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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE IRREPLACEBLE LIFE

 政府は判断を誤った。

 魔物の力の増大。明らかに見て取れる異変に対して、消極的な対策が惨劇を招いてしまった。


 避難区域を5キロなどと言わず、20キロ圏内から人を一人残らず消すことが最適解だった。


 だが、それは真司も同じだった。

 魔界の門の崩壊。それがもたらすのは、単純な力の増大ではなかった。いや、そうとも言えるのだが、本質は違かった。


 魔物の門の崩壊―――それは、消える直前の炎が一瞬だけ命を吹き返したかのように燃え上がる現象と同じだった。そう、警戒するべきだった。

 命を捨てた戦いする者を―――彼と同じ立場に置かれた存在を。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 人っ子一人いない。

 国が攻撃態勢を取ると報道してから半日。見事に魔物を中心にした半径5キロの人間がいなくなった。


 あるのは、作戦行動に映る自衛隊など国の機関の人間たちだけだ。


 「青龍、まだ力は戻らないか?」

 『すまない。先日の回復によって、かなりの魔力を消費した。まだ全快まで時間がかかる』

 「はぁ……魔力ってのは数日かけても全快しないのか」


 真司たちは今まで何もしなかったわけではない。正確に言うなら、なにもできない状態が続いていたのだ。戦うことはできる。だが、未知の相手に不備を備えて戦うなど言語道断。

 敵が動かないというのなら、彼らは少しでも万全に近い状態で向かわなければならない。


 しかし、なんだかそうもいっていられない。そんな気がしていた。


 作戦がもうすぐ始まる。今回の作戦にDBTは作戦に組まれていない。それが少々彼らにとって気になることではあるが、想像できない事情があるのだと思い、考えないようにはしている。


 そうこうしていると、彼らの頭上を戦闘機らしきものが飛んでいく。


 ゴオォォォォッ!


 「ミリオタまではいかなくても、少しくらい知識があれば盛り上がれたのかなあ?」

 『「みりおた」なるものがよくわからんが、知識があればいいことはある』

 「青龍はさ、何のために戦ってるんだ?お前、一応魔物なんだろ?」

 『どうした、急に』


 真司は戦う理由を問われた。自身の意見に間違いはないし、無理だとも思ってない。だが、青龍はどうなのか。この3年間、戦いに流されて聞くことのできなかった質問を青龍にした。


 すると、予想とは違う答えが返ってきた。


 『我は知っている。古代人の行った末を。魔王より長く生き、長く戦い。どうするべきかの答えをあいつらと選んだだけだ』

 「その答えは?」

 『人間を守る。それが我らの決断だ』

 「その心は?」

 『今の魔界は道を踏み外した。ただそれだけのことだ』

 「そうか……お前は世界を変えるため。俺は守るため。利害が一致しただけってことか」


 言い方を選ばなければそうなる。だが、青龍の真意がそこにはない。

 本当は青龍だって魔界を相手取って戦いたくないことは気づいている。だが、理解もしている。魔界が間違ったことをしていることを。だが、それは昔の日本と変わらない。


 従わなければ殺され、戦うことを強要されて、そうしなければ袋叩きに遭い殺される。そんな中で間違っていると声を上げ、反旗を翻したことがどれだけすごいことか。


 それだけの覚悟は青龍にはある。だから戦う。

 なら真司はどうか。


 自分の親を、幼馴染を恋人を守りたい。自分の身の回りの人物を救いたい。ただそれだけ。あまりにも青龍の想いには釣り合わない。


 「さて、行くか」

 『ああ、奴の魔力も膨れ上がってきた。おそらく、今回の国の作戦が起爆剤になるだろうな』

 「力は?」

 『まだ戻ってない』

 「ダメじゃん」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「伊集院君、どこに行くの?」

 「僕も行きます」

 「ダメよ。スーツの使用の許可はできないわ」

 「なら、生身で向かいます」


 そう言って部屋を出ようとする伊集院を渡辺が止める。


 このまま向かえば、デモニアに殺される。そうでなくとも、国の作戦に巻き込まれて死ぬ。よくても半身不随でこの先ろくに生活もできなくなってしまう。

 そうなれば、誰が渡辺製のスーツを着用するというのか。


 完全な私情ではあるが、それでも彼女がなんとか開発をしていられるのは伊集院の真っすぐさと正義心があるから。これほどを備えた人物などそうそういない。なれば、彼がいなくなれば彼女は開発をやめてしまう。


 「もうあなたは、あなた自身の感情だけじゃ動いちゃダメなのよ」

 「ですが、僕のやるべきことをしないと。一応これでも僕は警察なんです」

 「それは私も同じよ。でも、だからこそ感情だけじゃ動いちゃいけないのよ」

 「わかってます……わかってますよ……」


 渡辺のいうことがわからない馬鹿ではない。だが、なんだか彼は切羽詰まっているようだった。

 どこか追い詰められているような、そんな状態。


 「ねえ、伊集院君。なんで出動しようとするの?」

 「バカだってわかってるんです。でも、僕にとって大事な家族なんです……」

 「……っ!?まさか!」

 「僕の妹が……避難区域から逃げ出せてないんです!」

 「まさか……いや、時限的制限がある場合、逃げ切れなかった者たちを切った?そう考えれば……」

 「妹は、あの一件で足を悪くして……避難中に突き飛ばされてけがをしたのかわからない。でも、僕のもとに位置情報とともにこんなメールが……」

 「『助けて』……」

 「僕は行きます」

 「ダメよ」


 その言葉に伊集院は怒髪天を衝かれたかのような衝撃に駆られた。

 渡辺なら―――彼女ならわかってくれると思った。なのに、彼女は彼を止めた。


 「気持ちはわかるわ。でも、合理的とは言えない。たった一人のために、私たちは動くべきじゃない」

 「一人を守れずに―――!」

 「誰を守れるの、って言いたいのよね。言いたいことはわかるわ。でも、その犠牲にした命で助かる命がある。あなたに自分の命と妹の命の選択が迫られているように、私にもあなたを殺す判断と生かす判断を迫られてるの」

 「僕の命なんて!」

 「私にとってはそうじゃない。私の大事な仲間の命よ。選択を迫られるのなら、私は迷わず後者を選ぶ」

 「僕もっ!家族の命が―――家族の笑顔を守るために警察になったんだ!僕はっ!自分の命だって捨てる覚悟なんだ……!」


 そう言うと伊集院は渡辺の脇を抜けて、走り去っていった。

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