THE SELECT
「ねえっ!どういうことなの!」
真司の父を名乗る人物が立ち去った後、今度は別の問題が浮上していた。
ほかでもない。真司の真実を知らない美穂が騒ぎ始めてしまったことだ。
「どうもこうも、あなたに話せることはないわ」
「なんで!?私だって、真司の―――」
「幼馴染だけでなんでもまかり通ると思ないで」
「―――っ!?」
「幼馴染が特別なのは、その関係性の深さよ。それを失ったあなたは、もうなにも背負うことは許されないわ」
「そんなっ!私も―――私だって……」
「駄々ならいくらでも言えるわ。でも、あいつはあなたが絡むことを拒んでる。なら、もうあなたの出る幕なんて……」
「……っ!」
アリスが言い終わる前に美穂は家を飛び出ていく。勢いよく彼女が飛び出していくものの、向かう先は隣の家ではあるだろう。
しかし、アリスの表情は芳しくない。
隣で話合いを見ていた明音も、あまり気分のよさそうな顔はしていない。
そんな状況に耐えられなくなったのか、彼女は立ちあがり、リビングを出ていこうとする。そんな時、明音はアリスを止めた。
「待って!」
「……?」
「その、なんて言えばいいのかわからないけど……ありがとう?とにかく、真司のために前に出てくれてありがとう……」
「そんな……私なんて……」
「あんまり自分を卑下するんじゃないぞ。アリス、私の中ではお前は大事な義娘だ」
その言葉を聞いてアリスは胸がいっぱいになる。荒みかけていた大地に生まれたオアシスのように涙があふれてきそうだった。しかし、今の彼女の荒れた気持ちをいち早く伝えたい相手がいた。だからこそ、彼女はそのまま2階の真司の眠る部屋へと歩んでいった。
彼の部屋に入った彼女がまず最初にしたのは、真司の手を握ることだった。
握って何を思ったのか。それは彼女の身が知ることだが、その後はすぐ近くまで顔を持っていき、彼の寝顔を見つめた。するとなにを思ったのか。それとも本心が出たのか、言葉を紡ぎ始めた。
「人に嫌われてでも大事なことを成し遂げる。それがあなたの選んだ道―――正直辛すぎるわ。報われないし、あなたには死ぬ運命しか待ってないの。本当は胸がはち切れそうなの。でも、さっきあなたの幼馴染を突っぱねたわ。あなたと同じことをした。ううん、つもりになっただけかもしれないわ。これだけじゃあなたの苦しみはわからないってわかってる。でもね、すごくつらかったわ。ああやって、私の言葉で人があんなに悲しそうな顔をする事実。それだけですごく胸が痛かった。あなたは唯咲さんのこと、好きだったからなおのことよね……」
一人で真司に話しかけ続ける。しかし、彼が目覚めることはない。まだ完全に傷がいえてない以上は仕方ないが、それでも彼女が寂しさを覚えることはない。ただ自身の暗い気持ちを吐露しているだけだからではあるのだが。
「やっぱりあなたが好き。あなたに助けられたからだけじゃない。あなたのその覚悟。見返りを求めずにやり遂げようとする姿勢。そのすべてが素晴らしい。でも、私があなたを好きになった理由なんてもっと単純なのよ。それはね―――」
彼女の最後の言葉は彼女自身が恥ずかしくなったからか、すごく小さくて聞き取れるものではなかった。しかし、真司が起きていたならあるいは、というものだろう。
アリスはそのまま真司のことを見つめながら意識を落としていく。
そして、次に目覚めたとき、真司の姿はどこにもなかった。
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「戦う理由、か……」
『どうした?今になってわからなくなったのか?』
「なわけ。でも、今の俺はなんのために戦ってるんだろうな?」
『幼馴染たちを守るために戦っているのではないのか?』
「それはそうだ。でも、俺は戦うことによって、あいつらの生活は守ってるが心を壊していってる。これじゃ本末転倒だ。俺の選んだ道とはいえ、不出来が過ぎる」
真司のその言葉に青龍はなにも返さなかった。
否、返さないことが正解だろう。
彼の座る場所からは、遠くに巨大化した魔物の姿が見える。
自衛隊か国か警察か。どこの判断かはわからないが、綺麗にライトアップされているので、魔物が小さく見えるような遠い場所にいてもその位置ははっきりと視認することができる。
そこを見ながら、真司は宣告を思い出す。
彼は戦う意味を問われた。即答できるつもりだった。だが、口は開かず、思考もままならなかった。
それを真司は自分の戦う理由が、本音と違うのだと考えた。身と心の一致がなければ動けないように、本音と建て前。その二つの差が、軋轢がひどくなるほど、本当のことを失ってしまう。そう考えた真司は、今一度戦う理由を思い返し、見返した。
だが、どう考え、どう振り返っても徹頭徹尾大事な人のために世界を救うと決めた彼自身の姿のみ。
これ以上は考えるだけ無駄。そう言われている気がしてならなかった。
そんな真司は、少し前のことを思い出す。それは、アリスの言葉だった。
「俺のことが好き……か。本当に物好きなやつだな」
『嬉しくないわけがないだろうに』
「うるせえよ。嬉しくなっちゃいけねえかよ」
『だが、お前の痛みをわかってくれる者など彼女だけなのも事実だ。大事にするのだぞ』
「言われなくてもわかってる―――しかし、俺とな時ことをしたか……バーカ、そんなんの比じゃねえよ。でも、それで傷つけるアリスは本当に心優しい奴なんだろうなあ。本当に、俺なんかに惚れなければモテモテだっただろうに……」
そう言って彼は自分のいなかった世界を想像する。
誰にでも分け隔てなく優しくし、多くの男子を虜にするアリス。告白されても、タイプじゃないと一蹴する彼女。なんだかんだ女子との友情も大事にするアリス。そのすべてが容易に想像できた。
本当なら彼女は人気者の転校生になれたはず。それでも彼女は真司とともにいることを選んだ。
そう思えば、人に嫌われても大事な成し遂げる選択を取ったのは、真司だけじゃなくアリスもなのかもしれない。
やはり、愛し合う者同士は似た者同士なのだろうか。
その答えを教えてくれる者はいない。だが、彼らが惹かれあったのは運命以外になんといえばいいのだろう。これ以上綺麗な言葉があるものかと。




