炎を制御する
王宮を丸く囲んでいた炎は、小さくなって見えなくなった。
弱火で、と願い続けていると、黒く燃えた丘の下を這うように、
ずるずると何かがこちらへ近づいてくる。
蛇のように這って来たのは、炎だった。
丘からしゅるっと道路に降りてくると、シューとわたしを囲んで丸くなった。
小さくてかわいい炎は、消えて、とお願いすると姿を消した。
やった、なんとか炎を操ることができた。
自分にはできないと思っていたけど。
不思議なくらい簡単にできたのは、女神様の力かもしれない。
「よかった、どうなるかと思いましたよ」
安心したところで、シューが言った。
なぜかここにいる猫もにゃ〜、と鳴いた。
「そうだよね、王宮は燃えると思ったよ」
丘の下に集まった人たちも、突然炎が消えて、ホッとしているようだ。
女神様の神殿が破壊されることには反対するが、王宮を燃やしたいわけじゃない。
王のやり方に反対したい、その気持ちが大きくなってこうなってしまった。
「多くの人の怒りは、魔人の力で鎮めなくちゃいけないほどの力を持つね」
シューに話しかけると
「一番怖いのは、多くの人の力が集まった巨大な魔物のような力かもしれませんね」
と答えた。
「燃えてしまった丘に祈って、ここにあった魔物のような力を鎮めようか」
「そうですね、女神様の神官として正しい行いをしましょう」
魔人の力を使うより、正しい行いだね。
シューとしばらくそこに残って、祈りを捧げた。
それでも。
どんなに祈っても、膨らんだ怒りの力は街から消えなかった。
数日続いた異民族の兵士との小競り合いは、そのたびに王宮への攻撃になった。
毎日シューと一緒に炎を消したり、つむじ風で攻撃を止めたりしていた。
そんな日が続いたあと、今日は王宮から街に多くの兵士が来ている。
街の人たちを攻撃することになったのだろうか。
わたしはシューと一緒に本屋の前にいる。
なにかあったらすぐ動けるように、初めて魔人の力を使ったベンチに座っている。
「王は力で信者の考えを変えさせたいのでしょうか」
とシューが言う。
どうかな、今の状況でそれは無理だろう。
兵士たちはしばらくすると、街の中で動きがないと思ったのか、神殿へ向かっている。
「行きましょう」
と言うシューと一緒に立ち上がる。
「嫌だな、王が信仰を強制することも、女神信仰で反撃することも」
誰も望んでいないのに。
王を信仰する人も、女神様を信仰する人も、傷つけ合いたいわけじゃない。
「なにもしなかったら、街が燃えるかもしれませんよ」
シューにそう言われると、行って抵抗するしかない、と思ってしまう。
信仰によって浄化されたり、心が豊かになることと、
そのために傷つけ合うことは、かけ離れていることなのに。




