時間の渦
シューがなぜか掲げていた古い紙を落とすと、そこから声が聞こえた。
(一緒に来るか?)
シューが力を使っているのか、怪しい絵の力なのか。
一緒に来るか? と声を響かせながら、古い紙がわたしたちの周りを回転し始めた。
「わからない、どうしたらいいの?」
少女が怪しい絵に答えると、古い紙の回転が早くなり、書庫が次第にきれいになっていった。
時間の渦の中に閉じ込められたかのように、この場所の時間が巻き戻されているようだ。
紙の回転が止まって時間の渦が消えると、絵に描かれた何かが現れた。
「冥界の神様、どうしたらいいんでしょう?」
少女がその何かを、冥界の神様だと言う。
(今ここに戻りたいなら、簡単に戻ることができる)
時間が戻っているなら、ここは白猫がいた頃の猫の神様の神殿なのかな。
少女はなぜか、振り返ってシューを見た。
「嫌だ、行かないで」
小さな声で、祈るようにシューが言う。
少女が戻ったら、この神殿のように砂に埋もれて消えてしまうのだろうか。
少女は隣に来たシューの手を握った。
(そこには、存在する理由ができたのだな)
「はい」
少女が返事をする。
(つながりを断ち切ることができないなら、戻れない)
「猫の神様のところには、もう戻れない」
少女は自分に言い聞かせるように言った。
神の使いとは、人間とのつながりが存在の理由になるのだな。
(そうだ、自由に選んだ、わかるか)
「にゃ〜」
少女は、わかった、と大きな声で答えた。
冥界の神様は、少し笑っている。
猫の神様も冥界の神様も、優しいな。
少女はシューの手を握ったまま、冥界の神様に、にゃ〜と挨拶した。
すると古い紙はそこに残されたまま、時間の渦だけがわたしたちの周りで回転し始めた。
冥界の神様は、冥界に残った。
あ、もしかして、三人とも冥界の神様のところに残る可能性もあったってこと?
「シュー、死ぬところだったかも」
「ああ、冥界の神様ってそうか、猫の神様の使いの答え方が違っていたら、この時代では死んでいたかもしれないんですね」
地下通路から地上に出ると、砂嵐が止んで日が射していた。
廃墟は意外と街道に近くて、すぐそこに街道を通る商人が見えた。
偶然この時代に生きて戻ったのだな、そう思うと体が少し震えた。




