炎の魔物
寝室に戻ると、おばばの夢占いで魔王と言われたことを思い出した。
「魔人じゃなくて、魔王なのか?」
誰かに問いかけたわけじゃないのに、天井から返事があった。
「魔王になるといい」
天井に張り付いていた何かは、空を切って回転しながら落ちてきた。
大きなトカゲのようなそれは、わたしに向き合って話し始めた。
炎をまとっている魔物なのか、実態がないものなのかわからない。
こんな恐ろしい状況で逃げ出したくなるところだが、予知夢で見ていたのかこの状況に見おぼえがある。
「誰だ」
ときくと。
「炎を弱めてくれ、と言って呼んだだろう」
と魔物が答えた。
王都の王宮の丘でのことだろうか。
王宮が炎に包まれた時、火を弱めたことがある。
「自分の力を使わずに、火を弱めてくれと願ったからこたえてやったんだ」
そうだった、魔人の力の使い方がわからなかったから火にお願いした。
「火を消す前に会いに行ったのに、気づかなかったのか」
目の前にいるトカゲのような姿は見なかったけど、小さな炎が蛇のように丘を下ってきて消えた。
「ああ、あの時の炎がそうだったのか、手伝ってくれてありがとう、それで君は誰なの?」
「燃える水の炎から生まれた何かだな、神の使いであったり、恐ろしい魔であったり、その時代の人間が何と呼んだかいちいち説明してほしいか?」
古い時代から炎の象徴と思われていたのだな。
「いや、なぜわたしが魔王になるといいんだ?」
「魔王からの依頼の方がこの時代で認知されるだろう」
炎の魔物は、崇められたり恐れられたりしてきた。
その間、消えたようになったり復活したりしたそうだ。
「炎の力が戻って、呼び出されるなら魔王がいい」
そんな理由で魔王になれと?
「わたしは嫌だ」
「魔王はこの時代で力がないのか?」
「迷信になっているよ、信じている人は少ないね」
そう言うと炎の魔物はがっかりして、体を包む炎が弱まったように見えた。
「誰にも知られないなら消えてなくなるのと同じだ」
神の使いや魔物は、信仰や物語で人間とのつながりがなくなると、人間には見えない世界に戻るのかな。
炎の力だけになって不安定なまま過ごすのだろうか。
長い時間、形のない漂うような存在でいるとは、どんな気持ちで過ごしていたのだろう。




