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救世のディアフトライ  作者: 波多見錘


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THE HARD UNDERSTAND FEELINGS

 満身創痍の状態で家の玄関の前に立つと、そこで力が入らなくなったのか、彼は扉に手をかける前に倒れこんでしまう。

 あともう少し。ドアを開けて、少し体の痛みを我慢して階段を昇れば寝ることができる。


 それに、今回は魔物が撤退しておらず、魔物の動きを青龍の魔力によって呼び起こさないようにするために街の修復ができないので、真司の治療に全魔力を注げることが決まっているので、ベッドに寝さえすれば真司は楽になれる。

 別に変な意味はない。


 だが、アサルトを使ったことによる肉体的な疲労。魔力の行使のし過ぎによる内部的疲労。そして、戦いの中で気付かぬ間にすり減っていく精神。


 そんないろいろなことがかみ合って、真司の目の前が真っ暗になっていく。


 (ダメだ……もう、立ってられない……)


 そう考えながら真司は前のめりに倒れこむ。しかし、彼は頭を思いっきり打ちつけることはなかった。


 「よっ、と―――喧嘩でもしてるのか?こんなボロボロになって……」

 「あん、たは……?」

 「おいおい、お前の―――」


 そこまで聞いて、真司の意識は事切れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 真司の戦闘後、魔物が休眠状態に入ったことで、学校を中心に半径5キロの中にいる住民に災害レベル4の避難命令が出た。幸い、明音たちの家は避難エリアに入っておらず、絶対にしなければならないというわけではなかったが、それでも10キロ圏内にはレベル3と、少々高い値が出ているので避難を検討しなければならない。


 そのためか、明音は一応避難の準備をして、アリスも自身の無事を家族に伝えてから真司の部屋で彼が帰ってくるのを待っていた。


 「ねえ、真司は大丈夫なの?」

 「大丈夫よ。あいつは絶対に生きて帰ってくるわ」

 「でも、そんな保証は……」

 「ごちゃごちゃうるさいわね。だったら何よ、学校に戻るの?あんなバカでかい魔物―――デモニアがいるのよ。仮に真司が学校にいたとしても、どうしようもないわよ」

 「それは、そうだけど……」

 「そもそもあなたはなによ。あいつの彼女でもないのに真司の部屋(ここ)にきて」

 「わ、私だって真司が心配なの!」


 真司の部屋にはアリスだけでなく美穂もいた。いつの間にか加藤もいなくなり、完全に避難集団の中から孤立してしまった彼女は、真司への不安感を増幅させてしまい、彼に直接会わないと不安で不安で仕方ないようだった。


 そうして二人の会話がないまま時間だけが過ぎていく。そんな空間に耐えられなくなったのか、アリスは美穂に質問をした。


 「真司はどんな子供だったのかしら?」

 「はは、喜瀬川さんってもしかしなくても意地悪だよね。付き合えなかった人にそれ聞く?」

 「それは、悪かったわね。でも、知りたいのよ。あいつ、全然昔のこと話さないから」

 「そう、だよね。真司はね、ずっと真っすぐな人だったよ。今はねじ曲がっちゃったけど、昔は融通が利かないくらい真っすぐだった。おばさんが元ヤンだったのもあったし、真司のお父さんが浮気したのもあって、おばさんの真司への育児がかなり固いものになっていったの。そのせいで、真司は正しいことはできないといけないと思ってる節があった。それがいつからだろうね。あんなに暗くなったのは」

 「そんな性格でよくクラスで浮かなかったわね」

 「なんだかんだ人助けもしてたし、勉強も教えてくれて、その上に反抗的なヤンキー的思考の人に負けるほど弱くなかったし、融通が利かないことより底抜けのやさしさのおかげで真司はみんなに好かれてたの。だから私も、そんな幼馴染が誇らしくて愛おしくて、ずっと好きだった」


 美穂から聞く真司の過去はアリスでも容易に想像できた。

 人に言う代わりに、自分でも言ったことは自分でちゃんとやる。そんな姿は容易に想像できる。


 だが、明音が厳しくなったというのはわからない。今はすごく温和で優しい人だ。夫が浮気して、男に対するあたりが一時的に強かったのだろうが、そんな姿を想像できない。

 しかし、一つだけ思い当たる節があった。彼女の寝室にあった家族写真であろうもの。あの写真の中の夫に当たる人物であろうところにズタズタにした跡があった。


 「今はおばさん、すごく優しいよ」

 「そうね。私がこうしていても、好きにさせてくれるくらいには優しいわね」

 「でも、それは真司がスランプに陥って、高校で壊れかけていたころからなの。たぶん、真司は自分の真っすぐさが自分を苦しめていたんだと思う。だから、おばさんもそうやって真っすぐに育てすぎたせいだって……おばさんの育て方で、真司が救った人、真司に救われた人がいっぱいいたのに」

 「あなたもその一人なの?」

 「うん……私、小学生のころよく男子からいじめられてた。その後にその男子たちから告白されたからわかるんだけど、あれは好きな人を虐めたくなる子供それだって。でも、小さい頃の私はそんなこと理解できないし、虐めてくることが苦痛だった。そんな時にいつも隣にいて、その男子たちを撃退してくれたのが真司だった。小学校高学年になるまで続いたそれから真司は私を助けてくれていた。だから、私は真司のそばにずっといたいって思ってた。真司なら私をずっと救ってくれるって思ってたから」


 美穂は真司への想いを一緒に吐露する。

 彼女の好きという気持ちは本物だし、その本物はアリスにも伝わっていた。だが、アリスには一つ許せないことがあった。


 「あなたが―――いや、あなたたちが真司に救われているのはわかったわ。でも、あなたたちは真司に求め過ぎよ」

 「そ、そんなこと……!」

 「じゃあ、なんであなたの話す言葉には真司を助けた話が一つも出てこないの?」

 「だって、私がなにかをする前に……」

 「あいつは人を助けてた。でも、あいつが助けを求めることはない。だからって、あいつが苦しんでないとでも思ったの?あいつは誰かの手を煩わせないように大丈夫なフリをしてるだけで、少しずつ壊れていってたのよ。たぶんそれが、高校1年の時のスランプの原因。期待されすぎて、自分の逃げ場を失って、誰も頼れず、弱音を吐けず。そんなの、無理に決まってるじゃない」

 「……私は」

 「真司に拒絶されたから一緒にいれなかった?拒絶されても一緒にいなさいよ。拒絶されたくらいで一緒にいることを諦めちゃダメだったのよ。自暴自棄になって、人を遠ざけて、それでも隣にいた人にあいつは弱音を吐けるの。あいつの心の懐に入らなきゃ―――あなたはあいつの本音に一度でも気付いたの?」

 「そんなの!わかるわけないよ!真司はわかりにく過ぎるよ!」

 「そう、あいつは馬鹿だからそんなわかりにくいことでしか本音を出せないの。でも、私はそんないつが好き。大好きよ。あいつの本音を私しか聞けないと思うと優越感すら感じるわ。それぐらいあいつを嫌う人間を許せない。そして、好きでいながらあいつの声を聞けなかった奴らのことは嫌いだわ。だって、あいつに自分の願望を押し付けていたってことじゃない」

 「そんなわけ―――!」


 ガシャーン!


 「「っ!?」」

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