこいつだけだ。この猫、なんか見覚えがあるような。うーん、思い出せない。猫の知り合いはいないはずだが。
ゆらゆらと荷台で揺られているうちに、王都の近くまできた。
「おじさん、ありがとう、ここでいいよ、神官らしい人たちが並んで歩いているから降りるよ」
「そうかい、門の中までこのまま行けるがなあ、ここから歩くと時間がかかるよ」
「え、そうなんですか? じゃあ門の中までお願いします」
神官たちが大勢歩いているが、荷台に乗ったまま通り過ぎた。