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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE TONE OF LIE

 なにかが割れるような音がして、驚いたアリスと美穂は急いで音のした方―――玄関に向かっていった。するとそこには、傷だらけの真司を抱えた明音と見知らぬ男が対峙していた。


 「だから帰れって言ってるだろ!」

 「明音、俺の話を聞いてくれよ」

 「うるさい!お前とはもう終わったんだ。関わるなって言っただろ!」

 「そうは言わずにさ。せめて孫の顔くらい母さんたちに見せてやってくれよ」

 「っ!?―――どの口が……どの口が真司を孫だって言ってんのさ!」


 そう叫んで明音は思いっきり家の壁を叩く。その衝撃でおいてあったインテリアが揺れる。

 床を見ると、ガラスの破片が飛び散っているので、先ほどの音は似たようなことをしてガラス系のインテリアが落ちて割れてしまったものだろうと二人は考える。


 「ど、どういう状況?」

 「わ、わかんないよ。でも、あんなに怒ってるの久しぶりに―――ううん、あの時よりひどいかも……」


 そんな二人でも恐怖を覚えるレベルの明音の怒り具合に驚いてた。

 しかし、明音に対峙している男はそんなこと屁にも思っておらず、ずけずけと家の中に入ってこようとする。


 「大変だっただろ?男手がなくて―――」

 「うるせえ!お前がいなくても私たちは十分幸せだ!」

 「なら、大人の男がいればもっと幸せだろ?」

 「お前は―――!養育費もいらないから、親類ともども関わるなって言っただろ!」


 そう言って家の扉を閉めようとするが、男が縁を掴んで閉じることができない。

 本当は殴ってでも後ろにやりたいが、明音は真司を抱えているのでうまく体を動かすことができない。いや、男女の力の関係上、動けても目の前の男には勝てないだろう。


 「そう言うなよ。俺とお前、愛し合った仲だろう?」

 「私は―――所詮火遊びでしかなかった!でも、真司を妊娠して―――お前のことは愛してた!始まりはどうであれ、一緒に支えあっていこうと―――その気持ちを踏みにじったのはお前だろうが!」

 「なら、今からでもやり直せるさ」

 「うるせえよ!もう、誰とも結婚するつもりも、真司も渡すつもりはねえ!消え失せろ!」


 あまりの勢いに美穂は困惑し、目じりに涙を浮かべるが、アリスは違かった。

 彼女は、明音の隣まで歩いていき、目の前の男と対峙する。


 「あ?なんだ、このガキ?」

 「喜瀬川アリス。そこの男、真司の恋人よ」

 「恋人?どけ、ガキ。俺のそいつの父親だ」

 「お前、父親面はやめろ。無責任に私を孕ませて、浮気して家を出ていったくせに。慰謝料取ってないだけ感謝してほしいくらいなんだぞ」

 「こいつが、真司のお父さん……?」

 「ああ、そうだ。だから、両親にも孫の顔を見せてやりたくてな」


 そう言ってニヤリとする男。だが、アリスは天才だ。いや、天才でなくともそれくらいのことはわかる。ただ、彼女は直感で感じ取った。その言葉が―――


 「……嘘ね」

 「は?」


 ―――嘘であると。


 彼女にとってその男の声は不快そのもの。心地よい声を出してくれる真司の父親とは思えないくらい不快な音だった。そしてそれはどういった人間から出ているものかわかっている。


 噓つきの音色。

 聞こえてくるだけで、腹の中にどす黒い感情がわいてくる。腹の立つ、気分の悪い音。


 「あなたのその言葉。嘘にしかまみれてないわ」

 「おい、俺のどこが嘘ついてるって言うんだ?」

 「人は見かけによらないわ。でも、そいつの持つ雰囲気や音は、育ちがあらわれるものよ。私は人を見た目で判断したりしないわ。まあ、それ以上の情報が先に入ってくるだけなのだけれど」


 そう言いながらアリスは自身の耳をトントンと指さす。


 「あなたの不快な声……本当に真司の父親かしら?真司なら、もっと心地よくて気持ちのいい声を出すわよ?そうね……一日中耳元で囁いてほしいくらいのものかしら?」

 「なに言ってんだ、お前はよお!」

 「あなたみたいな下種がお義母さんに近づくなって言ってるのよ。大丈夫よ。私が明音さんたちを幸せにするわ」

 「はあ?所詮女は男に収入で―――」

 「金でしかものを図れないから浮気するんでしょうね。ヤダヤダ。こういう大人にはなりたくないわ」

 「お前!」


 アリスは言いながら男を煽り続ける。すると激高した男がアリスに殴り掛かるが……


 ガッ!


 「やっぱり、あなたはヒーロー気質よね。目覚めるタイミングが完璧よ」

 「―――悪い。今は治療中だ」

 「あ、じゃない方ね。……残念」

 「すまないな―――さて、『イシャリョウ』なる新しい言葉の意味を知りたいところだが、聞くところによると本来お前から受け取らなければならないようだな?」

 「し、真司……?」

 「唯咲さん、下がってなさい」


 青龍が意識を覚醒させたことにアリスはいち早く気付き、美穂を後ろに下がらさせる。見られても問題はないが、それ以上に口調で真司じゃないと悟らせるのはまずい。

 というより、青龍が『慰謝料』という言葉の意味に興味を持つのは驚きを隠せなかった。


 「本来渡さなければならないものを渡さない。それは契約としていかがなものか?」

 「あ?請求されてねえから払う義務はねえだろうが!」

 「そういうものなのか?とりあえず、意味を調べる時間が欲しい。さっさと消えてくれ」


 そう言うと青龍は男の腹に右手を添えると、その瞬間男が後方に吹き飛んだ。


 「がっ!?」

 「え、真司!?」

 「はあ……やっちゃった」


 一瞬男はなにが起きたのかわからず、痛みでその場にうずくまるだけだった。

 だが頭の中で整理すればするほど、理解できないことが重なっていく。


 「な、なあ……明音―――真司は超能力者なのか?」

 「その回答は我が答えよう。否だ」

 「でも今のは……!」

 「サイコキネシス、とでもいうつもりか?そんな掴む、投げる、引き寄せるなどできない。せいぜい、吹き飛ばすか押しつぶす程度のものだ」

 「お前、本当に人間か?」

 「答えかねるな」


 そう言うと、真司(青龍)は扉を閉じた。


 なにも真司に黙って勝手にやったのではない。真司が自身で願い、青龍に、美穂にバレても構わないからこの状況をなんとかしてくれと頼まれたのだ。


 そして、彼は一つアリスに伝えたいことがあった。


 「アリス、伝言だ」

 「え?あ、うん」

 「ありがとう、愛してる。だそうだ」

 「っ!?」


 彼の言葉を聞いて、アリスはボシュっと顔を真っ赤にするが、その瞬間真司は前のめりに倒れこんだ。

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